Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E09 ウィンストンそらをとぶ (再投稿版)

※この記事は、2018年2月2日に以前のブログに投稿したものを再編集したものです。

 


 ウィンストンはガソリンエンジンで動く、ノース・ウェスタン鉄道で唯一の軌道検測車だ。

ボディの色は明るい赤で見た目はとても小さく、昔の自動車のような形をしている。

軌道検測車というのは、線路の上を走ってレールが歪んでいないか点検するための車両だ。

また、人を乗せる為の簡素な貨車を一台だけ牽くことが出来る。何人かの作業員を乗せて線路の修理が必要な場所へ送り届けるのも彼の役目だった。

 


ふつう、レールの点検は夜の間に作業員によって行われる。

だが時々トップハム・ハット卿の線路の移動手段として使われる事がある。

しかも彼の運転ときたら、お世辞にも上手いとは言えない。

突然急発進したり、走行中に止まっては走り出したり。

自動車と違って簡素な造りが彼にとって逆に扱いにくいのだろう。

 


最もヒヤッとしたのは、ブレーキをかけるのが遅すぎて、ポイントのところでダートの貨物列車とぶつかりそうになった時だ。

トップハム・ハット卿が間一髪でウィンストンを後退させたおかげで事故は防げたものの、短気なダートはカンカンだった。

「気を付けるでやんす!」

「ごめんね、ダート。本当に ごめんね」

ウィンストンはトップハム・ハット卿が下手に見せないよう常に気を遣っていた。

 


 彼らはドタン、バタンと、ギクシャクな運転を繰り返し、なんとか無事にブレンダム港に辿り着いた。

トップハム・ハット卿が会議へ向かうのを見送った後で、彼は波止場の方でダートがいることに気が付いた。

ダートは仲間の前で愚痴を吐いていた。その声はウィンストンの方まで聞こえてくるぐらいの音量だ。

「―でも 一番の原因は ウィンストンでやんす。彼奴が 落ち着かないせいで 急停車する羽目に なったんでさ」

こんなふうに、よく自分の陰口を耳にしたり、目の前で大型機関車にからかわれることがある。ウィンストンはとても我慢強かったが、こういうのは嫌だった。

 


 その後で、パーシーが火事を起こしたという報告を聞いてトーマスの支線へ向かうことになった。

途中で彼は”ゴォー”という轟音と共に、近くの空港からジェット機のジェレミーが飛び立っていく様子を見た。

ジェレミーは風を切り、大空目掛けて勢いよく飛んでいく。

その姿はウィンストンにとって美しく輝いて見えた。

 


現場に到着すると、トップハム・ハット卿はしっかりハンドブレーキを引いて原因を調べにウィンストンから降りた。

「どうしたのウィンストン。君まで落ち込んじゃって」

と、パーシーが尋ねた。

ウィンストンはトップハム・ハット卿の方に目をやりながら、彼に聞こえないよう小声で、悲しげにこう話した。

「なんだか 空を飛んでみたいなって。彼は 先代より しっかりしてるけど、彼もまた 運転が 得意じゃなくてさ…」

「何 言ってるのさ。線路の方が いいに決まってるよ。きっと スティーブンも、すぐに慣れるさ」

だけども、今のウィンストンには自分に相応しいのは線路か空かわからなかった。

今すぐジェレミーのように翼とジェット機が欲しかったのだ。

そして線路から離れて大空を気持ちよく飛んでみたかった。

 


 それから数時間後、今度は数人の作業員を新しい駅の建設現場へ運ぶためレスキューセンターまで走った。

運転士はウィンストンの扱いに慣れた元駅長で、トップハム・ハット卿に比べてかなりスムーズに走ることが出来たが、彼はまだジェレミーの事を考えていた。

彼がレスキューセンターの前で作業員が降りるのを待っていると、ヘリコプターのハロルドが陽気に声をかけた。

「やあ、どうしたんだい」

「少し 考え事をね。僕もハロルドみたいに空を飛んでみたいんだ。だって気持ちよさそうだもの」

「そりゃあそうだろうさ。大空を飛ぶ事ほど気持ちがいいことは無いよ」

「だったら お願いがあるんだ。僕を持ち上げて 空の景色を 見せてほしい。少しの間だけで いいんだ」

突然のウィンストンのお願いには流石のハロルドも戸惑った。

でも、飛びたくてウズウズしていた彼は、パトロールと一緒にウィンストンも運んでいくことにした。

「よし、わかったよ。でも、少ししたら 降ろすからね」

 


 ウィンストンは小さいうえにとても軽かった。

そこで、操縦士は救助に使う命綱のメインロープを離陸させたハロルドから垂らすと、それを

エンジニアがウィンストンの車体に巻き付けて運ぶことにした。

準備が整いエンジニアが合図を出すとハロルドが慎重に少しずつ上昇した。

ウィンストンは上へ引っ張られて、みるみるうちに地上から離れていく。

「すごいや、空を飛ぶレール点検車なんて 初めて見たよ」

と、地上の線路からディーゼル機関車のデリックが珍しげに言う。

彼は高らかに警笛を鳴らし、ウィンストンに賞賛を送った。

「もう ただの レール点検車じゃないよ。今日から僕は、"大空点検車"さ」

ウィンストンは鼻高々だった。

 


ジェレミー程速くなければ多少の揺れがあるものの、ウィンストンはとても満足だった。

空から見る島の景色がとにかく素晴らしかったのだ。

誰にも邪魔されず優雅に宙を舞っていると、ハロルドが「下をご覧」と声をかけた。

「ほら、オリバーと ライアンだよ」

「マイクに バートもいる! 上から見ると ますます小さいね」

 


彼らは島を何度か横断し次に辿り着いた場所にウィンストンは興奮した。

「見てよ、ハロルド。ヴィカーズタウン橋だ。コナーがいるよ! あの橋の先は何が広がっているんだろう」

と、彼は、ねだるようにハロルドに目をやったが、ハロルドは断った。

「だめだめ。そろそろレスキューセンターに戻らないと、燃料が切れてしまうよ」

 


 ウィンストンが遊覧飛行を楽しむ間は特に事件も見当たらなかったのでハロルドは燃料が切れる前に帰ろうとしていた。

その時、遠くの空から幾つもの点が浮かび上がった。

それはどんどんこちらに向かってくるようだった。

やがて、それがなんなのか、はっきりと分かった。鳥の大群だ。

「まずい。このままでは バードストライクだ!」

操縦士が叫ぶ。彼はハロルドを急上昇させ、なんとか難を逃れた。

ところが、ハロルドがほっと一息入れて下を見おろしたとき、ウィンストンの姿はなかった。

実は一羽の小鳥がロープをくちばしで引き裂いて通りすぎて行ったのだ。

ウィンストンはそのまま真っ逆さまに海へ落下していく。そしてハロルドもとうとう燃料が切れて水面に不時着したのだった。

幸いにもそれはレスキューセンターのすぐ目の前でキャプテンが間もなく助けに来た。

ハロルドは開いた足で水面に浮くことが出来たが、何も付いていないウィンストンはロープに繋いで水中から引っ張り出す必要があった。

 


 その頃、ナップフォード駅ではトップハム・ハット卿がディーゼルアールズバーグ・ウェストへ行くよう命令を下したところだった。

彼がディーゼル機関車のバートの方へ歩き出した時、駅長が耳元で報告をした。

「ご、ごめんなさい。俺も すぐ 工場に戻ります」

「その前に 私を レスキューセンターまで 乗せて行ってくれ。全速力で頼むぞ」

トップハム・ハット卿はバートの機関室に乗り込むと頭を抱えてこう呟いた。

「やれやれ。なぜ 今日は 問題ばかり起きるのか」

 


 それから何十分か経ち、2台はロッキーやブッチによって無事に救助された。

「何処も怪我は無さそうで 良かったよ。でも ウィンストンは 念のため ソドー整備工場に行った方が いいかもなあ」

と、ロッキーが言う。

ウィンストンは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「迷惑をかけてしまって、本当に ごめんなさい」

「僕なら平気さ。フロートがあるもの。それより…」

そこへ、ディーゼル機関車のバートがやってきた。

トップハム・ハット卿は機関室から出てきて声を荒げて厳しく言った。

「一体 何を馬鹿げたことを しているんだ。君の役目は 線路を見張ることで 空をながめることではない」

「わかってます。僕の走り方が ぎこちない事を みんなが笑うものですから、つい。ごめんなさい」

「スティーブン、ちょっと、待ちなさい」

その声を上げたのはロウハム・ハット卿だった。

彼はミスティアイランドを手伝いに行く途中のボコの運転台からトップハム・ハット卿に陽気に話しかけた。

「彼を叱る前に、私と一緒に レール点検車を使いこなす 特訓をしようじゃないか」

「特訓ですって。でも、私は…」

「彼の点検が終わった 翌日の晩にやろう。何も 心配することはない、簡単なことだよ」

 


 思わぬ叔父のフォローに、ウィンストンはほっと安堵した。これでトップハム・ハット卿の運転が上手になってくれたらいいなと思ったのだ。

そして懲りた彼は貨車の荷台の上でガタゴト揺られながら、今日の出来事を反省した。

今後は二度と空を飛ぼうと思わないようにと心の中で決意したのだった。

 


おしまい

 

 

【物語の出演者】

●パーシー

●デリック

●バート

●ダート

●ウィンストン

●ロッキー

●ハロルド

●トップハム・ハット卿

●ロウハム・ハット卿

●ハロルドの操縦士

●オリバー(not speak)

●コナー(not speak)

●ライアン(not speak)

ディーゼル(not speak)

●ボコ(not speak)

●マイク(not speak)

●バート(not speak)

●ブッチ(not speak)

●ジェレミー(not speak)

●キャプテン(not speak)

●ゴードン(cameo)

●ジェームス(cameo)

●トビー(cameo)

●アーサー(cameo)

●スタンリー(cameo)

●チャーリー(cameo)

●ポーター(cameo)

ソルティー(cameo)

●デン(cameo)

●フィリップ(cameo)

●スタフォード(cameo)

●クランキー(cameo)

●トーマス(mentioned)

 

 

【あとがき】

 後書きを書いていなかったので、再投稿版で初めて書くことになります。当時何を思ってこの回を書いたのかはあまり覚えていません。しかし、最初に出したアイディアはバードストライクだったのは覚えています。そこから視野を広げて行って、トップハム・ハット卿の子孫にも苦悩の絶えないウィンストンと結びつけました。今見るとちょっと詰めが甘いと感じます。

 スタフォードと同じくウィンストン自体はディーゼル機関車ではありませんが、ダートの言動がウィンストンの行動に繋がっているのでテーマから外れてはいないはずです。逆にスタフォード回はディーゼル機関車との絡みがありませんでしたね。

 余談。ウィンストンには連結器が存在しませんが、実機は一応簡易的な貨車なら牽引することができるようです。

 


 

    

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