今日はソドー島の大掃除の日だ。島の人々が一斉に掃除や不用品を片付けるので、ゴミ袋やガラクタが道端やあちこちの駅に積み重ねられている。
それを、タンク機関車のウィフとスクラフや、ダンプカーのマックスとモンティをはじめ、産業用の機関車たちが、忙しそうにゴミとスクラップを集めてまわっていた。
その日、双子のディーゼル機関車、スプラッターとドッヂは、ソドー島のセメント工場で働いていた。ファーガスが彼らの監督として取り仕切っている。
「ゴミの集積場で、トップハム・ハット卿が 君たちを お呼びだ。いいかい、ここで学んだ通り、他の場所でも しっかり きちんとやるんだぞ。身勝手な行動は…」
「元気ですね!」
「厳禁でしょ」
「ああ、そうだった」
「おいらたち、しっかり きちんとやりますんで 安心してくだせえ」
双子は頷いたが、口うるさいファーガスにうんざりしていたので、内心解き放たれてほっとしていた。
ファーガスの言った通り、トップハム・ハット卿がゴミの集積場で彼らを待っていた。
「今日は どんなご用で」
スプラッターが、ごまをするように言った。
「知ってるかもしれんが、今日は 大掃除の日だ。ウィフとスクラフが これから島中のゴミを集めに行くが、彼らだけでは 人手が足りん。そこで 君たちが この集積場で 貨車の入れ替えをしてほしいんだ」
「すると、おいらたちは、彼らが帰ってくる前に ゴミを処分しておけばいいわけでさね」
「その通りだ。物わかりが良くて助かるよ、ドッヂ。では、検査官が来る前に頼むぞ」
そういうと、トップハム・ハット卿は集積場を後にした。
スプラッターとドッヂは戸惑った。
「難しく考えないで。スメリーが ゴミを分別してくれるから、彼の前に 貨車を持っていけばいいよ」
彼らを察して、ウィフが頭上に建っているクレーンを指して双子に教え、そのままスクラフと一緒にゴミの回収へと向かった。
だが、双子が心配していたのは、ゴミの分別ではなく、集積場に大量におかれたゴミの貨車のことだった。
「おいらたちが、これを 片付けるって…」
双子は一瞬固まった。そして一呼吸置いて、スプラッターが先に口を開いた。
「よし、お、お前は あの臭いやつらを先回りして、ゴミを集めてこい」
「え、え、持ち場を離れるの。ななな、なんで おいらが 行くんだよ」
「ボスに いいところを見せるチャンスだ。それに 一人で片付ける おいらより良いだろ」
「ああ、な、なるほど」
ドッヂは渋々、操車場に行った。何も考えずに集積場を出たので、空の貨車を置いてきてしまった。
彼は辺りを見渡した。ちょうど目の前に、空っぽの貨車があるではないか。
「さーて、いっちょゴミを処分しに参りますかね。あんたたちも 来なさいよっと」
ドッヂはヘクターと貨車たちを押した。
ところが、それはモリーが運ぶはずの石炭用の貨車だったのだ。
「ちょっと、そこのあなた、止まって!」
給水中のモリーが彼を止めようとしたが、もう手遅れだった。ドッヂはそれが自分のことだと気づかずに操車場から出て行ってしまったのだ。
一方、スプラッターは、その場の勢いでドッヂにああ言ったことを後悔していた。
集積場はゴミの貨車だらけで匂いも酷いし、やる気が起きなかった。
「や、やるしかない。触りたくないけど」
彼は汚い貨車に触れないよう、ドスンと体当たりした。
すると生ゴミが貨車の外に散らばった。
「おいおい、そんな乱暴に扱うこたないだろ。丁寧にやりゃあ、汚れることもないはずだぞ」
と、スメリーがスプラッターの方を振り向いて忠告した時、彼の鉤爪が不注意にも貨車にぶつかった。
貨車は、ガッシャーンと音を立てて倒れ、中のゴミが全て散らかってしまった。
「おおっと、やっちまった」
「あーりゃりゃ。おいら知りゃんせんよ」
ドッヂは空っぽの貨車を牽いてトーマスの支線を走っていた。
支線の駅に停車しては、駅長が溜まっているゴミを貨車に放り込んだ。
貨車たちは今までに経験したことのない匂いに参っていた。
「今までで最悪の積荷だ」
「あれれ。ヘクターも大掃除かい」
同じくガラクタ集めをしていたトーマスが言った。
「そうだけど、そうじゃない。これから石炭を積みに行くところだったのに、このディーゼルが…ああっ!」
ヘクターが最後まで話す前にドッヂが出発したので、トーマスには訳がわからなかった。
支線の駅から一通り回収し終わると、ドッヂは集積場に戻ってきた。集積場はいまだにゴミの貨車が乱雑に置かれていた。
スメリーは散らかしたゴミを片付けていたが、スプラッターは貨車を押さずに集積場の中をうろうろしている。
「局長に良いところ見せるんじゃないのか」
ドッヂが声をかけると、スプラッターは慌てた様子でこう言った。
「あ、ああ、そうだった。お、お前も手伝ってくれ」
「うまくいかないもんだなぁ」
ドッヂはため息をついて、スメリーの前まで貨車を押していき、作業員にヘクターからゴミを下ろすように頼んだ。
ところが、ヘクターの底扉からは泥しか出てこなかった。
「つまってるみたいだ」
ドッヂが言うと、今度はヘクターもため息をついた。
「そりゃそうだ。俺は石炭用のホッパー車だからな。ゴミ用じゃない」
その頃、ウィフはトーマスの支線を走っていた。
彼はナップフォード港にやってくると、辺りを見渡した。
そこにはゴミの塊がどこにもなかった。
ちょうどそこへ、パーシーが彼に声をかけた。
「そこのゴミはドッヂが回収したよ」
「え、ドッヂが? 彼は集積場で待ってるはずなのに」
ウィフがゴミのない場所を走り回っている頃、スプラッターとドッヂも集積場の中をドタバタ走り回っていた。
だが、仕事は何も捗っていなかった。彼らはこの汚い仕事を早く終わらせたかったが、焦れば焦るほど、作業は大雑把になっていくばかり。
「まずい、どうしよう、もうすぐ検査官が来てしまうかも」
「おいおい、落ち着けって」
スメリーの注意も耳に入らない。
双子は慌てて貨車を移動させていたので周りをよく見ていなかった。そして問題が起きた。
ガッシャーン!
2台が押していたゴミの貨車同士が交差点でぶつかり合った。
さらに悪いことに、貨車から跳ねたゴミが、別の貨車を運んできたディーゼル10の頭を覆いかぶさるように降り注いだのだ。
「グルルルルルル…」
と、ディーゼル10は不機嫌そうに唸り、双子は慌てた。
「まずい」
そこへ、トップハム・ハット卿が乗ったスクラフと、ウィフが息を切らして集積場に滑り込んだ。そのひどい有様を見て、トップハム・ハット卿はカンカンになった。
「これは一体どういうことだ。説明しなさい」
「そそ、それは…。すみ… ません」
スプラッターは上手く説明できず、ドッヂは黙り込んでいた。
それを見かねてスメリーが謝った。
「おれっちが悪いんです。ずっと 2台を見ていたのに、落ち着かせるどころか、おれっちも 迷惑かけてしまって」
「つまり、誰も しっかり考えて行動しなかったということだ。特にスプラッターとドッヂ。君たちは、一週間ファーガスに何と言われたか 覚えているかね。勝手な行動を取られては、他の仲間の迷惑にも繋がる」
「よくわかりました」「申し訳ありませんでした」
「さあ、それでは この大混乱を すぐに片付けよう。もうすぐ検査官が来てしまうからな」
反省した双子を見て、トップハム・ハット卿が手を2回叩いた。
こうしてスプラッターとドッヂは再び集積場で働き始めた。重機たちもやってきた。
パワーショベルのオリバーが、ヘクターと貨車たちに積まれたゴミを取り除いていく。
「これで全部だよ」
と、彼がモリーに言った。
「ったくよ。信じられねえや」
その中で、ぶつぶつ文句を言いながら役目を果たすディーゼル10やバイロン、健気に働くジャックとアルフィーたちに囲まれて、流石の双子も気まずくなり、すっかり縮こまってゴミの貨車の後片付けに着手したのだった。
でも、ウィフとスクラフはテキパキ手順を教えつつ、優しくこう言った。
「君たちは ゴミの汚れと臭いが 心配だったんだね。気づけなくて ごめんよ」
「僕たちが一緒に手伝うから安心して」
「どうも ありがとうございやす」
他の仲間との協力で、あっという間に集積場は元どおりになった。
嫌そうな顔をしながらも最後まできちんと働いた双子に、ウィフとスクラフ、スメリー、そしてトップハム・ハット卿も感心した。
「よくやった。本土に戻った後も、この調子で頑張ってくれることを願っているぞ」
「もう、戻っちゃうんだね。2台とも、すごかったよ。どう。これからも、僕たちと働かないかい」
「うーん…、遠慮しときますよ」
と、首を同時に振るスプラッターとドッヂ、そして機関士に、みんな大笑いしたのだった。
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●パーシー
●ファーガス
●モリー
●ウィフ
●スクラフ
●ディーゼル10
●スプラッターとドッヂ
●ヘクター
●オリバー
○スメリー
●トップハム・ハット卿
●スプラッターの機関士(not speak)
●ジャック(cameo)
●アルフィー(cameo)
●マックス(not speak)
●バイロン(not speak)
●ヘンリー(cameo)
●ドナルド(cameo)
●ハーヴィー(cameo)
●ビリー(cameo)
●チャーリー(cameo)
●スタフォード(cameo)
●ケリー(cameo)
●モンティ(mentioned)
●鉄道検査官(mentioned)
【あとがき】
アレンジ第25回は2011年3月24日投稿のPToS S10 E02より『ソドー・クリーン・デー』でした。『魔法の線路』が思い出に残ってる二次創作家で、スプラッターとドッヂを使うのは珍しくないと思います。しかし、私は2011年当時、彼らをハリーとバートの代役に扱っていました*1。
しかし、改めて考えると、本編でディーゼル10以外との絡みが無ければ自分達の紹介さえ無いスプラッターとドッヂを主役に回すのはかなり難易度が高いと感じます。PToSのシーズン10ではその2台を中心にした構成でしたので、今回は特別にそうしてみました。また、Exシリーズではレディーを含めて『魔法の線路』の機関車キャラクターを現在のシリーズで使っても違和感がないように仕上げましたが、特に双子をこれからも登場させるかどうかは今のところ未定です。
もし、『ディーゼル10の逆襲』でイアン・マキューの企画通りに再登場できていたら*2、どういう補完が創られていたのでしょうね。
スプラッターとドッヂのように、P&TI Ex−21〜26では、初登場後に公式で補完が創られなかったキャラクターを中心的にしているように見えるかもしれませんが、これは単なる偶然です。「Learn With Friends(友達と学ぶ)」をテーマに、アレンジ前のエピソードを選んだ結果そうなりました。なお、Exシリーズでは双子キャラの出番を意図的に多く用意しています。