※この記事は、2017年9月10日に以前のブログで投稿したものを再編集したものです。
動力は電気。でも他の電気機関車のように架線から電気を受け取るのではない。
内蔵電池を充電することで数時間だけ走れるのだ。
また、スタフォードは音を立てずに走行できることでも有名だ。
動物が音に驚かないので、島の農夫たちのお気に入りでもあった。
「トビーとメイビスが 修理の間 代わりに 採石場で働く 機関車が必要だ。君に任せてもいいかね」
「ええ、いいですとも。頑張ります」
スタフォードが元気よく応えると、トップハム・ハット卿も笑顔になって仕事の内容を説明した。
「まずは ヘンリエッタに 作業員を乗せて 採石場まで運んでくれ。それから トーマスのために 貨車を入換えてくれたまえ」
「お任せください。この仕事は 一度やってみたかったんです」
と、スタフォード。
彼がウキウキしながら充電装置の方へ走り出したその直後に、トップハム・ハット卿は首を傾げた。
「はて、何か 忘れている気が…」
彼はふいに空を見上げてそう呟いた。
充電を終わらせたスタフォードは、さっそく沢山の作業員を乗せた客車のヘンリエッタと荷物運搬車のエルシーを繋いでトーマスの支線を走り始めた。
彼女達は彼を気に入った。
トビーと同じくボディが木で出来ているので馴染みやすいのだ。
スタフォードの分からないことは彼女達が快く教えてくれたので、彼もまた安心して採石場までの旅を楽しんだ。
陸橋の下は一本の細い道路が敷かれている。
ちょうどそこへ、見慣れない緑色の2階建てバスが停留所で立ち止まった。
そのバスは停留所で待つお客は乗せずに、何やらハッチを開き始めた。
「こんにちは。僕は 蓄電池機関車の スタフォード。君は 誰だい」
彼が挨拶すると、バスはぶっきらぼうに返事をした。
「俺は バルジーだ。野菜を 売っている。だが 生憎 俺とお前は 無縁のようだな。電池に 野菜は 要らないだろう」
「えっと、そうだね…」
信号が青に変わってスタフォードは寂しげに走り出した。
その頃、トップハム・ハット卿はオフィスの前にいた。どうも落ち着かない様子だ。
右手に受領証、左手に金時計を持ちプラットホームをうろうろ往復している。
「そうだ、思い出したぞ。港から 子牛を運ぶ仕事だ。しかし スタフォードは もう 出て行ってしまった」
「僕が彼に伝えてきますよ。今から全速力で向かいます」
彼の隣で荷下ろしをしていたパーシーが言った。
「ああ、頼むよ」
ところが、パーシーがファークァー駅に着いた時には、スタフォードが採石場の専用線に入った直後の事だった。
「ちょっと待って!」
パーシーが慌てて止めようとするも、スタフォードは路面区域の集落へと消えて行ってしまった。
これより先は用事無しでは立ち入りが出来ない。
彼は肩を落として、駅構内の給水塔の傍へ立ち寄った。
「こうなったら、僕が 代わりに 子牛を 運ばなくちゃいけないな」
今日は激務な一日になりそうだ。
そう確信しながら彼らは燃料を補給するのだった。
採石場ではトーマスが一人で貨車を入換えていた。
積まれた石は重く、貨車はとても悪戯好きだ。
トーマスが一生懸命頑張ってるところへ、スタフォード達がやってきた。
助っ人がベテランの入換え機と知り彼はとても喜んだ。
「君が来てくれて 本当に助かるよ。僕一人じゃ いたずら貨車を移動させるのは 大変だからね」
スタフォードは礼儀正しく親切だった。
決して力持ちではないが、いたずら貨車たちを丁寧に扱い、静かで速やかに移動させていった。
途中の線路は日差しの熱さででこぼこになっていた。
突然目の前の信号が赤に変わり、彼はでこぼこ線路の上で急ブレーキをかけた。
「あぶ、ない、なあ!」
彼は悲鳴を上げた。貨車もろとも体がぽんぽん飛び跳ねる。
そのせいで貨車の扉が勝手に開いた。
そしてパーシーの蒸気の音に驚いた子牛たちが一斉に貨車から飛び降りる。
だが、乗組員も車掌もそのことに全く気が付かず、信号が青に変わるとパーシーはぷりぷり怒って走り出してしまった。
「もう、いじわるな信号だなあ」
機関庫の前で石を積んだ貨車が綺麗に列を成している。
トーマスは出発の準備をするため給水塔の前で待機していた。
ところが、問題が起きた。
「水が入ってないぞ」
「石炭も残ってない」
と、トーマスの機関士と助士が言った。このままでは運送が出来ない。
ついでに水と石炭を求めてトーマスをファークァー駅へ連れて行く。
だが、構内の給水塔も石炭入れも中は空っぽだった。
「石炭と水なら パーシーが 全部使ったわ」
クララベルが彼らに声をかけた。
スタフォードはがっくりと肩を落とすと、トーマスとの連結を外し、充電を行う。
その間彼の機関士がトップハム・ハット卿に連絡を入れた。
「待ってて。すぐに君の水を取りに戻るからね」
充電が完了したスタフォードは、3台の貨車を牽いて颯爽と構内を後にした。
順調に足取りを進めていたスタフォードだが、やがて足止めを食らった。
貨物線の途中で4頭の子牛に遭遇したのだ。彼らは線路の上で青い草を食んでいる。
機関士と車掌が子牛達を退かすために正面から抱き上げようとすると、1頭の子牛が体当たりで車掌を突き飛ばした。
線路は単線、回り道もない。港は目と鼻の先だというのにこれでは前に進めないではないか。
そこで、スタフォードは警笛を鳴らそうとした。
だが、彼は前にマッコールさんの羊を不本意に驚かせてしまったことを思い出した。
もしここで鳴らしたらまた面倒なことになりかねないと彼らは悟った。
「参ったな。トビーならこういう時、どうするんだろう」
彼はトビーを思い出しながら色々試そうとした。しかし困ったことに走行音すら牛たちには気づかれない。
スタフォードが困り果てていると、どこからかイライラしたクラクションが聞こえた。
土手の上でバルジーがジョージに行く手を塞がれている。ジョージは穴にはまって動けなくなっていたのだ。
スタフォードは、彼なら力を貸してくれると思った。
そこで機関士が恐る恐るバルジーと彼の運転手に声をかけた。
「お取り込み中に すみませんが、野菜を 売っていただけませんか」
バルジーは機関士と、土手の下の様子を確認した。
「いいとも。少し待っていてくれ」
数分後、バルジーの運転手が小さな器を機関士に渡した。
機関士が器を子牛達に近づけると、その匂いに釣られて線路の草から離れて行った。
そして暫くの間、線路の脇で器の中の物を美味しそうに食べ始めた。
「野菜と 果物で作った 野菜ジュースの 搾りかすだ。牛ってのは こういうのも 食べるんだぜ」
「ありがとう、バルジー! 君は 本当に優秀な 野菜バスだね」
バルジーは認められて鼻が高かった。
子牛達はちょうどやってきた農夫に無事に保護された。
そこで彼は水が入ったタンク車を見つけ、電池が切れる前に急いでファークァー駅まで運んで行った。
一方で石炭はディーゼルが運んできていた。
タンクもバンカーも満タンになったトーマスは急いで採石場から石の貨車を受け取りに走り出した。
その晩、スタフォードは戻ってきたトビーと今日の出来事について話し笑いあった。
「不幸中の幸いだったね。僕なら蒸気を出すけど、君には 無いもの。今日は 僕の機関庫で ゆっくりお休み」
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●パーシー
●トビー
●スタフォード
●クララベル
●バルジー
●トップハム・ハット卿
●トーマスの機関士
●トーマスの機関助士
●スタフォードの機関士
●ディーゼル(not speak)
●ヘンリエッタ(not speak)
●エルシー(not speak)
●ジョージ(not speak)
●車掌(not speak)
●スタンリー(cameo)
●デン(cameo)
●ダート(cameo)
●アニー(cameo)
●テレンス(cameo)
●ケリー(cameo)
●農夫フィニー(cameo)
●メイビス(mentioned)
●バルジーの運転手(mentioned)
●農夫マッコール(mentioned)
【あとがき】
スタフォード主役回でした。テーマに直接関係はありませんが、冒頭の写真では前後のエピソードが同時に行われていることを示しています。
P&TIのバルジーは今回とExシリーズを含めて緑色の野菜バスとしての出番が多いです。それは単純に野菜バスとしてのバルジーの活躍を、公式が描かなかった分、書きたいと思ったからです。赤いバルジーの玩具を持っていないわけではないです。シーズン15にはロージーと一緒に赤色に変わる予定です。*1
*1:P&TI S15は、公式の第21〜23シリーズの時間軸で展開します。