Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI Ex-18 トーマスとなぞのなきごえ(リメイク)

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 ある夕暮れ時の事。トーマスとトビーが、ファークァーの機関庫で、仕事で疲れた体を休めているところへ、小さないたずら者が後ろからこっそりと歩み寄り…

 

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「ばあ!」

と、庫内に入って大きな声と「ピッピッピー」という汽笛の音を盛大に上げて2台を驚かせた。

「うわあ、びっくりしたなぁ。脅かさないでよ、パーシー」

トビーは木で出来たボディが崩れそうになるくらい驚いて目を回した。

でも、トーマスはぴくりとも動かなかった。それどころか、不機嫌そうだ。

「どうだい。びっくりしただろう」

パーシーが、けらけら笑うと、トーマスは彼を睨んで不機嫌を露わにした。

「びっくりなんか するもんか。足音で バレバレなんだよ」

「そりゃ驚いたね。本当は 歯が ガタガタしたんじゃないのかい」

「ふざけた事を。それより、明日は 僕の代わりに 鉛鉱山で働きなよ」

「どうして 僕が 行くのさ」

「ピーピーうるさい 緑のムクドリに、寛ぎの時間を 邪魔されずに済むと思ってね」

「ひどいや。ちょっと からかっただけなのに」

パーシーは、むくれた。

 

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 次の日、パーシーはトーマスの要望に応える暇も無かった。

手伝いに来たディーゼルの調子が優れないので、石を港に運ぶ余計な仕事が増えてしまったからだ。彼が不貞腐れてる所へ、パーシーがからかった。

「君が 役に立たないから 僕が居るんだ。感謝してよね」

「ふん。それより、今日は 鉛鉱山に 行くんだってな。気を付けろよ。…出るぜ」

「何が 出るって いうのさ」

「怪物だよ…。空洞の中に潜んでて、夜中に通った機関車を デッカイ口で 丸呑みしようとするんだ。ソルティーが 言ってたぜ」

「どうせ 君が ついさっき考えた でたらめだろう」

と、トーマスがくぎを刺した。

「俺は 親切に忠告してやっただけだ」

ディーゼルは悪びれる様子もなくただ薄気味悪く笑った。

パーシーは少し身震いして、口がたちまち折れ線グラフのように歪んだ。

 

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 パーシーが鉛鉱山に入ってきたのは、すっかり日が暮れてからの事だった。

つい最近発掘が再開したとは思えないほど、鉱山は古く、草臥れて、殺風景だった。物音ひとつせず、薄暗い闇夜の中に幾つかの貨車があるだけだった。

パーシーはあまり進みたくなかった。前にトーマスが「きけん」と書かれた看板を素通りして穴に落ちたと聞いたことがある。彼も「きけん」の看板を利用して海に落ちた事がある。

それどころか、朝に意地悪なディーゼルから嫌な話を聞かされたばかりだ。

「怪物なんて嘘さ」

彼は震えながら言った。すると、その時だ。

突然、奇妙で鈍い音が鳴り響いた。

『グゴーゴゴゴー! ガゴゴゴゴゴー! グワァーゴゴー!』

それはまさしく怪物の鳴き声のようだった。

パーシーは一瞬にして顔を青ざめさせ、機関助士も驚いた拍子に逆転機に捕まり、彼らは一目散に機関庫へと引き返した。

 

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機関庫では、静けさの中、トーマスとトビー、それから客車達が眠りについたところだった。

しかし、その安らぎにも、再び邪魔が入った。

「怪物だ、怪物だ!」

パーシーが叫び声を上げながら機関庫へ猛突進してきたのだ。彼は機関庫に入ると、ギィィーと、体を軋ませて止まり、機関士が何を言っても出ようとしなくなった。

機関車と客車達は一斉に目を覚ました。

「一体 何が あったのよ」

アニーが心配そうに言った。

「鳴き声を聞いたんだ。鉱山に 怪物が居たんだよ。ディーゼルの話は本当だったんだ」

「まあ、かわいそうに。きっと悪い夢でも見たのね」

と、ヘンリエッタ

「そうだよ、夢さ。いいから、もう寝ろよ」

トーマスが不機嫌そうにあくびをしながら言った。

 

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 夜が明けても、パーシーは機関庫に引きこもっていた。罐の火は小さく、機関士と助士がどんなに手を打っても、彼は動こうとしなかった。

「起きなよ、怠け者くん。怪物が恐くて 歯が ガタガタしてるのかい」

トーマスはおかしくて調子に乗って言った。

「違うよ。おなかの調子が悪いんだ」

「そんなこと言って。うわあ、ほら、怪物が 追いかけてきたぞ!」

彼が冗談を言うと、パーシーは悲鳴を上げた。

「情けないな。ちょっと からかっただけなのに」

トーマスは一昨日の仕返しが出来て満足だった。

 

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 午後になるまで、トーマスはご機嫌だった。

「この仕事が 終わったら、新しい駅を飾る ペンキを運ぶんだ」

彼はアニーとクララベルに楽しそうに言った。

しかし、ドライオー駅で呼び止められたのをきっかけに気分は一変したのだった。

赤旗を持った駅長が声をかけた。

「ウラン鉱石が まだ 届いていないそうだ。局長からの伝言だが、一度 様子を見に行ってくれないか」

「ウランこうせきって、なんですか」

「あっちの 鉛鉱山で採れる、天然の石だよ」

トーマスは顔をしかめた。

「パーシーったら。あとで 文句を言ってやる」

トーマスが駅を出る頃には、支線はエルスブリッジから漂う濃い霧に包まれていた。

太陽が見えるはずの空も、やがて雲で隠されて、真昼間だというのに、鉱山は少し薄気味悪かった。彼は少し怖くなった。

「は、早く貨車を持って帰ろっと。あ、穴に落ちるのも コリゴリだし…」

 

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トーマスは少し震えながら、鉱石と共に置き去りにされた貨車に近づいた。

すると突然、霧の中から何かが飛び出した。

「ばあ!」

「うわあ!」

トーマスは、びっくりして心臓が止まりそうになった。でも、すぐにそれが誰なのか、ギトギトした下品な笑い声でわかったのだ。

ディーゼル!」

「臆病なやつだ。ちょっと からかっただけなのに」

「いきなり 飛び出したら、誰だって 驚くさ。昨夜 パーシーを 驚かせたのも、君の仕業だな」

「何の事だ。俺は ついさっき 来たばかりだぜ」

と、ディーゼルが言うと、どこからか奇妙な音が鳴り響いた。

『グングゴワァー、ギンギンギンギ、グワァー!』

「今のは ディーゼルかい」

トーマスは疑わしげに訊いた。でも、ディーゼルは首を振るばかりだ。

「ひょっとしてあれは…」

「か、か、か、怪物だ!」

ディーゼルは恐くなって一目散にその場から逃げだした。

トーマスも思わず貨車を置いて逃げてしまった。

 

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ディーゼルは、あまりの恐怖に、線路をよく見ずに無我夢中で走っていた。

そしてメイスウェイト駅の側線に入って車止めに突っ込んだ。

「誰か、助けてくれぇ」

そんな滑稽な姿を横目に、後から来たトーマスに、トビーが声をかけた。

「何かあったのかい」

「古い鉛鉱山で、怪物の鳴き声を 聞いたんだ。僕 もう 戻りたくないよ」

彼らの只ならぬ反応を見てトビーも息を飲んだが、ヘンリエッタが言った。

「そんなはずないわ。怪物なんて いないわよ。ねえ、トビー」

「そうだよね、ヘンリエッタ。僕が 後で 確かめに行くよ。君は 事故の後片付けをしてくれるかい」

「わかったよ。でも 気を付けてね。あそこは 地盤も 恐ろしいんだ」

 

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 暫くして、トビーは鉛鉱山にやってきた。

「さて、怪物退治に出発だ」

彼は勇敢にそう言った。霧はまだ立ち込めていたが、少しずつ薄れていた。

トビーが地盤を確かめながら慎重に怪しい場所を探っていると、奇妙な音が鳴り響いた。

『ギギギー、グググググー!』

「そこにいるのは 誰だい」

トビーの機関士がランプを隣のポイントの方へ向けた。

「わあ、眩しいなあ」

そこに現れたのは、蒸気ショベルのネッドだった。

「なんだ、ネッドか。君が掘削していた音だったんだね」

でも、今度は違う方向から別の音が鳴り響いた。それは生々しくて鳴き声のような音だった。

『グガーグワァ! ガーガー、グワオー!』

これにはネッドもびっくりしていた。

だけど、トビーは勇気を振り絞って音のした方へ進んだ。

「こりゃ びっくり!」

彼はトンネルの中で、何かを発見したのだ。

 

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 トーマスが駆け付けた頃には、トビーの姿は無く、ネッドが佇んでいるだけだった。

「もしかして、怪物に呑み込まれちゃったのかな…」

トーマスがそう呟いた時、トンネルの暗闇からトビーがゆっくりと現れた。それも、一生懸命、何かを後ろ向きで引っ張っていた。

彼と一緒に現れたのは、なんと、くたびれた格好のタンク機関車だった。

ボディは埃と錆だらけで、金色の煙突も輝きを失い、跳ね除けも一つ失くしていた。

怪物の正体は彼のいびきだったのだ。

「なんか用?」

タンク機関車は寝起きの目をしぱしぱさせながら口を開いた。

「こりゃあ たまげた。君って もしかして…、あれ、誰だっけ」

トーマスが頭の片隅からその機関車の事を思い出そうとしていると、その機関車がまた口を開いた。

「21号さ。ところで 今、何年の何月だい」

 

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 その日の夕方、トーマスとトビーは、パーシーに訳を話した。

「なーんだ、怪物なんて いなかったんだね」

「さっきは からかって ごめんよ。ほんとは 僕も ちょっぴり恐かったんだ」

「僕も 休憩の邪魔して ごめん。それで、そのタンク機関車は、結局 誰だったの」

「むかし、エドワードの支線で働いていた機関車だって。何で50年もそこにいたのかは教えちゃくれなかったけど」

 

 それから何年かが経って、21号は見違えるようになって線路に復帰した。

旧くも新しい助っ人が増えたのでトップハム・ハット卿も大喜びで彼を歓迎し、「フレデリック」という名前を与えたのだった。

フレデリックは名前を貰って嬉しそうだった。

今、彼は誇りを持って意気揚々と操車場を走り回っている。

彼が出てきてからは、もう鉱山で不気味な鳴き声はしなくなったのだった。トーマスもパーシーも、そしてディーゼルも、これで一安心。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

●トーマス

●パーシー

●トビー

フレデリック

ディーゼル

●アニー

ヘンリエッタ

●ネッド

●トーマスの機関助士

エドワード(not speak)

●メイビス(cameo)

ソルティー(mentioned)

●クララベル(mentioned)

●トップハム・ハット卿(mentioned)

 

 

【あとがき】

 リメイク第18弾は2015年投稿のP&TI S13 E23『トーマスと謎の鳴き声』でした。軽率にキャラクターを増やす二次創作にありがちな展開です。

フレデリックは、オリジナル版では設計者のウィリアム・ストラウドリーから肖ってウィリアムと云う名前でしたが、同じ名前のキャラを生み出した同業者が多かったので、変更しました。ちなみに名前の由来はハーウィックの第5男爵フレデリック・レガビー卿から。元の物語との違いは、そのフレデリックと云う名前と、敵役*1と、舞台*2の変更のみです。

 このお話、今投稿すると、公式のS20『おそろしいようかい』と丸被りなんですよね。どちらかがパクリとかではなく、本当に単なる偶然なのです。他にも2014年にコーヒー・ポットを題材にした長編を書こうと予告出せば、間もなくグリンというキャラが世に出てきたり、ゴードンにちょっかいを出す箱型機関車のタイニーを考案すれば、公式からフィリップが出てきたりと、私は遠く離れたアンドリュー・ブレナーと物凄く気が合うのかもしれません。(笑)

*1:ウィーゼル→ディーゼル

*2:エルスブリッジ機関庫→鉛鉱山