Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E02 トラクターのじだい (再投稿版)

※この記事は、2017年4月22日に以前のブログに投稿したものを再編集したものです。

 


 テレンスは、トーマスの支線の近くで働くトラクターだ。

フィニーさんの農場で畑を耕すのが主な仕事。時には倒木や荷車を牽引したり、自慢のキャタピラを使って大雪の時に活躍することもある。

 ある日、テレンスはアノファ採石場で貨車の入換えをしていた。メイビスが修理から戻るまでの間トビーを手伝うことになったのだ。

彼の働きぶりは見事なものだった。重い石の入った貨車を着々と移動させている。

その様子にトビーはとても感心した。

「君が いてくれて 助かるよ。本当に 優秀なトラクターだね」

「いやあ、それほどでも」



 採石場で採れたスレートを積んだ貨車はナップフォードの港へと運ばれる。その列車を担当するのがパーシーだった。

普段はトビーかメイビスが列車を駅まで運んでくるのだが、今日はメイビスがいないので自分が採石場に入って列車を受け取りに行くことになるだろうとパーシーは思っていた。

ところが、彼が駅に着くと、普段と変わらぬように綺麗に貨車が並べられているではないか。そばではトビーとテレンスが澄ました顔で待っている。

「まさか 君が こんなに早く貨車を集められるなんて 思いもしなかったよ」

彼はトビーを見て言った。

「テレンスが 入換えを 手伝ってくれたんだ」

と、トビーが言うと、テレンスが自慢げに付け加える。

「この キャタピラがあれば、線路の上だって お手の物さ」



始めはパーシーも、彼の働きっぷりに感心していたが、いく日もいく日も、テレンスが機関車の仕事を行うので、彼は次第に心配になってきた。これからの時代、自分たち蒸気機関車が、テレンスのようなトラクターにとって代わられるのではないかと思ったのだ。

パーシーは、今日も石材の貨車を受け取りにファークァー駅へ向かっていた。その途中の駅で、彼はヘンリエッタを牽くトビーとすれ違った。

「また テレンスが 貨車を全部入れ換えたのかい。そのうち テレンスが 僕らの仕事まで 盗るようなことになったら いやだな」

それを聞いてトビーは「ふふっ」と、ほくそ笑んだ。

「心配ないさ パーシー。テレンスは お客を 運べやしないもの」



だが、その後パーシーはファークァー駅のそばで思わぬ光景を目の当たりにし、息を飲んだ。

なんとテレンスがアニーとクララベルを牽いて目の前を走っているではないか。

駅に着くと、乗客がホームに足を降ろしては「ありがとう」と口々に賞賛している。アニーとクララベルも嬉しそうだ。

「トビーは間違ってた。やっぱり テレンスは、この支線で働くつもりなんだ…」

彼はひどく動揺した。



 その夕方、トーマスが夜行列車の準備をするため、一旦機関庫に帰ってきた。

どうしてパーシーがガタガタ震えているのかトビーに訊ねると、パーシーがこう答えた。

「し、心配だったんだよ、トーマス。今日 テレンスが キミの客車を牽いて 堂々と 僕の前を走ってたんだから。きっと トップハム・ハット卿は 今後 彼にこの支線を 任せる気なんだよ」

あまりにも必死で豪語するパーシーに、トーマスは思わず噴き出した。

「何をばかな。彼は 脱線した僕の代わりに、途中から アニーとクララベルを牽いて お客を運んでくれただけさ。それに トップハム・ハット卿が、この僕の支線を テレンスに譲るだなんて ありえないよ」

トーマスは自信満々にこう言ったが、パーシーは未だにテレンスを疑っていた。



 次の日、メイビスが採石場に帰ってきた。

そのため、テレンスはいつものように農場へ戻っていった。

一方でパーシーは彼の農場で採れた作物や果物を運ぶために貨車に詰め込まれるのを待っていた。

「線路の上を ちゃんと走らない 車が、線路の上で働くなんて…」

テレンスは気にも留めなかったが、パーシーは何かぶつぶつ不平を言っている。

するとそこへ、納屋からテレンスの元へ、農場主のフィニーさんが駆け足でやってきた。

「マッコールが 大至急 倒木や がれきを 退かすのを 手伝ってほしいそうだ。急ごう」

「あーあ。また テレンスが 活躍するのか」

パーシーが密かにつまらなそうにぼやく。するとテレンスが彼に声をかけた。

「でも、パーシー。今、ここから農場まで 一番活躍できるのは、一体 誰だと思う?」

それを聞いてパーシーは、きょとんと首をかしげた。



「わからないかい? つまり、俺の足じゃ 時間がかかるってことさ」

「ああ! そうか、なるほど!」

その発言で閃いたパーシーは、機嫌を取り戻して、操車場に果物の貨車を預けると、代わりに平台の貨車を持ってきた。テレンスを載せるためだ。農夫のフィニーさんはブレーキ車に乗り込む。

「さあ、鉄道の 凄さってのを あのトラクターに みせてやるぞ」

パーシーはもくもくと蒸気を吹き上げ、意気揚々と出発し、マッコール農場へと突っ走った。

現場へ向かう道中で、彼はテレンスがこの支線を引き継ぐつもりかどうかを確かめようと、彼に問い訊ねた。すると、テレンスは大笑いして彼の疑惑を否定した。

どうやら、本人にその気は全く無いようだ。彼の考えを聞いたパーシーは、ほっと胸を撫で下ろし、とても安心したのだった。

 


 農場に無事に着いたパーシーは、テレンスが作業をしている間に果物の貨車を市場まで運んだので、2台の仕事はその日の昼間に終わった。

マッコールさんはテレンスに感謝し、「君のおかげで思っていたよりも早く着いて助かった」と、パーシーにも礼を言った。

帰りもパーシーがテレンスを運ぶ事になった。

ところが、フィニー農場目前のトンネルでトラブルが発生した。

土手の地盤がゆうべの雨風で緩んでしまい、パーシーの列車が通過する最中で土砂崩れが起きたのだ。幸いにも難を逃れた彼らに、けがは無かったが、トンネルの手前の線路がふさがり、唯一被害を受けたブレーキ車の車輪が線路から外れてしまっている。

更に悪いことが起きた。蒸気の音と「ポッポー」という汽笛の音が、微かだがトンネルから響き渡る。遠くの方から誰かがやってくるようだった。

それを聴いた機関士が声を張り上げた。

「まずいな。もうじき スタンリーの 旅客列車が 通る 時間だ。」

「たいへんだ、早く スタンリーに知らせなきゃ」

パーシーが叫ぶや否や、フィニーさんは脱線したブレーキ車から飛び降りると、反対側のトンネルの出口目掛けて突っ走り、発煙筒を設置した。

「僕らも 負けちゃいられないぞ」

機関士が言った。彼はパーシーの機関室の中で何度もレバーを引いて汽笛を鳴らさせた。



パーシーもギュッと目を瞑って力む。

「ピッピッピッピッピー! ピッピッピッピッピー!」

彼はかつてないほど大きな音で警告する。今にも安全弁が吹き飛びそうな勢いだ。

「あぶなーい! とまれー!」

テレンスも叫ぶ。

スタンリーは発煙筒の煙で異変に気付いた。

「何か あったみたいだ」

そして速度を緩めながらトンネルに近づくと、穴から響くその汽笛の大きな音と大声が耳に届き、急ブレーキをかけて、寸でのところで停車した。

彼らは見事スタンリーと彼の乗客を脱線の危機から救ったのだ。



 間もなくブレーキ車は線路に戻され、事故の片付けは後から救援に駆け付けたマリオンが協力して行った。乗客はそれまで側線で待たねばならなかったが、パーシーとテレンス、そして機関士とフィニーさんにそれぞれ感謝の気持ちを述べていたので、暇にはならなかった。

夕方、パーシーが操車場で休憩していると、採石場から戻ってきたトビーが彼に声をかけた。

「やあ、やけに元気そうじゃないか」

「まあね。色々と 心配事が 消えて スッキリしたんだ。彼は 鉄道で活躍するよりも、自分にしかできない仕事の方が好きみたいでさ、僕の事も、優秀だって 褒めてくれたんだよ」

彼は誇らしげにそう語り、嬉々として、またいつものように貨車を港へと運ぶのだった。

 


おしまい

 

 

【物語の出演者】

●トーマス

●パーシー

●トビー

●スタンリー

●テレンス

●農夫フィニー

●パーシーの機関士

●アニーとクララベル(not speak)

ヘンリエッタ(not speak)

●キャロライン(cameo)

●マリオン(mentioned)

●メイビス(mentioned)

●トップハム・ハット卿(mentioned)

●農夫マッコール(mentioned)

 


【あとがき】
 パーシーとテレンスのお話でした。テレンスの速度は遅いけど万能なキャタピラ(無限軌道)つきトラクターの彼には様々な活躍が期待できます。個人的に、近いうちにテレビで最も再登場してほしいキャラクターのうちの一つです。(※当時はそう思っていました)。

 今回のお話は、原作絵本の32巻『Toby, Trucks and Trouble』に触発されて書きました。シメの「Toby Takes the Road」では、挿絵はないものの、パーシーが出張の間、操車場でテレンスが代わりに貨車の入換え作業を行う描写があります。悪路も線路も自由自在に走れる上に、タンク機関車一台をも牽引できる彼にとっては朝飯前といった感じでしょうね。

 そして、昔から線路の上以外の場所に全く興味を示さないパーシー。(※その思考の堅さはトーマス以上)。彼はテレンスとも仲が良い印象ですが、線路以外の車両から見下されるのを嫌っている彼にとって、テレンスのような多才な万能車両に活躍を奪われるとなると、きっと支線内の誰よりも対抗心を燃やすだろうと思いました。(恐らく支線が本当に危うくなると真っ先に立ち上がるのはトーマスでしょうね)。もしそうなったときに、鉄道車両としてどんなことが出来るかなどを風呂の中で一生懸命考えていました。

私はこの2台を活用したエピソードを創って勝手に満足していますが、終盤はありきたりで、もう少し工夫が欲しかったかもな、今考えるとそう感じます。





 

※『きかんしゃトーマス』に関する著作権はすべてマテルに帰属します。