アールズバーグにもクリスマス・イブで駅と操車場が賑わっていた。飾り付けはまだだったが、機関車たちは幸せな気分で暖かい機関庫で休んでいる。
でも、たった一台、幸せじゃない機関車が居た。
「ほら、さっさと動けよ」
ガシャンと乱暴に音を立てたのは、オリバーだった。彼は不機嫌そうに貨車の入換え作業をしている。貨車たちは彼に対して悪戯をすることは無かったが、古くて頑固な貨車ばかりで、移動には時間がかかるのだ。
駅の隣にある機関庫では、仲間たちがオリバーを心配そうに見守っていた。
朝から頑張っている彼の姿を見て、ブレーキ車のトードは何かしてあげたいと思ったが、自分一人では何も行動を起こせないので、不甲斐なさを感じていた。
「クリスマスですし、オリバーさんに 何か プレゼントを あげたいのですが…」
「それなら、青いボディに 塗り替えてあげるのは 如何でしょう。私達の 好きな色なのです」
ダグラスがこう言うと、ダックが否定した。
「だめだよ。グレート・ウェスタンの機関車は、緑色じゃなきゃ」
だけど、ここからは他にいい案が思い浮かばなかった。
暫く沈黙が続き、トードが諦めようとしたとき、ドナルドが口を開いた。
「ダギー。トードと一緒に 配達に行ってきなさいな。私の仕事なら、いろんな機関車と会えるはずです」
「ということは、つまり― なるほどです。行きましょう、トード」
早速ダグラスは転車台で方向転換すると、ホッパー車とトードを連結してドナルドの仕事を代わりに取り掛かった。
トードはダグラスと一緒に出掛けられて嬉しかった。
「オリバーには 内緒にしましょう。僕、びっくりさせたいんです」
そういうわけで、ダグラスはまず、ホッパー車を砂利落としの下へ持ってきた。
ちょうど隣の線路には、アールズデール鉄道の小さな機関車レックスとバートが居た。バートが陽気に声をかけた。
「やあ、トード。今日は オリバーと一緒じゃないんだね」
「ええ。入換え作業で 忙しくて。そんな一生懸命なオリバーさんに、プレゼントを 送りたいと 思っているのですが、宜しければ、バートさんたちからも 知恵を貸していただけると 嬉しいです」
「そうだなあ。写真を撮るのは どうだい」
と、バートが冷笑的に言った。
「僕は 新しい汽笛が いいと思うなあ」
と、今度はレックスが、砂利落としの上で待っているマイクに聞こえるように、わざと大きめの声で言った。マイクは彼を睨んだが、レックスはお構いなしだ。
「まあ、僕らが 考え付くのは これくらいかな」
「写真と汽笛ですね。ご意見ありがとうございました」
トードは機関車たちの意見を纏めて、車掌はそれをメモした。
ホッパー車に砂利が積み込み終わったのを見て、ダグラスは汽笛を鳴らして出発した。
次にダグラスたちは、砂利の貨車を届けるためにクロヴァンズ・ゲート駅へやってきた。そこで幅の狭いレールを走る機関車たちと出逢い、挨拶をした。
「ごきげんよう。いま 私たちは オリバーの為の プレゼントを 考えているのですが、なかなか 思い浮かばないのです」
「それなら断然、特製の車輪だね。僕のを ご覧よ。スムーズに 走れるんだ」
と、サー・ハンデルが得意げに言った。
「そんな ジョージみたいな車輪、ダメだね。おいらのような 立派な煙突が いいよ」
と、ダンカンが続けて言った。
「煙突と云えば、僕みたいな 特製の煙突は どうかな。これのおかげで 走りやすいんだ」
と、ピーター・サム。
トードは彼の特殊な形状の煙突を見て「(オリバーに似合うかな)」と首をかしげたが、
「特製の車輪か、特製の煙突ですね。ご意見ありがとうございます」
と、丁寧にお礼を言った。
その頃、オリバーは機関庫の前にあった貨車をやっと片付けたところだった。
「あれあれ。トードは 何処だろう」
「ダグラスと一緒に、今日 最後の配達に 出かけたよ」
「そう…」
ダックの言葉に、オリバーは寂しそうな表情で返事をした。
「ところで ダック、彼と一緒に 入換え作業を してみては?」
「それもそうだ。2台なら 早く 終わらせられるよね」
最後にダグラスは、クリスマス・プディングやツリーを機関庫へ運ぶために一度ピール・ゴッドレッドの支線を走った。途中のカルディー登山鉄道の連絡駅では、たくさんの仲間たちが居たので、彼はここでもプレゼントの案を募集した。
「専用の客車は どうかな。僕のキャサリンみたいに」
と、カルディーが言ったが、ダグラスは首を振った。
「彼には もう、イザベルとダルシーと云う 客車が 居ます」
「そっか」
「ボディを 洗ってあげるのは どうだい。一生懸命働いた後の 洗車は 格別だぜ」
と、パトリック。
「ピカピカの新しい車輪は どうかなあ」
と、側線に居たシドニーも言ったが、ダグラスは彼に耳を貸さず「洗車ですね」とだけ言い残して駅を出て行った。
「ちょっと、僕の意見は? 忘れちゃったけど」
「車輪です。わかってますよ~」
と、去り際にトードが一言。
終点の駅で貨車を受け取ったダグラスとトードは、日が暮れる前に家路を急いだ。
「えっと、写真に、汽笛、特製の車輪と、特製の煙突。それから洗車や、新しい車輪」
トードはここまで出てきた意見を、車掌と確認しながらつぶやいた。
「ソドー整備工場に 行くのなら、今のうちですよ」と、ダグラス。
だが、トードが悩んでいる間、いたずら貨車たちが喚き始めた。
ダグラスの言ったことをオウム返ししたり、「車輪だ」「汽笛だ」と、間髪を容れずに騒いで、わざと彼らを困らせる嫌がらせをした。
間もなくトードの焦りは頂点に達してしまった。
ダグラスとトードがアールズバーグに着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。でも、ダックが手伝ったおかげで、オリバーの仕事は完了していて、転車台も使えるようになった。
「おかえり、トード。プレゼントは 見つかったかい」
ダックが訊ねると、トードはしょんぼりしてこう答えた。
「それが、良い案が ありすぎて、結局決まりませんでした。ごめんなさい オリバーさん」
オリバーには、わけがわからなかった。
「ねえ、何の話だい」
「いつも 頑張っておられる貴方に、クリスマス・プレゼントを 渡そうと 思っていたんです。色んな提案を受けましたが、何にしようか 決まらず…」
トードが事情を話すと、オリバーは噴き出した。
「そうか、今日は クリスマスだったね。忘れていたよ」
「本当に ごめんなさい。優柔不断な 僕が悪いんです」
「気にするな。その気持ちだけで 十分ありがたいよ。僕は みんなと一緒に、この鉄道で働けることが 何よりも幸せなんだ。だから、プレゼントなんて要らないのさ」
この言葉に、トードや他の機関車達も嬉しくなって微笑んだ。
「それにさ、僕の大好きな暖かい機関庫で、みんなと過ごすのが一番だからね」
こうしてアールズバーグのクリスマス・パーティが始まったのだった。
おしまい
【物語の出演者】
●ダック
●ドナルドとダグラス
●オリバー
●シドニー
●サー・ハンデル
●ピーター・サム
●ダンカン
●カルディー
●パトリック
●レックス
●バート
●いたずら貨車
●トード
●マイク(not speak)
●マイティマック(cameo)
●キャサリン(mentioned)
●イザベルとダルシー(mentioned)
●ジョージ(mentioned)
【あとがき】
リメイク第14弾は2014年2月7日投稿のPToS S12 E29『アールズバーグのクリスマス』でした。PToSのシーズン10とシーズン12は全く別の時系列ですが、前回に出番が無かったキャラクターで纏めてみました。設定は1968-1969年ぐらいを意識してます。*1
これにて過去作品リメイクは終了…の、はずでしたが、まだ用意しています。もうちょっとだけ続くんじゃよってやつです。
*1:前回は1962-1964年設定。