グレート・ウェスタン鉄道出身のオリバーは、意地悪なディーゼル機関車たちの魔の手から逃れられた、小さなタンク機関車だ。
ダックやトーマス程の力持ちではないが、彼は昔、トードの協力を得て、いたずら貨車たちの指揮を執るスクラフィーをバラバラにして黙らせたことがある。
それ以来、貨車たちからは恐れられていて、あれからいたずらもされていない。オリバーにはそれが自慢だった。
ある朝、オリバーはディーゼル機関車たちの燃料を届けにナップフォードの操車場へやってきた。車庫の前では、ノーマンと、ハリーとバートが待っていた。
オリバーはディーゼル機関車の近くには寄りたくなかった。でも、そのそばにはトップハム・ハット卿が待っていた。
「嫌になっちゃうな、彼らの隣なんて」
と、オリバーは嫌な顔をした。
すると、待っていたノーマンたちも、彼に冷たい視線を向けた。オリバーはますます不機嫌になったが、トップハム・ハット卿は構わず新たに仕事を彼に任せた。
「これから 砂利の貨車を 10台ほど受け取って、ティッドマス機関庫まで 持ってきてくれたまえ。そこからはノーマンが引き継ぐ」
「わかりました。その砂利は 何に使うんですか」
「新しい駅にだよ。砂利は とても重いから、貨車を 半分ずつ運びなさい。現地に 手伝いの機関車が居る」
オリバーは重要な仕事を任せられて、今までディーゼル機関車が周りをかこっていたことなどすっかり忘れるくらいワクワクした。
「手伝いの機関車が、ダグラスだったらいいな」
でも、オリバーの充ては大きく外れた。アールズバーグ・ウェスト駅に着くと、砂利落としの上で小さな機関車のレックスが彼を待っていた。
「砂利の準備は 整ってるよ。そこのディーゼルが 貨車を 集めてくれたんだ」
オリバーは目を疑った。手伝いの機関車は、島で一番意地悪なディーゼルだったのだ。
「どうして君が ここに いるのさ」
「トップハム・ハット卿に呼ばれて、非力な お前さんを 助けに来たんだ、感謝しろよな。俺が この大きい貨車を7台運ぶから、お前は この ばっちい貨車どもを 3台運べ」
だが、オリバーは、きっぱり断った。馬鹿にされたと思ったからだ。
前に怖い思いをしたことがあるので、彼はディーゼル機関車を警戒していた。それに、このディーゼルはいつも問題を起こす厄介者だ。彼だけには手伝ってもらいたくなかった。
「お気遣いは 結構。僕だけで 充分だ。それに こんな 小さい粒なんて、この僕なら 簡単に運べるよ」
これを聞いて、マイクとレックスは噴き出した。
「馬鹿だなあ。大きな機関車は、もっと 頭が いいと 思ってたのに」
「そりゃあ キミよりは 利口な はずだよ、マイク。だけど、山積みの砂利は 君が思ってるほど軽くは ないよ」
「平気平気。僕は 一度 貨車を粉砕した男だぞ。なんてことないさ」
と、ついうっかり口走ったオリバーは、内心「しまった」と思った。貨車を粉砕できたのは自分の力だけではないからだ。でも、大きくて重いホッパー車の列を繋ぐと、小恥ずかしそうに駅を出て行った。
「行っちゃったよ。止めなくていいの」
と、バートが澄ました顔で言うと、レックスはにっこりとして皮肉を言った。
「きっと、無駄だよ」
オリバーは長くて重い大きな貨車たちを牽いて、ゆっくりと支線を走る。
いつもの「シュッシュッ」という軽快な音ではなく、苦しそうに「ボッボッ」と精いっぱいの蒸気を出して「ガチャガチャ、ガッチャン」とものすごい音を立てて走るので、彼の様子を後ろから見ていたホッパー車のヘクターは心配そうだった。
「なあ、あんたには 悪いけど、ディーゼルの 言うとおりだよ。かといって 俺も 奴に繋がれるのは嫌だから、まず貨車を 半分に減らしたらどうだ」
オリバーには、ヘクターの助言も、他の貨車と同じ戯言だと思った。
「うる、さいな。一気に運ぶ方が、効率が いいんだ」
しかし、支線の途中で水の補給を余儀なくされる事態となった。機関士は、信号手に合図を送ると、ホルトラフ駅の3番ホームの給水塔前で停車させた。
ヘクターは心配を通り越して呆れていた。同時に、申し訳なくも感じて、小さな声でこう囁いた。
「これでも まだ 効率が いいと 思うか」
オリバーは何も答えなかったが、本当はヘクターの方が正しいとわかっていた。でも、このまま引き下がりたくはなかった。
そこへ、ゴロゴロという聞き慣れた音を響かせて、隣のホームに誰かがやってきた。
「ディーゼル、なんで ここに いるんだ」
「それは こっちの台詞だ。まだ こんなところに 居たのか。本当に よわっちい 役立たずの機関車だ」
オリバーが悔しがって何か言い返そうとする前に、ディーゼルは話を進めた。
「それに、随分と お疲れの様だな。手伝ってやっても いいぜ。おっと、気遣いは結構だっけな。それじゃあな~」
彼は生意気にそう言うと、ゲラゲラ笑いながら駅を後にした。
残されたオリバーは、ただ眉をひそめて「今に見てろよ」と呟いた。
ティッドマス駅の構内では、ノーマンがオリバーの到着を待っていた。彼の列車を引き継いで、本線を走るためだ。
「遅かったな。あとは 僕に任せてくれ」
だが、オリバーは彼を無視して、そのまま走り続けた。
「ディーゼル機関車なんて、信用できるか!」
彼はぶっきらぼうに言った。オリバーはノーマンと話をしたことは無かったので、彼もディーゼルと同じ仲間だと思った。冷たい視線を向けられた、先ほどの出来事が脳裏に浮かんだのだ。
「蒸気機関車の意地ってもんを見せてやる」
ナップフォードを通過する時も、オリバーはおかしな音を響かせていた。周りの誰もが彼の身を案じた。
「どうしたの、苦しそうだよ」
「連結棒が怒ってるみたいだ」
と、港でトビーとフィリップが言った。
遂には他の貨車たちも、オリバーの様子に勘付いたようだ。
「これが あの オリバーか? 思ったより 大したこと なさそうだぞ」
「やめろ、やめろったら」
トンネルへの下り坂に差し掛かると、貨車たちは嫌がるヘクターなんかそっちのけで、後ろから「ドンドン」と、押してオリバーを困らせた。
貨車を引っ張る為に蒸気を多く出していたので、タンクの水は、再び底をつきそうだった。石炭の数も残り少ない。
トンネルを過ぎて間もなく、駅が姿を現した。オリバーの目に留まったのは、側線の給水塔だった。それから石炭の入った木箱もだ。
「よし、あそこまで もうひと踏ん張り」
ところが、オリバーは分岐点のすぐ目の前で止まってしまった。水も石炭も残っていたが、どうやら無理をしすぎてお腹を壊してしまったようだ。
更に運が悪い事に、その様子を、ハリーとバートと、バスのバルジーが観ていた。彼らは大笑いだ。
「蒸気機関車は 信用できないね」
「スクラップ行きも 待ったなしじゃないか?」
かわいそうに、オリバーはすっかりしょげてしまった。
機関士と助士が、手押し車でオリバーを側線に入れ、連絡を入れると間もなく、ノーマンが後を追ってきた。トップハム・ハット卿も一緒だ。
ノーマンは何も言わずオリバーの貨車と連結して、大きな列車を軽々と運んで行った。
それを眺めていたオリバーは、自分がとてもちっぽけに思えて惨めだった。
「なぜ、私の命令や仲間の忠告を無視して、引っ張って行ったのかね」
トップハム・ハット卿が言った。
「ごめんなさい。ノーマンやディーゼルたちに、僕が ちっぽけで弱いと 思われたくなかったんです。そうしたら、僕は もう、貴方に 必要が無いと言われるのではないかと 恐くなって。でも 反って失敗でした」
「たとえ君が、誰かに 小さくて非力だと馬鹿に されても、私は君を リタイヤさせるつもりは これっぽちも無いよ。君は 私の大事な 機関車だ。それに、あの ノーマンは、君が思っているほど 悪い機関車ではない」
トップハム・ハット卿は、オリバーに目配せをして去って行った。
オリバーの修理が始まり、後になって、ノーマンがヘクターと一緒にソドー整備工場を訪れた。オリバーはまた冷たい視線を向けられたり、馬鹿にされるのではないかと身構えたが、ノーマンは親切だった。
すぐにオリバーは、ノーマンとヘクターが蒸気機関車にも友好的だという事を知り、彼らを気に入った。
「故障するのって 退屈だよな。早く 役に立ちたくて堪らない、そうだろ? だから、君に 部品を持ってきたんだぜ」
「本当に ありがとう。さっきは無礼な態度を取って ごめんなさい」
「気にするな。誰でも勘違いは あるからさ。そうだ、君の冒険談を聞かせてよ」
「俺も聞きたいな」
これを機に、オリバーは2台と仲良くなったのだった。
おしまい
【物語の出演者】
●トビー
●オリバー
●ハリーとバート
●ノーマン
●フィリップ
●レックス
●マイク
●バート
●いたずら貨車
●ヘクター
●トップハム・ハット卿
●トード(not speak)
●スクラフィー(not speak)
●バルジー(not speak)
●ゴードン(cameo)
●デニス(cameo)
●パクストン(cameo)
●トーマス(mentioned)
●ダック(mentioned)
●ダグラス(mentioned)
【あとがき】
リメイク第17弾は2015年投稿のP&TI S13 E20『見栄っ張りなオリバー』でした。オリキャラをノーマンに、トードをヘクターに変更しました。
これはオリジナル版にも書きましたが、オリバーって目立った性格が無くて、原作では出番少ないし、TVじゃ話によっては激変するしで特徴がつかみにくいですよね。TVシリーズでは若さが際立つほどの自惚れ屋で、ある時突然冷めたと思ったら、また自惚れ屋になったりダックよりまともだったり。日本のファンからは声優の演技もあってクールに見られる傾向があるようですが、僕は以下の事項が彼の性格だと考えています。
●基本謙虚だが褒められることに弱く、自己肯定的になりがちなお調子者*1
●行儀は良いが短気で怒りっぽく、無礼者が嫌い*2
●素直で責任感を持ち、あっさり引き下がることが出来る*3
●判断力があり、いざという時思い切った決断をする賢明さと勇敢さを備えている*4
同じく掴みづらいノーマンは、公式サイトや公式書籍によれば
●双子のデニスよりもさらに優しくて働き者
●蒸気でもディーゼルでもすべての機関車に好かれたいと思っており、ディーゼル整備工場での役割を担い、命令には絶対従う
●よく故障することが好きではない
●トラブルを抱えた機関車を援けることが好き
という設定になっているそうです。