Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E22 エドワードはひよっこ?

 エドワードは、物知りで親切な、ベテランのテンダー機関車だ。

本土の隣の鉄道から来てから、もう長いことソドー島で働いている。

小さくて古かったが、信頼における役に立つ機関車だと、島の誰もが認めている。

仕事のやり方もよくわかっている。貨車も客車もいつも上手く牽けるのだった。

 

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 サムソンは、隣の鉄道で働くタンク機関車だ。

エドワードよりも古く、とてもプライドが高い。だから、自分より若い機関車を見つけては、

「僕に言わせれば、キミは まだ ひよっこだな」

と、偉そうに言うのだった。

ゴードンほど力強くも速くもないが、自分がこのソドー島で一番物知りで力持ちだと思い込んでいた。

 

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 サムソンが島へ手伝いにやってきた、その日のこと。

エドワードは、本土からの貨車を牽いて、ディーゼル整備工場へとやってきた。

修理に使う部品と、予備の部品を運んできたのだ。

彼は通り過ぎるディーゼル機関車たちに「ポッポー!」と、汽笛で陽気に挨拶をしながら、工場へと滑り込む。

すると、交差点でダートが、あくせくやってきた。

「やあ。部品を持ってきたよ。早くデンに使ってあげて」

「どうもありがとう、エドワード。それで、厚かましいことを承知で おたくに 頼み事があるでやんす」

「なんだい。手伝いなら、任せてよ」

「助かるでやんす。向こうの精錬所から、スラグを、あっちの高台に 棄ててほしいんでやんす。シドニーは やることを忘れるし、ノーマンは 腹いたで 困っていたんでさ」

 

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貨車を届けた後、エドワードは転車台で方向を変え、工場の奥にある精錬所と倉庫の方へ出向いた。

「あった。これだな」

そばの側線に、鍋のような形をした何台かの貨車たちが並んでいた。鍋の中はスラグで満たされていた。スラグというのは、溶接するときに出る、邪魔な残り物のことだ。

そこで溶鋼台車の鍋に、まだ熱いスラグを載せ、鍋をひっくり返して特定の場所で破棄する。そうして冷めたスラグは、セメントを作る材料として再利用されるのだ。

 

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エドワードは溶鋼台車を繋いで、操車場の外れにある、砂でできた高台を登ろうとした。

台車はとても重く、カーブを曲がろうとすると、鍋がゆらゆらと揺れる。

彼が自分の車体までふらつきを感じたその時だ。ドンガラガッシャーン!

大きな音が操車場で響き渡った。

なんと、溶鋼台車と一緒に、エドワードの炭水車が、カーブでひっくり返っているではないか。炭水車からは石炭が溢れ、機関助士は放り出され、鍋からはドロドロでアツアツのスラグが流れる。

スラグは隣の線路を溶かすほど高熱だ。

「だ、大丈夫でやんすか!」

ダートが貨車を牽いて駆けつけた。幸い、エドワードはスラグに埋もれず無事だったが、炭水車の修理が必要だった。

 

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「大変だ。エドワードが 溶鋼台車と一緒に ひっくり返ってしまったらしいぞ」

レスキューセンターから救援列車が走り出す頃、ブレンダム港で、ハンクが、ビルとベンに話した。

双子がエドワードのことを心配していると、サムソンが滑り込んできた。

「噂は聞いたよ。要するに、まだまだ エドワードは ひよっこということだな。僕なら、そんな失敗はしないね」

「おいおい、そんなこと言うなんて、よくないぜ」

と、ハンク。

「事実さ。僕は彼よりも ずっとベテランなんだ。だから、よくわかるんだよ」

「なんだよ、偉そうに」

と、ビルが、ぷんぷん怒った。

 

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サムソンは高笑いしながら、別の貨車を受け取った。

荷物が積み込まれる最中、パーシーが彼をからかった。

「今日は道を間違えないことを祈るよ、ベテランさん。じゃ、操車場で待ってるからね」

サムソンはムッとした。

「ふん、未だに 僕の最初の失敗を馬鹿にする機関車が いるなんて 信じられない。全く 腹立たしい連中だ。僕は 二度も 同じ過ちは犯さない」

 

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宣言通り、今回は迷子にはならなかった。

操車場では、エドワードが事故に遭った話と、サムソンが偉そうにしていたことで話題になっていた。

「お、偉ぶりのサムソンが来たぞ」

トーマスが笑って言った。

「言っておくけど、僕は昔、製鉄所で働いていたことがある。僕は 彼より小さいが、一度だって台車と一緒に転んだことなどないぞ」

「僕たちから言わせれば、キミは まだまだ ひよっこだね。だってエドワードは 一度も道を間違えたことはないし、事故だって少ないんだから」

そう言われて、サムソンはさらにムッとした。

「っは。僕が ひよっこじゃないところを 見せてやる」

そう言うと、今度は石の積まれた貨車にバックしようとした。だが、

「サムソン、貨車を間違えてるよ」

と、チャーリー。

締まらないサムソンは、ウィンストンとトップハム・ハット卿にみられる前に、決まり悪そうに操車場を出て行った。

 

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 サムソンは改めて石の貨車を牽いて、海辺の支線を走っていく。カレス船があるアールズバーグ港へ運ぶためだ。

彼はパーシーたちに言われたことが頭から離れなくて、ぷんぷん怒っていた。

蒸気はもくもく、車輪は速度を上げて、線路をガタガタと揺れながら走る。

彼はどうしたら他の若い機関車たちを一泡吹かせられるか、ずっと考えていた。

なので、赤信号が目に入らなかったのだ。

 

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「止まって、止まれー!」

サムソンが気がついた時、彼の目にはブレーキ車の後部から、旗を振る車掌が映っていた。

いつの間にか、前を走るライアンの貨物列車に衝突しそうになっていたのだ。

あわや、というところで、信号手がやむを得ず分岐点を切り替えて、サムソンは間違った線路に入っていく。

「トビーの線は、侵入禁止だよ」

信号待ちのオリバーが言った。だが、プライドの高いサムソンは、自分が線路を間違えて走っていると信じたくなかった。戻るに戻れず、そのままトビーの支線を進んでいく。

「大丈夫だ。確か この線路を進めば、またナップフォードに戻れるはずだ」

 

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だが、その先の線路で土砂災害が相次いでいるとは、思いもしなかった。

線路の上は土砂で溢れていたのに、サムソンは止まらず突き進む。

その時、あたり一体に轟音が響いたと思ったら、ドドドドドド…と、山上から土砂が降り注いでくるではないか。

「いそげサムソン、いそげ!」

「うわー!」

サムソンは悲鳴をあげてその場から立ち去ろうとした。

ところが、いたずら貨車たちが土砂に流されてしまった。錆びた連結器があっという間に壊れたと思うと、貨車は石や砂と一緒に谷底へ真っ逆さまに転落した。

 

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サムソンを安全な場所で停車させ、機関士たちが様子を見に戻った。

一台の貨車を壊れた線路に残し、ブレーキ車はシーソーのようにグラグラ揺れていた。

落ちていった石の貨車たちは、クレーン車でも届かないような、谷底の林の中でひっくり返っていた。

「こうなったのは 俺たちとお前の 浅はかな考えのせいだ」

機関士の言葉に、サムソンは、静かにしょぼんとした。

 

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サムソンたちはアールズバーグ城の駅で、トップハム・ハット卿に連絡した。

間もなく彼はヘンリエッタに乗って駅を訪れた。

「ありがとう。仕事に戻っていいぞ、トビー。さて事故の件だが…」

「誠に申し訳ありません。この事故は 全て僕の責任です。赤信号を見落としたり、引き返そうとしなかったのが仇になりました」

「キミに大事がなくて何よりだよ。だが、つまり無駄なプライドのせいで 起きた事故ということだ」

「はい、本当に その通りです。すみません」

「いいかね。本当に役に立つ、ベテランの機関車と認められたいのなら、他人への尊敬する心を持ち、感情に流されないようにすることが、今のキミには とても大切なんだ」

サムソンは今日のことを反省するかたわら、この恥ずかしい一件が他の機関車にバレないことを心から祈った。特にエドワードには。

 

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だが、その後でサムソンは、ソドー整備工場へ貨車を運ぶことになった。

エドワードの前を静かに通り過ぎようとした時、彼に呼び止められた。

「こんばんは、サムソン。事故、大変だったみたいだね」

「あ、ああ。キミの事故も気の毒だった。慣れない仕事で大変だっただろう。こちらは急な土砂崩れで びっくりしたよ。だが、僕は貨車と一緒に転ばなかったであります。そ、その、だから…」

「もちろん、わかってるよ」

と、エドワードが言った。その後に小声でこう付け加えた。

線路を間違えたことは、みんなには黙っておくよ

エドワードは、それ以上詮索しなかったが、サムソンは一瞬凍てついた。彼の勘の鋭さには絶対に敵わないだろうと、サムソンはその場で悟ったのだった。

 

 

おしまい

 


【物語の出演者】

●トーマス

エドワード

●パーシー

●ビル

●オリバー

●ハンク

●チャーリー

●サムソン

●ダート

●トップハム・ハット卿

●サムソンの機関士

●貨物列車の車掌

●ゴードン(not speak)

●トビー(not speak)

●ベン(not speak)

●ライアン(not speak)

シドニー(not speak)

●ウィンストン(not speak)

ヘンリエッタ(not speak)

●ダック(cameo)

●エミリー(cameo)

●デリック(cameo)

●オールド・スロー・コーチ(cameo)

●ケビン(cameo)

●デン(mentioned)

●ノーマン(mentioned)

 

 

【あとがき】

 ご無沙汰しています。今回の物語は2016年頃に描いた、サムソンとエドワードの落書きから生まれました。最初のタイトルカードのみ2017年撮影で、他は2021年~2022年撮影です。このため、一つの物語の中にエドワードが2つ存在する珍事が起きています。旧版と中期で(笑)

サムソンは色々拗らせた老男と解釈しています。プライドが高すぎて空回りしてしまうのが彼の可愛いところで、古くありながら伸び代があることを示唆しています。本家だと空回りしすぎて同じことしてるけど…。PToS時代のデニスみたいなことにならないよう、活躍をさせつつ、成長していく姿を描きたいと思っています。このほか、サムソン回はP&TI S16までに3~4回用意しているはずです。

 

 それから、Pixivで新たに始めた、おもちゃで表現できなかった書き下ろし作品『新・出張版P&TI』もよろしくお願いいたします。バラエティ豊富な本編と違って、初っ端からマイナーキャラで始まっている変な作品です(笑) 全部で132話くらいあり、『TLRCD』と同時進行で、今後も不定期に投稿していきます。

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