エドワードは、物知りで親切な、ベテランのテンダー機関車だ。
本土の隣の鉄道から来てから、もう長いことソドー島で働いている。
小さくて古かったが、信頼における役に立つ機関車だと、島の誰もが認めている。
仕事のやり方もよくわかっている。貨車も客車もいつも上手く牽けるのだった。
サムソンは、隣の鉄道で働くタンク機関車だ。
エドワードよりも古く、とてもプライドが高い。だから、自分より若い機関車を見つけては、
「僕に言わせれば、キミは まだ ひよっこだな」
と、偉そうに言うのだった。
ゴードンほど力強くも速くもないが、自分がこのソドー島で一番物知りで力持ちだと思い込んでいた。
サムソンが島へ手伝いにやってきた、その日のこと。
エドワードは、本土からの貨車を牽いて、ディーゼル整備工場へとやってきた。
修理に使う部品と、予備の部品を運んできたのだ。
彼は通り過ぎるディーゼル機関車たちに「ポッポー!」と、汽笛で陽気に挨拶をしながら、工場へと滑り込む。
すると、交差点でダートが、あくせくやってきた。
「やあ。部品を持ってきたよ。早くデンに使ってあげて」
「どうもありがとう、エドワード。それで、厚かましいことを承知で おたくに 頼み事があるでやんす」
「なんだい。手伝いなら、任せてよ」
「助かるでやんす。向こうの精錬所から、スラグを、あっちの高台に 棄ててほしいんでやんす。シドニーは やることを忘れるし、ノーマンは 腹いたで 困っていたんでさ」
貨車を届けた後、エドワードは転車台で方向を変え、工場の奥にある精錬所と倉庫の方へ出向いた。
「あった。これだな」
そばの側線に、鍋のような形をした何台かの貨車たちが並んでいた。鍋の中はスラグで満たされていた。スラグというのは、溶接するときに出る、邪魔な残り物のことだ。
そこで溶鋼台車の鍋に、まだ熱いスラグを載せ、鍋をひっくり返して特定の場所で破棄する。そうして冷めたスラグは、セメントを作る材料として再利用されるのだ。
エドワードは溶鋼台車を繋いで、操車場の外れにある、砂でできた高台を登ろうとした。
台車はとても重く、カーブを曲がろうとすると、鍋がゆらゆらと揺れる。
彼が自分の車体までふらつきを感じたその時だ。ドンガラガッシャーン!
大きな音が操車場で響き渡った。
なんと、溶鋼台車と一緒に、エドワードの炭水車が、カーブでひっくり返っているではないか。炭水車からは石炭が溢れ、機関助士は放り出され、鍋からはドロドロでアツアツのスラグが流れる。
スラグは隣の線路を溶かすほど高熱だ。
「だ、大丈夫でやんすか!」
ダートが貨車を牽いて駆けつけた。幸い、エドワードはスラグに埋もれず無事だったが、炭水車の修理が必要だった。
「大変だ。エドワードが 溶鋼台車と一緒に ひっくり返ってしまったらしいぞ」
レスキューセンターから救援列車が走り出す頃、ブレンダム港で、ハンクが、ビルとベンに話した。
双子がエドワードのことを心配していると、サムソンが滑り込んできた。
「噂は聞いたよ。要するに、まだまだ エドワードは ひよっこということだな。僕なら、そんな失敗はしないね」
「おいおい、そんなこと言うなんて、よくないぜ」
と、ハンク。
「事実さ。僕は彼よりも ずっとベテランなんだ。だから、よくわかるんだよ」
「なんだよ、偉そうに」
と、ビルが、ぷんぷん怒った。
サムソンは高笑いしながら、別の貨車を受け取った。
荷物が積み込まれる最中、パーシーが彼をからかった。
「今日は道を間違えないことを祈るよ、ベテランさん。じゃ、操車場で待ってるからね」
サムソンはムッとした。
「ふん、未だに 僕の最初の失敗を馬鹿にする機関車が いるなんて 信じられない。全く 腹立たしい連中だ。僕は 二度も 同じ過ちは犯さない」
宣言通り、今回は迷子にはならなかった。
操車場では、エドワードが事故に遭った話と、サムソンが偉そうにしていたことで話題になっていた。
「お、偉ぶりのサムソンが来たぞ」
トーマスが笑って言った。
「言っておくけど、僕は昔、製鉄所で働いていたことがある。僕は 彼より小さいが、一度だって台車と一緒に転んだことなどないぞ」
「僕たちから言わせれば、キミは まだまだ ひよっこだね。だってエドワードは 一度も道を間違えたことはないし、事故だって少ないんだから」
そう言われて、サムソンはさらにムッとした。
「っは。僕が ひよっこじゃないところを 見せてやる」
そう言うと、今度は石の積まれた貨車にバックしようとした。だが、
「サムソン、貨車を間違えてるよ」
と、チャーリー。
締まらないサムソンは、ウィンストンとトップハム・ハット卿にみられる前に、決まり悪そうに操車場を出て行った。
サムソンは改めて石の貨車を牽いて、海辺の支線を走っていく。カレス船があるアールズバーグ港へ運ぶためだ。
彼はパーシーたちに言われたことが頭から離れなくて、ぷんぷん怒っていた。
蒸気はもくもく、車輪は速度を上げて、線路をガタガタと揺れながら走る。
彼はどうしたら他の若い機関車たちを一泡吹かせられるか、ずっと考えていた。
なので、赤信号が目に入らなかったのだ。
「止まって、止まれー!」
サムソンが気がついた時、彼の目にはブレーキ車の後部から、旗を振る車掌が映っていた。
いつの間にか、前を走るライアンの貨物列車に衝突しそうになっていたのだ。
あわや、というところで、信号手がやむを得ず分岐点を切り替えて、サムソンは間違った線路に入っていく。
「トビーの線は、侵入禁止だよ」
信号待ちのオリバーが言った。だが、プライドの高いサムソンは、自分が線路を間違えて走っていると信じたくなかった。戻るに戻れず、そのままトビーの支線を進んでいく。
「大丈夫だ。確か この線路を進めば、またナップフォードに戻れるはずだ」
だが、その先の線路で土砂災害が相次いでいるとは、思いもしなかった。
線路の上は土砂で溢れていたのに、サムソンは止まらず突き進む。
その時、あたり一体に轟音が響いたと思ったら、ドドドドドド…と、山上から土砂が降り注いでくるではないか。
「いそげサムソン、いそげ!」
「うわー!」
サムソンは悲鳴をあげてその場から立ち去ろうとした。
ところが、いたずら貨車たちが土砂に流されてしまった。錆びた連結器があっという間に壊れたと思うと、貨車は石や砂と一緒に谷底へ真っ逆さまに転落した。
サムソンを安全な場所で停車させ、機関士たちが様子を見に戻った。
一台の貨車を壊れた線路に残し、ブレーキ車はシーソーのようにグラグラ揺れていた。
落ちていった石の貨車たちは、クレーン車でも届かないような、谷底の林の中でひっくり返っていた。
「こうなったのは 俺たちとお前の 浅はかな考えのせいだ」
機関士の言葉に、サムソンは、静かにしょぼんとした。
サムソンたちはアールズバーグ城の駅で、トップハム・ハット卿に連絡した。
間もなく彼はヘンリエッタに乗って駅を訪れた。
「ありがとう。仕事に戻っていいぞ、トビー。さて事故の件だが…」
「誠に申し訳ありません。この事故は 全て僕の責任です。赤信号を見落としたり、引き返そうとしなかったのが仇になりました」
「キミに大事がなくて何よりだよ。だが、つまり無駄なプライドのせいで 起きた事故ということだ」
「はい、本当に その通りです。すみません」
「いいかね。本当に役に立つ、ベテランの機関車と認められたいのなら、他人への尊敬する心を持ち、感情に流されないようにすることが、今のキミには とても大切なんだ」
サムソンは今日のことを反省するかたわら、この恥ずかしい一件が他の機関車にバレないことを心から祈った。特にエドワードには。
だが、その後でサムソンは、ソドー整備工場へ貨車を運ぶことになった。
エドワードの前を静かに通り過ぎようとした時、彼に呼び止められた。
「こんばんは、サムソン。事故、大変だったみたいだね」
「あ、ああ。キミの事故も気の毒だった。慣れない仕事で大変だっただろう。こちらは急な土砂崩れで びっくりしたよ。だが、僕は貨車と一緒に転ばなかったであります。そ、その、だから…」
「もちろん、わかってるよ」
と、エドワードが言った。その後に小声でこう付け加えた。
「線路を間違えたことは、みんなには黙っておくよ」
エドワードは、それ以上詮索しなかったが、サムソンは一瞬凍てついた。彼の勘の鋭さには絶対に敵わないだろうと、サムソンはその場で悟ったのだった。
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●エドワード
●パーシー
●ビル
●オリバー
●ハンク
●チャーリー
●サムソン
●ダート
●トップハム・ハット卿
●サムソンの機関士
●貨物列車の車掌
●ゴードン(not speak)
●トビー(not speak)
●ベン(not speak)
●ライアン(not speak)
●シドニー(not speak)
●ウィンストン(not speak)
●ヘンリエッタ(not speak)
●ダック(cameo)
●エミリー(cameo)
●デリック(cameo)
●オールド・スロー・コーチ(cameo)
●ケビン(cameo)
●デン(mentioned)
●ノーマン(mentioned)
【あとがき】
ご無沙汰しています。今回の物語は2016年頃に描いた、サムソンとエドワードの落書きから生まれました。最初のタイトルカードのみ2017年撮影で、他は2021年~2022年撮影です。このため、一つの物語の中にエドワードが2つ存在する珍事が起きています。旧版と中期で(笑)
サムソンは色々拗らせた老男と解釈しています。プライドが高すぎて空回りしてしまうのが彼の可愛いところで、古くありながら伸び代があることを示唆しています。本家だと空回りしすぎて同じことしてるけど…。PToS時代のデニスみたいなことにならないよう、活躍をさせつつ、成長していく姿を描きたいと思っています。このほか、サムソン回はP&TI S16までに3~4回用意しているはずです。
それから、Pixivで新たに始めた、おもちゃで表現できなかった書き下ろし作品『新・出張版P&TI』もよろしくお願いいたします。バラエティ豊富な本編と違って、初っ端からマイナーキャラで始まっている変な作品です(笑) 全部で132話くらいあり、『TLRCD』と同時進行で、今後も不定期に投稿していきます。