Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E20 まいごになったマーリン

 役割が決まって間もない頃、マーリンが正式にブリドリントンへ配達に出ることになった。

マーリンはとてもウキウキしていた。彼は冒険が大好きだった。でも、マーリンはまだ本島の反対側にあるブリドリントンへの行き先を知らない。

そこで、ハリケーンが先陣を切って鉄の貨車を運びながら、マーリンを案内することになった。そうすれば、マーリンは迷子にならなくて済むからだ。

フランキーは自分が配達に行けないことを悲しんだ。でも、忙しい製鋼所の中で、ここはリーダーとしてセオとレキシーの面倒を見ながら、きっちりとけじめを付けなければならない。

「心配ないさ。俺が すぐに マーリンに道を覚えさせるから」

「ああ。私が自立するのも そう遠くないだろう」

フランキーを慰めるハリケーンに続いて、マーリンが自信たっぷりに言った。

「幸運を祈るぜぇ、友よ!」

「迷子にならないでね。いつだってキミは 目移りするんだから」

と、レキシーがいつもと違った口調で応援し、セオが心配そうに忠告した。

「大丈夫さ。すぐに"ブリリデントン"までの道を覚えてみせるさ。私達は なんでも出来る!」

マーリンは自信たっぷりにハリケーンの貨車の後ろに着いていった。彼に景色を覚えてもらうため、連結はしなかった。

 

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間もなく、ハリケーン達は運河を通りかかった。

そこではヘンリーがいた。積荷を下ろす最中、ベレスフォードと愉快におしゃべりをしていた。

「おはよう、ハリケーン。それに マーリンも。配達 ご苦労様」

「やあ、なんだか 元気そうだな」

「ソドー島に 特別ゲストが やってくるんだ。その後 お客さんを 僕が運ぶ事になったのさ」

「それで、その特別ゲストって どんな奴なんだ」

話の続きを待ちきれないベレスフォードに、興奮しているヘンリーが答えようとしたので、ハリケーン達は静かにその場を去った。

 

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 彼らは、ブリドリントンを目指して走り続けた。がちゃん、がちゃんと鋼鉄が積まれた積荷を運びながら。

河やトンネルを抜けて、大きな分岐点を横切り、本線に出た。

そこは、マーリンが初めて行く場所だった。

彼は見知らぬ町や景色を前に、すぐに興奮した。

「あそこを見てくれ! あの道は どこまで続いているのだろう」

「はは、停止信号だ。今のうちに眺められるぞ」

と、ハリケーンがほくそ笑む。

 

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彼らは本線の駅で一旦停車した。前方の列車の通過を待つためだった。

そこには、コナーもいた。マーリンは彼に会うのは初めてだった。

「やあ、そこのキミ。見えない機関車を見たことは あるかね」

彼は自分の得意技を見せようと張り切っていた。

「実は、私こそが 見えない機関車なのだよ。見えないスイッチ、オン!」

マーリンはその場で勢いよく蒸気と煙を噴き上げて目を閉じた。

彼はコナーが驚いていることを期待して、暫くしてから目を開いた。

 

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すると、そこには、コナーの姿は消えていた。ハリケーンの列車もいない。

マーリンはキョトンとした。

「ありゃ。いったい 何が起きたんだ。彼らも 姿を隠せる技を隠していたのか? 素晴らしい! それでは 姿を私に見せておくれ」

だけど、マーリンが合図を送っても、2台とも姿を表さない。汽笛も声も聞こえない。

それは彼らがとっくに出発しただけだったのだ。マーリンが気付かぬうちに、彼はただ一台、駅に取り残されていた。

「もしかして、私の姿が見えなくなったから、探しているのかもしれないぞ。急いで 私が ここにいることを伝えねば」

こうして、マーリンはハリケーンを探しに走り出した。あてもないまま。

 

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 一方、コナーは本線を飛ぶように走って、既に遥か離れた場所のマンチェスター・ピカデリー駅に着いたところだった。

「さっきの、何だったんだろう。無駄に蒸気を吹き上げるなんて」

駅では、たくさんの人々が集まっていた。大きな駅なので毎日多くの人で賑わうのだが、その日はコナーも見たことがないくらい多かったのだ。

「何かのお祭りかい」

彼はケイトリンに尋ねた。

「ソドー島に向かう 特別列車みたいよ。有名な機関車が 要人を乗せているんですって」

「そりゃすごい!」

 

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 マーリンは、あちこちを探し回っていた。

信号手が急行列車と勘違いしてあちこちの線路に切り替えるので、どこに辿り着くかもわからないのに、彼はブリドリントンとハリケーンの居場所に行けると確信していた。

でも、一向に着く気配はない。

彼は周囲を見渡していて、危うく単線のトンネルで他の機関車とぶつかりそうになった。

「危ないであります!」

サムソンが叫ぶと、お互いに急ブレーキをかけて止まった。

「キミ、"ブリデドントン"は この先かね」

と、マーリンが尋ねたが、サムソンには何を言っているのかわからなかった。

その間もなく、トンネルの奥からイライラした声が鳴り響いた。

「何をしている サムソン。サインもなしに トンネルの中で蹲るのは重大な規則違反だ! それに ソドー島への到着が もう 18秒も遅れている。動け 動け! 進め 進め!」

「すまないが、道を開けてくれ」

マーリンがポイントの前まで下ると、サムソンは気が悪そうに走り去っていった。

「そうか、いいことを思いついた。"ソナー島"へ 助けを求めればいい。あそこなら道を覚えている」

彼は来た道を後退した。

 

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 その頃、ハリケーンは目的地に着いたところだった。

「−ほら、マーリン。ここが ブリドリントンの操車場だよ。道は覚えられたかい」

でも、マーリンの返事はこなかった。

「一体 誰と喋ってんの。もしかして透明人間とか」

操車場の貨車達は大笑いした。

ハリケーンは、この時初めて、状況に気がついたのだった。ずっと独りで喋っていたことに。

 

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 セオとレキシーが順調に仕事を進めているとき、製鋼所に電話が鳴った。

「大変よ、マーリンが 行方不明になったって!」

「ああ… だから言ったのに」

と、セオ。

「待っていろ マーリン。今助けに行くからな!」

「だめだよ。僕たちだって 道が わからないんだから。マーリンを信じて待とうよ。こういう時は運が強いんだ」

 

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操車場に貨車を置いたハリケーンは、急いで来た道を探し回った。信号で停車した駅も、たくさんの機関車が通る分岐点にも、製鋼所にも、マーリンの姿は無い。

そこで彼は、もしやと思い、別の路線に足を踏み入れた。

ヴィカーズタウンでは、サムソンの列車の後に、跳ね橋を渡って誰かが来たのをロージーが目撃した。操車場で待機していたヘンリーは、今度こそゲストが来たものだと思った。

でも、そこに来たのは…

「ハリケーン、キミも来てくれたんだね。マーリンは 一緒じゃないのかい」

「何だって。ここにもいないのか」

ハリケーンは、ヘンリーに事情をあらまし説明した。彼はすぐに島を出ようとしたが、車軸が動かなかった。

「長旅で疲れているだろう。石炭と水を飲んで、しばらく休みなよ。きっと マーリンも同じはずさ」

と、ヘンリー。

 

そのマーリンはというと、彼の知らないランカスターの駅で途方に暮れていた。

石炭と水はまだ残っていたが、これから通過する列車の発着を待たなくてはならなかった。

「おや、こんなところで蒸気機関車に会うなんて、珍しいな。君は ソドー島の機関車かい」

一台の小さなタンク機関車が、隣のホームでマーリンに声をかけた。大きな客車を2両牽いている。

「そうではない。だが、"ソナー島"を目指しているところだ。しかし 道に迷って−」

「ソナー島だって。ひょっとして、ソドー島のこと? 僕も これから島に行くところなんだ。一緒に行こうよ。案内するよ」

マーリンは喜んで彼の列車の後ろに着いた。今度は迷子にならないように、しっかり連結をする。

駅に集まってカメラを掲げる人たちに見送られながら、彼らは駅を発った。

 

彼らはもうもうと蒸気を噴き上げ、自信に満ちた表情で大きな橋をガタゴトと渡った。

「自己紹介が遅れたね。僕は ステップニー。君は もしかして、キング・アーサー級の機関車かい」

「御名答。私の名前は ステルス機関車のマーリンさ。別の名前で呼ばれたこともあったかな。今では 姿を消すことができるのだよ。まさに、魔法使いみたいだろう」

「姿を消すだって。凄いね。僕の知り合いに サー・ラミエルって機関車が いるんだけど、君は彼に そっくりだ。同じ鉄道出身の機関車と出逢えて 光栄だよ」

 

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2台は楽しくおしゃべりをしながら、ソドー島のクロヴァンズ・ゲート駅に到着した。

トップハム・ハット卿が彼を待っていた。

「ようこそ、ステップニー。またキミに会えて嬉しいよ。それから カメラマンと、要人の方々も よくぞ いらっしゃいました。えっと、ところで、なぜマーリンも一緒なのだね」

「マーリン? ハリケーンが キミを探して ヴィカーズタウンで待ってたよ」

と、ジェームスも言う。

 

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マーリンは列車から切り離されると、ステップニーに礼を言って、急いでヴィカーズタウンの操車場へ走っていった。

「やあ、ハリケーン。ここに居たのか。ずいぶん探したぞ。…いや、私が勝手に離れなければ こうはならなかったのか。手間をかけて申し訳なかった」

「まあ、その、無事で何よりだよ。でも、次に道案内するときには、キミを先頭に立たせるよ。俺が後ろで見張りながら、面白い話をしよう。もう目移りなんかさせないぞ」

2台は、お互いに今日の出来事を反省した。マーリンは特にだ。

たまの冒険もいいけど、仕事の時は真っ直ぐ前を見て走らないといけないよね。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

●ヘンリー

●ジェームス

●ステップニー

●コナー

●ケイトリン

●サムソン

●セオ

●レキシー

●ハリケーン

●マーリン

●いたずら貨車

●ブラッドフォード

●ベレスフォード

●トップハム・ハット卿

●ロージー(not speak)

●フランキー(not speak)

●ダック(cameo)

●ドナルド(cameo)

スプラッターとドッヂ(cameo)

○クラス40(cameo)

●スカーロイ(cameo)

●ピーター・サム(cameo)

●デューク(cameo)

●ロバート・ノランビー伯爵(cameo)

○サー・ラミエル(mentioned)

 

 

【あとがき】

 今から4年前のことです。ステップニーを本来のブルーベル鉄道の機関車として二次創作に出すにはいかにすればいいかを考えました。原作では保存鉄道を紹介するため1冊の絵本のみに纏められて登場しています。テレビ版では保存鉄道の機関車と同じ格好と名前であるにもかかわらず彼が何者であるか描写されずソドー島内の機関車として長年出ていて、私はその扱いに納得がいきませんでした。

恐らく島から遠く離れた保存鉄道の紹介か本土に焦点を当てないと難しいのではないかと思った矢先、『JBS』で過大な自信を持って失敗と活躍を繰り広げるマーリンを見て、この話を思いつきました。写真を撮り始めたのはその翌年から。気がついたら2021年末。早くね?

ステップニーはひとまずこういう形にしましたということで。一方、製鋼所の機関車達の話は一旦ここでストップ。このほかにまだ8話ほど用意しているので、P&TI S15、S16、補えなければPixivの出張版P&TI等に掲載するつもりです。

来年こそ長編を投稿したい。なお、私が年齢を重ねるにつれて投稿ペースは徐々に減速していきます。ご容赦ください。

 

 

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