Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E17 やくたたずのきかんしゃ

 本土のとある製鋼所では、風変わりな機関車が5台働いている。

リーダーを務めるディーゼル機関車のフランキーは、彼女に忠実な大型タンク機関車ハリケーンと一緒に2台で製鋼所を切り盛りしていた。だが、すぐに手が回らなくなり、苦労が絶えないフランキーは陰謀をたて、訪れた機関車を働かせる強硬手段に出た。

ある時、本土に迷い込んだトーマスを連れ戻そうとしたジェームスが、彼らの罠にかかった。

トーマスは彼を救うべく、森の実験場で知り合った実験用の機関車たちとともに製鋼所を走り回り、奮闘の末にフランキーが本音を露わにした。

『ただ 手伝ってほしかっただけ。仕事が多すぎるから、あたしとハリケーンじゃ 手が足りなくて』

そこでトーマスはある提案をした。

働く場所がなくて役に立てない実験用の機関車たちは、彼からエールをもらい、製鋼所に雇ってもらったのだ。

それがセオ、レキシー、マーリンの3台だった。

 

 それは彼らが雇われて間もなくの出来事だ。

あれからフランキーは、気持ちよく配達に行けることを大いに楽しんでいた。

だが、仲間との衝突も絶えなかった。

ある朝、セオは貨車の入れ換えをするために、貨車を後ろ向きに引っ張っていた。

彼が後進すると、いつも大抵歯車が詰まったように時々止まってぎこちない走りになる。彼は実験のために設計された自分の車体が嫌だった。

「僕、やっぱり役立たずと思うんだ」

「そんなことないわ。あなたは すご〜ぉく 役に立ってるっ」

いろんな声を出して、レキシーがセオを励ました。

「そうかな。でで、でも、みんなは そう思ってないよ。ひっ」

その時、セオは見知らぬ機関車が製鋼所に入ってきたことに気がつき、悲鳴をあげて後ろ向きに急発進した。

ハリケーンがヘンリーを連れてきたのだ。

 

「あら、こんにちは。あなたは だあれ」

その後方から、フランキーが挨拶した。

ハリケーンは一瞬彼女が自分の方を目を合わせたことに気づいて代わりに答えた。

「彼はヘンリー。ソドー島から わざわざ部品を取りに来たんだ。トーマスの友達だって」

「そう…。なるほどね。会えて嬉しいわ、大型機関車さん」

フランキーは彼に笑顔を見せた。

すると、物陰に隠れながら、セオがこう言った。

「き、君の炭水車から おかしな音がするよ。どうしたの」

「少し トラブルに巻き込まれてね。炭水車が 壊れたみたいなんだ」

「それなら! ここでは溶接もできるわ。部品だって作れる。ね、いいでしょ、フランキー」

と、レキシーがすかさず言った。

「ええ。あとで工場長に言っておく。じゃあ あたしは配達があるから、あとは お願いね」

その間、マーリンはヘンリーに製鋼所を案内し、仲間の機関車を紹介して回った。

 

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 その日の夜、ハリケーンとフランキーは配達を終えて家路に戻ろうとしていた。

突然雷鳴と共に降り出した嵐の中、からの貨車を牽いて走っていた。

途中、先頭を走っていたハリケーンは、運河のそばで横倒しになっているベレスフォードを見かけた。

彼はベレスフォードを助けるために立ち止まろうとしたが、フランキーにドスンと押された。

「どうしたの。早く戻りましょ」

彼はフランキーの言う通りにした。

ベレスフォードは雨に打たれながら、素通りする彼らに向かって大声をあげて鼻を鳴らす。

「無視するなんて最低だぞ、ふん」

でも、ハリケーンは聞こえないふりをしたのだった。

 

 次の日はハリケーンとフランキーも製鋼所で入れ換え作業に加わった。

熱気が漂う工場の中、重い鉄の貨車を牽いて一生懸命に働く。

ところが、セオたちは落ち着かない様子だった。ドロドロに溶けた銑鉄が満杯になった取鍋貨車を、セオは移動させなければならなかったが、セオがどんなに力を振り絞っても貨車を動かすことができなかった。

レキシーは自分の仕事をほっぽり出してセオに駆け寄った。

だが、フランキーはそれを快く思わなかった。

「調子が悪いみたい。フランキー、彼の代わりをしてあげて!」

「決められた仕事をしてくれないと困るわ。リーダーは あたしだもの」

「あら。じゃあ私が手伝うわ」

レキシーはセオに、空っぽの取鍋貨車を移動させるように言った。

セオはまたフランキーを怒らせるのではないかとガタガタ震えていた。

 

その不安は、思ったより早く訪れた。

空っぽの取鍋貨車を後ろ向きで押した時、また歯車に不具合が起こったのだ。

セオは止まっては走り、止まっては走りを繰り返しながらぎこちない走り方をし、ついには交差点でフランキーの取鍋貨車と衝突してしまった。

それを見たハリケーンは咄嗟に駆けつけて2台の身を案じようとしたが、先にフランキーの怒号が飛んだ。

「セオ! 気をつけてって あれほど言ったじゃない。取鍋が空っぽじゃなかったら、今頃 大問題が起きていたわ。ねえ、ハリケーン

ハリケーンはフランキーを横目に頷いた。

「ご、ごめんなさい」

セオは自分の失敗にひどく落ち込んだ。

その様子は、工場の外で休むヘンリーにも目撃されていた。

 

 休憩時間に、セオとハリケーンは、ヘンリーとマーリンが佇む給水塔に集まった。

マーリンはただならぬ不安に押されるセオを見て心配した。

こんなに落ち込んだ彼の姿は初めてだった。

「一体どうしたんだい、セオ」

「僕 もう ここに居られないよ。みんなの迷惑に なるだけ。つつ、造った人が言った通りだ。僕は何の貢献もできない、役立たずの失敗作だ」

悲しそうなセオを見て、ハリケーンは何か言いたそうにしていたが、彼が口を開く前にマーリンが優しく言った。

「そんなことはない。まだ 私たちには 経験が足りないだけさ。何度も失敗して 何度も挑戦すればいい」

「そうだよ。誰にでも 得意不得意が あるからね。それに僕なんか 車輪がヘコんで、思うように走れないんだ」

と、ヘンリーも言う。

「フランキーも わかってくれると いいのだがな」

マーリンがそう言った時、ヘンリーはハリケーンが複雑な表情を浮かべていることに気づいた。

「ねえ、もしかしたら、僕 邪魔に なってないかな。側線に引き込んでくれると 助かるよ」

「それなら俺が行くよ、ヘンリー」

 

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そうして、ハリケーンはヘンリーを小さな機関庫へ押していった。

「気を使わせてしまって すまない。大事な お客さんなのに」

「いいんだ。それより、ずっと思っていたんだけど、君、何か我慢していないかい」

ハリケーンは一瞬ギョッとした。

「例えばだけどね、自分の言いたいことは、ちゃんと言うべきだよ。僕が調子が悪いとき、わかってもらえないこともあったけど、取り返しのつかないことから防ぐことができる–」

ヘンリーが話している間、ハリケーンは、フランキーに初めて会った時のことを思い返していた。

『フランキーは 大事な友達だ。だけど、彼女の役に立たない裏切り者と 思われたら…?』

 

 一方、レキシーは、セオが運ぶはずだった取鍋貨車を押して、銑鉄を破棄するために高台に登るところだった。

レキシーの前面は牛避けが装備されていて、貨車と連結できるのは、後方の燃料車だけだ。

その為、彼女は後ろ向きで押す必要があった。レキシーは鼻歌を歌って何も考えていなかったが、彼女の機関士はすぐに後悔した。

せっかく前を見やすくするための構造も、後進となると何の役にも立たなかった。レキシーはスリムな車体の持ち主だったが、傾斜でよく見えないのだ。

気づいた時には、取鍋貨車の一台が、なんとバランスを崩して転倒していた。このままではレキシー諸共転がってしまうかもしれない。

「止まれ、レキシー!」

マーリンが叫んだ。

「大変だ、今行くぞ」

彼は急いで近くのクレーン車を持ってきてレキシーの前で止まった。

「ふう、これで一安心だ」

ところが、クレーン車の操縦士が制御装置を作動させる前に、マーリンがその場を離れたので、クレーン車は高台の傾斜で線路を滑り出した。

 

操縦士が制御装置とブレーキをかけた時には、クレーン車はその手前のポイントの上で脱線していた。それも貨車を運ぶフランキーとハリケーンの目の前で。

フランキーは混乱した状況にとても腹を立てた。

「一体 どうなっているわけ」

彼女はあたりを見渡した。

高台でうずくまっているレキシーと、大慌てで高台から降りてくるマーリン、そしてガタガタと怯えて単機でやってきたセオを。

「また あなたたちね。あたしの指示を無視して、勝手に仕事を変えて、勝手に騒ぎを起こして。本当に 役立たずなんだから…」

フランキーは思わず心にもないことを口走ってしまったが、3台には口答えできないだろうと思った。

けれども、彼女の思想に反して、レキシーは鋭くこう言った。

「確かに これは 私たちの失敗。でも、貴女はリーダーとして充分な指示を出したかしら」

「俺が悪いんだ。ちゃんと みんなのことを見ていたのに、見ないふりをしていた。なあ、フランキー。もう強硬手段を取るのは やめにしよう。リーダーなら、仲間のことも考えないと」

そう口を開いたのは、ハリケーンだった。フランキーは目を丸くした。

「で、でも、あたしは リーダーとしてやることが いっぱいある。どうしろっていうの」

「その時は 俺が ちゃんと協力する。もう 見て見ぬふりは やめだ。誰にでも 得意不得意があるんだよ」

 

フランキーは、ここでようやく自分が何をすべきかを理解した。

「そうね、役立たずは私の方だったわ。リーダーなのに」

「いや、君に同調して 報告を怠った俺の方が、ずっと役立たずだ」

「ここにいる みんなが 役立たずだったってこと?」

セオの直球な反応に、レキシーは高笑いした。

そして優しく微笑んでこう続けた。

「そういうこと。それじゃあ、役に立たない者同士で 同盟を組みましょう」

「同盟には約束事が必要だな」

マーリンがこう言うと、

「はいは~い!  まず 役割分担が必要だと思いま~す」

と、レキシーが陽気に主張し、

「大事なのは友達でいる事。友達なら 助け合おうではないか」

とマーリンが優しく声をかけ、

「そ、それから、おも、思いやりも必要だよね…」

と、セオも続けて自信なさそうに言った。

「本当に その通りね。盲点だった。あたしも心を入れ替えて考えるわ。同盟の一員としてね」

「俺もだ。もう嘘は つかない。いつかは "役に立つ同盟"になるよう、頑張ろう」

遂にフランキーとハリケーンも彼らの意見に合致した。

 

 それからは、フランキーも彼らの不得意なところを聞き入れた。

彼女はセオに少量の空っぽの貨車を入換えるように言った。

フランキーは汚れ仕事よりも、ハリケーンと一緒に配達がしたかった。

でも、彼女は時々マーリンにその役割を譲って、レキシーと一緒に重い鉄の貨車を工場の中から外へ運び出した。

 

ハリケーンとマーリンは、一緒に協力し合って要らない銑鉄を捨てる作業に励んだ。

もちろん、クレーン車を安全に運ぶ方法も学んだ。

フランキーに余分な仕事があるときは、力が強くて速く走れるこの2台で配達の仕事も行うのだが、マーリンが初めて遠くへ配達したは、とても苦労した物だ。

そのお話はまた今度することにしよう。

 


おしまい

 


【物語の出演者】

●ヘンリー

●セオ

●レキシー

●ハリケーン

●マーリン

●フランキー

●ベレスフォード

バルストロード(cameo)

●トーマス(mentioned)

●ジェームス(mentioned)

 

 

【あとがき】

 『JBS』のキャラクターたちは一本の長編では描き切れないほど魅力的で個性溢れる性格を持っており、短編一本では補いきれないほど成長の余地をたくさん持っています。それを公式でやってくれるだろうとずっと待っていましたが、島外のキャラクターであるせいか、はたまた突然の路線変更のせいか、ほぼ行われませんでした。もったいない。

 それはともかくとして、賢い頭脳を用いて自分の思い通りに仲間を動かそうとするフランキー、その彼女のやってることが悪いと認識しながらも見て見ぬ振りして従うハリケーン、自分が役立たずだと知っていながらも社交的に接するレキシー、伝えることは直球だけど仲間の安穏を願う心配性のセオ、自分の力を過信しているけど前向きで仲間想いなマーリン。製鋼所の5台の性格なら、当然いろんな衝突があったはずです。今回は長編のあとから間もない時の出来事を想像して、ハリケーンに焦点を当てて書きました。

公式ではセオを中心に3台の実験機関車は自閉症をイメージしてキャラ作りが成されており、同時に他の『JBS』キャラも友達作りに不器用なところが描かれています。これは私事ですが、個性豊かな障害者支援施設に通っている私にとって凄くシンパシーを感じ、製鋼所=支援施設ではないと思いつつも、この回の揉め事は私の施設での実体験が元になっています。

 

 

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