Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E26 サムソンとフレデリックとしんごう

f:id:zeluigi_k:20210407222434j:plain

 ソドー島の鉄道には、たくさんのポイントがある。

ポイントにはそれぞれの役割があり、本線から支線へ分岐するものや、操車場や側線へ入るためのもの、そして暴走した列車を止めるための小さな物などさまざまだ。

それらの大半は近くの信号所によって切り替わる。信号手が列車の時刻表やランプの配置を確認して、信号とともにポイントを切り替えるのだ。

機関車たちは信号をよく確認して走るのだが、時々それを見落としたり、信じようとしない者も居たのだった。

 

 ある朝、タンク機関車のフレデリックが、ヴィカーズタウンの操車場でぶつくさ愚痴を吐いていた。

「あーあ。こんな ちっぽけな仕事じゃなくて、もっと 大きなことがしたいな。急行貨物とか、急行列車とか。この島にゃ古くからいるし、全部の路線を知り尽くしてるのに」

それを横目に、サムソンが言い放った。

「ま、キミのような小さな機関車は、入換えが お似合いだね」

「キミ誰」

「サムソンであります。いつもは よそで働いているが、ソドー島のことは知り尽くしているし、特別な貨物列車だって任せられている」

「ふうん。だけど俺は、もっと ずーっと 長くから ここで働いてる」

フレデリックが対抗する。本当は、約50年もの間、鉛鉱山の坑道の中で閉じ込められていたのだが、彼は話を盛りたがりだ。

隣で石炭を補給していたハンクは、その様子を黙って見守っていた。

 

そこへ、トップハム・ハット卿がやってきた。

「おはよう、ハンク。キミに特別な仕事を持ってきたぞ」

「特別な仕事とは、どんなものですか」

「新しい機関車を レスキューセンター付近の 新しい駅に運ぶことだよ」

ハンクは少し考えた。新しい機関車を運ぶのはとても目立つ仕事だ。大きな自分よりも、小さな機関車の仕事がふさわしいと思った。

「お言葉ですが、そこの彼らに任せてみませんか。とても張り切っていますよ」

「特別な仕事、ぜひ 俺に やらせてください」

「この僕 サムソンが お手伝いするであります」

「わかったわかった、落ち着きたまえ。この仕事はサムソンとフレデリック、キミ達2台に任せよう。大事な役目だからな。お互いに協力して運ぶように」

 

貨物駅には、見慣れない新しい機関車が待っていた。白いボディでとても速そうだった。

「どうも初めまして。僕の名前は モードだよ」

モードが気さくに挨拶する。

「俺はフレデリックだよ。でも、どうして 俺たち2台が必要なんですかあ。レスキューセンターに行くなら 機関車一台でも行けるんじゃ…」

フレデリックが気だるそうに言うと、駅長がこう答えた。

「彼女は 電気機関車だからね。スタフォードと違って、架線のある場所じゃないと走れない。つまり今のモードには、キミらでいう、石炭と水が 常に空っぽの状態ということさ」

「そういうことであれば、この僕が エスコートしよう。僕に ついてきてくれたまえ」

と、サムソン。

 

 こうして、2台のタンク機関車は、モードを挟み込むようにして連結した。

前にサムソン、後ろにフレデリックが繋がれる。

操車場から走り始めると、モードが尋ねた。

「そういえば、前にいるキミは なんていう名前なの」

「こ、これは失礼した。僕は サムソン。本土で働く、優秀なタンク機関車であります」

「おっどろいた! キミも本土の機関車なんだね。すごく馴染んでいるから、ソドー島の仲間かと思ったよ」

モードが言うと、サムソンは自慢げに微笑んだ。

「"キミも"ということは、モードも そうなのか。どんな仕事をしていたんだい」

「僕は つい最近まで、イングランドとフランスを結ぶ、海峡トンネルを走っていたんだ。だけど、貨物しか牽いた事がなくってね。ソドー島では 海底トンネルで急行の旅客列車を任せてくれると聞いて、ワクワクしてるよ」

「いいなあ、俺も 急行列車を牽いてみたいよ」

と、フレデリックが後ろでぼやいた。

 

しばらくすると、信号と大きな分岐点が見えた。

信号は青。ポイントは直線に切り替わっている。

でも、サムソンはその進行方向が正しいとは思わなかった。

「ポッポー! 信号手さん、道を間違えているであります。我々が行くのはこっちだ」

彼は汽笛を鳴らして信号所に伝えた。

 

ところが、サムソンが入ったのは、レスキューセンターに通じる本線ではなく、支線だった。

彼らはセメント工場へと入り込んでいく。

すると、ファーガスが大声で呼び止めた。

「ストーップ」

サムソンとフレデリックは、急ブレーキをかけて止まった。

「どこに向かうつもりかね」

「ソドー・レスキューセンターであります。確か この先にあったはずでは」

「確かに通じてるけど、この先の分岐は 崖崩れで何年も使われていないぞ」

「もしかして道を間違えたのかい」

フレデリックが後ろでニヤリとすると、サムソンは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

「気にするなって。間違いは誰にでもある」

と、モードが励ます。

「サムソンじゃ頼りにならないね。俺がキミ達を案内しよう」

彼らは本線へと戻っていった。

 

 今度は、フレデリックが先頭に立って、サムソンが後押しした。

サムソンはまだ恥ずかしがっている。

モードは彼をそっとしておくようにフレデリックに尋ねた。

フレデリックも、本土の機関車なのかい」

「俺が? 違うよ。いや、違うってこともないか。最初は ここに 貸し出されていたけど、色々あって、ソドー島に仲間入りしたのさ」

「つまり 僕と一緒だね」

「その通り。まあ、俺は ベテランで、島の線路を知り尽くしてるし、道案内は任せてよ」

乗り換え駅を通り過ぎると、また大きな分岐点に差し掛かった。

ポイントは支線に切り替わっていて、信号もそれを示している。

フレデリックは正しい線路だと思った。

「レスキューセンターは こっちの線路だ。ついてきてよ。ほら、架線だって用意されてるし」

 

だが、その先にあったのはレスキューセンターではなく、とても臭い場所だった。

「やあ、フレデリックにサムソン。僕のゴミ集積場へ ようこそ。なにをしているの」

ウィフが遠方から声をかけた。

「キミたちが連れてきたのは 新品の機関車じゃないか」

スクラフが言うと、モードはフレデリックに腹をたてた。

「ゴミ集積場だって。キミ、僕をゴミだと思って ここまで連れてきたのかい」

「ち、違うよ。おかしいな。レスキューセンターの道だと思ったのに」

「どうやら 記憶違いだったようだな。本当は 島の線路なんて 何も知らないのではないか」

サムソンがクスクス笑う。今度はフレデリックも腹を立てた。

「そんなこたない。こっからが正念場だ。俺の方が 道案内が得意なところを お前らに見せてやる」

 

しかし、2台はモードを囲んで言い争いをするばかりだ。

サムソンは「あの信号は間違い」だと言い、フレデリックは「こっちの道が正しい」と言い、一向にレスキューセンターに着く気配がない。

ついには、本線で危うくスティーブンと正面衝突しそうになった。

「気をつけてくれ。キミ達、道を間違えてるよ。島の線路は左側通行するものだ」

仲間に間違いだと言われるたび、2台の顔は真っ赤に染まる。まるでロージーの車体のように。

間に挟まるモードはすっかり呆れかえっていた。

 

 その頃、レスキューセンターでは、トップハム・ハット卿とトーマス達が、モードの到着を待っていた。

「新しい機関車ってワクワクするなあ。客車が似合う、素敵な機関車だといいけど」

パーシーが顔を輝かせている。

「でも、一体 いつになったら来るんだろう。もう到着してもいい頃なのに」

トーマスとトップハム・ハット卿は、新しい駅の時計を何度も何度も見返した。

「よろしければ、捜索に向かいましょうか」

「頼む、ハロルド。私も乗せていってくれ」

トップハム・ハット卿は、ハロルドに乗り込みながら、一人つぶやいた。

「やれやれ。サムソンとフレデリックに任せたのは、やはり失敗だったかもしれないな」

 

 一方、サムソンとフレデリックは迷子になって、側線で途方に暮れていた。

もはや2台は自分たちがどこにいるのかもわからない。彼らは連結を外して喧嘩になった。

「−それで、優秀だって 自慢げに話していた 頭でっかちの老いぼれは どこの誰かなあ」

「な。若造りしたって 大して僕と変わらないだろう。キミが全部自分が正しいとばかり考えているせいで、このようなことになったのではないか」

「なんだと。鏡を見て出直してこい。役にも立たないくず鉄が」

その時、モードが大声を上げた。

「いい加減にしないか」

2台は口を閉じ、辺り一体に、束の間の静寂が訪れた。

「いつまでも他人のせいにするなって。サムソンは 正しい信号を当てにしないし、フレデリックは うろ覚えで行動した。見様によっちゃ どっちも同じことじゃないか」

「モードの言う通りだ」

重々しい声で続けたのは、トップハム・ハット卿だった。

サムソンとフレデリックは、ハッとして、小さくうなずいた。

「いいかね。信号所には、列車を予定通りに走らせるため、いつも連絡をとっている。その表示を、頑なに信じようとしなかったそうだな、サムソン。キミのせいで、島に大変な混乱と遅れが生じている。私は前にも伝えたはずだ。なんでも知っているつもりでいると、余計に失敗を犯すとな。一度計画が狂うと、その先の信号、そして他の機関車と前が詰まってしまう」

「申し訳ありませんでした。同じ失敗は繰り返すまいとしていましたが、我ながら とても未熟でありました」

「それからフレデリック。キミは まだ鉱山から出たばかりで日が浅い。道を正しくするためには 下積みが必要不可欠だ。今度 道がわからなくなった時は、うろ覚えで行動するのではなく、信号手に尋ねなさい」

「はい、すみませんでした」

 

 2台は反省して、モードを繋ぎ直すと、今度はハロルドの正確な道案内で側線からレスキューセンターへ通ずる道へと進んだ。

そしてあっという間に目的の駅に到着したのだった。

「こんにちは。僕、トーマス。キミが モードだね」

「おっどろいた! 会えて嬉しいよ。よろしくね、トーマス」

「どうやらキミは、ここを走る前から、しっかり者と証明された。頼りにしているぞ」

トップハム・ハット卿に信頼され、モードは嬉しくなった。

 

 サムソンとフレデリックは、そろりそろりと駅を出て、分岐点で並んだ。

「どうやら、僕たちは どちらも、島の線路のことなんて、何一つ わかっていなかったようだ。最初の信号手は正しかったのだな」

「うん。俺も うろ覚えで行動するべきじゃなかった。ひどいこと言って、ごめんな サムソン」

「いいや、こちらこそ悪かった。思っていたより、僕たちは 似たもの同士かもしれないな」

「間違いないね」

こうして2台は仲直りをした。お互いに自信たっぷりで、プライドの高い2台が、いつか本当に信頼される機関車になれるといいね。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

●トーマス

●パーシー

●ファーガス

●ウィフ

●ハンク

●スクラフ

●スティーブン

●サムソン

フレデリック

○モード

●ハロルド

●トップハム・ハット卿

●駅長

●ロージー(not speak)

●パクストン(cameo)

●ウィンストン(cameo)

●スタフォード(mentioned)

 

 

【あとがき】

 フレデリックもといウィリアムを自信過剰で方向音痴という性格で設定を組んだ時、ちょうどサムソンやフィリップといったキャラクターが本家で偶然にも登場してしまったとお話ししましたよね。全く同じ特徴を持つサムソンと絡んだらとんでもないことになりそうだと思って今回の物語を、ミスティアイランドの活性化につなげる形で制作しました。

最も、鉄道車両は道が無限にある自動車と違って、道に迷うことはあり得ません。なので、サムソンが方向音痴である公式設定は、信号を信用していないと解釈しました。 S18『サムソンがおとどけ』では、ソドー島のことをよく知らなかったこと、プライドが高くて他人に尋ねられなかったとナレーションで説明されながら、信号を見送る場面が描写されていましたね。

 

 新しいP&TIオリジナルキャラクターは、公開直前までは男女の名前に通ずるテリーという名前の予定でしたが、方針を変えてモード(Maude)という女性名に変更しました。女性キャラクターですが一人称も性格も性別に縛られないニュートラルな感じにしています。(※いわゆるボク少女表現ではないよ)。

フランス生まれイングランド人の女性作曲家が名前の由来です。車両のモデルに選んだBR class 92は、製造された46台すべてベートーヴェンモーツァルトドビュッシーなどのヨーロッパの著名な作曲家・作詞家の名前が付けられています。その元ネタに肖ったのみで、キャラクター設定は彼女の生い立ちや性格には一切関係ありません。

 

 あと、近年のP&TIでは、既存キャラクターの魅力を引き出すため、オリジナルキャラクターの露出をかなり控えめにさせていただいています。もしかしたら、フレデリックもモードも、それほど登場頻度は高くないかもしれないことをご理解いただければ幸いです。これ以降はメアリー・スー的な物語は無いと思います。