Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E18 マーリンのだいぼうけん

 ヘンリーは製鋼所の機関車たちとすっかり仲良しになっていた。特にセオとマーリンだ。

初めはその奇妙な姿に度胆を抜かされたが、すぐにセオたちの事を理解して打ち解けた。

「僕も最初は、思いもよらない形で 造られたんだ。それがまた ひどい出来でね。事故の後、トップハム・ハット卿と そのご友人が、クルーで造り直してくれたのさ」

と、ヘンリーが思い出話を彼らに話した。

「いいなあ。僕も造り直してもらいたい…かも」

「君は ちゃんと走れているじゃないか。僕は 高価な石炭じゃなきゃ、まともに走れないぐらい、困り者だったんだ。君が認めてもらえてる この環境が羨ましいよ」

「それにセオは親切だ。ソナー島でも 十分に活躍できるはずさ」

「そ、そうかな」

「きっとね。ソドー島に帰ったら、君たちのことをトップハム・ハット卿に紹介するよ」

彼らが話しているうちに貨物列車の準備が整い、ヘンリーはマーリンと一緒に嵐の後の製鋼所を出発したのだった。

「ソナー島に行けるだなんてワクワクするよ。ずっと昔から行ってみたかったんだ」

「そうなの。気に入ってくれるといいな」

 

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 旅の途中で、彼らはソドー島に一番近い、バロー駅に停車した。

ヘンリーはマーリンから離れて、一旦隣の待避線に入ると、彼にこう言った。

「この先がソドー島だよ。君は そのまま ブレンダムっていう港に行くんだ」

「でも、キミは どうするんだい」

「僕は ベレスフォードを助けに戻る。彼のことは任せて。それじゃ、ソドー島を楽しんで」

マーリンは「ポッポッポー!」と、ソドー島への思いを馳せて意気揚々とバロー駅を出発した。

独りになったヘンリーは、側線のクレーン車を押して、運河の方へ引き返して行った。

 

 

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 まもなく、マーリンは、河川にかかる大きな跳ね橋に差し掛かった。

タグボートが通過すると、橋はゆっくり彼のいる線路へと降りていく。

「こちら、マーリン。誰にも見つからずに 任務を遂行する。ステルス機関車の名に置いて… ふふっ」

彼は偵察機になりきって独り呟いた。ソドー島に来られたのが嬉しくてたまらないのだ。

橋を通過できるようになると、彼は霧の立ち込める線路を勢いよく走り抜けていった。

 

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「信号はすべて青だ。私を歓迎してくれているのかもしれない」

と、平原を駆け抜けながら彼はつぶやいた。

本当はヘンリーの機関助士がバロー駅で信号所に連絡を入れたからだった。だからエドワードの支線にも迷わず入ることができたのだった。

彼は色々なものに目を惹かれたが、目移りしないように自分の線路だけを見ていた。

すると、上空から彼の方へピッタリくっついてくるヘリコプターが現れた。ハロルドだ。

「待ちたまえ、キミは何者だい」

ハロルドは彼の名前を尋ねただけだったが、マーリンは彼を門番のようなものだと思った。

そこで彼はこう叫んだ。

「見えないスイッチ、オン!」

マーリンは左右の2本の細い煙突から煙幕を噴き上げて自分の姿を隠し、勢いよく車輪を回してその場を走り抜けていった。

ハロルドはとても驚いた。

「あんなに煙幕を あげるなんて。トップハム・ハット卿に報告しよう」

 

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 こうして、鉄を無事に届けたマーリンは、しばらくソドー島の旅を楽しんだ。彼の機関士は、製鋼所に戻ることを促した。

しかし、好奇心旺盛な彼は言うことを聞こうとせず、あちこちの支線に侵入していた。まるで実験場で暮らしていた時のようにだ。

マーリンが入った支線の先は、活気にあふれる漁村に繋がっていた。そこにはアーサーの姿があった。どうも困っているようだ。

「悲しそうにして、どうしたんだね」

「あの貨車を ヴィカーズタウンへ届けなければならないのですが、不調で動けなくて」

「それなら このマーリンが代わりに届けよう。ヴィカーズタウンまでの道のりは 覚えている」

彼はそう言って、貨車を連結して、アーサーの名前も聞かずに漁村を後にした。

 

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マーリンは魚がいっぱいにつまった有蓋貨車を牽いて本線を勢いよく走っていく。

今度も信号はずっと青だった。

ところが、今度はヘンリーの助士のおかげではない。アーサーのおかげでもなかった。

本線の信号手が、マーリンのランプを見て急行列車と勘違いしていたからだ。

 

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そして、マーリンが通り過ぎたところで問題が起きた。

さらに勘違いを重ねた信号手のせいでポイントが切り替わって、後方からやってきたゴードンが、普通列車用の線路に入り込んでしまった。

彼の目の前にはブレーキ車を牽くディーゼルがいる。

「だー、そこを退けえ!」

ゴードンは叫んで急ブレーキをかけた。だが、もう手遅れだった。

 

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後方で事故が起こったことも知らず、マーリンはヴィカーズタウンの操車場に滑り込んだ。

「あら、お帰りなさい、マーリン。その貨車は?」

ロージーが尋ねると、彼は誇らしげに答えた。

「漁村からの速達だ。困っていた機関車のために運んできたのさ」

「魚の貨車ね。持ってきてくれて ありがとう」

マーリンのおかげで思ったより早く届けられたので、作業員たちは嬉しそうだった。

でも、彼はまだ冒険がし足りない。その時、彼らは何か焦げた匂いがするのに気がついた。

「火事だ!」

誰かが叫んだ。街の方で火災が発生したのだ。

「私に役に立てる事が あるかもしれない」

「待ってマーリン。近づかない方が いいわ」

 

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マーリンが様子を見にきた時には、放水銃を持った機関車と、線路を走る消防車が、けたたましくサイレンを鳴らして駅前に勢いよく走ってきた。消防機関車のベルと、軌陸車のフリンだった。

彼らは到着してすぐに放水すると、あっという間に火を消してみせたのだった。

マーリンは感心していた。

「ソナー島は やはり素晴らしい島だ。こんなにも 見たことのないヒーローが いる」

消火活動を終えたフリンは、マーリンに気がついた。

「やあ、キミは誰だい」

「私の名前はマーリン。姿を消す名人さ。こんなふうにね。見えないスイッチ、オン!」

彼はまた目を閉じ、煙幕を噴き上げてどこかへ走り去っていった。

フリンは石炭の無駄遣いだと思った。

「市街地で あんなに煙を出したら危ないぞ。いますぐに やめさせないと」

 

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 その頃、トップハム・ハット卿が車に乗って、例の信号所の前にやってきた。

ゴードンはブレーキ車に追突して、車輪の一部が線路からはみ出していた。

「本当に申し訳ありません。てっきり 急行列車が通ったものだと…」

信号手が彼らに謝っていると、そばでハロルドが着陸して一報を入れた。

「見知らぬ機関車が 本線を走っているのを 確認しました。トップハム・ハット卿は 何か ご存知ですか」

トップハム・ハット卿は首を横に振ったが、信号手の証言と、ハロルドの報告が一致していることに気がつくと、こう言った。

「よし、私を乗せて飛んでくれ。その機関車について 詳しく知りたい」

 

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 一方、マーリンは当てもなく本線をひたすら走り回って、大冒険に出かけていた。

ハロルドは上空からすぐに彼を見つけ出した。

「おーい、そこのキミ、止まるんだ!」

ハロルドは、しごく真面目に言ったつもりだったが、マーリンには彼が追跡ごっこをしているのだと思った。

そこで彼は再三度、煙幕を噴き上げて追跡を交わそうとした。

「見えなくな〜れ!」

「うわ、前が見えない!」

ハロルドが悲鳴を上げた。

彼は視界を開けるため、進行ルートを少し変えて前を見た。煙はヘンリーのトンネルのところで途切れている。

 

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「彼は 恐らく、この中に居ると思われます」

ハロルドが中のトップハム・ハット卿に言った。

マーリンは、目を閉じてトンネルの中にいた。彼らには気付かれていないと思ったが、ぶんぶんとプロペラが回る音は鳴り止まない。

彼は、もう一度目をくらまそうと、煙幕をあげて後進しようとした。マーリンが大きく息を吸い込んだその時、

「蒸気を上げちゃダメだ!」

と、フリンが後方からやってきて、マーリンが煙幕を出す前にトンネルから押し出した。

ついにハロルドの目の前にマーリンが姿をあらわにしたのだった。

 

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トップハム・ハット卿はカンカンに怒っていた。

マーリンはしばらく状況を掴めなかったが、すぐに彼が責任者であることに気がついた。

「煙幕を上げるとは ご挨拶だな。これは お遊びの時間ではない。キミが好き勝手に走り回ったせいで、鉄道に混乱と遅れが生じている。私の鉄道では 安全が第一なんだ、どこの誰であろうと、好きに走らせるわけにはいかない」

「それに、煙を出しすぎだ。もし トンネルで あんなに蒸気を出したら、爆発が起きるところだったぞ」

と、フリン。

「本当に 申し訳ございません。ソナー島には初めて来て、鉄道のルールがあるとは知らず…。製鋼所のそばから、外に出たことがないもので」

「とすると、キミは あの製鋼所の機関車かね」

「ええ、ヘンリーの代わりに 鉄と部品を運んできたんです。それから、漁村から貨車を運びました−」

そこから、マーリンは製鋼所の仲間たちについて語り始めた。

トップハム・ハット卿は、最後まで話を聞いて彼を見直し、彼と、後に戻ってきたヘンリーの話から、製鋼所にも役に立つ機関車のタマゴがいることを知って感心した。

一方でマーリンは、今日のいたずらを反省して、翌日まで役に立つ仕事をさせてほしいと彼に直接頼んだのだった。

それからは、トップハム・ハット卿はちょくちょく製鋼所の機関車を呼び寄せるようになった。彼らが自信を身につけて働くことが出来るように、と。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

●ヘンリー

●ゴードン

●アーサー

●ロージー

●セオ

●マーリン

●フリン

●ハロルド

●トップハム・ハット卿

●信号手

●ベル(not speak)

ディーゼル(not speak)

●マーリンの機関士(not speak)

●フローラ(cameo)

●ハリケーン(cameo)

●ノーマン(cameo)

シドニー(cameo)

●ヘクター(cameo)

●ローリー1(cameo)

エドワード(mentioned)

●ベレスフォード(mentioned)

●ウィリアム・スタニア(mentioned)

 

 

 【あとがき】

 大変お待たせしました。写真はずいぶん前のものですが、多忙で文章を書く時間を取れませんでした。そして書き上げる前に何度かシナリオを書き直し、写真も順番を入れ替えたり、撮り直しています*1。これを思いついた後に放送された、本編第22シリーズ『みえないきかんしゃマーリン』と整合性をつけるために工夫したからです。

今回の話は『JBS』を観た後に、マーリンの好奇心旺盛で純粋な遊び心を持った性格で初来島した場合に何が起こるかという想像と、モデルになった機関車がトンネルで煙幕をあげて粉塵爆発を発生させた事故に基づいて書いたものです。S22の放送を観てからは、そのバックストーリーの位置付けを意識しました。まさか思いついた当時はヘンリーがヴィカーズタウンの機関庫に移動するとは思ってもおらず、結果的にこの選択は正解だったと言えるでしょう。

 P&TI S14 E16とE17の出来事から物語は繋がっています。次回の『セオの大失敗』と『迷子になったマーリン』も今回の続きのお話です。

 

 

【没写真】 

ヘンリーと一緒に来島する予定でした。

 

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クレーン車はヴィカーズタウン操車場で見つけて、そこでバイバイ。

*1:ノーマンの配置がミスってるのはこの所為です(苦笑)