ロージーは、ライラックのボディが鮮やかな、明るいタンク機関車だ。
車輪の数はトーマスと同じように6つで、トーマスと同じようなサイドタンクを持っていて、3つのドームは同じようにずんぐりしている。
そして何より彼女はトーマスが大好きだった。ロージーはよく好んで手伝ったり、真似をしたりした。
トーマスもロージーと仲良しだったが、真似をされるのはあまりいい気はしていなかった。
ある朝、トーマスは腹を立てて給炭所にやってきた。彼は停止信号の前で止まると、「シューッ」と、勢いよくため息をついた。
「おはよう、トーマス。どうしたの」
フィリップが声をかけた。
「ロージーが しつこく真似するんだ。彼女が頑張ってるのは わかってるけど、毎日ニヤニヤして真似するもんだから、ムカムカしてしょうがないよ」
「ふむ、そういう問題の元とは 離れた方がいいよ」
トーマスはフィリップの助言で気が楽になった。でも、フィリップはロージーのことをよく知らなかったのだった。
次の朝、トーマス達が出発の支度をしていると、ロージーと一緒にトップハム・ハット卿がファークァーの機関庫を訪ねた。トーマスたちに指示をするためだ。
「おはよう、トーマス。今日から何日か、キミは パーシーと一緒に、採石場から石の貨車を 操車場に運んでくれたまえ」
「わかりました。でも、お客さんは どうするんですか」
「私は ロージーに 旅客列車の経験を もっと積ませようと思っている。そこで キミが貨車を牽く間、暫く 彼女にアニーとクララベルを引っ張ってもらうことにする」
その言葉を受けて、トーマスはショックを受けた。
何より自分の客車を、真似っこのロージーが嬉しそうに喜ぶのが気に入らなかったのだ。
ロージーは客車の扱いがとても上手かった。慎重に連結し、トーマスと同様のタイミングで蒸気を出し、トーマスと同じようなタイミングで汽笛を鳴らして、慎重に出発した。
そんな彼女にトーマスはますます腹を立てたが、アニーとクララベルはロージーと走れることをとても楽しんでいた。ロージーも彼女を牽いて支線を走ることをとても楽しんだ。
「ピッピー! あら、こんにちは、トーマス!」
次の日、トーマスとすれ違いざまに、ロージーが明るく挨拶して汽笛を鳴らした。
だが、トーマスは怒って勢いよく蒸気をロージーに吹きかけた。
ロージーはもちろんのこと、アニーとクララベルも、すごくびっくりした。
「トーマス! 今のは失礼すぎるわ」
彼女達はショックを受けた。楽しい気分はあっという間に蒸気で吹き飛ばされてしまった。
しかしトーマスは知らん顔。
「あーもう、本当に腹が立つよ」
と、操車場でトーマスが声を荒げた。
「ロージーったら、僕の客車を牽いて、僕の顔を見て、毎日ニヤニヤ、ニヤニヤ。僕のことを馬鹿にしすぎているよ」
「彼女は そんなつもりはないと思うけど。夜行列車の時だって、一番に キミのことを 気遣ってくれただろう」
「僕も そう思うよ、パーシー」
と、そこに現れたのはネビルだった。
「キミは ロージーのことを知っているのかい」
「ああ、ある程度だけどね。ここに来る前は 同じ場所で働いていたんだ。まあ聞いてよ」
ネビルはトーマスの前で止まると、一呼吸入れて語り始めた。
「それは、少し昔のことでした–」
ちょうどその頃、ロージーはブレンダム港にやってきた。物凄く悲しそうな顔をしている。
「相棒よ、辛いことでも あったのかい」
ソルティーとポーターは彼女を気遣おうとしたが、すかさずクランキーが無神経にこう言った。
「どうせまた、トーマスに なすりついて怒らせたんだろ」
他の機関車たちは彼を睨んだが、ロージーは正直に落ち着いて答えた。
「はあ。あなたの言う通りよ」
「俺には理解できないな。なんでお前は いつも そうトーマスに こだわる」
「良かったら、僕らにでも話してよ。少しは気が楽になるかも」
と、ポーターが優しく声をかけた。
ロージーは「シュー…」と一呼吸入れてから、クランキーが積み下ろしをするまでの間、語り始めた。
「ソドー島に来る前のことよ。私は、サウザンプトンっていう南町の港で働いていたの。
たくさんの工場と造船所があって船や貨車が毎日出入りする、とっても大きな港よ。
そこで私はトーマスにそっくりな仲間と忙しく働いていたわ」
「そんなある日の休憩で、駅に着くと、機関士が 私の運転台から降りたの。
『ちょっと向こうに行ってくる』って。彼は 構内に入った車の所へ走って行ったと思ったら、小さな男の子を連れて すぐに戻ってきた。
忘れたお弁当を 家族が持ってきてくれたんですって。そのついでに、機関士の息子さんが 私のことをよく見たいって、機関車の絵が描かれた絵本を片手に、私の元へ走ってきた。
『その本は何ですか』って、私が訊くと、機関士は 休憩の間、私と息子さんに 読み聞かせをしてくれたの。それは トーマスという、頑張り屋の機関車のお話だったわ」
「私は暫くその機関車のことが頭から離れなかった。機関士は作り話だって言ったけど、彼みたいに役に立ちたくて、仲間にも彼の素晴らしさを話したわ。
すると、ある一台の機関車が言ったの。
『トーマスは、僕の弟なんだぜ』
『彼は今、どこにいるの』
『ソドーっていう小さな島さ。こっからじゃ遠いけどね』
私はソドー島に行ってみたくなった。憧れのトーマスに会ってみたかったの。
そうしているうちに、何年か経って、私はソドー島のトップハム・ハット卿に呼ばれたわ」
「それって、なんだか すごく素敵な話だね」
と、黙って聞いていたポーターが嬉しそうに言った。
「ああ、憧れの存在に会えるだなんて、まさに 夢のような話ってもんだ」
と、ソルティー。
「もしかしてだけど、キミが 自分に憧れていることを トーマスは 気づいていないんじゃないかな。話したら 喜ぶと思うよ」
「そうかな」
「ああ。トーマスなら、絶対そうだな」
ポーターの助言に、クランキーも苦笑いで同意した。
ロージーは少し元気が出たが、トーマスになんて声をかけたらいいかわからなかった。
一方で、ネビルもトーマスとパーシーに、同じような話をし終わったところだった。過去の自分から見たロージーのことを。
「–ロージーは いつも僕らに、絵本のトーマスのことを話していたよ。だから、彼女は 君を信頼してるんだよ。君の真似をするのはさ、きっと その心の表れなんじゃないかな」
2台は黙って最後まで話を聞いていた。すると、トーマスが何かを決めたように言った。
「僕、行かなきゃ」
「どこへ行くの、トーマス」
「ロージーに謝ってくるんだ!」
トーマスは大慌てでナップフォード駅に戻ってきた。ロージーが旅客列車を牽く頃と思っていたからだ。
でも、そこに彼女の姿は無かった。機関庫にはアニーとクララベルが残されたままだ。
「ロージーは どこだ」
「トーマス、トップハム・ハット卿から聞いていないの」
アニーの問いに、トーマスは首を傾げた。
「彼女は臨時の配達に行ったわ。さっき そのことを トップハム・ハット卿が電話で操車場に伝えたのよ」
「ということは今、ロージーは支線に? ちょうどいいや」
こうして、トーマスはいつものようにアニーとクララベルを牽いて、お客を運んだ。
その途中で、彼は郵便列車を牽いて隣の線路を走るロージーを発見した。
「見つけた。ロージー!」
トーマスは彼女を嬉々として呼びかけた。
だが、ロージーはトーマスを前にどう反応していいのかわからず、いつもとは違って逃げるように速度を上げた。
「待ってよ、君に話があるんだ」
トーマスの言葉に、彼女は彼の方を見た。しかし、そこで問題が起きた。
「ロージー、前見て、前! 危ない!」
ロージーが気づいた時には、車止めを超えて石壁の上に乗り上げていた。
古いポイントが壊れて側線に向いていることに気がつかなかったのだ。幸いにも怪我人は出なかったが、ロージーの綺麗なライラックのボディは砂と土で台無しだ。
「うわあ、大丈夫かい」
トーマスは心配してロージーの方に駆け寄った。客車にはお客が乗っているが、今は友達を助けたかった。
「しつこく真似して ごめんなさい。まだ怒ってるでしょう」
客車を繋ぎながらブレーキ車と連結して自分を引っ張り出すトーマスに、ロージーが言った。
「ううん、全然。僕の方こそ、酷いことして本当に ごめん」
「私、ここに来る前から、貴方みたいな 役に立つ機関車になりたかったの。貴方には迷惑だったかもしれないけど…」
「そんなことない。君は いつだって 僕を助けてくれたじゃないか。ハイファームでも、ふざけて水溜りで動けなくなった時も。君は間違いなく 僕と同じくらい、強くて役に立つ機関車だよ。本当は それに気づいていたのに僕ったら」
トーマスの言葉を聞いて、ロージーは安堵したのだった。そしてお互いに吹き出した。
トーマスとロージーは今では良い友達だ。お互いに認め合い、お互いに本当に役に立つ機関車になるために高め合っている。
ロージーは今でもトーマスを尊敬しているし、もうロージーがアニーとクララベルを牽いても、トーマスは文句を言わない。それは彼女を信頼しているからかもしれない。
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●パーシー
●ネビル
●ロージー
●ポーター
○トーマスの兄弟
●ソルティー
●フィリップ
●アニー
●クランキー
●トップハム・ハット卿
●クララベル(not speak)
●トビー(cameo)
●ダグラス(cameo)
●モリー(cameo)
●ビリー(cameo)
●ハンク(cameo)
●ノーマン(cameo)
●ジェームス(picture cameo)
【あとがき】
このエピソードは、私にしつこくカップリング説を推す友人に対して私の解釈を伝えるべくして2016年頃に書きました*1。故にボディカラーもライラックの状態で、赤くなる前の出来事を表しています。
公式第22シリーズ『ロージーはあかい』にて「好き」の釈度が明細に描かれて私は満足していますが、それが公開されるより前からずっと、私はトーマスに対するロージーの「好き」をLoveではなく、英雄視からくる尊敬や憧れと解釈していました。『きかんしゃトーマス』で描かれる擬人化された車両達があくまで無機物の域を出ていないのと、妹的存在のようになんでも真似をするという点が私の中での決定打です。
今回の話はどうしてロージーがトーマスを尊敬するのか想像を膨らませて書きました。ロージーとネビルが過去にサウザンプトンで働いたという設定は完全に非公式ですが、実機の経歴に因んでいます。撮影は2017年に始めましたが、回想のロージーを作るのにカラーリングで悩んでいるうちに2021年になっていました。また、一部の写真を撮り直しています。