Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI Ex-26 ネルソンとまいごのバーティー(アレンジ)

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「イザベラにネッド。あなたたちも、それが終わったら、行っていいわよ」

建設現場の仲間たちにそう告げたのはジェニーさんだった。

それを聞いていたアルフィーは首を傾げた。

「行くって、どこに行くんだろう」

そんな彼にイザベラが答えた。

「もちろんスチーム・フェアさ。今年も、ささやきの森広場で 開催されるんだ」

「後からネルソンたちも行くんだよな」

と、ケリー。

でも、ネルソンは複雑な表情を浮かべた。

「うん。でも、正直 行きたくないな。恥をかくもの。僕の役目は バスターに引っ張られて終わりさ」

「そうかい。俺は 好きだな。今年も勝つぞって やる気が出るし、楽しいじゃないか」

と、荷台からテレンスも言う。

スチーム・フェアでは、蒸気機関の車と内燃機関の車が、綱引きをする催しがあった。

けれども、蒸気機関が主役のお祭りでは、内燃機関のネルソンにとっては引き立て役でしかなく、彼はそれが嫌だったのだ。

 

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 時を同じくして、ナップフォード駅では、トーマスとロージーが楽しそうにおしゃべりをしていた。するとそこへ、ヘンリーが横槍を入れた。

「なんだあ、揃ってニヤニヤして、気持ち悪い」

「だって 今日のスチーム・フェアは 特別なんだよ。いろんな機関車と車が 各地から広場に集まるんだ。これからお客さんとブラスバンドを会場へ運ぶのが 楽しみだなあ」

「そして 私はトレバーたちを運ぶの。いろんな お披露目をするのよ」

と、トーマスとロージーがワクワクしながら言った。

「ふうん。だけど 仕事に集中しろよ。君たちのことだから 浮かれて問題なんか起こすなよ」

「わかってるさ。そういう君も、線路をよく見て走りなよ」

トーマスにそう言い返されたヘンリーは、むくれた。

 

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 ウルフステッド城ではスティーブンが伯爵とゲストの機関車を会場へ運ぶ準備をしていた。

彼は自分もフェアのゲストに選ばれたので張り切って蒸気を吹き上げている。

「その古い機関車は誰なんですか」

ミリーが尋ねると、伯爵が嬉々として答えた。

「ほっほっ。彼女は 私が世界で発見した コレクションの一つさ。後で紹介するよ。さあ出発しよう、スティーブン」

ところが、伯爵が振り向いたときには、スティーブンはとっくに出発していた。もう伯爵が乗り込んだものと思っていたのだ。

「仕方がない。コナーの列車に乗って、バスに乗り換えるとしよう」

 

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その頃、トーマスは本線を走る準備をしていた。

トビーが彼の支線から運んできたお客が、アニーとクララベルに乗り込む。

「ありがとう、トビー。出発進行!」

「気をつけていってらっしゃい」

と、ヘンリエッタが言った。

 

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トーマスの列車は、コナーのような特急ではなく、各駅停車だ。

なので、全ての駅に停車する。エドワードの駅では、ブラスバンドが列車を待っていた。

そこには偶然かトーマスの友達も居た。

「やあ、バーティー。君も 本線の接続にいるなんて びっくりだよ」

「噂は聞いているよ。ささやきの森広場に 行くんだろう」

「まさか、キミも…?」

「そう。広場に どっちが早く到着するか 競争しよう。絶対に負けないけどね」

「望むところだ」

 

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お客の乗り降りが終わり、「ピリピリピリ〜!」という車掌の笛の音ともに、トーマスとバーティーは一斉にスタートした。

本線の周りでは道路のほうがずっと遠回りだったが、バーティーは自信満々だ。

トーマスも、一秒でも早く踏切を通り過ぎようと早くピストンを動かす。

「今日は蒸気機関車が主役なんだ。絶対に負けないぞ」

アニーとクララベルは、フラフラ車体が揺れながら、お客のことを心配した。

「ちょっと、私たちは 急行列車じゃないのよ」

「他の駅に停まることも 忘れないでよね」

「わかってるって。それいけー!」

トーマスは飛ばしに飛ばして丘を駆け登った。

 

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バーティーの方も快調に飛ばしていく。急な丘を越えると、一旦本線から離れてサドリーの町に入った。

ところが、そこでは問題が起きていた。

町のすぐそばでヘンリーが大きく脱線していて、バーティーの通る道路が塞がれていたのだ。

事故は起きたばかりのようで、交通整理もされていない。貨車からは積荷が散乱し、電柱も倒れていて危険だ。

運転手はバーティーを道の傍に停めると、しばらく考え込んだ。

「仕方ない。あそこのバス停で降りる人は、一旦ここで降りてもらおう。しかし、あの川を渡らなければ 次にたどり着けないぞ」

その時、バーティーは森に続く一本の農道を見つけた。

「あそこを通っていきましょう。確か広場の付近に通じてるはずですよ」

運転手は悩んだが、行動しないよりはいいと思った。客席には大事なお客さんが載っていたからだ。

 

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 だが、そこはバーティーも運転手も殆ど通ったことのない道だった。

すぐに分岐があると思いきや、道はクネクネと曲がりくねっていて、川を渡る橋に出るどころか、一向に先が見えなかった。

終いには、鉄道橋の下を潜り抜けた。

「あれは、ひょっとして…。おーい、バーティー。道を間違えているぞ」

異変に気付いたスティーブンが橋の上から声をかけた。

でも、道を信じるバーティーは聞こえないフリをした。とにかく一刻も早くささやきの森に到着しなくてはならない、そう思ったのだ。

 

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 その頃、トーマスは、ささやきの森広場の駅に滑り込んだ。アニーとクララベルは着いてほっとした。

彼はあたりを見渡した。広場には蒸気を吹き上げて移動する自動車ばかりで、バーティーの姿はどこにもない。

「やった。勝ったんだ!」

彼は勝利に浸りながらバーティーとの接続を待っていた。

でも、ロッキーがバッシュとダッシュを特設の線路に持ち上げ始めても、スクラフが特別な側線で待機するために着いても、ロージーがトレバー達を運んで到着しても、バーティーの姿は無かった。

「バーティーったら、どうしたんだろう。もう着いても良い頃なのに」

「ひょっとしたら、また ぬかるみに浸かっているのかな」

と、トレバーが冗談で言った。

「まさか。ずっと雨なんて降ってないもの」

 

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 当のバーティーは、まだ森の中を進んでいた。

視界が広げると、目の前には岩山が広がっていた。その上でマックスが石を落とそうとしているではないか。運転手は急ブレーキをかけた。

バーティーはガコン、ガコンと、小刻みに揺れながら、おろされた石の上で停車した。

ジェニーさんが「ピピー」と、笛を鳴らす。

幸いにもけが人は出なかったが、建設現場の仲間たちはびっくりした。まさかひとけのない場所に、バスが突っ込んでくるなんて。

バーティーは酷い気分だった。石に乗り上げてタイヤがパンクしている。これでは動くことはできない。

「やれやれ、一体どういうことなんだ」

「本当に ごめんなさい、伯爵。乗客の皆さん。僕の目論みで失敗してしまいました。それに建設現場のみんなも、迷惑をかけて すみません」

伯爵は彼に優しく声をかけた。

「誰にでも失敗はある。自分の思い込みで行動をすると どうなるか、これでわかったかね。しかし どうしたものか。これでは スチーム・フェアに行くのは無理だ」

「スチーム・フェアに行かれるのなら、ぴったりのアイディアがありますよ」

と、ジェニーさん。

 

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ジェニーさんの指示で、ネルソンがバーティーを荷台に乗せて運ぶことになった。

ケリーが自分のクレーンを使って彼を荷台に乗せ、バイロンが石を片付けた。

幸いなことに、バーティーに乗っているお客は伯爵を含めてフェアに行く人たちばかりだった。そこで彼らはバーティーに乗ったまま運ばれていくことになった。

乗客たちはその新鮮な光景に興奮していた。

「本当に びっくりしたよ。どうして ここに来たんだい」

と、ネルソンが移動中にバーティーに話しかけた。

「本当に 恥ずかしいね。競争のことしか 頭になかったんだよ。道を離れるべきじゃなかった。でも、君は 作業場を離れて、大丈夫なのかい」

「ああ。僕は フェアに出るんだ。本当は 行きたくないんだけどね。蒸気自動車と綱引きがあるんだけど、彼らが主役だから、必ず負けなきゃいけない。醜態をさらすなんて まっぴらだよ」

「そうか。でも、競争で大事なのは、楽しむことだよ。たとえ負け試合でも、自信を持って笑顔でいれば、ゆううつな気分も吹っ飛んでいくはずさ」

 

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 ネルソンが会場に到着すると、歓声が巻き上がった。

「来たぞ!」

「バーティー! 心配してたんだぞ」

トーマスが叫んだ。

「ごめんよ。知らない道に進んで迷子になったんだ。でもネルソンが助けてくれた」

「そっか。ありがとう、ネルソン。お、伯爵も一緒だ」

バーティーから出てきた伯爵を見て、スティーブンも自分の失敗に恥ずかしくなったが、伯爵は笑顔だった。

 

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「お待たせしました。蒸気ファンとヴィンテージカー・ファンの皆さん、それから機関車と自動車諸君、この度はお集まりいただき誠にありがとうございます。ソドー島のスチーム・フェアへようこそ! さあ、ー」

ノランビー伯爵がフェアの開会式を宣言する傍ら、トーマスはバーティーを平台貨車に載せて運ぶところだった。

フェアを最後まで見られないのは残念だったが、今は友達のことが心配だ。

「今日は災難だったね。道路は塞がれるし、競争にも負けるし」

「ああ、失敗した。でも、注目度では僕の勝ちだよ」

バーティーが生意気に答えると、トーマスは安心してニッコリ微笑んだ。

 

彼らがバスの車庫へ戻るために走り出すと、開会式の笛の音とともに、バッシュとダッシュとトレバーが、その場で一斉にウィンチを使って材木や樹木を引っ張る競争が始まった。

その次に、側線で待機していたスクラフのもとへ、イザベラとエリザベスが並ぶ。

「ーこちらのスクラフも、同じ会社が戦後に製造した産業機関車です。彼女たちと同じように垂直ボイラーを備えています。実に素晴らしい」

伯爵の実況が終わると、彼らはブラスバンドの演奏に合わせて汽笛と蒸気の大合奏をして観客にアピールした。どの車両もすごく楽しそうだ。

 

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それからいろんな競技とお披露目を経て、ネルソンがテレンスを載せて広場に戻ってきた。

「さあ、次は お待ちかねの綱引き対決です。内燃機関蒸気機関、どちらが強いのか」

ネルソンはジョージと背中合わせにして綱を引っ張りあった。

彼はバーティーに言われたことを思い出し、笑顔で自信を持って引っ張りあった。

「そこまでー! 勝ったのは、スチームローラーのジョージだ!」

結果はジョージの圧勝だったが、ネルソンは自分の全力を引き出せたことに満足していた。

そのあとで伯爵はそれぞれの自動車について話し始めた。

「ーネルソンは、いつもは車を輸送しています。今日、私は バスのバーティーと一緒に 彼の荷台に乗ってきましたが、彼は安全運転で本当に信頼できる輸送トラクターなんです。勝負はジョージの圧勝でしたが、過去には、あのタンク機関車のトーマスを運んだことも あるんですよ」

観客はジョージだけでなくネルソンにも「おおっ」と、注目を寄せた。

ネルソンはちょっぴり照れくさかったけど、今日、バーティーや伯爵のおかげで良い方向に注目を集められたので、「スチーム・フェアも いいもんだ」と、思ったのだった。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

●トーマス

●ヘンリー

●ロージー

●スティーブン

●ミリー

●アニーとクララベル

ヘンリエッタ

●テレンス

●バーティー

●トレバー

アルフィー

●ケリー

●イザベラ

●ネルソン

●ジェニー・パッカード

●ノランビー伯爵

●トビー(not speak)

●バッシュとダッシュ(not speak)

●スクラフ(not speak)

●コナー(not speak)

●ジョージ(not speak)

●エリザベス(not speak)

●マックス(not speak)

バイロン(not speak)

●ネッド(not speak)

●ジャック(cameo)

●オリバー(cameo)

●トップハム・ハット卿(cameo)

●農夫フィニー(cameo)

エドワード(mentioned)

●ロッキー(mentioned)

●バスター(mentioned)

●ソドー・ブラスバンド(mentioned)

 

 

【あとがき】

 アレンジ最終回は2013年12月投稿の、PToS S12 E19より『迷子になったバーティー』でした。2012年当時、トーマスとバーティーの競争が見られなくて寂しいと思い創ったものでしたが、投稿の一か月前に『せんろをさがすトーマス』が放送されるというこれまた偶然の一致が起こりました。みんな、考える事はいっしょなんですね。

 オリジナル版は主にバーティー視点からの競争といった感じでしたが、このアレンジではスチーム・フェアをプロットに入れつつ、ネルソンのサブプロットを設けました。いろいろ詰め込んだのでExシリーズの中でも長目の話になりました。10分枠で収まるでしょうか。

ネルソンは、ヘクター、ビリー、グリン、家畜車共に、とある有志から借りた物です。これらは今では中古でなくては極めて入手困難な玩具ですので、貴重な撮影と構成が出来た事を心から感謝しています。

 

 

 さて、P&TI過去作のリメイクとアレンジを施したエクストラエピソードはこれで以上となります。最初は14話と企画していましたが、全26話と1シリーズ分として収まりよく延長させていただきました。楽しんで頂けたのなら、物書き冥利に尽きます。

以後は、投稿が途中で止まっていたP&TI シーズン14や、6年前から計画していた長編9作目『ティモシーと呪われた森の秘密』全5章を随時投稿していきますので、今後とも新しくなったP&TI Studiosをよろしくお願いいたします。