Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E14 ビルとベンのとりかえっこ

 ビルとベンは、エドワードの支線の末端、陶土の採掘場で働く、小さな双子のタンク機関車だ。

2台とも、驚くほどそっくりなので、仲間は汽笛の音色と名札を見なければ見分けがつかない。そこで2台はよくそれを利用したイタズラを仕掛けるのだった。


 ある日、ビルとベンは港に居た。ちょうど陶土の貨車を運んだところだ。

するとそこに見慣れない機関車がいることに気がついた。大型機関車のハンクだ。

「見ろよ、ベン。最近生意気だって評判の機関車がいるぞ」

「ちょっと脅かして懲らしめてやろうか」

そこで双子は目配せをしてニヤリと笑った。

ビルが石炭ステージの陰に立ち、ベンはハンクの隣に並んだ。

 

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「やあ、初めまして。僕はベンだ」

「俺はハンクだ。よろしく。驚いたな、君は俺が見た中で一番小さい機関車だ。だが、−」

「あ、タンク機関車を見下したな。この、いばりんぼうめ!」

ハンクが何か言おうとする前にベンは港中に聞こえるようにそう叫んで、すぐそばの側線へ隠れた。すかさず後ろの石炭ステージの裏からビルが出てきてこう叫んだ。

「弱いものいじめの いばりんぼうだ!」

ビルはニヤニヤしながら叫ぶと、再び石炭ステージの裏に隠れ、今度はベンがまたハンクの隣に並んで叫んだ。

「弱いもいじめの いばりんぼう!」

これを何回も繰り返して、ハンクが目を回しそうになったちょうどその時、港の奥からクランキーの大きな声が響いた。

「ビルとベン、トップハム・ハット卿が お呼びだぞ」 

双子はびっくりして急いでクランキーの方へ後退すると、ハンクはホッとした。

 

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「お騒がせして ごめんなさい。怒ってますか」

ベンがトップハム・ハット卿に言った。 

「まあいい。キミに特別な仕事を任せたい。だから港に残ってくれたまえ」

「うわあ、ありがとうございます」

ベンの表情が一瞬にして晴れた。

「僕も一緒ですよね」

後からきたビルが嬉しそうに言うと、トップハム・ハット卿は首を横に振った。

「いいや、キミは採掘場に戻ってティモシーを手伝いなさい」

ビルの表情は一瞬にして曇り、その後の指示も耳に入らないほど塞ぎ込んだのだった。

 

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 しばらくして、ベンが採掘場に戻ってきた。とても興奮した様子だ。

「こうほう? の人が、港を訪ねてきたんだ。僕は 台の上に乗って、学校の生徒達と一緒に 風景の写真を撮ってもらったんだ。すごく楽しかったよ。明日も来てくれってさ。今度は別の場所で やるんだって」

「いいな、ベンばっかり。僕も写真を撮ってもらいたいよ。石炭ステージの裏に隠れたのが いけなかったのかな」

ビルは相変わらずむくれていた。

ベンはビルも経験するべきだと思った。そこで彼は良いことを閃いた。

「それじゃあ名札を交換しようよ。キミがベンになっても、誰も気づかないよ」

ビルはそれをすごくいい考えだと思った。面白いイタズラもできるかもしれない。

彼らは機関庫の中に入ると、こっそりと名札を交換したのだった。

ビルはベンの名札を、ベンはビルの名札をつけて。

 

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 ところが、その計画は翌朝、すぐに裏目に出たのだった。

重油を補給していたティモシーが、ビルの名札をつけたベンにこう言ったのだ。

「いい知らせだよ、ビル。トップハム・ハット卿が君に特別な仕事を任せるって。すぐに港に行けって命令だよ」

「本当に? おーい、ビル。特別な仕事だって!」

と、ベンは大きな声を上げて伝えようとしたが、ティモシーには彼がビルにしか見えないようだった。

「何言ってるんだ。ビルは君だろ。僕を混乱させようたって、そうはいかないぞ」

ベンは内心「しまった」と思った。

しかも、本物のビルの方はマリオンが土を積み終わるまで動けなかった。彼は心の中で「ごめん」と言って、港に向かう他無かったのだった。

 

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「なんてひどい考えだよ」

ベンの名札をつけたビルは、計画が失敗し、再び取り残されてイライラしていた。

彼は乱暴に貨車に当たり散らした。そのまま貨車を押すと、彼らの車輪がレールから大きく外れて土の山にぶつかった。

その衝撃で上から大きな岩が降ってきたが、幸いにも怪我人は出なかった。

「気をつけてよ、ベン。ここの土が脆いのは、あなたが よく 知っているでしょう」

と、マリオン。

 

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ビルは貨車を線路に戻そうと、クレーン車を持ってこようとした。

ふと下を見ると、岩に紛れて何かがあることに気がついた。それはどこかで見覚えのある、生き物の骨だったのだ。

「マ、マ、マリオン! すごいよ。僕、化石を発掘しちゃった」

彼は動揺して叫んだ。マリオンだけでなくデリックやティモシーも集まってきた。

みんなすごく興奮していた。

「ショベルも無いのに すごいじゃない、ベン。ここに恐竜の化石がまたあったってことは、きっと 他にも 埋まってるかもしれないわね。デリック、すぐに みんなに知らせてきて」

 

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デリックは貨車を牽きながら、急いで港に滑り込んだ。

「ベンが恐竜の化石を発掘したぞ」

彼はみんなが集まっているところで叫んだ。そこにはちょうどトップハム・ハット卿も居た。

「なんだって。それは本当かね。すぐに専門家に向かわせよう」

 

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その日の午後は、採掘場の一部で化石の発掘作業が行われた。マリオンが大胆かつ慎重に掘り起こし、専門家達は細かい機械を使って一生懸命に不要な部分を削っていた。

「無駄な計画を立てて ごめんよ、ビル。でも、すごいじゃないか。大発見なんてさ」

「まあ、偶然の産物ってところかな」

 

 翌朝、採掘場に続けてニュースが舞い降りた。デリックが威勢よく挨拶をしてビルとマリオンに言った。

「おはよう。昨日 掘り起こした恐竜の化石の写真を 撮ることになったって。新聞の一面を飾るんだ。トップハム・ハット卿と ノランビー伯爵が 待ってるぞ。さあ、行こう!」

彼はベンとマリオンを連結した。

だが、彼が連結したのは本物のベンではなく、ベンの名札をつけたままのビルだった。昨夜は興奮状態で、名札を戻すのをすっかり忘れていたのだ。

「待って、僕は ベンじゃない。ベンは あっちだよ」

「馬鹿なこと言ってないで、早く行こうぜ」

デリックはビルの話を聞かなかった。いつものイタズラだと思ったからだ。彼はベンの名札をつけたビルとマリオンを押して、勢いよく採掘場を後にした。

「待って、デリック!」

取り残された本物のベンは、大慌てでデリックの後を追う。しかし、彼のスピードに追いつけなかった。

 

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操車場では、トップハム・ハット卿と伯爵、化石とカメラマンの他に、大勢の機関車達が集まっていた。

「きたぞ。みんな、ベンに万歳だ」

デリックが押してきたマリオンとビルを見て、ハンクが仲間たちに言った。他の機関車達は一斉に汽笛を鳴らしたり声援を送ったのでトップハム・ハット卿とカメラマンは耳を塞いだ。

ビルはとても焦っていた。写真を撮られるのは嬉しかったが、このままでは新聞に自分ではなくベンの名前が載せられてしまう。

今それを告白したところで、自分が本当はビルなんだと誰にも気づいてもらえないだろうと彼は思った。何故って、つい最近、見分けがつかないことを利用してハンクにイタズラをしたばかりだ。

「すごいぞ、ベン。この島の小さな機関車は みんな びっくりする力を持ってるんだな」

「おしゃべりと汽笛は それぐらいにしてくれ。さあ、写真を撮るぞ。デリック、キミは ベンとマリオンを入れ替えなさい」

トップハム・ハット卿の指示でデリックが動こうとした時、汽笛とともにベンの声が響き渡った。

「待ってください!」

 

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その声を聞いて、みんなは立ち止まった。

「彼はビルです。ベンは本当は僕なんです」

「彼の言う通りです。僕はベンじゃありません。ごめんなさい」

大勢の前で勇気を出して打ち明けたベンに、ビルも謝った。

「なんだって。どういうことだね」

仲間達はキョトンとする中、トップハム・ハット卿は顔をしかめた。彼はベンの名札をつけたビルの前に立つと、目を細めてじっくり眺めるように彼の周りを歩いた。そこでようやく気がついたのだ。

「確かなようだな。名札を入れ替えて 何をやっている。また ふざけていたんだな」

「そうじゃありません。ビルにも特別な仕事をさせてあげたかったんです。だけど、紛らわしいことになってしまいました。本当に ごめんなさい」

「機関車が違うと言うことは、昨日撮った写真を撮り直さなくてはいけないのでしょうか」

困惑するカメラマンに、双子は冷や汗をかいた。

「ビルとベン、私は 一昨日 言ったはずだぞ。翌日は ビルにも やってもらうとな。きちんと話を聞かなかったせいで 混乱が生じて 大勢の人に迷惑がかかっている。キミたちには感情の制御を覚えてもらわないとだな」

「よくわかっています。もう二度としません」

「まあ、今回は 化石に免じて大目に見るとするが、もうキミ達の ややこしい問題はごめんだぞ。さあ、名札を元に戻したまえ。撮影再開だ。ビルの功績として、新聞に載るためのな」

 

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 双子の機関士たちはトップハム・ハット卿の言う通りにした。

こうして元通りの名札にしてもらったビルは、マリオンと場所を入れ替えて、化石と重役達の隣に並んで写真を撮ってもらった。翌日の新聞には、30周年を迎えた採掘場の特集に加えて化石発掘の写真を一面に飾られていた。

問題を起こしたことや、紛らわしい事件をしたことをベンと一緒に心から反省したが、最終的に特別な写真を2枚も撮ってもらったことを、ビルは誇りに思うのだった。

 

 

おしまい

 


【物語の出演者】

●ビルとベン

●ハンク

●ティモシー

●デリック

●マリオン

●クランキー

●トップハム・ハット卿

●カメラマン

エドワード(not speak)

●ノランビー伯爵(not speak)

●トーマス(cameo)

●ゴードン(cameo)

●パーシー(cameo)

●ネビル(cameo)

●ロージー(cameo)

●ヒロ(cameo)

●チャーリー(cameo)

●スクラフ(cameo)

●ハリーとバート(cameo)

ソルティー(cameo)

シドニー(cameo)

 

 

【あとがき】

 感情に振り回されて注意を怠っては行けないと言う自分が経験した教訓をもとに、双子のどちらかに救いがある物語を描きたくて書きました。

当初の予定では『見分けの問題』というタイトルで、名札を交換する理由を仲間を騙すためにするつもりでしたが、それだといつものビルとベンの迷惑な物語としてなんら変わらないと思ったので今年に入ってから投稿の直前にプロットを考え直しました。名前が似ていることもあって、どちらにしろ撮影中は考案した自分さえ混乱してしまうくらいややこしい物語に仕上がりました。ある意味、原作の『The Missing Coach』より難解かもしれません。

撮影ではビルとベンの電池カバーを入れ替えただけです。名札を見ての通り、どちらも元はベンなんですよね(苦笑)

 

 

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