ブレンダム港は、いつも活気にあふれている。
機関車や船が行き来するだけでなく、クレーンのクランキーが船から荷降ろししたり、ソルティーとポーターが貨物列車を牽く機関車たちのために、せかせかと入換え作業をしたりと、とても賑やかな場所だ。
でも時々、何も仕事がないときがある。
その日も港は静かで、彼らは暇を持て余していた。
だが、ティッドマスの港は忙しいようだった。
そこで、ポーターと、クレーン機関車のハーヴィーが、トップハム・ハット卿に呼び出された。彼らが協力して、そこで仕事をするのだ。
ポーターは、トーマスよりも小さなタンク機関車だった。だけど、やることはよくわかっているので、仕事を覚えるのが早く、乱雑に散らばる貨車を、素早く集めて入換え作業に励んでいた。
ところが、作業員の手信号を確認しながら引き込んでいると、そこで邪魔が入った。
「おや、こんなところで "ちんまりラクダ"が、日向ぼっこしているぞ」
波止場へ出てきたヘンリーが、ポーターのドームを見て、からかった。
「そこを どけ、チビ。ご立派な 急行用 大型機関車様の お通りだ」
と、修復を終えたばかりのゴードンが、大威張りで言った。
「ラクダは 砂漠に いるべきだね」
と、どさくさに紛れてジェームスも、からかう。
そんな彼らの威張りようを見て、ダックは怒った。
「やめろよ。ポーターは 立派な機関車だぞ。ラクダなんかじゃない」
「いいのさ ダック。ラクダって あだ名で呼ばれるのも 悪くないもの。今、どくから」
そう言って目配せをしたポーターは、速やかに線路を切り替えた。
ゴードン達は威張りちらして駅へ向かっていった。
するとそこへ、後ろの方から、張りのない声が聞こえた。
ハーヴィーだ。彼は、大きな貨車に挟まれて、身動きが取れなくなっている。
「ピッピー! 誰か助けて。この貨車たち、すっごく重いんだ」
「今 行くよ」
ポーターは、すぐに線路を変えて、重い貨車と連結すると、あっという間に定位置まで移動させた。
戻ってきたポーターに、ハーヴィーが歓声を上げた。
「ありがとう。すごいじゃないか。君って 僕みたいに小さいけど、すごく力持ちだね」
「ふふ、それほどでもないさ」
ポーターは控えめに答えた。
その頃、駅ではトーマスが本線の列車の準備をしているところだった。
港からゴードンとヘンリーがホームへ入ってきた。
「俺様の急行客車は 何処だ」
「僕の隣だけど、自分で取りに行ったら、どう」
トーマスは、ゴードンが小回りが利かない事をわかっている上で、からかった。
「冗談じゃない。のろまな列車しか 牽けないくせに、生意気だぞ」
「どんなに小さくても、大きなことが やれるんだ。忘れちゃった?」
「へー、そいつは驚いた。じゃあ君は、20台の貨車を一台で運べるのかい」
と、ヘンリーが意地悪く口を挟んだ。
「ら、楽勝さ」
トーマスは、自信がなさそうに答えた。
トーマスは大きな機関車たちの威圧から逃げるように、貨車を傍の港へと運んだ。
そこでは巨大な機関車が、貨車が繋がれるのを待っていた。
「おはよう、マードック。なんだか 気分が悪そうだけど、大丈夫かい」
「ああ、この前の事故で、よろよろするんだよ」
「あとで ビクターとケビンに 診てもらいなよ」
トーマスが優しく目配せをした。彼はマードックが好きだった。マードックは静かだし、威張ったりしないからだ。
マードックには、何台も連なった長く重い貨物列車を、本土へ運ぶ仕事があった。
彼が静けさの中をシュッシュッと、軽快に走っていると、突然、ガコガコン! という叩きつけるような異音が響いたかと思うと、彼の炭水車が傾いたのだった。
機関士はブレーキをかけて、線路の後方を見て叫んだ。
「車輪が取れてる!」
「うそだろう。走る事が 出来ないじゃないか」
間もなく、エドワードとヘンリーとロッキーが復旧作業にやってきた。
マードックは惨めだった。10個の動輪は無事なのに、炭水車の車輪が外れただけで走れなくなってしまったからだ。
「ソドー整備工場で、確かめてもらおう。頼めるかい、シドニー」
「お任せください。すぐに 整備工場へ 向かいます」
炭水車が載せられた平台貨車に連結されたシドニーが陽気に言った。
「信用ならないのだが…」
平台貨車の後ろに繋がれたマードックが、心配そうにつぶやいた。
シドニーは彼の巨体を持ち運べるほど力持ちだったが、忘れっぽいからだ。
シドニーが出発した後で、ヘンリーがマードックの貨車を運ぶことになった。
ところが、彼もまた、調子が悪いようだった。ゴードンの丘を登って中腹まで来たところで、どうにも力が入らない。車輪は空回りし始めた。
「お腹が痛くなってきたなぁ」
そこへ、ゴードンが客車を牽いて隣の線路を走ってきた。
「ねえ、この急行列車を、運んでくれないかな」
「いくら急行でも 貨車は お断りだね」
ゴードンはヘンリーの列車を見て言った。
「やっぱり だめか」
ヘンリーはやむを得ず、ウェルズワース駅まで戻ってきた。
彼の機関助士が電話を借りようとした時、あらかた作業を終えたポーターとハーヴィーが通りかかった。
「どうしたんだい」
しょげた顔のヘンリーに、ポーターが声をかけた。
「マードックの列車を 引き継ぐことになったのに、調子が 出ないんだ。こんなんじゃあ、また トップハム・ハット卿を 困らせちゃうよ」
その時、ハーヴィーが何かを閃いた。
「それなら、ポーターが引っ張ってみたら、どうだろう」
「君が、この列車を? そんなの 火を見るより明らかじゃないか」
ポーターはヘンリーの云うとおりだと思った。
「手伝いたいけど、僕の仕事は、入換え作業だ。列車は務まるかな」
「できるとも。だって 君は 力持ちだ。重い貨車たちだって 素早く 移動させられるほどにね」
「そこまで言うなら…」
戸惑っていても仕方がない、そう思ったポーターは、動けないヘンリーを側線に移すと、貨物列車と連結した。
そしてドームから砂を出し、撒かれたレールをガッチリ踏みしめて、彼は力強くピストンを動かした。すると、列車はたちまちポーターと一緒に走り出したのだ。
「いいぞ、すごいや、すごいや!」
操車場から、ハーヴィーが歓声を上げた。
案外、楽そうに牽いて行くポーターに、ヘンリーも驚いて目を丸くした。
ポーターは、そのままゆっくりと長い列車を牽いて田園地帯を走る。
彼が海の歌を歌うので、貨車たちも楽しそうについていく。
だが、せっかくの調子も、すぐに台無しになった。ゴードンの丘に辿り着いた時には、彼の速度が遅くなっていき、列車は再び丘の中腹で止まってしまった。
砂をどんなに撒いても進まない。列車に比べて、小さなポーターが、あまりにも軽すぎるのだ。
「ありゃ。一人で出たのは 失敗だったかな。ハーヴィーに 押してもらえば 良かった」
車掌は危険を知らせるために、麓まで降りて行き、線路に信号雷管を仕掛けた。
間もなく、麓から破裂音が響き渡り、客車を牽いたジェームスが、のろのろやってきた。彼はブレーキ車の前で止まると、不機嫌そうに汽笛を鳴らした。
「何をしてるんだい。こんな 重い貨車、ラクダくんには 無理でしょ」
「ごめんよ。でも、前に進めないんだ。頂上まで押してくれないかい」
と、ポーターが中腹から汽笛で応えた。
ジェームスは何か言い返そうとしたが、前に線路の落ち葉で滑って立ち往生した事を思い出した。
「しょうがないなあ。わかったよ、もう」
彼は仕方なく後ろへ下がり、丘をゆっくりと下ってきたポーターの列車を押し始めた。
「ボッボー! 準備は いいよ」
「ポッポー! さあ、押すぞ。しっかりレールに しがみついていろよ」
2台は力を合わせて、レールに砂を撒いて登り始めた。
ゆっくり、ゆっくり。力強く。
「わあ、さすが ジェームス。ボッボー! ありがとう!」
頂上に辿り着くと、ポーターは彼にお礼を言って、再び慎重に丘を下って行った。
ジェームスは頂上から、ポーターを見送った。うららかにもうもうと蒸気を上げて、長い列車を牽く彼の姿に、最初は見下していたジェームスも、内心感心していた。
隣の線路に移ったジェームスに追い越されたが、ポーターは、また歌いながら、石橋を渡り、途中の駅で水を飲み、谷を越えて、ようやく列車は整備工場の前までたどり着いたのだった。
駅では、トーマスとトップハム・ハット卿が彼を待っていた。
「やったね、ポーター! 小さくても大きなことが出来るって、みんなに証明したんだ」
と、トーマスが歓声を上げた。
駅の構内にいたピーター・サム、チャーリー、そしてビリーも、一緒に汽笛を鳴らして彼を祝福した。
「よく ここまで 頑張ったね。私は ジェームスの列車から 見ていたぞ。君は 本当に役に立つ機関車だよ」
「ありがとうございます。時間は かかってしまいましたけど、僕も 正直驚いてます」
「ここから先は、この ボコに 任せなさい。君は 港に戻って、疲れを 癒してきなさい。明日は ご褒美に ペンキを塗り替えてあげよう」
家路を急ぐさなか、空はもう夕暮れで真っ赤に染まっていた。
くたくたになっていたポーターは、途中、ウェルズワース駅で給水した。
すると、そこにはまだヘンリーの姿があった。停車位置も、疑わしげな彼の表情も、出発の時と変わっていない。
「もう 列車は 届けたのかい」
「ああ。ちょっと大変だったけど、長距離を走れて楽しかったよ。ところで、どうして君は、まだ そこにいるのかな」
「工場のディーゼルが来れないんだって。…えっと、その、君を疑って悪かったよ。もし よかったら、僕を 助けてくれないか?」
ヘンリーは恐る恐るポーターの目を見た。
でもポーターは朗らかな表情で、こう答えたのだった。
「もちろんさ」
こうして、水を補給し終わったポーターは、ヘンリーに連結して彼を引っ張って行った。ヘンリーは、自分が運べなかった列車を牽いた後で、懸命に自分を運ぶ小さなポーターの姿を見て、とても申し訳ない気持ちになった。
「今朝は、君を馬鹿にして ごめんね」
「気にしない、気にしない。助け合ったり、許し合うのが 友達ってもんでしょ」
ポーターが言うと、2台は微笑みあった。
それからは、ヘンリーもジェームスも、もうポーターをからかったりはしない。
この後でごーどんとも絡むことになるのだが、それはまた別の機会に話す事にしよう。
一方、シドニーは、自分の機関庫へ帰ってきた。マードックを連れて。
「よーし、任務完了! 整備工場に 到着です」
「やれやれ。シドニーに任せるんじゃなかったよ」
かわいそうなマードック。
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●ヘンリー
●ゴードン
●ジェームス
●ダック
●ハーヴィー
●ポーター
●シドニー
●トップハム・ハット卿
●マードックの機関士
●エドワード(not speak)
●ビリー(not speak)
●チャーリー(not speak)
●ボコ(not speak)
●ソルティー(not speak)
●ピーター・サム(not speak)
●ロッキー(not speak)
●クランキー(not speak)
●エミリー(cameo)
●デニス(cameo)
●デン(cameo)
●ノーマン(cameo)
●パクストン(cameo)
●ウィンストン(cameo)
●アニーとクララベル(cameo)
●ジャック(cameo)
●アルフィー(cameo)
●ネルソン(cameo)
●ビクター(mentioned)
●ワークスディーゼル(mentioned)
●ケビン(mentioned)
【あとがき】
リメイク第19弾は2016年4~5月頃に投稿したP&TI S13 E26『小さな救世主』でした。
2015年12月、プラレールマードックの車輪ゴムを取り換えようとした時に、炭水車の車輪を本気で失くしました。それをネタに出来上がったのが、本作のオリジナル版でした。車輪は2020年現在もまだ行方不明です。
ポーターはキャラクター的に弱くて主人公に向かないと思っていたので、当時は主役回を頼まれても断っていましたが、その辺りでしたかね、機関車の性能を調べるようになったのは。2016年の時点で、一番牽引力が強いタンク機関車キャラクターがポーターと云う事に気づきました。それも僅差でヘンリーに勝っていました。そこで救世主をポーターに選択したわけです。(なお重量は軽い模様)。
機関車の牽引力一覧につきましては、後日Z-KEN's Waste Dumpの方で投稿しようと思いますので、そちらの方を参考にしてください。