Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E01 じかんげんしゅ (再投稿版)

※この記事は、2017年3月30日に以前のブログに投稿したものを再編集したものです。

 


 その日は、空がよく晴れ渡り、島中が賑わい活気にあふれていた。

でも、トーマスだけは違った。彼の表情には今にも雷鳴が響くかの如く曇っていた。

とても機嫌が悪いようだ。

ヘンリーの列車に遅れが生じており、トーマスはかれこれ10分も乗換駅で待たされているからだ。

彼は時間に遅れることが嫌いだった。とくに他の機関車の面倒で遅刻するなんてまっぴら御免。乗客が気の毒だし、局長のトップハム・ハット卿から1番頼りにされる機関車でいたいと強く想っているからだ。

アニーとクララベルもそれを知っていたので、その事はあまり気にしていなかった。



発車時刻から14分が経過。もう我慢の限界だ。

トーマスが合図も待たずに出発しようと深呼吸した矢先に、やっとヘンリーが到着した。ゼェゼェと荒々しく息を切らして。

「ごめんよ。炭水車のブレーキ装置が イカレてね。次は ちゃんと 時間通り来るからさ」

「次からは ウェールズの石炭を使えばいいよ。そしたら どんな気分も良くなるんだろ」

痺れを切らしたトーマスは皮肉を言うと、何か言い返される前に怒って駅を出て行った。

「何だよ。なまいきな チビ」

疲れて喧嘩を買う気にもなれないヘンリーは、受け流すことにした。

けれども、これからは二度と乗客を待たせないように最善を尽くそうと心に誓った。

「トーマスにまで あれこれ言われるのは、嫌だからなぁ」



 次の日、トーマスは、仲良しのバスのバーティーに競争を持ち掛けられた。

バーティーに負けじと彼が猛スピードを出すので、後ろに繋がれた2台の古い客車は右へ左へ揺さぶられる。

「スピードを落として。また トップハム・ハット卿に 怒られるわよ」

「私たちの お客さんは ポップコーンじゃないのよ」

でも、トーマスは競争に夢中だったので耳を貸さない。負けるとバーティーにからかわれるのだ。

ここまでは乗客の乗り降りもスムーズで、信号で止まることもなく快調だったのだが、問題は例の乗換駅だ。

『きっと また 遅れてくるだろうな…』

などと考えながら、彼らはほぼ同時に乗換駅に滑り込む。



トーマスの予感は的中した。やっぱり隣のホームはがら空きではないか。

もうすぐバーティーが発車するところだ。

あわや乗客を待たずに出発しようとしたその時、ヘンリーがあくせくやってきた。

「1分の 遅刻だぞ」

トーマスが厳しく言った。

「ほんの 1分くらい、いいだろ。少し乗客のトラブルがあったけど、頑張って走ったんだ」

「あまえるな。遅刻は 遅刻さ」



「どうやら、今日は 僕の 勝ちみたいだね」

丘の上からバーティーが言った。彼は今か今かと出発の準備をするトーマスを見下ろしながら、駅前のバス停からまるでジェット機のように飛び出していった。

それからやっと、乗客の乗り降りが終わり、車掌が笛を吹いた。

「ヘンリー、きみは 太り過ぎなのさ。そのデカブツを 切り離して、タンク機関車にでもなったら どうだい。そしたら僕みたいに身軽になれるよ」

トーマスはヘンリーに向けて言い放つと全速力で走り出した。

当のヘンリーは「やれやれ」と呆れるばかり。



やり取りを見ていたアニーとクララベルはとうとう我慢できなくなった。

「ひどいわ、トーマス。今のは ヘンリーが かわいそうでしょ」

「でも 時間を守らなかったことに 変わりはないだろう」

トーマスが言い返す。

今はヘンリーを悪く言ったことより、バーティーとの競争が大事のようだ。

「競争に 勝って、遅れた分を 取り返すぞ。いそげや いそげ」

彼はそう言うとアニーとクララベルを急かし再び競争に集中し始めたので、彼女達はすっかり呆れ返ってしまった。



 翌朝、トーマスは始発列車として支線を走ることになっていた。

ところが、駅では列車に乗る予定のお客がやきもきしながら待っているというのにトーマスが機関庫から出てこないではないか。

今朝のトーマスは目覚めが悪かった。罐の火がなかなか点かない。昨日の競争でくたくたに疲れてしまっていたのだ。

「ピッピッ! 起きろよ、なまけもの」

パーシーが生意気に汽笛を鳴らした。

かましい音で「はっ」と目を覚ましたトーマスは、庫内時計を見るや否やびっくりして飛び上がった。

「まずいぞ、たいへんだ。遅刻だ 遅刻」

彼は大慌てて機関庫を飛び出して、アニーとクララベルを連結すると、プラットホームへ急いだ。



「昨日は フライパンの上の 豆の気分を味わったかと思えば、今日は発車時刻を大幅オーバー」

「まったく。酷い鉄道だ」

お客は口々に文句を言いながら客車に乗り込む。

アニーとクララベルは気が気ではない。

「今日は、昨日の競争みたいに 速く 走っていいからね…」

扉が閉まったと同時に車掌が旗を振り笛を吹く。

トーマスが勢いよく蒸気を噴き上げて走り出す。すると、今度は別の問題が起きた。

トビーが慌てて彼を止めたのだ。

「トーマス、ミルク運搬車を 忘れてるよ!」



 トーマスは遅れを取り戻そうと必死で走った。

「まいったな。機関士さん、もっと ブレーキを緩めましょうよ」

「だめだめ。牛乳瓶が倒れてしまう」

更に悪いことに、フィニー農場の前で、赤信号に捕まってしまった。

「今度は何だ。どうして赤なの」

途惑うトーマスの元へテレンスが近づいてきた。

「さっき 連絡が あってな、この先の トンネルの中で パーシーが 脱線したらしい」

彼の運転席から農夫のフィニーさんが言った。

トンネルの出口まで線路は単線なので迂回するルートがない。

事故の後片付けが終わるまで待たなくてはならなかった。



 乗換駅に着いた時には定刻を20分も過ぎていた。

もちろん、ホームにはヘンリーが居る。トーマスには知る由も無かったが、彼は時間通りに到着しずっと待っていたようだ。

「何を やっていたんだ。この なまけもの」

ヘンリーが、待ちくたびれた表情も忘れて、ニマニマしてからかった。

「じょ、助士が怠けていたんだよ。それに パーシーのおかげで こっちも随分と待たされたんだ。僕のせいじゃないよ」

「もとはといえば、あなたが 寝坊したせいでしょう」

と、アニーが咎める。

「それは、えっと、昨日 バーティーが競争しようって云うから…」

「そんなの 言い訳にならないね。僕みたいに 大きな罐と 炭水車を使ってごらんよ。寝坊したって スピードがあれば 遅れを取り戻せるだろう」

今度はヘンリーがトーマスに言い返すと、反論される前に颯爽と駅を出て行った。

トーマスは何も言い返せず、ただ黙って彼の出発を見送るだけだった。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】
●トーマス

●ヘンリー

●パーシー

●トビー

●アニーとクララベル

●バーティー

●乗客

●トーマスの機関士

●農夫フィニー

●テレンス(not speak)

●ジェームス(cameo)

ヘンリエッタ(cameo)

●トップハム・ハット卿(mentioned)

 

 

 

【あとがき】
 初っ端からサツバツとしていてすみません。(苦笑)

前々からトーマスの支線で起こる、ごく、ごく平凡な日常的なエピソードを書きたかったのと、各々のキャラクター「らしさ」とは何だろうと考えながら書きました。

トーマスの性格と云えば生意気で元気で決断力に長けている等のイメージがありますが、同時に一言二言では纏められない程の幅広い個性がありますよね。その一部であるちょっぴり自信家だったり、稀に自分の非を容易に認めない節があったり、頼りがいのある機関車と認めてもらいたくて時間にうるさかったりなど、そこらへんの絶妙な人間臭さを掘り下げて今回のエピソードを書いてみたのですが、今考えるとちょっと過度な表現だったかもしれませんね(※P&TI S14のシナリオ考案は2014年頃になります)。

もし不快に思われた方がいらしたら申し訳ありません。今シリーズ中はわかりませんが、今度はトーマスの「スゴク良い所」を徹底視して物語を考えてみようと思っている次第でありますゆえ許して。

そんなわけで上述の通り、P&TI シーズン14は日常的なエピソードとキャラクター「っぽさ」を追求した構成になっています。


…そういえば牛乳運搬車が繋がれる場所はファークァーではなくトリレックでしたね。


 

※『きかんしゃトーマス』に関する著作権はすべてマテルに帰属します。