機関車たちにはそれぞれの責務がある。
例えば、トーマスとダックは客車を牽いて各々自分たちの支線を走る事だ。ゴードンは本線で急行列車を牽き、ソルティーは港で貨車の入換え、そしてディーゼルは操車場での入換えも兼ねて貨物列車を引っ張る事だった。
どれもみんな重要な任務だ。
中でも特に重要なのは、特殊消防車のフリンだった。
彼の仕事は見ての通り、火災現場の消火活動や救命活動などで、緊急時にはレスキューセンターから勢いよく飛び出して、素早く現場に駆けつけるのだ。
そしてレスキューチームの一員として自分の責務に誇りを持っていた。
ある日、ディーゼルは一両のブレーキ車を牽いて、石切り場へ向かっていた。 メイビスとトビーを手伝う為に入換え作業や、切り出された岩の運搬に励むのだ。
意気揚々と平野を走っていると、突然目の前の緊急信号が赤に切り替わったので、ディーゼルは急ブレーキをかけてポイントの前で止まった。
ポイントは急行用の線路からディーゼルの居る線路の方へ切り替わっている。
すると、後方からけたたましくサイレンを鳴らしながら、フリンが線路を駆けてやってきた。
「道を 開けてくれ。特殊消防車の お通りだ!」
彼はディーゼルの前を通り過ぎていくと、すぐ傍の、外れの安全側線へ入って行った。その先は線路が途切れており、道路に繋がっている。フリンは一旦止まって線路用の車輪を車体の中にしまい込むと、道路用のタイヤを回してそのまま道路を進みだした。
「ふん、偉そうに」
わけもわからず線路を割り込まれたディーゼルは、面白くなさそうに仕事へ向かう。
暫くして、ディーゼルが支線へ入ると、今度は別の安全側線にフリンがいることに気が付いた。
フリンはその場で消火活動を終えて梯子を閉まっているところだったが、ディーゼルの目には、彼が近道を使ってズルをしているように映った。
その後でディーゼルは問題なく石切り場へたどり着いたが、少し遅れが出ていた。
待っていたトビーは不機嫌そうに、
「今度は もう少し 早く来てね」と、口をとがらせて言った。
ディーゼルは何だか腑に落ちずにいた。
「あいつが 俺の線路に 割り込まなければ…」
彼は険悪に呟いた。
間もなく、ディーゼルは岩の積まれた重い貨車を牽いて、再び支線へ折り返した。すると、ファークァーの操車場のわきで、燃料を補給しているフリンを見つけ、絡みに出た。
「お前 さっき 近道をしただろう。ズルイじゃないか」
「えっと、あれは 緊急事態だったんだよ」
「遅刻でも したのか。速くて 勇敢なヒーローの 名が廃るぜ」
と、ディーゼルはフリンの嫌悪感を煽るように嫌味みたいに言い、フリンが何か説明しようとする前に、警笛を大きく鳴らして走り出した。そして、去り際に一言。
「もう 二度と 近道を使うなよ、お高くとまった消防車君」
流石にこれは言いすぎだが、ディーゼルはフリンが二度と自分の前を遮らないようにと思ってわざと大袈裟に言ったのだった。
次の日、あろうことか、ディーゼルは遅れていた。今度は長い列車を牽いて、大きな駅に着くまで急いで全ての駅を通過しなくては、予定通りに走る旅客列車を待たせることになる。
彼は焦っていたが、入換用に造られているため、思うようにスピードが出ない。
「このままじゃ、まずいぞ」
ふと陸橋の下を見おろすと、黄色いボディの美しいフローラが彼の目に留まった。彼女は路面に埋め込まれたレールをゆっくり歩いている。
その時、彼はあるアイディアを思い付いた。
ディーゼルが例の安全側線の前にやってくると、再び緊急の停止信号が赤に灯った。
フリンがやってくる様子は無い。どうやら、安全側線のポイントが故障したようだった。フリンの通過は関係なしに、ディーゼルはまた待機しなくてはならなくなった。
ところが、機関士が操作を誤ったのか、ディーゼルが勝手に動き出したのだ。
「ああっ、おい、待て!」
機関士が叫んで止めに入ったが、もう遅い。
ディーゼルは機関士を運転台から振り落とし、嬉々としてフリンの近道へと入っていく。そこへやってきたフリンが呼び止めても、ディーゼルは知らん顔で道路へ侵入した。
「馬鹿な真似は よせ。君は 道路を 走れないんだぞ」
「いいや、走れるはずだ。あほなフリンに出来て、俺が 出来ないはずは…」
だが、その考えはあまりにも浅はかだということが、彼にもすぐに分かった。道路はカーブしており、ディーゼルは曲がろうと思っても曲がれず、ガードレールを突き破って土をえぐるようにしてようやく止まった。
列車もディーゼルに続き次から次へと脱線していき、最悪な事に燃料運搬車が転覆した事で燃料が外へ漏れてしまった。ディーゼルの顔色が一気に青ざめた。
「た、助けてくれ!」
フリンは助けを呼びに行こうとしたが、いつ火災が起こるかもわからないので、見張ってなくてはならなかった。
と、そんな時、隣の線路をエドワードが走ってきた。
彼は貨物列車を牽いている最中だったが、親切なエドワードはディーゼルの危機を見逃さなかった。すぐにレスキューセンターからロッキーを運んで現場に戻ってきた。幸い、火災も起こらなかった。
ディーゼルはロッキーに吊るされながら自分の愚かさに情けなくなった。二度とこんなことはしないようにと、トップハム・ハット卿の前で反省した。
「本当に 申し訳ありません。俺も フローラみたいに 上手く道路を走って 近道が出来たら、遅れを 取り戻せると思ったんです。だけど、失敗でした」
「残念だけど 君には ハンドルが必要だったね」
と、フリンが冗談まじりに言う。
「それに、フローラは トビーと同じ 路面機関車だよ。ところで、フリンは 自由に車輪を出し入れできるでしょう?」
「それが どうかしたのかい、エドワード」
「なら、その側線を使わなくても 道路に乗り入れができるんじゃないかな」
その言葉に、フリンはキツネにつままれたような顔をした。
だが、ハット卿は、すかさずこう説明する。
「確かに 君の言うとおりだが、線路と道路の間は、たいてい 柵や木が あるだろう。そういう場所には 欠かせないんだ。ただ、フリン、道路を中心に走るときは、彼の言うとおり、予め 出動前に 車輪を閉まうといい」
それからは、フリンは道路を中心に消火活動を行う際は予め道路用のポンプ車を牽いて道路を使うようになった。
ディーゼルは二度と道路へ侵入しようとは思わなくなり、たとえフリンが自分の線路に割り込んで救助に向かったとしても文句を言わなくなった。何故って、それが彼の果たさなくてはならない責務だものね。
おしまい
【物語の出演者】
●エドワード
●トビー
●フリン
●トップハム・ハット卿
●ディーゼルの機関士
●トーマス(not speak)
●ゴードン(not speak)
●ダック(not speak)
●フローラ(not speak)
●ソルティー(not speak)
●ロッキー(not speak)
●チャーリー(cameo)
●ノーマン(cameo)
●バルジー(cameo)
●メイビス(mentioned)
【あとがき】
リメイク第三弾は2012年7月16日投稿のPToS S11 E03でした。今後の創作に使用する予定のフローラは今回が初出演です。
P&TI S13以前の作品を投稿していた時はオリキャラの辻褄に合わせる為無理やり90年代としていましたが、実は昨年頃から密かに時系列を改訂していました。設定は下記のとおりです。
PToS S10→公式第14シリーズの直後
PToS S11→公式第16シリーズの直後
PToS S12→公式第18シリーズの直後
私はまた、公式TV版の第12シリーズ~第20シリーズ及びTGRまで(エピソード順不同)を1956年~1970年ぐらいと解釈しています*1*2。このため、これらリメイク作品も概ねその具合と思っていただければ非常に幸いです。
なお、改訂後のP&TIシリーズの時系列は以下の通りです。
(それぞれエピソード順≠時系列)
P&TI S13→1968~1984年
P&TI S14→1968~1993年
P&TI S15→1970~2003年*3
P&TI S16→2015年以降