Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S13 クリスマスのふゆぎりに


 ソドー島はもうじきクリスマス。
路面も線路もはふわふわの雪で覆われ、町中では雪だるまを作ったり、サンタからのクリスマスプレゼントを心待ちにする子供たちの笑顔であふれかえっている。
そんな幸せそうな気分は機関車たちも同じだった。皆、雪は嫌いだったが、クリスマスはいつだって特別なのだ。
クリスマス・イブには、ウルフステッド城でパーティーが開かれることになっている。その準備も兼ねて人々が笑顔でいられるよう、機関車たちは今日も一生懸命に働くのだった。



 ある日、パーシーは郵便配達の仕事に励んでいた。
とくにこの時期の郵便配達はとても忙しかった。
サンタへの手紙や、クリスマスカードなどの郵便物を届けに支線を行ったり来たりしている。
ナップフォード駅で郵便物を貨車に詰め込んでいると、隣の貨物線にドナルドがやってきて話しかけた。
ごきげんよう、パーシー。ウィフの話に よれば 今夜は 濃い霧に なるそうです」
「本当かい。それじゃあ 用心しなきゃね。ビクターに頼んで ランプの点検を してもらおうっと」
「そう、用心せねば なりません。なにせ 冬霧には 恐ろしい怪物が つきものですから…」
ドナルドは気味の悪い声で言った。でもパーシーは怯まなかった。



 夕方になって、ヘンリーが目を覚ました。
真夜中に港で郵便物を受け取るため出発の準備をしているとパーシーがからかいにそばにやってきた。
「やっと 起きたんだね。怠け者さん」
「仕方が ないだろう。昨日も一昨日も 夜行列車を牽いて、機関士さんだって くたくたなんだから」
「ふーん。そうだ、今夜は 濃い霧に なるらしいぜ。怪物に 食べられないよう 気を付けてね」
パーシーは悪戯っぽくそう言うと、貨車の入換えをするために一旦港に向けて飛び出していった。
「ばかなやつ」
と、ヘンリー。



 夜がやってきた。
辺り一面真っ暗闇で、星空さえ見えないほどの深い霧が立ち込めている。
でも、夜行列車を牽く機関車たちはへこたれない。ランプの灯が行く手を照らしてくれているからだ。
「線路 異常なし。このまま徐行で いくぞ」
乗換駅で待っているトーマスとパーシーに郵便物を渡したヘンリーは、残りの郵便物をヴィカーズタウンで待っているヒロのところまで運ぶため本線をひたすら走っていた。
寒々とした風がヘンリーの体を締め付ける。
「まったく パーシーは 臆病だな。怪物なんて、いやしないのにさ。…おや」
前方に霧の中でゆっくりとうごめく巨大な影が見えた。
先の尖った頭にムカデのように伸びた身体に幾つもの足、そして大きく膨れ上がったお腹。
さらにまるで威嚇しているかのような「ギーギー」という奇妙な鳴き声も発しているではないか。
そう、それはまさにパーシーの云っていた…
「怪物だあ!!」
ヘンリーはもうビックリ仰天。彼は逆転機を使うよう機関士に言って、一目散に乗換駅まで後退する。
その大声に向こうも怯んだのか、巨大な影はまるでこちらの様子を伺っているかのようにじっと見つめていた。

乗換駅ではトーマスとパーシーが支線へ出発する準備をしていた。
そこへ、トーマスのボディのように顔を青ざめされたヘンリーが滑り込んできたのを見て彼らは驚いた。
てっきりヴィカーズタウンに着く頃だと思っていた矢先だったからだ。
「なんだい、ヘンリー。そんなに 血相変えて、方向転換まで しちゃってさ」
「で、で、出たんだよ。パーシーの云っていた 冬霧の怪物が」
ヘンリーが震えながら言った。
「ばかな。あれは ちょっと からかっただけさ。でも ドナルドが言っていたことだから ひょっとして…」
パーシーも心配そうに言う。
「もう あそこに行くのは ごめんだね」
ヘンリーは郵便車との連結を外すとティッドマス機関庫めがけて走り去っていった。
一方でトーマスは呆れている。



 翌朝、ヘンリーが機関庫で目を覚ました時には、他の機関車たちにゆうべの出来事をとうに知られていた。
「冬霧の怪物を 見ただって。お前ってやつは 本当に 臆病な機関車だな」
ゴードンが笑う。
「でも 本当なんだ。膨れた お腹から 何本も生えた足を動かし、鋭く尖った頭を 横に振っては ギーギー なきわめくんだ。まるで  巨大なムカデみたいだった」
「びくびくしちゃって 情けないわね。そんな話、信じられると思う?」
「どうせ 干し草か何かを 見間違えたのさ。パーシーと 同じようにね」
と、エミリーとジェームスも言う。

 

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 その日の昼下がり、パーシーはブレンダム港で休んでいたヒロとソルティーに、ヘンリーの見た怪物について話していた。
「そいつは きっと、"うわばみ"だな」
ソルティーが言った。
「うわばみって なんなの」
パーシーが訊ねるとヒロが優しく答えた。
「大きなものを まるごと 一飲みする、大ヘビの事だよ、パーシー。だが 心配することは無い、それは 日本にしか いない 怪物さ」
「ここで いうところの ワームだな」
「まあ 何にせよ 怪物なんて この世には いないよ。そう、大切な友達に 教わったんじゃないのかい、パーシー」
「そうだね。きっと ヘンリーは 幻覚を見たんだ」



 その夜、ゴードンは急行列車を引っ張っていた。
「まったく ヘンリーには 呆れてくるぜ。同じ大型機関車として 恥ずかしい」
彼はまだヘンリーの事で頭がいっぱいだった。思い出してはつい吹き出してしまう。
この日も辺り一帯に霧が立ち込めていた。
通過予定のマロン駅に近づけば近づくほど、霧はどんどん濃くなっていく。
「ええい、鬱陶しい。こんな霧、俺様のスピードで 切り開いてやる」
「落ち着けよ ゴードン。前が 良く見えないから 速度を落として 進むぞ」



その時だ。ゴードンの前方に2つの赤い光がぼうっと現れた。
更に近づくとゴードンよりも大きくてずっしりとした巨大な影が見えてくる。
「ギュウン、ギュウン…」という奇妙な荒い息ような音も聞こえる。
機関士たちはその正体が分かったようだが、ゴードンにはそれが、赤い目を光らせたムカデの怪物に見えた。
「お、お、お、お…」
彼は思わず立ちすくんでしまい恐くて目をぎゅっとつむった。
そんな彼を見て機関士が笑った。
「どうしたんだ、ゴードン。ひょっとして怖いのかい」
「なんでもないですよ」



 一方、ウェルズワース駅ではパーシーが配達の準備をしていた。
「ようし、後は エドワードの支線だけだ」
そこではジェームスも一緒だった。ゆうべヘンリーが置き去りにした郵便車を牽いて走るためだ。
朝方までに配達しなくてはいけない。
「どうして 僕が 郵便配達なんて しなくちゃいけないのさ」
「仕方ないよ。ヘンリーは 臨時列車の仕事が あるんだから。それに みんな クリスマスの準備で 手が空いてないのさ」
ジェームスは嫌そうに「シュウゥウ」と大きなため息をついてヴィカーズタウンに向けて出発した。
「さっさと終わらせて ゆっくり休もうっと」



「やれやれ」と、パーシーも出発しようとしたその時、けたたましく鳴る汽笛と共に誰かが全速力でこちらへ走ってくるのに気付いた。
それはさっき出発したばかりのジェームスだ。ものすごい速度で後退しているではないか。
何者かから逃げているようだ。
「助けて! 出たよ、出たんだよ!」
彼は心配そうに見つめるパーシーには目もくれず、信号が切り替わっていることにも気づかないまま、エドワードの支線に駆けこんだ。



 配達を終えたパーシーは脅えるジェームスと一緒にブレンダムの港で一夜を過ごした。
ジェームスの郵便車はダグラスが代わりに行ってくれたので二台は安心して休むことが出来た。
しかし先日からの騒動が気掛かりだ。
まだ町中の人々が眠っているであろう早朝に寒空の下で港の機関車たちが集う。
「本当なんだ。ワームみたいな 巨大な怪物が 線路を這いずり回っていたんだ」
ジェームスが必死に説明する。
「昨夜 ゴードンも 見たらしいよ。2つの赤い目を ぎらぎら 光らさせていたんだって」
エドワードも言う。
「僕が 見た時は 光ってなかったよ。でも機関車を 丸呑みしそうな ワニみたいな頭をしていたよ。それに お腹が ものすごく大きいんだ」
ジェームスの言葉にパーシーが勘付いた。
「待って。ワニだって」
そこへ、後ろから誰かがやってくる音がした。
「やあ、こんにちは」



霧がだんだんと薄くなり視界が晴れてきた。
その先にはなんとパーシーの旧友の姿があった。奇妙な形の貨車と一緒だった。
「ゲイターじゃないか。やっぱり 君だったんだね」
ゲイターが首をかしげるとパーシーがこれまでの事を話した。
「ランプの灯が切れてるから 皆 わからなかったんだね」
「ランプだって。ありゃりゃ、本当だ。修理してもらったばかりなのに」
今度はゲイターがソドー島に三度やってくることになったいきさつを話した。
「あれから 色々あって、僕は イングランドの工場で オーバーホールを受けたんだ。何十年経過したかな。修理が 終わると すぐに仕事が来た。本土の発電所の変圧器が 古くなったから、廃棄するために このソドー島にあるブレンダム港まで、運ぶことになったってわけさ。途中で トラブルが いっぱいあって 到着が予定より 大幅に遅くなったけどね」



「ところで、あの貨車は なんだい」
ソルティーが尋ねた。
ゲイターの後ろには、誰も今まで見たことのない奇妙な形をした貨車が繋がれている。
車輪が沢山あって車体はまるで巨大な芋虫のように長くて大きい貨車だ。
ところがクレーンが真ん中の変圧器を持ち上げると、その貨車は二つに分かれてとっても小さくなった。
「あれは 大物車だよ。ドイツから来た車両でね、変圧器みたいな 大きくて重いものを、サンドイッチみたいに 挟んで 運ぶ貨車なんだ」
「それが胴体ってわけか。とすると、ゴードンが見た2つの赤い目ってのは」
「赤い目…、ああ、きっとトードのテールランプだよ。途中でブレーキ車が壊れたから、無理言ってトードを貸してもらったんだ。信頼できるブレーキ車は彼だけだもの」
それを聞いてトードはにっこりとほほ笑んだ。
一方でジェームスは恥ずかしくて仕方なかった。
「じゃあ怪物なんてのはいなかったんだ。あーやれやれ、ヘンリーやゴードンときたら、ほんっと臆病だよね」
「ジェームスだって人のこと言えないじゃない」
と、パーシーがほくそ笑む。



「これから伯爵の領地でパーティが 開かれるんだけど、ゲイター、君も どうだい」
「ああ、勿論 行くとも。君たちに 話したいことが いっぱいあったんだ」


こうして、遥々ソドー島にやってきたゲイターは、友達のパーシーや、トーマスとなかまたちに盛大なクリスマスパーティーに今年の特別ゲストとして招待された。今宵のウルフステッド城ではそんな彼ら機関車たちや子供たちの幸せそうな暖かな笑顔が溢れていたのだった。

 


おしまい

 

 

【物語の出演者】

●トーマス

エドワード

●ヘンリー

●ゴードン

●ジェームス

●パーシー

●ドナルドとダグラス

●エミリー

●ヒロ

●ゲイター

ソルティー

●テッド

●ゴードンの機関士

●ノランビー伯爵

●トード(not speak)

●ダック(cameo)

●オリバー(cameo)

●ネビル(cameo)

●ロージー(cameo)

●スタンリー(cameo)

●スティーブン(cameo)

●ポーター(cameo)

●フィリップ(cameo)

●ウィンストン(cameo)

●ミリー(cameo)

●マイク(cameo)

●アニーとクララベル(cameo)

●ローリー1(cameo)

●クランキー(cameo)

●ウィフ(mentioned)

 

脚本: ぜるけん
脚本原案: JYUN2
写真加工: NWP

※このお話は、2016年に投稿した記事を再編集した物です。

P&TI S13 サー・ハンデルとテレビカメラ

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 その日は、ソドー島でドキュメンタリー番組の撮影があり、マードックは少し憂鬱だった。彼は注目を浴びるのが苦手だ。
彼は操車場で停車中に胸の内をサー・ハンデルとデニスに明かした。
「なるべく カメラに 映りたくは ないのだが…」
「同情するよ。報道人ってやつは 品の無い集団さ」
と、サー・ハンデルが同情する。
「そんなに テレビに 映りたくないならさ、仮病を使えば いいじゃない」
隣の線路からデニスが口を挟んだ。それを聞いた2台の機関車は眉間にしわを寄せた。
「仮病だって!? 君とは 一生 分かち合えないね」と、サー・ハンデル。
「僕も怠け者は 大嫌いだ」
と、マードック。2台はぷいと走り去っていった。
「力になれたと 思ったのになあ」



 仕事を終えたサー・ハンデルが戻ってくると、機関庫の前ではスカーロイ鉄道の機関車たち全員が集合していた。
「何の集まりだい」
サー・ハンデルが訊くと、気のいいピーター・サムが答えた。
「ミスター・パーシバルから、大事な話が あるんだって」
ちょうどそこへ、ミスター・パーシバルを乗せたラスティーが到着した。
機関車が全員居ることを確認すると彼の機関室から大事な話を始めた。
「この島に テレビ局が来ていることは もう知ってるな。実は このスカーロイ鉄道も 明後日から 撮影を始めるんだ」
それを聞いた機関車たちは大喜び。もちろん、サー・ハンデルを除いて。
「僕は お断りです。誰が テレビなんかに 出るもんか」
彼は口をとがらせて言った。するとダンカンがクスクス笑いながらミスター・パーシバルにささやいた。
「サー・ハンデルは また 解体ショーを 見せつけたいんですよ」
「ちがうよ! ああ、もう。撮影日も 大人しく働きますよ。でも 絶対に カメラには 映りませんからね」



 次の朝、スカーロイ鉄道の機関車たちは、整備工場の作業員によってボディを磨いてもらっていた。撮影日に備えるのだ。
ボランティアとして本土から遥々来たキャシーとリジーも清掃作業を手伝っていた。
「なあ キャシー、今度は おいらのバッファーを 磨いておくれよ」
「ダンカンの次は 僕ね!」と、レニアス。
彼らは、うきうきと楽しそうだったが、相変わらずサー・ハンデルは憂鬱だった。キャシーたちにボディをピカピカに磨かれても、気分は全くすぐれない。
そこへ聞き慣れない声と汽笛の音が聞こえてきた。
「ピッピー! やあ、こんにちは」
「やあ、ライアンじゃないか。こんなところで 何しているのさ」
「これから 修理しに 行くところなんだ。せっかく テレビの人が来るのに 支線を撮影させてもらえないんだよ」
サー・ハンデルは『自分が ライアンだったらいいのに』と強く願った。
何故って、彼は以前テレビ局がやってきたときに、恥ずかしい映像を撮られてしまっているからだ。



 しかし彼の願いは叶うことなくとうとうテレビ局が自分たちの鉄道にやってくる日が来た。ピーター・サムが彼らを乗せる特別列車を牽くことになっていた。彼はウキウキしていた。
まず最初にカメラマンがピーター・サムを捉える。と、そこへ、
「おいらも一緒に 撮ってもらって いいですか」
横からダンカンがそわそわしながら言った。
「いいわよ。さあ、並んで。撮影を 始めるから」
と、リポーター。



一方、サー・ハンデルはダンカンの仕事を代わりに行っていた。
「まずい。このまま走ったら 確実に報道人と 鉢合わせじゃないか…」
「どうしたんだい。そんなに暗い顔してたら、せっかく磨いてもらった自慢の車輪も 輝かないぜ」
採石場へ向かう途中のレニアスが給水塔の前で声をかけた。スレートの貨車を牽いている。
その時、サー・ハンデルはあるアイディアを思い付いた。
「なあ、レニアス。仕事を交換してくれないか」



サー・ハンデルはレニアスの貨車を牽いて上機嫌で採石場へ走る。
「ここなら カメラに映る心配も あるまい。僕は な~んて 頭が良いんだろう」
ところが喜びもつかの間。彼が転車台でターンしていると耳慣れた汽笛と走行音が聞こえてきた。
プップー! シュッシュッシュッシュッ!
それはピーター・サムだった。
楽しそうに歌を歌いながら元気な音を立て、報道陣を乗せた特別列車を牽いてこちらへ向かってくるではないか。



これを見たサー・ハンデルは大慌て。
貨車を繋いだまま一目散に大きなトンネルの中へ駆けこんでいった。
ピーター・サムはその様子を見ていた。でも、それがサー・ハンデルとは気づいていない。
「今の、ルークかい?」
「僕なら ここだよ」



 報道人たちが採石場の撮影をする中、サー・ハンデルはトンネルの向こう側で、古い蒸気ショベルカーとクレーン車に貨車にスレートを積んでもらっていた。
「早くしてよ。僕は じれったいのは 嫌いだよ」
と、じたばたしている間にピーター・サムの出発の合図がトンネルの奥底から鳴り響く。
サー・ハンデルは積み終えていない貨車を残して一目散に逃げ出した。
彼が気付くとそこはウルフステッド城の前だった。
「何とか 逃げ切ったぞ」
ほっと一息つくのもつかの間。遠くからまた例の汽笛の音が聞こえるではないか。
サー・ハンデルはスレートを積んだ一台の貨車を切り離して再度逃げる。
彼はカメラに映るまいと自身のプライドを背負い路線中を逃げて逃げて逃げまくった。
だがしかし、不思議なことに彼の行く先々に報道人らが現れるのだった。



 サー・ハンデルが気付いた時にはいつの間にやら自分たちの機関庫に戻っていた。
そこへ、またあの汽笛が遠くの彼方からこだまする。
このままでは走れなくなってしまう。そう思ったサー・ハンデルは機関庫の中に入ってやり過ごそうとした。
ところが慌てていた彼は自分の線路をしっかり確認していなかった。



ガッシャーン!
と、大きな音を立てて泥を積んだ貨車にぶつかった。
「うわ、なんだ!」
整備工場から帰る途中のライアンは物音に気を取られて信号待ちで停車しているシドニーの貨車に突っ込んだ。
貨車に積まれていた洗剤と瓶詰の炭酸水が吹っ飛び、サー・ハンデルのボイラーにかかった。
シドニー、ごめんなさい。サー・ハンデルも」
「いいんだ、全部 僕の所為さ。あ、まずいぞ。ピーター・サムが 来る」
サー・ハンデルの機関士と機関助士は、急いで機関庫に置いてあったキャシーとリジーのデッキブラシとバケツを持ってきた。
洗車のふりをする為だ。



大きな事故ではなかったので、脱線した貨車はライアンとシドニーの乗組員のおかげでピーター・サムの特別列車が来るまでに無事に片づけ終わった。
何も知らないリポーターとカメラマンはサー・ハンデルの機関士にインタビューをする。幸いにも上手くごまかすことはできたが、サー・ハンデル自身はとても惨めで恥ずかしかった。
これではマヌケな報道人より滑稽ではないか。そう思ったのだ。



 もちろん、後になって彼はミスター・パーシバルと重役にこっ酷く叱られた。
「サー・ハンデル、君が テレビを 毛嫌いしているのは よく知っている。だが 今日の君は 実に落ち着きが 悪かった。今日から一週間 機関庫で 大人しくしていなさい」


それから一週間が経って、サー・ハンデルは落ち着きを取り戻した。
もうテレビ局が来ても、二度と、あたふた逃げ回ることはないだろう。

…たぶんね。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

マードック

●ライアン

●デニス

●レニアス

●サー・ハンデル

●ピーター・サム

●ラスティー

●ダンカン

●ルーク

●ミスター・パーシバル

シドニー(not speak)

●スカーロイ(not speak)

●キャシーとリジー(not speak)

 ●ヘンリー(cameo)

●ジェームス(cameo)

●ダグラス(cameo)

●スタンリー(cameo)

●スティーブン(cameo)

●コナー(cameo)

●ケイトリン(cameo)

●パクストン(cameo)

●デューク(cameo)

●マイティマック(cameo)

●フレディー(cameo)

●ミリー(cameo)

●オリバー(cameo)

●マックス(cameo)

●イザベラ(cameo)

●スキフ(cameo)

●ノランビー伯爵(cameo)

 

脚本: ぜるけん

※このお話は、2016年に投稿した記事を再編集した物です。

P&TI S13 ゴードンのプライド


 ある日、トーマスは重要な仕事を任された。レスキューセンターの近くに新しい駅を建てるための建築資材を運ぶのだ。
現場には新しい線路が沢山敷かれていた。スタフォードは機関庫に使う資材を運んでいる。それを見たトーマスはとてもワクワクした。彼は駅で待っているハット卿に声をかけた。
「トップハム・ハット卿。新しい機関車を 手配したんですか」
トーマスが質問する。
「よくわかったな。実はな…」
ハット卿が質問に答えようとしたその瞬間、オフィスの方から管理人が駆けつけた。
「ロウハム様から、お電話です」
「今でる。また 後で話すよ、トーマス」
そう言い残すとハット卿は慌てて走って行った。
トーマスは今日一日中、彼の答えが気になって仕方なかった。



その頃、帰りの急行列車で、ゴードンはスムーズに終点に到着した。
「時間ぴったりだ。コンマ一秒も、逃さなかったぞ」
機関士が褒める。
「当たり前よ。俺様は 時間に正確な 世界一速い機関車だからな! 右に出る奴なんて いないさ」
そうは言うものの近頃調子が悪かったので彼は内心驚いていた。奇跡的な到着だったのだ。
と、そこへダグラスが水を差した。
「でも コナーとケイトリンには 負けてますでしょう。それから ピップとエマにも」
「流線型の奴らは ソドー島の機関車じゃない。それに ピップとエマは ディーゼル機関車だ。俺様は 間違いなく 島で一番速い蒸気機関車だ」
ゴードンが反論する。
「レベルが 下がっておりますよ」
「時代を 感じますなあ」
双子に軽くあしらわれたゴードンは、ぷいと決まり悪そうに走り去っていった。
「ふん、奴ら役立たずなんかに この俺様の凄さは 分かるものか」
強がってはいたが本当は今どきの機関車たちに対して劣等感を覚えていた。
ピップとエマは彼が追いつけないほど速く走れるし、あのディーゼルにも強さで負けているのだ。

ゴードンはそのまま操車場にやってきた。石炭を補充する為ホッパーの下で停車する。
「俺様の知名度なら だれにも 負けやしないさ」
ゆっくり溜息をついて彼はこうつぶやいた。
その時、給水塔の前でぺちゃくちゃおしゃべりをしているパーシーとスタンリーが目に入った。
彼らの会話は隣で停車しているゴードンにもよく届いた。
ゴードンはうんざりしたが、その時とても気になる言葉が耳に入った。
「聞いたかい スタンリー。来年 ソドー島に 最新式の電気機関車が やってくるんだって」と、パーシー。
「やれやれ。また電気機関車か。この島には そう何台も いらないだろう」
ゴードンが彼らの陰で小さく鼻を鳴らした。
「へえ、どんな機関車なんだい」
「すごく 大きくて 工場のディーゼルよりも ずっと 力持ちなんだってさ。なんでも、急行列車を 引っ張るみたいだよ」



それを聞いたゴードンはぎょっと目を丸くした。
「そろそろ お前さんも 引退だな。どうやら 局長は 本線を 電化させることが お望みらしい」
そばにやってきたディーゼルが囁く。
ゴードンは彼の言葉を信用しなかったが内心は心配で心配で仕方ない。



 その夜、機関庫では新しい機関車の話題で持ちきりになっていた。
「最新式の電気機関車だって」
と、ヘンリーが疑わしげに、
「急行列車を 引っ張るんだよ」
と、パーシーが自慢げに、
「どんな機関車か 楽しみですなあ」
と、ドナルドがワクワクしながら言った。
皆楽しそうにおしゃべりしていたがゴードンだけは違った。
彼はますます不安が募るばかりなのだ。
「いいから、口を閉じて、もう寝ろ。俺様は 朝が早いんだ」
彼は不機嫌そうに言うと、他の機関車たちは不満げに、ぷんぷんしながら黙り込んでしまった。



 翌朝もゴードンは不機嫌だった。
なまいきなトーマスが、バスとの競争に夢中で、客車の準備をしてくれなかったからではない。チャーリーが、くだらない冗談を聞かせてくるからでもない。とにかく新しい機関車の事が気がかりなのだ。
ゴードンは、お客が乗り降りする間、彼の兄弟、フライング・スコッツマンがソドー島へやってきたときのことを思い出した。
『もし、ディーゼルの言っていることが 本当だったら。いいや、そんなことはない。第一トップハム・ハット卿は…』
ふと彼はあることに気が付いた。今の局長は3代目、スティーブン・ハットだ。2代目の局長と同じ考えかどうかは定かではない。
『きっと、俺を引退させて、島を 電線で 張り巡らす気なのかもしれない。近頃 調子が 悪いからな…』
ゴードンは不安げに心の中で呟いた。



 間もなく、出発の時刻になった。
駅長が笛を吹き緑色の旗を大きく振る。
ゴードンは決心した。
「仮に それが 本当だとしても、その日が来るまでは 自分の仕事を きっちり行うまでだ。俺様は ゴードンだ。島で一番速い、有名な機関車だぞ」
彼はそう自分に言い聞かせ、汽笛を鳴らして、さっそうと駅を出て行った。



 ウェルズワースまでは順調な走りを見せたゴードンだがどうも調子が優れない。
駅に着くと、ちょうど隣の線路を直通列車のケイトリンがやってきた。彼女は元気のなさそうなゴードンを見るとその場で一旦停車した。
「あら、ゴードン。キルデイン駅まで 競争しない?」
ケイトリンが陽気に声をかける。
「そんな暇 あるもんか。俺様は とても忙しい機関車なんでな…」
と、その時ゴードンは思いとどまった。
もし彼女と競争で勝つことができたらトップハム・ハット卿は考え直してくれるかもしれない。
彼はそう思ったのだ。
「待った ケイトリン。やっぱり 競争しよう」
「やったあ!」



2台は駅長の合図で一斉に走り出した。
スタートからすぐケイトリンに追い抜かれたがゴードンも負けてはいられない。
彼は顔を真っ赤にさせてピストンを素早く、力いっぱい動かす。勝つ気満々だ。
「スピード最高記録を 出してやる」
「おいおい ゴードン。そんなに 張り切ると壊れてしまうぞ。サムも 落ち着くんだ」
機関士が彼らを宥める。
しかし助士が意図せずともゴードンはぐんぐんスピードを上げていく。
「あいつには 負けん、負けるわけには いかん」
安全弁からものすごい音が鳴り響いているとも知らずに。



ゴードンがケイトリンと互角のスピードに達したその時、トラブルが起きた。
彼らが走る線路の信号が赤に切り替わっている。
ケイトリンはスピードを緩めたが必死になったゴードンは気づかない。
「へへ、怖気づいたか」
「ゴードン、止まって。信号が赤よ!」
ケイトリンの注意もゴードンの耳には入らなかった。



ゴードンがカーブを過ぎた時、目の前の分岐点から、電気機関車のクエンティンが現れた。彼は燃料運搬車をたくさん牽いている。
このままでは、衝突事故だけでは済まない。
「そこを退け!!」
ゴードンが叫ぶ。機関士は即座にブレーキをかける。
クエンティンは彼に気付き思わず目をぎゅっとつむった。

ゴードンも思いきり力を振り絞ってレールにしがみつき、クエンティンの列車にぶつかりそうでぶつからない、すんでのところで急停車した。
「気を付けてくれよ。なにかあったら どうするんだい」
クエンティンが怒鳴った。
「ちょっと、大丈夫?」
と、ケイトリンが心配そうにゴードンらに駆け寄った。
幸いにもけが人はなく事故を起こすこともなかったが、ゴードンの車体から突然『シュー』と白い蒸気が唸り声を上げて飛び出した。
安全弁が壊れてしまったのだ。ゴードンの機関士は呆れて言葉も出なかった。


 間もなく、ゴードンはソドー整備工場へと運ばれた。彼は恥ずかしくて仕方なかった。そして、ゴードンの客車はケイトリンが引き受けることになった。
ケイトリンの乗客は彼の引き起こした大幅な遅れに対して口々に文句を言った。
これでは特急列車ではない。



整備工場には、トップハム・ハット卿がゴードンを待っていた。彼は怒っている。
「仕事中に競争は いかんということは 君も よく 知っているはずだろう」
「ごめんなさい。あのう、急行列車を もう一台増やすって 本当ですか」
「誰から 聞いたのかね」
「パーシーとディーゼルです。本線を電気機関車に任せたら 俺の出番が なくなるんじゃないかと」
ゴードンの哀しげな顔を見て、ハット卿は額に手を当てじっと考えてから答えた。
「ああ、確かに 急行列車を増やす予定だ。それも 電気機関車のな。だが 噂を鵜呑みにしては いかん。その電気機関車ミスティアイランドに繋がる トンネルを 走るんだよ。だから、まだ 君が引退することはない」
それを聞いてゴードンはほっと一安心したと同時にさっきまでの事が更に恥ずかしくなった。
「それから、調子が悪いときは いつでも言いなさい。私は君を 頼りにしているからな」
と、ハット卿が、ほほ笑んで言った。



 あれから数日が過ぎ、修理を終えたゴードンは、今まで通り誇りを持って急行列車として働いている。
もう自分の仕事を引退を心配することもない。
けれども、『いつかは 終わりが やってくるだろう』と、機関車たちを見つめながら、心のどこかではそう思っているのだった。

 


おしまい

 

 

【物語の出演者】

●トーマス

●ヘンリー

●ゴードン

●パーシー

●ドナルドとダグラス

●スタンリー

●ケイトリン

ディーゼル

●スタフォード

○クエンティン

●トップハム・ハット卿

●チャーリー(not speak)

●バーティー(not speak)

エドワード(cameo)

●ジェームス(cameo)

●ダック(cameo)

●ウィフ(cameo)

●ビクター(cameo)

●ポーター(cameo)

●ウィンストン(cameo)

●アニーとクララベル(cameo)

●トード(cameo)

●キャロライン(cameo)

●ブッチ(cameo)

●ローリー1(cameo)

●ケビン(cameo)

●フライング・スコッツマン(mentioned)

●コナー(mentioned)

●ピップとエマ(mentioned)

●ロウハム・ハット卿(mentioned)

 

脚本: ぜるけん

※このお話は、2016年に投稿した記事を再編集したものです。

P&TI S13 ボコときけんなしま


 ある朝、ディーゼル機関車のボコが機関庫で目を覚ましたところへ、駅にトップハム・ハット卿がやってきた。
「おうい、ボコ。ちょっと こっちへ 来てくれんか」
ハット卿が呼び掛けるとボコはすぐにエンジンを動かして機関庫を飛び出した。
「なんでしょうか」
ボコが尋ねる。
「君に やってもらいたい仕事があるんだ。私の叔父、ロウハム・ハット卿が ミスティアイランドを 活性化させる計画に必要な鉄骨を、レスキューセンターと ミスティアイランドまで それぞれ 運んでくれたまえ。島に到着したら、彼が 君に 指示を出してくれることだろう」
「わかりました。でも 本線の仕事は誰が」
「デリックが 代わりに 引き受けてくれる。さあ 出発の準備を してくれ。貨車は クロスビー駅に あるぞ」
ボコはミスティアイランドへ出張するのは初めてだった。
島の事は他の機関車たちから聞いてはいたが、どれも悪い噂ばかりだ。
とくにバッシュとダッシュファーディナンドは、とても変わっている。それは彼もよく知っていた。
彼は内心、心配で心配で仕方なかった。



 貨車を受け取りに隣の駅へ行ったボコは、転車台で方向転換していると、スクラフがやってきて給水塔の前で止まった。
スクラフも浮かない顔をしているボコに気が付いた。
「どうしたんだい。らしくないじゃないか」
スクラフが声をかける。
ミスティアイランドへ 行くことに なったんだ。だけど そこは"危険な島"って 聞くから ちょっと心配でね。君は あの島に 行ったことは あるかね」
「残念だけど 僕もないよ。でもヒロが 行ったことがあるって 言ってたな。美しい島だってね。そう 暗くなるなよ。バッシュ達は 変わってるけど 悪戯はしないだろう」
「そうか。行ってみないと わからないよね」
『なんとかなる。貨車を運ぶだけだ』
そう、自分に言い聞かせながら、沢山の貨車を牽いてミスティアイランドを目指した。



鉄骨を積んだ貨車が半分切り離され、隣の島へ繋がる長い長い海底トンネルをガタゴトと走った。
一面真っ暗闇の空洞をひたすら走り続けること40分。目の前に、とうとう明るい光が見えてきた。出口だ。
トンネルを出るとそこは一転して鬱蒼とした森の中だった。ソドー島の風景とは大違いで、家屋だけでなく平地もほとんど見当たらない。
凛として立つ木々は、太陽の光に照らされて輝いている。左には北大西洋が広がっていた。自然に囲まれている。
「スクラフの言う通りかも しれないな。ここは 空気が澄んでいて 美しい場所だ」



 ボコが最初の駅に到着すると、待っていたロウハム・ハット卿が明るく歓迎した。
ミスティアイランドへ ようこそ。今日は 何をして 遊ぼうか。かくれんぼか、それとも おにごっこか」
「え、あの…」
まるで老けた子供のような唐突な対応に、ボコは戸惑った。
「ハッハッハ、冗談だよ。スティーブンから 話は聞いているよ。長い貨車を ここまで牽いて、ご苦労だったね。もう一つ 君に やってもらいたいことが あるんだ。それはだな…」
と、そこへ、3台の機関車が陽気に「ポッポー、ポッポッポー!」と、けたたましく汽笛を鳴らして駅に滑り込んだ。
バッシュとダッシュ、それからファーディナンドだ。
「やあ、ボコ。久しぶり」
と、バッシュが、
「また会えて、とっても嬉しいよ」
と、ダッシュが、
「その通り!」
と、ファーディナンドが、元気よくあいさつをした。
ボコも気さくに警笛であいさつをする。



「実は おいらたち、君のために この島を案内しようって 思ってるんだけど…」
「どうだい。楽しいよ。きっと、気に入るって!」
「その通り」
3台が続いて陽気にに声をかける。だがボコは遠慮した。
「だけど 僕は これから 追加の仕事を やらなくては」
「まあまあ、いいじゃないか。少しくらいなら 遊んでもいいぞ。何しろ時間は たっぷりあるからな」
と、ロウハム・ハット卿。
それを聞いて3台は嬉しそうに万歳三唱した。
「それじゃあ、俺たちについてきて」
ファーディナンドが言った。
ボコは「やれやれ」と、溜息をついて彼らの後を追う。



 まず彼らは、ボコを材木の集積所へ案内した。交差点の多い大きな駅だ。ボコは物珍しそうにそわそわと辺りを見回す。
あちこちには木でできた建物が不安定に建っており、何年もほったらかしにされているかのように、ゴチャゴチャしていた。
「おいらたちは いつも ここで働いているんだ。木を受け取ったら あそこの製材所で 材木を作ったり、…」
「あそこのタンクで 燃料を 補給したりするんだ。奥には おいらたち専用の機関庫も あるんだぜ」
バッシュとダッシュが言った。



 次に彼らが案内したのは、伐採作業員の小屋の前。
そこには2体のクレーンが、ガタガタ揺れながら丸太を持ち上げていた。
「あれは オールド・ウィージーと ヒーホーだよ。木を積み上げるログ…ログ…」
ファーディナンドが言うと、
「ログ・ローダーマシンさ。ここで 伐採した木を おいらたちが運んで 集積所に 持っていくんだ」
ダッシュが口を挟んだ。
「その通り。それと 一つ忠告があるんだけど…」
と、その時、オールド・ウィージーがゼェゼェと息を切らしながら丸太を持ち上げると、貨車ごと適当に森の中へ投げ飛ばした。
貨車が落ちた衝撃で、放置されていた丸太が小屋へ降り注ぐ。
重い丸太に押しつぶされて小屋は木端微塵に砕けてしまった。
「今みたいに、彼らは 貨車を投げるから 注意が必要なんだ」
ボコは身震いした。



「気を取り直して、今度は あの橋を渡って 倒木トンネルに 行くよ」
ダッシュが言った方を見ると、そこにはグラグラ橋というとても古そうな橋があった。
木でできた柱は殆ど砕けており、橋は風に煽られゆらゆらと揺れている。
橋の下では濁流が丸太を押し流し橋の下に集めていく。ボコは震えあがった。
「でも、待つんだ。その橋は 危ないよ。今にも 壊れそうじゃないか」
彼は険しい表情で言った。すると3台の機関車は笑い出した。
「平気さ。もう 何十年も この状態だけど 壊れたことなんて 一度も ないよ」
と、ダッシュが意気揚々と橋を渡った。
「それが 問題だよ。だって…」
「大丈夫。見た目は 脆そうだけど 意外と 頑丈なんだよ」
と、バッシュがスピードを上げて乱暴に渡る。ボコは見ていられない。



「その通り! ほら、ボコも わたってごらん。すごく 楽しいよ」
ファーディナンドが後ろ向きで平然とグラグラ橋を渡りながら言った。
ところがボコは、怖くなってしまい、一目散に元来た道へ逃げ出してしまった。
「やっぱり 噂は 正しかったんだ。ここは とっても危険な島だ…」
彼はこの3台の機関車がだんだん怖くなってきた。それどころか一刻も早くロウハム・ハット卿の計画を中断させるべきだ、そう思いながら彼を探した。

 

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 ボコが戻ると、そこにはウィンストンに乗ったロウハム・ハット卿が、作業の準備をしているところだった。
「おや、もう お遊びは 済んだのかね」
「ロウハム・ハット卿、あなたに お聞きしたいことが あります」
「何でも 言ってみなさい」
「失礼ですが、僕には あなた方が ここを観光地として発展させようとする理由が わかりません。ここは あちこちが不安定で 危険です。とくに 客車を牽いて あのグラグラ橋を渡ったら、いつか 壊れてしまいますよ。この島のクレーンも 何を しでかすか わかりませんし…」
ボコは真剣な表情でいった。ロウハム・ハット卿も、珍しく真剣にそれを聞いていたが、ボコが話し終わると笑い声をあげた。
「ハッハッハ。心配には 及ばん。旅客列車が通る線路は 材木集積所では ないからね」
彼はウィンストンに乗り込むとボコにこう言った。
「ついてきなさい。そんな君に 路線を 案内しよう。きっと 気に入るぞ」



ロウハム・ハット卿は滑らかな運転を見せながら、島の外回りの線路を案内した。
そこはヒノキの森と北大西洋を一度に見渡せる穏やかな道のりだった。
彼の言ったとおりボコはその路線をとても気に入った。さっきまでの硬い表情はどこへやら、すっかり落ち着いて目を輝かせている。
「素敵な路線ですね。ここなら 静かで 空気も きれいだし、グラグラ揺れる心配も ない」
「君なら わかってくれると 思ったよ」
ロウハム・ハット卿も明るい笑顔を見せた。
こうしてボコは喜んで作業に取り掛かった。今では普及を心から望み仕事に取り組んでいる。

 


おしまい

 

 

【物語の出演者】

●バッシュとダッシュ

ファーディナンド

●スクラフ

●ボコ

●トップハム・ハット卿

●ロウハム・ハット卿

●ウィンストン(not speak)

●オールド・ウィージー(not speak)

エドワード(cameo)

●ジェームス(cameo)

●ネビル(cameo)

●ベル(cameo)

●デニス(cameo)

●ノーマン(cameo)

●ヒロ(mentioned)

●デリック(mentioned)

●ヒーホー(mentioned)

 

 

脚本: ぜるけん

※このお話は、2016年に投稿した記事を再編集した物です。

P&TI S13 ベルのめいあん


 ソドー島の機関車たちは、みんないつも忙しそうに働いている。中でも蓄電池機関車のスタフォードは、特に忙しかった。
普段はトーマスの支線や操車場で働いているが、彼は静かに走るのでしばしば動物を運ぶ仕事を任せられる時もあれば、炭鉱で働くこともあれば、ディーゼル機関車達の手が離せないときは、ファーディナンド達が用意した材木や鉱石を受け取り、海底トンネルを往復して貨車を運ぶこともある。



スタフォードは文句一つこぼすことなく働いていたが、内心は少しうんざりしていた。
島に戻ってきたときには、大抵トンネルの前にハット卿がいるので、一息つく余裕もないからだ。



その日も、材木の運搬でスタフォードが海底トンネルを通ってソドー島に帰ってくると、トップハム・ハット卿がウィンストンに乗って待っていた。
「マッコールさんが 羊を運んでほしいそうだ。充電が終わったら 向かってくれ」
「はい。わかり…ました…」



 長旅から戻ってきたスタフォードは、レスキューセンターの操車場で充電した。
そこへ、ベルが貨車を取りにやってきた。彼女は、浮かない顔をしたスタフォードを見て心配した。
「どうしたの スタフォード。元気ないわよ」
「ああ…。こんなことは 言いたくないけど、ここ最近、働き過ぎだと思うんだ。皆の役には 立ててるし、信頼されてるのは いいんだけど、疲れて 元気を出そうにも 出ないんだ」
ベルはスタフォードを気の毒に思った。
レスキューセンターは海底トンネルの目の前にあるので、彼女はいつもスタフォードが忙しそうにしているのを見ている。ベルは彼の力になりたかった。



 次の日、ベルはレスキューセンターを訪れたトップハム・ハット卿に、スタフォードのことを相談した。
「―スタフォードは 働き過ぎです。ほんの 小さな蓄電池機関車なのに 皆よりも忙しなくて、彼の顔が みるみる やつれている気がして…」
「確かに 君の言うとおりかもしれん。彼のために 空きの機関車の手配を するとしよう」
「なるべく 早くお願いします。でないと…」
その時、非常警報が鳴り響き、ブッチが滑り込んできた。


「フリン、ベル! キルデイン駅の近くで 火災が発生したぞ」
「軌陸消防車フリン、出動だ! 行こう、ベル」
ベルはまだ話がしたかったので、少し後ろめたい気持ちだったが、今は緊急事態だ。それどころではない。
「また後で話を聞くよ、ベル。さあ、行ってきなさい」



 やがて、長時間にわたる消火活動を無事に終えたフリンとベルは、キルデイン駅前で帰りの支度をしていた。先ほどの消火活動で、ベルのタンクには水が半分もなく、給水しなくてはならなかった。
そこへ、一台の電気機関車がベルに挨拶をした。それはスタフォードに似た形をしている緑色の車両だった。
「火を消してくれて、ありがとう」
「あらスタフォード。あなたも 来てたのね」
「ちがうよ。僕は この支線で働く、電気機関車のクエンティンだ。君と会うのは 初めてだね」
「あら、ごめんなさい。あたしは ベル。よろしく。ところで、あなたの屋根の上にある ジャッキは何かしら」



「これかい。これは パンタグラフさ。集電装置と云って、僕ら電気機関車は、あの電線から 電気を受け取りながら走るんだ。燃料は必要ない。この装置を上げて、架線にセットすれば、いつでも走行できる」
「それは すごいわね」
「だろう。だけど僕らは、あの架線が ないと 走れない。だから 君たちのように 島中を走り回ったり できないんだ。僕もいつか、この支線から 抜け出して、自由に  走り回ってみたいよ。無理なことは わかってるけどね」
クエンティンは少し悲しそうな顔をした。ベルが返事をする間もなく、車掌が笛吹くと、彼は警笛を鳴らして出発した。
「おっと、もう行かないと。またね、ベル。会えてよかったよ」
クエンティンと別れた後、ベルは突然閃いた。
「そうだ。海底トンネルに、電気を通せばいいんだわ。早速 トップハム・ハット卿に 報告しなくっちゃ!」
彼女は給水することをすっかり忘れ、ハット卿を探すため走り出した。



 レスキューセンターでは、すでにフリンが帰還していた。
「やあ、ベル。ずいぶん 遅かったじゃないか」
「ねえフリン。トップハム・ハット卿を 見なかった」
「ううん。帰ってきてからは 見てないよ」
「君たちが 出動した後、呼出しが あって すぐに 行ってしまったからね」と、ブッチ。
「そう。じゃあ 探しに 行ってくるわ」
そう言うと、彼女は再び走り始めた。



 エドワードの支線へ続く線路を走っていると、ちょうどハット卿の車がサドリー駅の方へ向かって走ってるのが見えた。
「やったわ。こんなに 早く 見つかるなんて」
車は跨線橋を渡ると、今度は港の方へ向かって走り出した。



ベルはハット卿の車を追った。
しかし、道路は常に線路沿いに続いてるわけではない。ベルがトンネルをくぐった後、車は途中で見えなくなってしまった。
彼女は、この先にハット卿の車がいることを願いつつ、あてもなく走り続けた。
いつの間にかベルは、ブレンダムの港まで来ていた。



「やあ やあ、ずいぶん 慌ててるようだな。どうしたんだい」と、ソルティーが陽気に声をかけた。
「トップハム・ハット卿の車を 見なかった? 彼に 報告があって…」
「さあな。まだ ここには 来てないみたいだぜ 相棒。クランキーは見えたかい」
「いいや、俺が見える道路じゃ、ダンプカーが数台通っただけだぜ」
「そう。ありがとう」
その時、問題が起きた。
彼女はクランキーの前から走り出そうとしたが、動けなかった。とうとうタンクの水を使い果たしてしまったのだ。ベルは慌てふためいた。



 すぐに、ポーターがベルを給水塔の前まで運んであげた。
「せっかく いい案を 思い付いたのに、トップハム・ハット卿と 会えないだなんて…」
「まあ、そんな日も あるさ。今日は ゆっくり休んで、待っていれば そのうち来ると思うよ。僕の機関助士が 連絡してくれるから」



 翌朝、トップハム・ハット卿がベルを訪ねにレスキューセンターへやってきた。
「昨日は 私に用があると 探し回っていたようだが、何か あったのかね」
「スタフォード達に 負担をかけない、いい方法を 思い付いたんです。ここから 海底トンネルを抜けた先のミスティアイランドまでの区間を、電化させるのは どうでしょう。電気機関車なら 燃料の補給も いらないですし、効率も良くなると 思うんです。クエンティンも、あの支線から出たがっていました」
「うーむ。確かに それは 名案だ。だが、残念ながら 私には 長い海底トンネルを 電化させるほどの財力は ないんだよ、ベル。トンネルを塞いで 運搬を 船に任せることなら できるが…」
「お金なら たっぷり ありますぞ」
そこへロウハム・ハット卿がスタフォードに乗ってやってきた。



「叔父さ…いえ、ロウハム・ハット卿。何故 そう 断言できるのですか」
「忘れたかね? 先週 スタフォードが 金鉱を 見つけてくれたじゃないか。あの後 分け前を頂いたのだよ。だから、ベル達の望みを聞くには 十分な金があるぞ、スティーブン」
それを聞いた機関車たちは汽笛と歓声を上げた。トップハム・ハット卿は少し考えると、スタフォードに言った。
「わかった。君には無理をさせて すまなかった。工事が終わるまでは 大型のディーゼル機関車に この仕事を任せる。明日は 支線で ゆっくり休むと いい」
「ありがとうございます」
こうして、海底トンネルを電化する計画が実行されたのだった。

 


おしまい

 

 

【物語の出演者】

●ベル

●ポーター

ソルティー

●スタフォード

○クエンティン

●フリン

●クランキー

●トップハム・ハット卿

●ロウハム・ハット卿

エドワード(not speak)

ファーディナンド(not speak)

●ウィンストン(not speak)

●ロージー(cameo)

●スタンリー(cameo)

ダッシュ(cameo)

ディーゼル(cameo)

●ボコ(cameo)

●ロッキー(cameo)

●キャロライン(cameo)

●ブッチ(cameo)

●トーマス(mentioned)

 

脚本: ぜるけん

※このお話は、2015年に投稿した記事を再編集した物です。

P&TI S13 ミスティアイランドのかくれんぼ

 
 ある日、スタフォードが操車場で貨車の入れ替えをしていると、トップハム・ハット卿が彼を訪ねた。
「スタフォード、苗木の貨車を ミスティアイランドまで 運んでくれ。それが終わったら、今度は ミスティアイランドで 材木を受け取って、トロッターさんの農場まで 運んでくれたまえ。嵐が 来る前に 頑丈な納屋が 必要だそうだ」
「承知しました。頑張ります」
「午後には 帰ってくるんだぞ。くれぐれも 寄り道は しないようにな」



レスキューセンター前では、苗木の貨車が彼を待っていた。
「貨車の用意は 整ってるぞ、スタフォード」と、ロッキーが声をかけた。
「ありがとう。でも まずは 充電しなくちゃ。何しろ 長旅だからね」



充電を終えたスタフォードは、貨車を連結し、海底トンネルをガタゴトと進んでいった。長い長いトンネルを何時間かかけて通り抜け、ミスティアイランドに到着した。
「今日は、晴れてるな」



 苗木を届け終えると、今度は材木の貨車を受け取りに、駅の前で停車する。
そこにはバッシュとダッシュファーディナンドもいた。
「やあ、スタフォード。ちょうど よかった。おいらたち、これから 3台で かくれんぼするんだけど、君も 一緒に やらないか」と、ダッシュ
「君は おいらたちと違って、音を立てない機関車だから、きっと 楽しくなるよ」と、バッシュ。
「その通り」と、ファーディナンドも相槌を打った。
「残念だけど、それは できないよ。トロッターさんが この材木を 待ってるんだ」
「なんだよ。つまんないな」



でもスタフォードはつまらないと思われたくなかった。
それにバッシュ達を拗ねさせると、暫く口をきいてくれなくなることをトーマスから聞いていたので、彼は仕方なく決断した。
「一回だけなら、やってもいいかな…」
「そうこなくっちゃ。オニは ファーディナンドが やるから、おいらたちは 隠れよう」
「ようし、早速数えるぞ!」



 ファーディナンドが残って数え始めると、バッシュとダッシュ、そしてスタフォードはグラグラ橋を渡り、隠れる場所を探した。
ダッシュは側線の茂みに、バッシュは製材所の方へ向かった。
スタフォードも隠れる場所を探して走り回った。
「急いだ方が いいよ。ファーディナンドは、よく 数え間違いを するんだ」



暫く走り回っていると、スタフォードは山の麓にある側線を見つけた。
そこは他の線路に比べて長い間整備されていないようで、線路は錆びついている。奥には暗い洞窟があって蔦が絡み付いていた。
「こりゃ いいや」
彼はそうつぶやくと蔦を掻き分けながら洞窟へ入り込んだ。



中は真っ暗で何も見えない。そこで彼は2つのランプを点灯させ、辺りを見回した。すると、目の前にとんでもないものを発見した。
そこにはなんと、金銀の財宝や、エメラルドなどの宝石が、ドクロの黒旗と一緒に散りばめられていた。
「すごいぞ。すぐ みんなに 知らせなくちゃ」
彼は、かくれんぼの事なんかすっかり忘れて、大慌てでみんなの元へ向かった。

 

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 ダッシュのひそむ茂みでは、ファーディナンドと、既に見つかったバッシュがきょろきょろと辺りを見回していた。彼らはダッシュを見つけられないようだ。
いい調子だったので、ダッシュは、しめしめとにんまりした。しかしスタフォードがけたたましく警笛を鳴らしながら走ってきた。
ダッシュ、バッシュ!」
「あ、スタフォードと ダッシュ、めーっけ!」
「もうスタフォード。何やってるんだよ…」と、ダッシュ
「ごめん、忘れてた。それよりも、すごいニュースが あるんだよ」
その時、問題が起きた。トップハム・ハット卿がデリックに乗ってやってきたのだ。彼はカンカンに怒っている。
「スタフォード。帰りが遅いから 心配してきてみたら…、いったい 何を やっているのだね」
「ごめんなさい。その…、バッシュ達に 誘われて…遊んでました…」
ハット卿が次のお小言を言う前に、そこへミスティアイランドの局長を務めているロウハム・ハット卿も、トロッコに乗ってやってきた。
「一体 何の騒ぎだね」
「かくれんぼを していたら、スタフォードが 警笛を鳴らして、おいらの居場所を オニに 知らせちゃったんです」と、ダッシュ
「それは いかんな。ルールを破っちゃ だめだぞ スタフォード」
「あの、叔父様…」
「そんなことより、みんなに 見てもらいたいものが あるんです。良かったら、トップハム・ハット卿も ご一緒しませんか」



 材木の運搬はデリックが引き受けてくれることになり、トップハム・ハット卿とロウハム・ハット卿は、スタフォードの案内で洞窟にやってきた。
「こんなところに 洞窟へ続く線路が 敷かれていたとは…。ワクワクしますな」
「おいらたちは 気づいてたよ。でも 一度も 入ったことない」と、ダッシュ
「だって トンネルは "キケン"だもの」と、バッシュ。
「その通り。もう埋もれるのは 勘弁だよ」と、ファーディナンド
中に入ると、スタフォードはランプを点灯させた。
トップハム・ハット卿や機関車たちは目の前の光景に驚いた。
「これは たまげた。財宝ではありませんか…」
「恐らく これは 海賊の財宝ですぞ。ほら、あそこに 三角帽子と それらしい骸骨と服が。サーベルや 旗もある」
更に彼らは懐中電灯を取り出し、辺りを見回した。
すると、またしても驚きの発見があった。
「君! 見たまえ、この岩壁を。金鉱石だ」



 素敵なひと時を過ごした後、ロウハム・ハット卿は、機関車たちに礼を言った。
「素晴らしい発見を してくれて ありがとう、スタフォード。そして かくれんぼを 提案してくれて ありがとう、みんな」
「しかし、仕事中の仲間を誘うのは いけませんな。スタフォードも 今度から 断るんだぞ」

以降、ミスティアイランドはとても忙しくなった。海賊の財宝は、アールズバーグの海洋博物館に寄付された。
洞窟の前では、小規模の事務所が建てられ、沢山の作業員や専門家が島にやってきては、金を精製するために採掘を行った。
中には、こっそり盗みを働く怪しい人物もいたが、バッシュ達が汽笛で知らせてくれるおかげで採掘の邪魔はされずに済んだ。
…一方、ロウハム・ハット卿は何か計画があるみたいだけど、それはまた次回お話することにしよう。

 


おしまい

 

 

【物語の出演者】

●バッシュとダッシュ

ファーディナンド

●スタフォード

●ロッキー

●トップハム・ハット卿

●ロウハム・ハット卿

●デリック(not speak)

●オリバー(cameo)

●ハーヴィー(cameo)

●チャーリー(cameo)

●トード(cameo)

●ジャック(cameo)

●フリン(cameo)

●トーマス(mentioned)

●トロッターさん(mentioned)

 

 



↑P&TIのミスティアイランドの地図。赤色は本線、青色は支線や業務用の線路。

 

脚本: ぜるけん

※このお話は、2015年に投稿した記事を再編集した物です。

P&TI S13 ジェームスとおおゆき

 ある冬の日、ソドー島は吹雪に見舞われた。一日中降り積もると思われたが、幸いにも、つかの間の晴天により厚く積もった雪も薄くなり、ドナルドとダグラスが懸命に除雪したおかげであっという間に線路から雪が消えた。
しかし油断は禁物だ。午後から明日にかけて吹雪になると予報が出ている。トップハム・ハット卿は蒸気機関車たち全員に雪かきをつけるよう命じた。


 皆が浮かない顔をして雪かきをつける中、ジェームスはずっとウキウキしていた。何故なら久しぶりに急行列車を引っ張ることになったからだ。
彼は出発の準備していたパクストンに自慢した。
「見てくれよ。雪に映える 僕の真っ赤なボディ。素敵だろう」
「ええ、ジェームスさん。真っ白な 雪の上だと、いつもより 輝いて見えますね」
「そうだろう。それに比べて 君のように 地味なディーゼルは、雪の上に いたとしても 目立たなそうだけど」
嫌味を言われ、パクストンは黙り込んでしまった。それを見ていたクランキーは呆れかえった。
「自慢をしに来ただけなら とっとと失せろ ジェームス。ソルティーの邪魔に なってるぞ」



ジェームスは、ぷんぷんしながら港を出ると、操車場で待っている急行客車の元へ向かった。雪かきを無視して客車と連結する。
そこへドナルドとダグラスがやってきた。彼らは雪かきをつけずに走ろうとするジェームスに驚いた。
「どうだい。かっこいいだろう。急行列車の お通りだぞ!」
「雪かきは付けないのですか」
「君たちが すでに 除雪したから 大丈夫さ」
「だけども、そろそろ、雪が降りそうな気配がしますよ。ほら、匂うでしょう。雪の匂いが…」
「雪の匂いだって。とうとう君も やられたね」
ドナルドとダグラスの忠告も聞かず、ジェームスは颯爽と走り出していった。
双子は心配そうな眼差しで港を出ていくジェームスを見送る。



ジェームスは双子の話をあまり信用していなかった。だけど、ダグラスの勘はピシャリと当たった。晴天の空はみるみるうちに暗くなり、大粒の雪が降り始めた。
始めはちらちらと舞い降りてくる程度だったが、次第に吹雪に変化した。
「こんな雪くらい、どうってことないさ」
だが、それは大きな間違いだった。



彼は案の定、降り積もった雪で立ち往生してしまったのだ。
クランクを力いっぱい動かしても、車輪は空回りしてどんどん埋もれていくだけだった。



 間もなく、トーマスが救援列車を牽いて駆けつけた。同乗していたトップハム・ハット卿は不機嫌そうだ。
「ドナルドとダグラスの忠告を 聞かなかったそうだな。君のせいで 混乱と遅れが 生じたぞ」
吹雪がやむと、作業員たちはすぐに線路の雪を片付け、ジェームスを掘り起こした。
客車はドナルドとダグラスが引き受けることになった。



一方、ジェームスは、大きな町の駅まで貨物列車を牽くよう命じられた。
結局、重い雪かきをつけ、不機嫌そうにボッボッと蒸気を噴き上げながら、本線をガタゴトと走っていく。
雪は場所によっては沢山積もっており、とくに山の近くでは自動車が立ち往生するほどだった。バーティーを助けに来たブッチまで動けなくなっている。



 ウェルズワース駅を過ぎると、線路わきに刺さる赤旗が目に入った。パクストンが立ち往生している。
「ジェームスさん。お願いが あるんですけど、この雪の壁から 引っ張り出してくれませんか。村の人たちが、この石炭と 薪を 待っているんです」
機嫌の悪いジェームスは、面倒だったので彼を放っておこうと思った。だけど彼の機関士は、待っている人たちのことを考えると、居ても立っても居られず、「俺たちが 一緒に 引っ張っていこう」と、言った。
ディーゼル機関車と 連結するんですか」と、ジェームスは不満げに唾を吐いた。
「行先は同じ方向だし、ほっとくわけにも いかないだろう。それに、トップハム・ハット卿から ご褒美がもらえるかもしれないぜ」
「しょうがない。わかったよ」
「よろしくお願いしますね」と、パクストン。



 パクストンの列車は雪から引っ張りだされた後、ジェームスと貨車の間に繋がれた。
雲行きが再び怪しくなったと思うと、また雪が降り始めた。
ジェームスは、めげずに除雪しながら走り続ける。
稲妻が光り、雹がコツコツとジェームスとパクストンのボディに激突する。彼らは悲鳴を上げた。
機関士は急がなければならないと思った。



激しい吹雪のおかげで辺り一面、白一色になり視界が悪くなった。
勇ましく進んでいたジェームスの足取りもだんだん遅くなっていく。
「前が 全然見えないよ!」
そして分厚い雪に立ちふさがれ、再び立ち往生してしまった。



 カーク・マッシャン駅では、トップハム・ハット卿とドナルドとダグラスが、彼らを心配していた。
「パクストンの到着が 遅れているな…」
「ジェームスの通過も まだみたいです」
「この吹雪ですからね。やっぱり事故に あったのではないでしょうか」
「彼らが心配です。私たちで様子を見に行きましょう」
「だめだ。今 出歩くのは危険すぎる。君たちは 吹雪が やむまで そこの機関庫で待機していなさい」



 その頃ジェームスは、身動きが取れない状態に陥っていた。
あまりの寒さに給水口のふちが凍ってしまい、元気が出ない。
その時、パクストンは、いいアイディアを思い付いた。
「僕が、ジェームスさんを押します。そうすれば きっと 雪の壁を突っ切れるはずですよ」
「でも、君は動けないんだろう」
「安心してください。雪かきはないけど、燃料は まだ いっぱい残ってますから」
こうしてパクストンの連結が切り離され、彼は貨車と共に一旦後ろに下がった。パクストンは、プスン、プスン。ブルブルブル…と、身体を震わせ唸らせ、出力いっぱいで極寒に立ち向かう。そして警笛で合図すると、助走をつけて、思いっきりジェームスの炭水車に体当たりした。
するとジェームスは勢いよく雪の壁を突き破り、雪を押しのけて進んでいった。
「やった、すごいぞ!」
ジェームスは嬉しくて歓声を上げた。パクストンも誇らしそうに警笛を鳴らす。



再び連結をすると、彼らはそのまま出発した。パクストンがジェームスを押し、ジェームスは雪をかき分けて進んでいくのだ。
スピードは思うように出せなかったが、力強い走りを見せた。
いつの間にか吹雪がやんだおかげで、ゴードンの丘も楽に超えることができた。



マロン駅を通過した頃には、ジェームスの調子も良くなっていた。
協力して走っている彼らを見て、様子を見に来た双子は安心した。
「ご無事で 何よりです。お二方とも、ゴールは すぐ目の前ですよ!」
「ありがとう、ダグラス。よし、頑張るぞ」



 遂に、パクストンの目的地に到着した。待っていたトップハム・ハット卿は安堵の表情と共にとても誇らしそうだった。
「よくやったぞ、ジェームス。パクストンの列車ごと ここまで引っ張ってきて、大変だっただろう」
「とんでもない。途中で 動けなくなった僕を、パクストンが 押して 助けてくれたんです」
「そうか そうか。2台とも よく頑張ったようだな。明日 朝一番に、ソドー整備工場に 行きなさい。君たちの ペンキを 新しく塗り替えてやろう」


後になって、ジェームスは、再びカーク・マッシャン駅に戻ってきた。彼はきまり悪そうにパクストンに礼を言った。
「さっきは ありがとう。酷いこと言って ごめんよ。君の 緑色のボディは、雪の上じゃ 僕と同じくらい 目立って綺麗だよ」
「ああ、あのことは もういいんです。僕、気にしてませんから、ふふ。それに、ジェームスさんには かないませんよ」
それ以降、2台は仲良しになったのだった。

 


おしまい

 

 

【物語の出演者】

●ジェームス

●ドナルドとダグラス

●パクストン

●クランキー

●トップハム・ハット卿

●ジェームスの機関士

●トーマス(not speak)

ソルティー(not speak)

●バーティー(not speak)

●ブッチ(not speak)

モリー(cameo)

●スタンリー(cameo)

●ポーター(cameo)

●デン(cameo)

バイロン(cameo)

●ゴードン(mentioned)

 

 

脚本: ぜるけん

画像編集: NWP

※これは2015年に投稿した記事を再編集したものです。