Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S13 サー・ハンデルとテレビカメラ

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 その日は、ソドー島でドキュメンタリー番組の撮影があり、マードックは少し憂鬱だった。彼は注目を浴びるのが苦手だ。
彼は操車場で停車中に胸の内をサー・ハンデルとデニスに明かした。
「なるべく カメラに 映りたくは ないのだが…」
「同情するよ。報道人ってやつは 品の無い集団さ」
と、サー・ハンデルが同情する。
「そんなに テレビに 映りたくないならさ、仮病を使えば いいじゃない」
隣の線路からデニスが口を挟んだ。それを聞いた2台の機関車は眉間にしわを寄せた。
「仮病だって!? 君とは 一生 分かち合えないね」と、サー・ハンデル。
「僕も怠け者は 大嫌いだ」
と、マードック。2台はぷいと走り去っていった。
「力になれたと 思ったのになあ」



 仕事を終えたサー・ハンデルが戻ってくると、機関庫の前ではスカーロイ鉄道の機関車たち全員が集合していた。
「何の集まりだい」
サー・ハンデルが訊くと、気のいいピーター・サムが答えた。
「ミスター・パーシバルから、大事な話が あるんだって」
ちょうどそこへ、ミスター・パーシバルを乗せたラスティーが到着した。
機関車が全員居ることを確認すると彼の機関室から大事な話を始めた。
「この島に テレビ局が来ていることは もう知ってるな。実は このスカーロイ鉄道も 明後日から 撮影を始めるんだ」
それを聞いた機関車たちは大喜び。もちろん、サー・ハンデルを除いて。
「僕は お断りです。誰が テレビなんかに 出るもんか」
彼は口をとがらせて言った。するとダンカンがクスクス笑いながらミスター・パーシバルにささやいた。
「サー・ハンデルは また 解体ショーを 見せつけたいんですよ」
「ちがうよ! ああ、もう。撮影日も 大人しく働きますよ。でも 絶対に カメラには 映りませんからね」



 次の朝、スカーロイ鉄道の機関車たちは、整備工場の作業員によってボディを磨いてもらっていた。撮影日に備えるのだ。
ボランティアとして本土から遥々来たキャシーとリジーも清掃作業を手伝っていた。
「なあ キャシー、今度は おいらのバッファーを 磨いておくれよ」
「ダンカンの次は 僕ね!」と、レニアス。
彼らは、うきうきと楽しそうだったが、相変わらずサー・ハンデルは憂鬱だった。キャシーたちにボディをピカピカに磨かれても、気分は全くすぐれない。
そこへ聞き慣れない声と汽笛の音が聞こえてきた。
「ピッピー! やあ、こんにちは」
「やあ、ライアンじゃないか。こんなところで 何しているのさ」
「これから 修理しに 行くところなんだ。せっかく テレビの人が来るのに 支線を撮影させてもらえないんだよ」
サー・ハンデルは『自分が ライアンだったらいいのに』と強く願った。
何故って、彼は以前テレビ局がやってきたときに、恥ずかしい映像を撮られてしまっているからだ。



 しかし彼の願いは叶うことなくとうとうテレビ局が自分たちの鉄道にやってくる日が来た。ピーター・サムが彼らを乗せる特別列車を牽くことになっていた。彼はウキウキしていた。
まず最初にカメラマンがピーター・サムを捉える。と、そこへ、
「おいらも一緒に 撮ってもらって いいですか」
横からダンカンがそわそわしながら言った。
「いいわよ。さあ、並んで。撮影を 始めるから」
と、リポーター。



一方、サー・ハンデルはダンカンの仕事を代わりに行っていた。
「まずい。このまま走ったら 確実に報道人と 鉢合わせじゃないか…」
「どうしたんだい。そんなに暗い顔してたら、せっかく磨いてもらった自慢の車輪も 輝かないぜ」
採石場へ向かう途中のレニアスが給水塔の前で声をかけた。スレートの貨車を牽いている。
その時、サー・ハンデルはあるアイディアを思い付いた。
「なあ、レニアス。仕事を交換してくれないか」



サー・ハンデルはレニアスの貨車を牽いて上機嫌で採石場へ走る。
「ここなら カメラに映る心配も あるまい。僕は な~んて 頭が良いんだろう」
ところが喜びもつかの間。彼が転車台でターンしていると耳慣れた汽笛と走行音が聞こえてきた。
プップー! シュッシュッシュッシュッ!
それはピーター・サムだった。
楽しそうに歌を歌いながら元気な音を立て、報道陣を乗せた特別列車を牽いてこちらへ向かってくるではないか。



これを見たサー・ハンデルは大慌て。
貨車を繋いだまま一目散に大きなトンネルの中へ駆けこんでいった。
ピーター・サムはその様子を見ていた。でも、それがサー・ハンデルとは気づいていない。
「今の、ルークかい?」
「僕なら ここだよ」



 報道人たちが採石場の撮影をする中、サー・ハンデルはトンネルの向こう側で、古い蒸気ショベルカーとクレーン車に貨車にスレートを積んでもらっていた。
「早くしてよ。僕は じれったいのは 嫌いだよ」
と、じたばたしている間にピーター・サムの出発の合図がトンネルの奥底から鳴り響く。
サー・ハンデルは積み終えていない貨車を残して一目散に逃げ出した。
彼が気付くとそこはウルフステッド城の前だった。
「何とか 逃げ切ったぞ」
ほっと一息つくのもつかの間。遠くからまた例の汽笛の音が聞こえるではないか。
サー・ハンデルはスレートを積んだ一台の貨車を切り離して再度逃げる。
彼はカメラに映るまいと自身のプライドを背負い路線中を逃げて逃げて逃げまくった。
だがしかし、不思議なことに彼の行く先々に報道人らが現れるのだった。



 サー・ハンデルが気付いた時にはいつの間にやら自分たちの機関庫に戻っていた。
そこへ、またあの汽笛が遠くの彼方からこだまする。
このままでは走れなくなってしまう。そう思ったサー・ハンデルは機関庫の中に入ってやり過ごそうとした。
ところが慌てていた彼は自分の線路をしっかり確認していなかった。



ガッシャーン!
と、大きな音を立てて泥を積んだ貨車にぶつかった。
「うわ、なんだ!」
整備工場から帰る途中のライアンは物音に気を取られて信号待ちで停車しているシドニーの貨車に突っ込んだ。
貨車に積まれていた洗剤と瓶詰の炭酸水が吹っ飛び、サー・ハンデルのボイラーにかかった。
シドニー、ごめんなさい。サー・ハンデルも」
「いいんだ、全部 僕の所為さ。あ、まずいぞ。ピーター・サムが 来る」
サー・ハンデルの機関士と機関助士は、急いで機関庫に置いてあったキャシーとリジーのデッキブラシとバケツを持ってきた。
洗車のふりをする為だ。



大きな事故ではなかったので、脱線した貨車はライアンとシドニーの乗組員のおかげでピーター・サムの特別列車が来るまでに無事に片づけ終わった。
何も知らないリポーターとカメラマンはサー・ハンデルの機関士にインタビューをする。幸いにも上手くごまかすことはできたが、サー・ハンデル自身はとても惨めで恥ずかしかった。
これではマヌケな報道人より滑稽ではないか。そう思ったのだ。



 もちろん、後になって彼はミスター・パーシバルと重役にこっ酷く叱られた。
「サー・ハンデル、君が テレビを 毛嫌いしているのは よく知っている。だが 今日の君は 実に落ち着きが 悪かった。今日から一週間 機関庫で 大人しくしていなさい」


それから一週間が経って、サー・ハンデルは落ち着きを取り戻した。
もうテレビ局が来ても、二度と、あたふた逃げ回ることはないだろう。

…たぶんね。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

マードック

●ライアン

●デニス

●レニアス

●サー・ハンデル

●ピーター・サム

●ラスティー

●ダンカン

●ルーク

●ミスター・パーシバル

シドニー(not speak)

●スカーロイ(not speak)

●キャシーとリジー(not speak)

 ●ヘンリー(cameo)

●ジェームス(cameo)

●ダグラス(cameo)

●スタンリー(cameo)

●スティーブン(cameo)

●コナー(cameo)

●ケイトリン(cameo)

●パクストン(cameo)

●デューク(cameo)

●マイティマック(cameo)

●フレディー(cameo)

●ミリー(cameo)

●オリバー(cameo)

●マックス(cameo)

●イザベラ(cameo)

●スキフ(cameo)

●ノランビー伯爵(cameo)

 

脚本: ぜるけん

※このお話は、2016年に投稿した記事を再編集した物です。