Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E27 ヘンリーとチョコレート

 ミスティアイランドの線路を、白い車体が駆け抜けていく。

新しい電気機関車のモードだ。彼女は、鉄道検査官を客車に乗せて張り切っている。

木々が生い茂る山を背に、海岸の線路を駆け抜け、海底トンネルの中へと入っていく。

 

完成間際の駅では、トーマスが待っていた。

「調子は どうだい、モード。バッシュ達とは もう仲良くなれたかい」

「絶好調さ。バッシュとダッシュ、それにファーディナンドは面白いね。僕も すっかり友達だよ」

モードは、ミスティアイランドを訪れる観光客を運ぶ急行列車を任されていた。駅が完成するまでは、毎週一日2本の試運転が行われていた。

モードが気をつけて走るので、幸い、事故もない。鉄道検査官も満足そうだ。

「あとは この駅が完成すれば、僕も いよいよ本格的に急行旅客列車デビューだ。ああ、待ち遠しいなあ」

 

 やがて、季節はあっという間に冬になり、クリスマスの季節が訪れた。

ある日の早朝のこと、トップハム・ハット卿は機関車達を操車場に集めた。

機関車達は真剣に彼に注目している。

「諸君も知っていると思うが、レスキューセンターの隣に 新しい駅が完成した。そこで、時期も ちょうどいいので、クリスマスに開会式を行おうと思う。私と、島の要人が、モードのファースト・ランに乗り込む予定だが、一般人や、子供たちにも式を楽しんでもらいたい」

トップハム・ハット卿は、駅長からリストを渡されて、こう続けた。

「まず、明日の朝の動きだが、ゴードンは クエンティンを駅へ運んでくれ」

「わかりました」

ゴードンが自信満々に返事をした。

「次に、トーマスは 子供達へのプレゼントをナップフォードから、ヘンリーは 伯爵とカラン卿をお城から、ジェームスは 客車を牽いて乗客を運んでくれたまえ」

「「「お任せください」」」

3台は同時に言った。特にヘンリーは、特別な仕事に張り切っている。

「それから、パーシーは チョコレート工場から チョコレートドリンクとお菓子を運んできてくれ」

 

トップハム・ハット卿の説明を聞きながら、ヘンリーは思わず吹き出した。

「パーシーがチョコレートだって。きっと また チョコレートまみれになるぞ」

以前、パーシーは、丘の上から油で滑ってチョコレート工場に突っ込んだことがあった。

工場から出てきたときには、煙突からボイラーまで茶色く覆われて姿を現したのだ。

ヘンリーはその時のことをからかっている。パーシーが静かに耳打ちする。

「うるさいな。あれは どうしようもない事故だったんだ」

「おっほん。話を聞いていたかね」

「はい、もちろんです。お任せください」

「よろしい。なお、当日は レスキューセンターで キミたちのクリスマス・パーティを開く。なので、エドワードは、−」

 

 クリスマスの時期になると、お客さんも鉄道員も、クリスマスを家で過ごすため、仕事は休みになる。なので、前日には駅が人々で賑わい、旅客列車は休みまで忙しくなる。

郵便列車も例外ではなかった。パーシーとロージーは、郵便配達で大忙しだった。

「ふう、ふう。大型機関車の手も借りたいくらいだよ」

「俺様は ごめんだね。郵便配達はチビのやることだからな」

パーシーが愚痴をこぼすと、ゴードンが偉そうに答えた。

今度はヘンリーが尋ねた。

「何が そんなに忙しいんだい」

「子供達が サンタさんに お手紙を出すからね。今年も 貨車の中が いっぱいなんだ。明日の朝までに終わらせて、開会式に出たいよ」

「へえ。子供達は いいよな。僕も サンタクロースに 新しいペンキを お願いしたいよ」

と、ヘンリーが、ぶつくさ文句を言う。

 

 ところが翌朝、ヘンリーが客車の準備を待っていると、急な用事が入った。

「雪のせいで、パーシーの郵便列車に 遅れが出ている。すまないが、ヘンリー、キミが 代わりに チョコレート工場に行ってくれ」

「だけど、要人は どうするんですか」

「スペンサーが 代わりに行ってくれる。ボックスフォード公爵夫妻と 同じ列車に乗ってもらう」

トップハム・ハット卿が立ち去ると、ヘンリーは、たちまち機嫌が悪くなった。

「チョコレートを運ぶなんて、馬鹿げた仕事だよ」

「まったくだね」

ジェームスも同意する。でも、ドナルドは反対だった。

「そうですか。ロンドンでは、チョコレート工場専用の鉄道があったぐらいです。私はむしろ、名誉なことだと思いますがねえ。それに、ミスター・ジョリーのお菓子も 負けないくらい世界的に人気ですから」

「そんなに言うなら、キミが僕の仕事を代わってよ」

「いえいえ、私は雪かきの作業が あります。チョコレートを運ぶ大事な お役目、私には もったいないですよ。ではでは」

 

「あの奥に行けばカラン城なのに」

ヘンリーは、ぶーぶー文句を垂れながらチョコレート工場に向かった。

工場には、既に貨車が用意されていて並んでいた。

「ポッポッポー! 道を開けてくれ」

その時、坂の上からスペンサーが大きく汽笛を鳴らしながら、ヘンリーの横をガタゴトを音を立てて通り抜けていった。

「今頃、僕が運んでいたはずなのにな」

彼はまだ文句を言っていた。

スペンサーが走り去った後も、大きな音が坂の上から響いていた。ヘンリーは、また機関車が通るのかと思ったが、どうやらそうではない。

轟音の正体は–

「雪崩だ!」

スペンサーの汽笛の音で、坂の上で固まった雪が崩れ落ちたのだ。前方から雪の塊が降り注ぐ。ヘンリーの逃げ道はない。彼は目をギュッと瞑った。

ドドドドドド… ドッコン! べちゃ…

 

ヘンリーが目を開けると、雪崩はすぐ目の前で収まっていた。

ところが、ヘンリーの車体は、なんとベタベタのチョコレートで覆われていた。

雪崩がタンク車を吹き飛ばして、タンクの中から溢れたのだろう。

彼の緑色のボディは、ボイラーから車輪まで、茶色く染まっている。

「そんな、嘘だろう」

 

幸い、走ることに支障はなかった。作業員がせっせと雪をかき分け、ヘンリーは工場を後にした。茶色く染まったまま。

新しい駅の前は、たくさんの機関車たちが開会式を待っていた。

その頃には、ヘンリーの熱いボイラーが、車体にかぶさったチョコレートを固めていた。

トーマスは大笑いで彼をからかった。

「やあ、ヘンリー。ひょっとして 新しいペンキかい。お似合いだね。寒い冬に、あつあつのチョコレートなんて、なかなか しゃれてるじゃないか」

「おっどろいた! ホットチョコレートを被った蒸気機関車は初めて見たよ」

モードに、バッシュとダッシュ、そしてファーディナンドも大笑いだ。

ゴードンは呆れていた。

「緑色の機関車が 揃いも揃って チョコレートを被るなんて。ああ、全く みっともない」

「僕のせいじゃないよ。雪崩が貨車を押し倒したんだ」

「すぐに洗車場に行きなさい。今日は仮装大会の日ではない。そのまま開会式に出席することは許さん」

 

トップハム・ハット卿の命令に、パーシーが率先してヘンリーを洗車場へ運んで行った。

その道中も、他の機関車たちや、周りの人々に笑われる羽目になった。

ヘンリーはとても惨めだった。

 

 パーシーとヘンリーが洗車場に行く傍ら、駅では乗客と資材が全て運び込まれ、開会式とクリスマス・パーティが開かれていた。機関車たちも集まっている。

「お集まりいただいた皆さん。今日は記念すべき日になるでしょう。私たちは、ミスティアイランドを資材を集める手段だけでなく、観光地として 発展させることに致しました。このアブ川の河口を出発点とし、モードが牽引する客車に乗り込み、皆様に楽しい体験を提供したいと願っています。資材の運搬は、引き続き この3台と、電気機関車のクエンティンがスムーズに行います。さて、この駅の名前は−」

それから、トップハム・ハット卿は、駅名標を覆うカーテンを開いた。

「アブマス駅に決定しました。盛大なる拍手を!」

発表が終わると同時に、機関車たちが汽笛を鳴らした。

トップハム・ハット卿は要人と一緒にモードの客車に乗り込むと、彼の掛け声に合わせて、テープを切り、彼女のファースト・ランが始まった。

お客の歓声と拍手とともにモードが発車し、海底トンネルへと姿を消した。その後に、ダッシュ、バッシュ、ファーディナンド、そしてクエンティンが続く。

残った駅長は、スピーチをしながら、クリスマス・パーティの準備にとりかかかる。

 

ミスティアイランドが観光地になるなんて、ワクワクするよね」

トーマスが他の機関車たちに言った。

「ああ。安全なルートを通るってボコから聞いたし、安心だよ」

「ま、俺様には関係ないけどな」

と、エドワードとゴードン。

「それにしても、モードが来るまで、色々あったわよね。ゴードンなんか、急行列車を取られるなんて勘違いしちゃって」

「焦って ケイトリンと競争したりなんかしてね」

エミリーとジェームスがからかうと、ゴードンは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「お前ら どこでそれを…! ま、まあ いい。これからの俺様は、あいつを見守るだけだね。それから 負けないように 全力で急行列車に取り組むのさ」

 

 一方、パーシーとヘンリーは、洗車場に着いた頃だった。

ヘンリーが何か言う前に、給水塔の前に彼を残して、パーシーは急いで、再び本線に戻って行ってしまった。彼は洗車しながら、一人寂しくクリスマスを過ごすことになるだろうと覚悟した。

 

だが、何分か経過した後、パーシーが再びヘンリーの前に現れた。

「今日のこと、同情するよ。雪崩でチョコを被ったんだってね」

「ああ、おかげで ボディはベトベト。みんなに笑われて、散々なクリスマスだったよ」

「だからキミのために、ソドー整備工場から持ってきたんだ。はい、新しい緑と赤いペンキだよ。僕からのクリスマス・プレゼントさ」

パーシーが嬉しそうに言うと、作業員が彼の貨車からペンキを取り出してヘンリーに見せた。

「これ…。ありがとう。昨日、あんなに失礼なことを言ったのに」

「いつも言ってるでしょ。クリスマスは みんなに親切にして、プレゼントを送り合うものだってね。それに、仲間を見捨てるなんて できないよ。特にチョコを頭からかぶった同志にはね」

パーシーは笑って言った。

「なあ、パーシー。昨日は 偉そうに あんなこと言って ごめんよ。事故でからかわれる気持ちは よくわかってるはずなのにね」

「いいよ、全部水に流すさ。今日は ここでクリスマスを楽しもう」

その日、彼は大切なことを学んだのだ。クリスマスの心得と、仲間がいる尊さをね。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

●トーマス

エドワード

●ヘンリー

●ゴードン

●ジェームス

●パーシー

●ドナルド

●エミリー

●スペンサー

○モード

●トップハム・ハット卿

●ロージー(not speak)

●バッシュとダッシュ(not speak)

ファーディナンド(not speak)

●ボコ(not speak)

●トビー(cameo)

●ダック(cameo)

●ハンク(cameo)

●ベル(cameo)

●サムソン(cameo)

フレデリック(cameo)

ヘンリエッタ(cameo)

●ロッキー(cameo)

●ブッチ(cameo)

●ローリー1(cameo)

●ケリー(cameo)

●フリン(cameo)

●ケイトリン(mentioned)

○クエンティン(mentioned)

●鉄道検査官(mentioned)

●ミスター・ジョリー(mentioned)

●ボックスフォード公爵夫妻(mentioned)

●カラン卿(mentioned)

●ノランビー伯爵(mentioned)

 

 

【あとがき】

 ご存知の通り、ヘンリーの性格は原作絵本とTVシリーズ初期では一言で表すには複雑で人間味を帯びています。私は初期の頃に見られたヘンリーとパーシーの絡みが好きで、それを掘り下げようとしたのが今回の物語です。自分が弱い立場にいるときは特にパーシーが彼の味方についてくれるのに、傲慢なヘンリーは機嫌を損ねた時や自分が強気に出られる時はパーシーを邪険に扱ったりする、そこがヘンリーとパーシーの特に興味深いポイントでした。仮に全く同じ経験をしたら…を自分の解釈を交えて描いてみました。

なお、ヘンリーが被っている茶色い物体は、『トーマスとくさいチーズ』の再現に使った物と同じ種類のスライムを使っています。食品でもないし、汚いものでもないのでご安心を。ただ、今回、一部の写真は2017年に撮影したものです。2022年に久しぶりに容器を開けたら、色がスライムと分離していて、半透明になっていました(苦笑)

 

 次回はP&TI S14のラストになります。今回はソドー島に焦点を置いたので、次回はミスティアイランドのお話です。