Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E28 きゅうこうファーディナンドれっしゃ

 モードのファースト・ランは、夕方、海底トンネルを抜けた先のミスティアイランドの乗り換え駅に無事に到着した。ソドー島の景色とは打って変わって、雪は積もっていない。

まるで別世界に来たような気分だったが、トップハム・ハット卿とロウハム・ハット卿含む、要人たちは、皆、満足そうだった。

「実に素晴らしい。とても快適な旅路だったよ。速くて揺れも少ない」

「光栄です、伯爵。モードの性能は もちろんのこと、今回の営業のために、トンネルの線路の修理をした甲斐がありました」

と、トップハム・ハット卿。

後から、クエンティンに押されてダッシュ、バッシュ、ファーディナンドが到着した。

「明日からの営業では、この駅から、彼ら蒸気機関車のうち一台が牽く 観光列車に乗り換えていただきます。もちろん、このまま、この島の港へ 赴くのも可能です。観光列車は、資材置き場を含む、この島の絶景に ご案内いたします」

ロウハム・ハット卿が要人に説明する。さらに彼はこう続けた。

「今日は もう遅いですから、これからアブマス駅へ引き返します。モード、頼むよ。それから丸太を運ぶ機関車の諸君、良いクリスマスを。おやすみ」

「はい、お任せください」

「「「おやすみなさい。メリークリスマス」」」

機関車たちが答えた。

 

 翌朝、ミスティアイランドは清々しい一日を迎えた。

丸太を集める機関車たちは特に、ワクワクしていた。

なぜなら、モードが運んできた観光客を乗せて、生まれて初めて客車を牽くからだ。

「今日は 俺が客車を牽くんだ」

ファーディナンドが自慢げに言った。

「気をつけて、いってらっしゃい」

「頑張ってね」

双子のバッシュとダッシュは、彼を元気よく見送った。

ファーディナンドが客車を牽く間は、双子は普段通り材木を集めたり、苗木を植えるのだ。

 

ファーディナンドは、ソドー島から借りた予備の客車を繋いで、意気揚々と乗り換え駅に向かった。駅では、モードが到着したところだった。

「おはよう、ファーくん。いい天気だね。キミの瞳もこの空みたく輝いてるね」

「おはよう。モードも、いつもより ずっと元気そうだぞ」

「そうかもね。今日からは お偉いさんだけじゃなく、一般の人や、子供たちも乗って来てるからね。たくさんの人が この島の名所を 見に来てるんだ。目いっぱい楽しませてあげてね」

「任せて。みんなを楽しませるのは得意だから」

 

 観光列車が走るルートは、あらかじめ決まっていた。

まず、駅のすぐ近くにある、流れる滝が美しいエコー渓谷を通る。そこで汽笛を大きく鳴らして、こだまする音を楽しむ。

次に、ジョビの森を抜け、川のせせらぎを耳にしながら、ホロー・ツリー・トンネルを駆け抜け、製材所と材木集積場の中を通り抜けて、最後に古い港にて帰りの列車のモードと落ち合う。お客が景色をじっくり見やすいように、ゆっくり進まなければならない。

トップハム・ハット卿の読み通り、観光客は珍しい景色を満喫していた。

でも、子供たちは少し退屈そうだ。

「もっと速く、もっと速く」

客車の中で、何人かの子供たちがせがんでいた。

ファーディナンドにも、その声が届いていた。

「よおし、任せて」

 

実を言うと、彼もこのルートには刺激が足りないと思っていたのだ。

そこで、彼は材木集積場で、機関士にポイントを切り替えてもらい、港と反対方向の線路を進んだ。その先には、彼の大好きな新しいグラグラ橋があった。

「いっくぞお! 急行ファーディナンド列車の お通りだ」

彼は思いっきりスピードを上げて、グラグラ橋を渡った。

「グラグラ グラグラ 揺ーれる。みんなで グラグラ 大変だ♪」

ファーディナンドの車体も、客車も大きく弾んだり横に揺れたり。車内は大騒ぎだった。

そしてバッシュとダッシュが丸太を集める場所を駆け抜けていく。

「イーハー!」

積み込み場ではクレーンのオールド・ウィージーが、ランダムに丸太を投げ、そのスリルを彼は楽しんでいた。

そして、ぐるりと島を大きく回ってから、古い港に到着した。子供たちは、スリル満点の汽車の旅を心ゆくまで楽しんだのだった。

 

 ところが、翌朝、トップハム・ハット卿がダッシュに乗って、彼らの機関庫にやってきた。

彼はカンカンに怒っていた。

ファーディナンド。私が定めたルート通りに 走らなかったそうだな」

「その通り。 …です。子供たちは とっても 楽しんでくれましたよ」

「だが、そのせいで、昨日のお客から 苦情が来ている。いいかね、観光客は 材木とは違うんだ。それに 子供たちだけじゃなく、大人や老人、赤ちゃんや 犬が乗っている場合もある。どう言うことか わかるかね」

「えっと、それは…」

「みんな、景色を眺めるのを 楽しみにしているんだ。キミたちの お遊びに付き合うのではなくてな。島のことを知らない乗客が、いきなり グラグラ橋と積み込み場に連れられたら、客車の中は パニックになる。安全性も保証できない。少しでも 予定と違う場所を走ると、お客は 文句を言う。それを忘れないことだ。もう二度と 人を乗せてグラグラ橋を渡るんじゃないぞ」

それから、トップハム・ハット卿はファーディナンドに、旅客列車牽引における"無期限活動停止"を言い渡し、去っていった。

ファーディナンドは、ひどく落ち込んだ。彼の機関士も、うなだれている。

「本当は、ゴードンみたいに、力強く 全力で 走ってみたかったんだ。俺、馬鹿だったよ」

「元気出して。大した失敗じゃないさ」

「おいらたちは、もっと 大きな失敗をしたことがある。それに比べりゃさ、そうだろ?」

バッシュとダッシュが慰める。

「その… 通り… だけど…」

ファーディナンドは、もし万が一、再び島流しにされるのではないかと、心配で夜も眠れなかった。

 

 それから一週間が経って、観光客がミスティアイランドを訪れる日がやってきた。

ファーディナンドが旅客列車の牽引を取り上げられてからは、毎週、バッシュとダッシュどちらかが客車を牽くことになった。

初日ほどお客さんは多くはなかったが、人数が多くて客車が重たい日は、重連で引っ張ることもあった。彼らはルート通りに、シュッシュッと軽快にかつ、ゆっくりと進んでいく。

 

 ファーディナンドは、いつものように丸太を集めて、貨車をクエンティンにつなぐ作業をしていた。

休憩時間に、彼は港でモードに会った。

「話は聞いたよ。この前は ごめんね。僕が 目いっぱい楽しませてと、言わなかったら、こんなことには ならなかったかもしれない」

「いいや、俺が調子に乗ったせいだよ。キミが言っても言わなくても、そうしていたかも」

「そうか。でも いつもみたく、いっぱい遊んで 元気出してね。キミが暗いと、島全体も暗くなっていくような気がするんだ。それに、トップハム・ハット卿だって わかってくれるよ」

と、モードが言う。

ファーディナンドは少し気が緩やかになった。

 

電気機関車のクエンティンも、同じ気持ちだった。

彼は小さな支線から離れて、ミスティアイランドに来られたことをとても喜んでいた。

ソドー島とミスティアイランドで、トンネルを介して違った景色を眺めて長距離を走れることを、いつも貨物列車で楽しんでいる。だが、ファーディナンドが元気がないので、空元気でその場を凌いでいた。

「さあ、大冒険に出発だ。またな。今日も 元気に張り切っていこう」

彼はファーディナンドに言った。丸太の貨車を繋いで、駅を発った。

 

「ウィヒッタイ!」

オールド・ウィージーは、いつものように丸太を乱暴に投げ飛ばしていた。

だが、ファーディナンドは笑わなかった。彼は大きくため息をついた。

すると、どこからか、聞き慣れない声がした。

「けて…」

「何か…、聴こえたぞ」

彼は森の方に耳を傾けた。

「ウィ… ウィ…」

「しー、しー、静かにしてってば オールド・ウィージー

「誰か… 助けて…」

なんと、助けを求める声が、木々の奥から聴こえてくるではないか。

「そこに誰かいるの。大丈夫、こっちに出てきて」

ファーディナンドは森に向かって優しく声をかけた。

すると、森の中から、見知らぬ青年が現れた。金色の髪が葉っぱと蜘蛛の巣に覆われ、服は破れ、怪我をしている様子だった。

「間違いない、遭難者だ」

ファーディナンドの機関士が言った。

「キミ、観光客かい。よかったら、駅まで送っていこう。さあ、乗って」

機関士は、青年をファーディナンドの機関室の中に乗せ、頭の葉っぱと蜘蛛の巣を払って、自分の上着を掛けてあげた。青年はブルブル震えていたが、ファーディナンドの熱いボイラーの前で、すぐに温まった様子だった。

「今から乗り換え駅に行けば、帰りの列車に間に合うかもしれない、急ごう」

機関士はファーディナンドに言った。

「よおし、任せて」

ファーディナンドは真剣に言った。

乗り換え駅へは、目の前のグラグラ橋を渡ってすぐだった。

だが、ファーディナンドはトップハム・ハット卿の言葉を思い出した。

『もう二度と 人を乗せてグラグラ橋を渡るんじゃないぞ』

「グラグラ橋は渡っちゃいけない。なら、こっちだ。急行ファーディナンド列車の お通りだぞ」

彼は島の外側を周る線路の方へ進んだ。

ゴードンの真似事をしている場合ではない。

彼は全速力で遭難者を届けるため、とにかく必死に走り出した。

 

ファーディナンドは島の外周を突き進む。

「ところで、聞いていいかな」

ファーディナンドを動かす傍ら、機関士が青年に尋ねた。青年はコクリと頷いた。

「どうして遭難してしまったんだい」

「冒険してみたかったんだ。この島が どんな風景なのか、よく確かめたくて。この島には 家族で来ていて、父さんの目を盗んで、森の中に入ったんだ。でも迷子になっちゃった。景色どころか、転んで擦りむいたりして、失敗したよ」

ファーディナンドも、その話を聞いていた。

なんだか、タンク機関車のトーマスのようだと彼は思った。

「俺も、つい最近 失敗したよ。言いつけを守らないで、お客さんを乗せて 危ない橋を渡ったら、客車を牽く仕事を取り上げられちゃったんだ」

「そうなの? キミも同じだね」

「だけど 今は、全力で走るぞ。キミが家族に会って、我が家に帰れるようにね」

と、ファーディナンドが勇ましく言う。

 

「−もう少しだけ待ってください。私の息子を、どうか 探させてください」

乗り換え駅では、ハンチング帽子を被った初老の男が、車掌にせがんでいるところだった。

トップハム・ハット卿も一緒だった。

彼の周りを、年老いた犬が、ぐるぐると心配そうに回っている。

「もうすぐ レスキュー隊がやってきます。あなた方は アブマス駅で お待ちください。ここよりも ずっと暖かいですから」

そこへ、ファーディナンドが「ポッポー!」と、大きく汽笛を鳴らして滑り込んだ。

「その列車、待って! …ください!」

彼はゼェゼェと、息を切らしてモードとトップハム・ハット卿に叫んだ。

ファーディナンド!? 急に どうしたのかね。クエンティンは まだ戻ってきていないぞ」

「あの、その、遭難者を、連れてきました」

彼の機関室から、青年が出てくるやいなや、初老の男と、犬が飛びついた。

「トーマス! ああ、我が息子よ、無事で よかったよ」

「トーマス!?」

青年の名前に、ファーディナンドは、とても驚いていた。

「あはは、くすぐったいよ、ファジー。心配かけて ごめんよ。父さんも、本当に ごめんなさい」

「すごく 心配したんだぞ。お前は、私たちの大事な宝物だからな」

初老の男は涙を拭いて、トップハム・ハット卿にお礼を言った。

「スティーブン・ハット卿。ありがとうございました。この機関車のおかげで、私と、息子の命は救われました」

「ご無事で何よりです、アルバートさん。それでは、良い旅を」

トーマス青年は、父親と母親、そして愛犬と共に客車に乗り込むと、車掌が笛を吹き、緑色の旗を振って、モードは出発した。

 

 その2日後のこと。

トップハム・ハット卿はファーディナンドに会いに、再びミスティアイランドを訪れた。

「やあ、ファーディナンド。キミに いい知らせがあるんだ。この前の青年、トーマスくんから、お手紙を預かっている。早速、読んであげよう。

『親愛なるスティーブン・ハット卿とファーディナンドへ。この前は ありがとうございました。僕の軽率な判断により、ご迷惑を おかけして、ごめんなさい。今度 お礼がしたいです。ファーディナンドも、僕と同じ過ちをしたと話してくれました。僕を助けてくれたファーディナンドの列車にも 是非 乗らせてください。両親と愛犬も乗りたがっています。どうか、また彼に客車を牽かせてあげてください。リトル・トーマスより』」

トップハム・ハット卿が手紙を読んで聞かせると、ファーディナンドは微笑んだ。トップハム・ハット卿も、にっこりして、こう言った。

「この前は、本当に お手柄だったな。きちんと言いつけを守りながらも、全力で人助けをしたことをここに讃えよう。今週の土曜日からは、また客車を交代で牽いてくれたまえ」

「うわあ、ありがとうございます! それじゃあ、島流しには しないんですね」

「誰がするものか。キミと、バッシュとダッシュは、この鉄道の大切な宝物だからな」

「ありがとうございます! また会えるのが 楽しみです」

ファーディナンドは、とびっきりの笑顔になったのだった。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

●バッシュとダッシュ

ファーディナンド

○クエンティン

○モード

●オールド・ウィージー

●子供

●トップハム・ハット卿

●ロウハム・ハット卿

ファーディナンドの機関士

●ロバート・ノランビー伯爵

●リトル・トーマス

アルバート

●ファジー(not speak)

●トーマス(mentioned)

●ゴードン(mentioned)

アルバートの妻(mentioned)

 

 

【あとがき】

 ファーディナンド主役回でした。本来は、『急行ファーディナンド列車』と『ミスティアイランドの遭難者』として、2話に分割したお話になる予定でした。そもそも文章がいつもより長いですし、そうした方が原作っぽい展開で決まるかなと思っていました。バートラム回やパクストン回を突貫工事で設けた為、一つに纏めました。

また、遭難者は、私たち兄弟をモデルにした双子のゲストとする予定がありましたが、オリキャラをこれ以上増やしたくない方針からTVシリーズのキャラに変更しました。ミスター・パーシバルと、その双子の兄妹パトリックとパンシーにする予定もありました。本家S12が50~70年代だと仮定すると、P&TIシーズン14の時代設定+モードの製造年と照らし合わせた時に、どう考えてもやんちゃする年齢ではないので、TVシリーズで最も好きなキャラにしました。具体的に何歳かは設定しませんが、少なくともアルバートは駅員を引退していると思います(笑)

 

 さて、2年経過してようやくP&TIシーズン14も終わりを迎えることができました。TVシリーズのマイナーキャラに加え、JBSのキャラも登場させたので、全体的に賑やかなシーズンになりましたね。でもキャラ名で検索かけると、登場してないキャラも結構います。

ここまで読んでいただいた方も、そうでない方もありがとうございます。一番面白かったお話をコメントで教えてくださると嬉しいです。返信はできませんが、いつもありがたく感想を読ませていただいています。

ボーナスエピソードは来年に延期いたします。今年中には、長編『呪われた森の秘密』を投稿する予定ですが、実はシーズン14は、まだ完全に終わりではありません。こちらをどうぞ。

 

 

 

【次回予告】

 トーマスと仲間たちが帰ってきた。

 

今度の冒険は、新しい、登山鉄道!?

 

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「登山鉄道って何だろう」

「特別な線路を、特別な機関車が走る鉄道ですよ」

「特別な機関車かあ」 

 

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トップハム・ハット卿が新たに登山鉄道を建設することになり、フィリップとライアンは大張り切り! あまりに張り切りすぎて、混乱と遅れを引き起こしてしまう・・・!?

 

 

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「あーあ、ジェームスだけは ゴメンだね」

 

「ふふ、きっと彼が 島で一番うぬぼれやに違いないね」

 

さらに、赤い機関車のジェームスが自惚れに自惚れて、大騒動!?

「もうジェームスとは働きたくないよ」

「何か ご褒美が必要じゃないかしら」

 

その頃、メインランドではある事件が多発していた。

「今、向こうでは 盗難が相次いでいるんだ。キミも気をつけたまえよ」

 

そして、タンク機関車のニアが事件に巻き込まれる!?

あの人気キャラクターもP&TIに初登場!

 

 P&TI シーズン14 スペシャル『ヒーローになりたい』、『島いちばんのうぬぼれや』

今冬公開予定。乞うご期待!