Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E13 スクラフとヒロ

 ある朝、トップハム・ハット卿はティッドマス駅に機関車達を集めて指示を出していた。

「もうじき、多くの訪問客が 島を訪れるだろう。駅を通過する機関車は 全員 綺麗に洗っておくように。特に キミだぞ」

彼はスクラフの方を指差して言った。

スクラフの車体はゴミがこびりついていてひどく汚れていた。ハエもたかるほどだ。

「キミは ここにきて、もう 2年も洗車していないだろう」

「嘘だろう。全く なんてこった。こんな見窄らしい機関車が そばにいるなんて」

ゴードンはスクラフの汚れを見て身震いした。

スクラフも、トップハム・ハット卿の言葉に震え上がった。

「で、でも、ゴミの貨車を運べば同じですよ」

「だが 一度は磨いてもらったほうがいい。その貨車を運んだら、お茶の時間までに 洗車場へ行きなさい」

 

スクラフは憂鬱だった。

「どうせすぐ汚れるのに」

彼はソドー島に来る前までは、一度もボディを磨いてもらったことが無い。その為、扱った事のないブラシの先端やバケツの中で泡立つ石鹸水がとても恐ろしい物に見えるのだ。

彼が洗車場に着くと、そこにはヒロが居た。

ヒロはスクラフを見るのが初めてだった。とても小さくて汚れていたが、彼はすぐに親しい微笑みをしてみせた。

スクラフも、ヒロを見るのは初めてだ。陽の光に当たってピカピカ輝く黒いボディは、比べ物にならないほど大きくて、形は彼にとって奇妙に見えた。

「こんにちは。私はヒロだ。君は ソドー島の機関車かい」

彼は礼儀正しく挨拶をした。

「う、うん。そうだよ。僕はスクラフ。ゴミ集めをしてるんだ」

「なるほどな、それで。洗車をしにきたんだろう? お先にどうぞ。君の方が汚れている」

ヒロは車輪と炭水車の洗浄を待っているところだったが、スクラフのために引き下がった。

 

スクラフは仕方なさそうにため息をついてヒロの前に立った。

「はあ。本当は 洗車なんてしたくないんだけど。僕が元いたところでは 一度も 洗ったことなんてなかったし」

「そうなのかい。だが、ゴミを落とすだけでも やってもらうといい。煙突に入って故障したら困るだろう」

ヒロは優しく声をかけたが、スクラフはブラシと泡を見て震えていた。ヒロは彼を安心させたかった。

「目を瞑っていよう。大丈夫、痛くも怖くもない」

スクラフは言う通りにした。目をぎゅっと瞑る。

だが、すぐにねを上げたのだった。

「はあ、やっぱりだめだ。余計に怖いよ」

「わかった。じゃあ私が洗われるのを見ていてくれ」

今度はヒロが車輪とボディを今一度磨かれるのをスクラフが見ていた。

笑顔の彼を見て、彼の畏怖心は少し落ち着いたようだった。

「実は、私が元いた鉄道でも、あまり洗ってもらうことは なかったんだ」

「そうなの」

「ああ。仲間は みんな、私と同じように黒いからね。煤がついても わからないのさ。でも ここの鉄道の機関車は、カラフルだ。清潔でいた方が 見栄えが良いのだろう」

ヒロの話が終わる頃には、あっという間にスクラフの洗車も終わっていた。

ある程度汚れを落としてもらったのだ。

「どうも ありがとう、ヒロ。怖くなかったよ」

 

 その午後、ティッドマス駅では、スペンサーと、待避線で通過を待つウィフが居た。

「どうでもいいが、僕みたいに立派な機関車の前に立たれるのは ちょっと目障りだよ」

と、スペンサーは高慢に言った。

でも、ウィフは聞いていなかった。相棒の姿があったからだ。

「やあ、スクラフ。綺麗になったね。きっとトップハム・ハット卿も喜ぶよ」

「ああ、うん。嬉しくなかったけどね。そうだ。さっきね、–」

スクラフが何か言おうとしたその時、警報が鳴り響いた。

「連結が外れた貨車が暴走してくる。側線に引き込むそうだ」

駅員が機関車たちに叫んだ。

「大変だ、早く伝えないと大事故になるぞ」

と、ウィフ。

その側線には、ちょうどヒロが入ってきたところだった。暴走貨車も入り込んでくる。

「危ない!」

スクラフが叫んだ。

しかし、ヒロも知らないわけではなかった。

 

彼は駅のホームを通り過ぎ、暴走貨車が目の前に来たところで、彼らの進む方向に合わせてゆっくり後進し、暴走を受け止めたのだった。

ガシャン! という大きな音が響いたが、貨車たちはみるみる減速していき、やがてウィフ達の目の前で止まったのだった。

「すごいや。今の見たかい」

「流石は鉄道の達人だねぇ」

と、ウィフとスペンサーは歓声を上げた。

スクラフも、ヒロを尊敬した。

「すごかった。でも鉄道の達人って、何だい」

「ヒロは 昔 そう呼ばれていたんだって。何故かは知らないけど、彼を見れば わかるよ。沼に浸かったスペンサーを助けたこともあるんだよね」

「おい、その話は やめてくれよ」

ウィフが説明すると、スペンサーは顔を真っ赤にさせて決まり悪そうにした。

 

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 それからというもの、スクラフは暫くヒロのことが頭から離れなかった。

「僕も鉄道の達人って呼ばれたいな」

彼はエドワードの支線や港のゴミを集めながらそう言った。

でも他の仲間は彼をからかうのだった。

「ゴミしか運ばない君が、英雄になれるわけないって」

「違うよ、彼は "ゴミの達人"なんだよ」

と、ビルとベン。

「君たち、そんなことは どうでも良いから、早く その汚い貨車たちを 退けてくれよな。これから訪問客を運ぶんだから」

「ジェームスは 自惚れ屋の達人だな。あはは」

ベンが茶化すと、その話はそれっきりになった。

 

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 スクラフはそのまま、生ゴミの回収をしていた。

近隣で作業していたジャックとアルフィー、そしてオリバーが貨車にゴミや泥を乗せるのを手伝っていた。

すると、またしても警報がけたたましく鳴り響いた。今度は信号所からだ。

信号手が外に出てスクラフに言った。

「すまないが、大至急、この先にいる機関車に声をかけて 止めてくれるか。ブレーキの壊れた機関車が暴走しているんだ。その前の信号主が安全側線に引き込めなかったそうだ。早く!」

 

スクラフは慌てた。この先の港では、これからジェームスが観光列車を牽くところだ。

しかし、彼の小さな車輪では急いで彼の元へ伝えに行くのは無理だと思った。それに自分の言うことを聞いてくれるかもわからない。

そこで彼は閃いた。

「みんな、この貨車を 押し倒してくれないか」

「どうして。せっかく積んだのに」

「また 積み直せばいい。このゴミと泥で 暴走列車の車輪を止めるんだよ」

ジャックとアルフィーはそれを良い考えだと思った。

背後から勢いよく噴き出る蒸気の音が聞こえる。

「急いで!」

スクラフが叫ぶと、気が進まなかったオリバーも協力して貨車を押し倒した。

「いち、にの、さん!」

 

貨車が倒れてゴミとスクラップと泥が隣の線路にこぼれ落ちたかと思うと、暴走機関車が突っ込んできた。

スクラフとジャックたちは慌ててその場から離れて様子を伺った。

その暴走機関車とは、なんとヒロだったのだ。

彼は勢いよくゴミの塊に突っ込んだ。大きな塊のスクラップは鑑賞気を抑え、ベトベトの生ゴミと泥は、ヒロの車輪に食い込んでブレーキになった。

ヒロの速度はみるみる落ちていき、やがて信号所から離れたところで止まったのだった。

身体は悪臭にまみれたが、ようやく止まれてヒロもほっと安心したようだ。

「この生ゴミは君が落としたものかい」

ヒロが尋ねると、スクラフは縮こまった。

「ごめんなさい。まさか鉄道の達人を ゴミまみれにしてしまうなんて」

しかし、ヒロは笑顔になった。

「謝ることではない。君が気転を利かせてくれたおかげで 私は助かったんだ。どうも ありがとう」

 

スクラフとヒロの機関士は前方と後方に赤旗をたて、それぞれ離れた場所に信号雷管を仕掛けた。他の機関車が間違って突っ込まないようにするためだ。

信号手はレスキューセンターに報告し、まもなくエドワードとロッキーと一緒にトップハム・ハット卿がやってきた。変わり果てた姿のヒロに、彼は驚いた。

「一体何があったのだね」

「スクラフとジャック達が私を助けてくれたんです。このゴミのおかげで、私は観光列車に ぶつからずに済みました」

「そうか。本当に よくやったな、スクラフ。君は本当に役に立つ機関車、いいや、英雄だよ」

スクラフはとても誇らしかった。

しかし、すぐに仕事に戻ることになった。このままでは支線の運行が停滞してしまう。

「さあ、エドワード、すぐにヒロを整備工場に運んでくれ。スクラフはゴミの片付けを大至急頼む。ジャックたちも協力してくれるかね」

「もちろんです。お任せください」

 

 すぐにヒロは元通りに修理されて線路に復帰した。

それからスクラフとヒロは良い友達になった。

スクラフは力強て親切な彼を尊敬し、ヒロは彼を「鉄道の小さな達人」と呼び、時々彼らのゴミ集めを手伝うのだった。

 

 

おしまい

 


【物語の出演者】

●ゴードン

●ジェームス

●ビルとベン

●スペンサー

●ウィフ

●ヒロ

●スクラフ

●ジャック

●オリバー

●トップハム・ハット卿

●信号手

●ティッドマス駅の駅員

アルフィー(not speak)

●エミリー(cameo)

●ロージー(cameo)

●メイビス(cameo)

ソルティー(cameo)

●クランキー(cameo)

エドワード(mentioned)

●ロッキー(mentioned)

 

 

【あとがき】

 スクラフとヒロが仲良くなるまでの物語でした。公式のS16『ゆうかんなヒーロー フリン』と『トーマスときゅうこうれっしゃ』それぞれ冒頭の場面で一緒にいる場面が二度存在しており、いつの間にか仲良くなっているような描写もあります。そこからインスピレーションを受けて、その間に何が行われていたかを考えてみました。当時から気になっていましたが、ある時それが物語として作られていない事が話題になり、「ぜるさんなら創れそう」みたいな発言を目にして、実行に至りました。楽しんでいただけたら嬉しいです。

 なんで今更、しかもシーズン14のブレンダム編にやったのか疑問に思われるでしょう。元々はどこにも属さないオマケのエピソードとして投稿する予定でした。タイトルのフォントが大きく異なるのもそういった理由があります(久しぶりに編集した時びっくりしました)。

本来投稿予定だった『いたずらカモメ』は表現が難しかった*1ので一旦おいておきましたが、クランキーとカモメのスチュアートの貴重な友情回なので、いずれ別の方法で投稿しようと考えています。

 

 

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*1:『ジェームスとディーゼル機関車』と当回は投稿停滞の理由の一つです。その為、ボーナスエピソードは一通り投稿した後に公開予定です。