Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E24 パクストンのブレーキしゃ

f:id:zeluigi_k:20210502182543j:plain

 ある日、シドニーは、友達のパクストンを探していた。

名前を呼びながら、ディーゼル整備工場を駆け回っている。

「パクストン、ねえ、パクストン。さっきヴィカーズタウン駅で面白いことがあったんだけど…」

だけど、パクストンの姿はどこにも見当たらない。

「どこに いっちゃったのかな」

その時、彼の視界に、深緑色のボディで、黄色いラインが入った、四角い車両が目に入った。

それはまさに、パクストンの特徴そのものだった。

「あ、ここに いたのかあ。ねえねえ、面白い話が あるんだ」

でも、シドニーに対する返事はない。

 

f:id:zeluigi_k:20210502182549j:plain

「パクストン、聞いてる? おかしいな、返事がないなんて。まさか、故障しちゃった?!」

「それ ブレーキ車だよ、シドニー。よく見て」

そばで見ていたデニスが言った。

「ブレーキ車だって。本当だ。深緑色だから、てっきりパクストンかと思ったよ」

 

f:id:zeluigi_k:20210502182707j:plain

 その夜、シドニーは、ブレーキ車のことをみんなに話した。

駅で起きた面白い話のことは、頭からすっかり抜けているようだ。

「それでね、パクストンが ブレーキ車に なっちゃったと思ったんだ」

「こりゃ傑作だ。ブレーキ車のパクストンだってよ。そいつは どこにあるんだ」

ディーゼルが大笑いすると、デニスが答えた。

「確か 工場の裏だよ。今日 ジェームスが届けにきた燃料と一緒だ」

「僕も会ってみたいですね。その、僕に そっくりなブレーキ車さんに」

 

f:id:zeluigi_k:20210502182603j:plain

 最初のうち、パクストンも、仲間の云うブレーキ車の冗談を聞いて笑っていた。

深緑色の車体に、黄色いライン、そして灰色の台車。本当に自分そっくりだったのだ。

だが、ディーゼルが何度も何度も悪ふざけを続けたので、次第に気分が悪くなってきた。

「ー俺が悪いだって。ポーターのやつが トロいのが悪いんだ。そうだよなあ、パクストン。おっと、こりゃ ブレーキ車だった」

彼はパクストンの目の前で、わざとブレーキ車と間違えるのだった。

 

f:id:zeluigi_k:20210502182629j:plain

パクストンがブレーキ車を移動させていると、決まってディーゼルたちがからかいに来る。

「見ろよ お前たち。パクストンの奴が2台も走ってるぞ」

「確かに。どっちがどっちか わからないでやんすよ。にゃはは」

と、ダートも笑う。ハリーとバートもゲラゲラ大笑い。

 

f:id:zeluigi_k:20210502182617j:plain

 ある朝のこと、パクストンは採石場に行く前に、同期のノーマンに相談した。

「あーあ、もう うんざりですよ」

「あのブレーキ車のことかい」

「はい。始めは面白かったんですけど、ディーゼルさんたち懲りなくて、正直なところ、疲れちゃいました。ブレーキ車さんにも申し訳立たないし」

「そういえば、ブレンダムの港で ブレーキ車が不足してるって、ソルティーが言っていたんだ。港に置いてきたらいいんじゃないかな」

ノーマンはパクストンに目配せをした。

「それは いい考えですね。ありがとう、ノーマンさん」

 

f:id:zeluigi_k:20210502182642j:plain

 こうして、パクストンは、自分そっくりなブレーキ車を連結した。

あれだけ連結するのを嫌がっていたのに、今では彼の心は軽く弾むような気持ちだ。

「港に置いておいたら、きっと誰かに別の場所に運んでくれますね。これで あなたも からかわれずに済みます」

パクストンはブレーキ車に言った。返事はなかったが、彼はいい気分だった。

 

f:id:zeluigi_k:20210502182653j:plain

その途中で、彼は材木の集積場に通りかかった。

そこには友達のフィリップがいて、彼を呼び止めた。

「あ、パクストン! そのブレーキ車は誰? キミと お揃いだね」

「ええ、そうなんです。偶然、ディーゼル整備工場で出会いました。だけど、そろそろ お別れするんですよ」

パクストンは、またからかわれると思って、苦笑いで答えた。

「どうして。キミに すごく似合ってるのに」

フィリップがしつこく尋ねるので、彼は訳を話した。

「だったら、自分のトレードマークにしちゃえばいいんだよ」

「トレードマークですか」

「うん。今のキミは 離れたがってるけど、それを逆手に取るのさ。自分の"モノ"で 当たり前にしちゃえば 恥ずかしくないし、からかわれることだって なくなるよ。そのうちにね」

「でも、ブレーキ車さんと、持ち主に悪いですよ」

「そうだけど、僕ちゃんが言いたいのは そうじゃないんだ。つまり、ポジティブに向き合うってことさ。いつも キミが みんなにしてるみたいにね!」

 

「フィリップさんは ああ言ってたけど…」

パクストンには、フィリップの言った事の意味がよくわからなかった。

彼はそのまま、ブレンダム港に到着した。

すると、ソルティーが声をかけた。

「おお、ブレーキ車を持ってきてくれたのか。およよ、こいつは驚いた。お前さん そっくりじゃないか」

「もう、ソルティーさんまで…」

「悪いな、相棒。でも そいつは ここに置くより、お前さんが持ってた方がいいかもしれんぞ」

「どうしてですか」

「海の漢の勘ってやつだ。それに ほら、そいつを付けておけば、誰の列車か すぐにわかるだろうよ。さ、採石場の機関車が お待ちかねだぞ。相棒と仲良く一緒に がんばりな」

ソルティーが言うと、倉庫で待っていた車掌がブレーキ車に乗り込んだ。

 

 パクストンはソルティーに言われるがままに、ブレーキ車と一緒にブルーマウンテンの採石場へとやってきた。

今度はラスティーが彼に声をかけた。

「おや、本当に そっくりだな。噂に聞いていた通りだよ」

「ええっ、噂ですか」

「昨日、ハリーとバートが話していたよ。だから、ここじゃ みんな知ってる。僕らも "深緑色の列車"を見られて光栄だよ。キミが羨ましいんだ」

パクストンは複雑な気持ちだった。喜んでいいのか、それとも怒るべきかわからない。

でも、不思議と、もうブレーキ車を手放す気にはならなかった。

「うーん、じゃあここで待っていてくださいね」

パクストンは、ブレーキ車と車掌に言った。

彼は一度側線に置くと、ホッパー車を牽いて、オーエンの真下に向かった。

 

石を積み終えると、列車を一度側線に後退させて、ブレーキ車を連結した。

もちろん、周りにあるブレーキ車は、パクストンが持ってきたそっくりさんただ一台だけだ。

「じゃあ、またね オーエンさん」

彼は気さくに挨拶して、採石場を後にしようとした。

ところが、問題が起きようとしていた。

採石場の石橋の上でラスティーがのんびり貨車を押しているところへ、ダンカンが、ガタゴトと猛スピードで突っ込んできたのだ。

ガッシャン!

大きな音を立てて、ダンカンがラスティーにぶつかった。

そのはずみで、貨車がフラフラと揺れ、今にも脱線しそうな状態になった。

貨車はパクストンの真上だ。しかし彼は気がついていない。

ラスティーが叫ぼうとしたその瞬間、パクストンの列車が急に止まった。

「なんだなんだ?」

それはパクストンが止まったのではなかった。状況にいち早く気がついた車掌が、ブレーキ車で停車させたのだ。

そして次の瞬間、橋の上の貨車から、積荷の石がポロポロと線路の上に落ちてきたのだった。

 

 間もなく、現場はパクストンとラスティーが安全に通れるように片付けられた。

入れ替わるようにノーマンも採石場にやってきて、様子を伺っている。

「どうやら、このブレーキ車は、ブレーキの効き目が とても優れているようだ。後ろから キミを全力で守ってくれたんだよ」

と、車掌がパクストンに優しく話した。

「そうだったんですか。どうも ありがとうございます。なんだか嬉しいですね」

「さっきは ああ言ったけど、その子を、キミの相棒にしたらどうかな」

と、ノーマン。

「それも悪くないかもですね。いたずらものより、優秀なブレーキ車といる方が、ずっと楽しいです」

 

 こうして、パクストンは、自分そっくりなブレーキ車の事を気に入った。

トップハム・ハット卿から許可をもらい、彼専用のブレーキ車になったのだった。

その日の午後、操車場でディーゼルたちがからかいにやってきた。

「おや、パクストンがパクストンと並んでるぞ。随分とお似合いじゃないか」

「はい、知っています。僕のお気に入りの相棒なんですよ」

「はあ?」

ディーゼルはからかったつもりだったが、パクストンが堂々としたので、目を丸くした。

そしていつしか、パクストンとブレーキ車が一緒にいるのが当たり前になり、誰も彼も、あのディーゼルでさえも、からかわなくなった。

今ではフィリップの言っていた意味を、パクストンはなんとなく理解していた。そして彼は、そんな今がとても幸せなのだった。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

ディーゼル

ソルティー

●デニス

●ダート

●ノーマン

●パクストン

シドニー

●フィリップ

●ラスティー

●車掌

●ポーター(not speak)

●ハリーとバート(not speak)

●ダンカン(not speak)

●ファーガス(cameo)

●スカーロイ(cameo)

●ピーター・サム(cameo)

●ローリー1(cameo)

●ブッチ(cameo)

●クランキー(cameo)

●ジェームス(mentioned)

●オーエン(mentioned)

●トップハム・ハット卿(mentioned)

 

 

【あとがき】

 玩具ネタです。CG仕様の"プラレールジェームス"付属のブレーキ車がパクストンカラーで話題になったのを基に、手元のパクストンを使って、思いつきのまま執筆しました。

元々はExtra Episodesシリーズの第39話に該当する予定でした。39話から42話はディーゼル整備工場を拠点とした、ディーゼル機関車たちが主人公の書き下ろしを考えていました。でも、そこまでの余裕は残されていないので、残ったものは今回のようにS14、S15、S16、そして新・出張版P&TIに散り散り回しました。物語の出演者で台詞があるキャラがディーゼル機関車で絞られているのはこのためです。