ある朝、トビーはヘンリエッタと一緒に、行楽客を運んで、古い金鉱を訪れた。
「やあ、おはよう、トビー」
そこには彼の友達、バートラムの姿があった。休日になると、トビーと一緒に、お城や鉱山を訪れるお客さんを楽しませるためのツアーを行っているのだ。
バートラムはとても勇敢な機関車だ。ちょっとやそっとのことで、うろたえることもない。
彼はかつて、デュークたちと共に、鉱山に繋がる古い鉄道で働いていた。
やがて鉄道が閉鎖になると、彼は長きにわたって鉱山に取り残されていた。それでも恐れることなく時々火を焚いていたことから、いつしか人々に勇敢な"戦士"と呼ばれるようになった。
トップハム・ハット卿の計画で、この金鉱が観光地として再開発された後は、出会ったトビーと友達になり、今では楽しく働いているのだった。
「調子は どうだね。また橋で目を瞑って走ったのかい」
バートラムがトビーに言った。
「そうなんだよ。あそこは いつ通っても おっかないからね」
「もう、トビーったら。あの橋は何年も安全よ。心配しなくて大丈夫」
と、ヘンリエッタが笑って言った。
「それが一番心配なんだ」
「なんだか 賑やかだね」
トビーは、鉱山のそばでジャックたち建設現場の仲間たちが働いているのに気がついた。
「この観光地に欠かせない、歴史博物館を新しく建てるそうだ。出来上がりが楽しみだよ。ここが もっと 賑やかになればいいと思うね。そうすれば、ツアーも盛り上がるだろう」
と、バートラムが説明する。
ジャックとオリバーは、邪魔な岩を片付けていた。そこには、クレーン車のケビンの姿もあった。ケリーの代わりに、ソドー整備工場から手伝いに来たのだ。
だが、まだ、やることがなくて暇そうだ。
「悪いね、ここは 僕たちに任せて」
と、アルフィーが言う。
すると、現場監督が、重機たちに向かって何か叫んでいる。
「おーい、誰か 鉄球で この壁を破壊してくれ」
「僕、やりたいです!」
ケビンは張り切って返事をした。だが、すぐにオリバーに呼び止められた。
「僕が やるよ。小さなキミには あの鉄球は重すぎるって。転んだら大変でしょう」
「あーあ、退屈です」
ケビンは給水中のバートラムがいる機関庫へ下がっていった。
「大丈夫。あなたにも そのうち出番が来るわ。そのために ここへ呼ばれたんでしょう」
と、ヘンリエッタが彼を慰める。
「そうだとも。戦士は 忍耐が必要だ。屈することはない」
「戦士ですか? でも、バートラムには敵わないですよ。何年も ここで じっとしていたって、アルフィーから聞きました」
「そんなことはない。ここに来れば 皆 戦士だ。勇敢な戦士ケビン、かっこいいだろう。では 私は参る」
バートラムは客車を繋いで再び出発した。
ケビンは少し嬉しそうにして彼らを見送った。
バートラムの普段の仕事は、休日に行楽客や観光客を、"戦士のドキドキ発掘ツアー"と題した、ツアー列車に乗せて走ることだ。
アトラクションの鉱山の中の曲がりくねったトンネルの中をぐるぐる進んでいき、一度廃線になった路線を辿って、ファークァー・ロード駅でレックス達の列車と接続する。
そうすれば、アールズデール鉄道を楽しみたい人や、港へ帰る人々がスムーズに乗り換えることができるからだ。
「さあさ、港行きの方は レックスの列車に お乗り換えください。続けてツアーを楽しみたい方は どうぞ そのまま お待ちくださいね。後半の発掘ツアーも見逃せませんよ」
「今日も大盛況だね、バートラム。お客さん達が楽しそうだ」
ところが、次の日、異変が起きた。
レックスが接続列車を待っていても、バートラムが山の中から出てくることはなかったのだ。
「あれれ、おかしいな。時刻表が変わったのかな」
「ミスター・ダンカンから その報告は ないはずだが」
機関士が言った。
彼らは遅れていると想定してしばらく待つことにした。
だが、いくら待っても、バートラムの来る気配はない。蒸気の音もない。
乗客が時計を何度も見返すようになったのち、レックスは連絡するために出発した。
それから数時間後、ダックが、クロヴァンズ・ゲート駅の荷さばき所で、狭軌の機関車達に声をかけた。
「さっき、マイクから聞いたんだけど、バートラムの列車が トンネルから出てこなかったんだって」
「ひょっとして、トンネルで 迷子に なっちゃったのかな」
ルークが言うと、サー・ハンデルが否定した。
「まさか。バートラムは 何年も鉱山にいたんだ。自分の庭のような場所で 今更迷うわけがない」
「様子を見にいってくれないか。バートラムの線路は キミ達しか走れない」
「悪いけど、あそこまでの線路は 繋がってないんだ。それに 採石場の仕事で忙しくてね。こっちも、人手が足りないくらいなんだ」
と、レニアス。
一方、接続列車のトビーも、異変に気がついていた。
彼は採石場で、ケビンを運ぶ途中のトーマスに会った。
「バートラムが居ないんだ。往復で戻ってくる時間なのに、駅にも、鉱山のそばにも、お城にも居ないんだよ」
「そりゃ大変だ。すぐに レスキューセンターに報告しなきゃ」
間もなく、捜索が始まった。
ヘリコプターのハロルドが、上空からバートラムの行方を探している。
山を越え、地上の線路を見渡したが、特に問題はない。
彼は捜索しながらレスキューセンターに無線通信した。
「線路 異常なし。車止めの整備も 整っています。森に機関車が迷い込んだ形跡は 見つかりません」
それもそのはず、バートラムの列車は、鉱山の中だった。
トンネルの中で迷子になったわけではない。
「閉じ込められて何時間経つだろう。こんなことなら 非常口の手配を申し込むべきだった」
と、機関士が不満をこぼした。そう、トンネルの内部が崩れて前にも後ろにも進めないのだ。
乗客が真っ黒になる前に、機関士はバートラムの蒸気を止めて、しゃがみこんでいた。
心配そうな乗客に、バートラムは安心させようと声をかけた。
「ご安心ください。この島には 我々の他にも、立派な戦士がいます。すぐに 我々を捜索しに、助けに来ますよ。しばしの辛抱です」
彼は、じっと待つことには慣れっこだったが、乗客のことが気がかりだった。
トンネルの前では、機関車と作業車で溢れていた。トビーはヘンリエッタに作業員を乗せ、トーマスは採石場から、掘削機のサンパーを借りてきていた。
でも、問題はバートラムほど小さな機関車が入れるトンネルの中を、誰が捜索しに行くかだ。
「サンパーじゃ、体が高すぎて入れないだろうね。観光地としては、他に穴を開けるわけにもいかないだろう」
と、オリバー。
「僕やジャック、それにオリバーも、バケットとショベルがつっかえて進めないかも」
と、アルフィーが言うと、ジャックが名案を閃いた。
「ケビンは どうかな。僕らより小さいし、クレーンを水平にすれば、きっと入れるよ」
「ええっ、僕!?」
ケビンは動揺した。でも、みんなジャックに賛成だった。
「大丈夫、あなたは勇敢な戦士、ケビンよ。バートラムにも言われたでしょう」
ヘンリエッタが鼓舞する。
「よし、やってみます」
ケビンはライトに灯をつけ、クレーンを水平にして、鉱山の坑道へと入っていく。トンネルの高さとスレスレだったが、ジャックの予想通り、入ることができた。
トンネルの中は入り組んでいて、ポイントだらけだった。
ケビンはソドー整備工場で馴染んだ匂いを辿る。
しばらくすると、落石で塞がった線路がライトの灯の先に現れた。匂いはここで途切れている。
「おーい。そこに バートラムは いますか」
ケビンは恐る恐る岩の壁に声をかけた。
すると、返事が奥から響いた。
「ああ、バートラムは ここだ。救助を頼む」
「今、この岩を退かしますからね」
ケビンは一旦戻って、現場監督から鉄球を借りた。オリバーの物ほど大きくはなかったが、とても重かった。
彼はトンネルにつっかえないよう重さに耐えながら、思いっきりフックを振りかぶって岩の壁を蹴散らしたのだった。
乗客はみんな歓声を上げた。バートラムと、彼の機関士も嬉しそうだ。
「早く乗客を地上に出さねば」
「でも、僕では ボス… じゃなくて あなたを引き戻せないかも」
「それだったら、こうしよう」
ケビンは、バートラムの案で、再びトンネルの外へ戻った。
鉄球を返し、今度は前後に頑丈なチェーンを繋いだ。
後ろのチェーンはアルフィーに取り付けられ、その後ろにジャック、オリバー、サンパーと並ぶ。
機関士の掛け声に合わせて、ケビンが客車を引っ張り、その後ろの車両も全力で引っ張った。
「がんばれ! キミたちならできるよ」
トーマス達は彼らに声援を送る。
まず最初に客車だけが引っ張り出され、その後にバートラムが戻される。こうして全員が無事に助け出されたのだった。
「よくやった! キミが無事で 本当に良かったよ」
トビーは乗客を運びがてら、バートラムにとても安堵していた。
ハロルドは、具合の悪いお客を、病院へと運ぶため飛び立っていく。
「ありがとう、ケビン。危険を顧みず 我々を見事救い出した勇気に、私は感服した! 貴殿こそ まさしく勇敢な戦士、いや、勇敢な騎士だ」
と、バートラム。ジャックたちも、ケビンを褒めた。
「騎士には 称号を与えなくてはね」
機関士は、ケビンの運転席にツアーの参加の景品をプレゼントした。
「やったあ! バートラムに認められるなんて、感激です。今日から僕は、勇敢な騎士だー!」
嬉しそうにはしゃぐケビンを、そこにいた全員が、微笑ましそうに見守るのだった。
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●トビー
●ダック
●レニアス
●サー・ハンデル
●バートラム
●ルーク
●レックス
●ジャック
●オリバー
●ケビン
●ハロルド
●バートラムの機関士
●レックスの機関士
●現場監督
●サンパー(not speak)
●スクラフィー(cameo)
●ブッチ(cameo)
●ネッド(cameo)
●デューク(mentioned)
●マイク(mentioned)
●ケリー(mentioned)
●ファーガス・ダンカン(mentioned)
【あとがき】
元々、新・出張版向けに考えていたシナリオを、トラックマスターのバートラムという貴重な品を是非P&TIで活用してほしいと、長い付き合いの読者から借りてこの回が実現に至りました。貸していただき本当にありがとうございます(※これに伴い、P&TI Ex-22『チャーリーとトビー』の一部の写真を撮り直しました)。
バートラムは性格と鉱山の観光地としての具体的な役割がほとんど示唆されていないのですが、世界観の構築に大いに役立っています。『トーマスと失われた王冠』パンフから掲載された2014年の地図を参考に、ひょっとしたら古い金鉱から繋がる廃線を使ってアールズデール鉄道と接続しているかもしれない、鉱山を観光地にしたらばアトラクション風味になっているかもしれないと、自分が密かに想像を膨らませていたものを形にできて満足です。
本家第24シリーズにロアー・アールズバーグ近郊のRickety Old Bridgeが登場したので、シリーズが続いていたら、もしかしたらイアン・マキューの案で登場していたかもしれないよねってずっと考えてる。トビー主役である復活キャラが出る中編を考えてたらしいし。
ともかく、P&TIでは他にもバートラムの出番を用意しています。あと、今思えばケビンて割と縦長でしたね…(笑)