Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI S14 E12 おしゃべりチャーリー

 タンク機関車のチャーリーは、みんなを笑わせることが大好きだ。

彼はよく、仲間の前で冗談を言っていた。

「やあ、エドワード。ピッピッ、ピュイ、っていう音が 機関車から鳴りました。それは なんででしょう」

「うーん、なんでだろう」

「汽笛と一緒に 機関士が口笛を吹いたのさ」

「その冗談、本当に面白いね。気に入ったよ」

でも、彼はいつも自分の好きなタイミングで仲間に言うだけではなかった。

 

 ある日、クレイピッツで働くティモシーが、ソドー整備工場に運ばれることになった。

双子の機関車ビルとベンが引き起こした事故に巻き込まれたのだ。

彼のボイラーはボコボコに歪み、走るには危険な状態となっていた。

ビルとベンは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。彼らはどっちが悪いかで喧嘩になり、マリオンが仲裁に入ったが、結局謝ることができなかった。

「みんな、そんなに落ち込むなって。ビクターなら、すぐに 直してくれるさ」

ディーゼル機関車のデリックが彼らを元気づけようとした。だが、採掘場は気まずさが増すのみだった。

 

ティモシーがソドー整備工場に運ばれると、故障車を運ぶエドワードに会った。

彼はティモシーから事情を聞いた。

「事故のこと、気の毒だったね。双子のことは 僕から謝るよ」

「気にしないで。でも、採掘場が気まずそうだったんだ。あれじゃあ デリックもマリオンも、働きづらいだろうな」

「うーん、そうだな。僕に いい考えがある」

 

 その日の午後、トップハム・ハット卿がブレンダム港を訪れた。

そこにいたソルティーとポーターは、それぞれ自分がクレイピッツに行くのだろうと思った。ティモシーの事情を知っていたからだ。

でも彼が声をかけたのは別の機関車だった。

「チャーリー、君は 今から ティモシーが戻るまで、クレイピッツで働いてくれ。陶土の貨車を港に運んで来るんだ」

「わかりました。クレイピッツに行くのは初めてなので ワクワクします」

トップハム・ハット卿が去ると、チャーリーはポーター達に訊いた。

「ねえ、クレイピッツには どんな仲間が いるんだい」

「双子のビルとベンの他に、マリオンとデリックがいるよ」

「マリオンは面白いぞ。おいらと同じで、話好きだからな。ハハッ」

「そりゃ気が合いそうだ」

 

 チャーリーはウキウキしてクレイピッツに滑り込んだ。

「ポッポー! こんにちは」

彼は元気良く挨拶をした。

だが、採掘場はいまだに険悪な雰囲気が続いていた。ビルもベンもマリオンもお互いに口を聞かずだんまりしている。

デリックは、3台を宥めようとしているが、どうも空回りするばかりだ。

チャーリーは気にせず、マリオンの隣に並んだ。貨車に不要な石を積むためだ。

しかし、マリオンは話に聞いたこととは全然違う態度を取った。

彼女の目は疲れていて、とてもしゃべる気分ではなかったのだ。

「後で聞くわ。今は仕事に集中したいの」

チャーリーはちっとも面白くなかった。

 

 その晩、チャーリーは港に戻る途中で、彼らの機関庫にやってきた。

機関車達は相変わらず気まずそうだ。

そんな彼らを見て、チャーリーは張り切ってこう言った。

「ねえ、仕事も終わったし、冗談を聞かせてあげようか」

「今 そんな気分じゃないよ」

「まあ聞いてよ、ビル。背筋が凍るほど怖くて黒いものを、なんて呼ぶ?」

「うーん、怪物かい」

「石炭だよ。コール!」

それを聞いたベンは、思わずクスッと笑った。

見ていたチャーリーはにっこり笑顔になった。

「じゃあ じゃあ、これは? 穴を掘り出す機械が 穴を見つけて、なんて言ったでしょう?」

「穴は 穴じゃないのかい」

ベンが言うと、チャーリーはこう答えた。

ホーリーさ! きっと ものすごい物があったんだね」

すると、今度はマリオンが食いついた。

 

「あなた、穴を掘るのは好き?」

「ああ、好きだよ。穴掘りは ドキドキするよね。僕は 掘ったこと ないけど」

マリオンはチャーリーを気に入った。掘削を見る目があると思ったのだ。

「ねえ、ニューヨークで珍しいものを掘り起こしたときの話は 興味あるかしら」

「気になるね。ぜひ 聞かせてよ」

「その話、僕 まだ聞いたことないよ」

「僕もだ。話して、マリオン」

と、ビルとベン。

それからマリオンとチャーリーの面白い長話が続いたのだった。みんなは楽しくて、あっという間に気まずさなんか吹き飛んだように、夜が明けるまで喋り続けた。

彼らの機関士たちも、仲良くおしゃべりに夢中になっていた。

 

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 次の日のことだった。ブレンダム港は昨日より忙しかった。

波止場は機関車と船が激しく出入りし、汽笛や警笛が鳴り響いていた。

「おい、陶土は まだか。船が待ってるんだぞ」

クランキーがイライラしながら言った。

デリックかチャーリーが来てもいい時間なのに、彼の視界からは、どこにも陶土の列車は無い。それどころか、採掘場行きの空っぽの貨車も置かれたまま、通行を塞いでいる。

港の騒ぎを聞きつけてトップハム・ハット卿もやってきた。

「ボコ、空の貨車をクレイピッツに運んでくれんかね。私も一緒に行こう」

 

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 驚いたことに、採掘場の専用線でデリックが貨車を牽いたまま佇んでいた。貨車にはカバーもかかっていない。

ボコが尋ねると、デリックはウトウトしながら答えた。

「今朝、ちゃんと点検しなかったから…、燃料が尽きちゃったんだ…」

彼の機関士は運転台の上で眠っていた。

トップハム・ハット卿は嫌な予感がした。

 

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クレイピッツは全ての作業がストップしていた。

機関車も乗組員もみんなが眠たそうで、頑張って目を開けようとする者もいれば、完全に眠っている者もいた。

ビルはウトウトして貨車にぶつかり、ベンは橋の上で、マリオンはショベルに石を入れたまま眠り、チャーリーも大あくびをして、のろのろと貨車を運んでいた。

作業員が叩いて起こそうとしても蒸気を静かに上げるだけ。

全員寝不足だったのだ。

そしてボコの警笛とトップハム・ハット卿の声を聞いて、みんなハッとした。

「これは一体どういうことかね」

 

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ボコから降りてきたトップハム・ハット卿に、チャーリーは気がついて答えた。

「ゆうべ、おしゃべりに夢中になって、つい朝まで…。ごめんなさい。おしゃべりは良くなかったですね」

「いいや、それは違う。君は みんなを和ませられるから、私は この仕事を任せたんだ。エドワードが言っていたぞ。仲間を元気づける才能があるとな。だが、仕事をするに当たって休息を取ることは 何よりも大事なんだぞ。夜は眠らなければいかん。それは 人も機関車も同じだ」

「はい、わかりました。これからは 夜更かしをしないように 気をつけます。みんなも ごめんね」

ビルとベンとマリオンは、彼に同情した。

 

 ボコが貨車を運ぶ少しの間に彼らは一旦休息を取り、昼からは再び作業に戻った。

遅れを取り戻そうとテキパキ働いたので、日が暮れるころにはクタクタで、眠るには最適だったが、チャーリーも、ビルとベンも、マリオン、そしてデリックも、まだおしゃべりをしたい意欲と気力が残っていた。

でも、今日のことで反省し、マリオンは話を短く終わらせることを心がけ、チャーリーも冗談を一度言って終わった。

「ーそれじゃあ、おやすみ! いい夢を見よう」

と、チャーリーの一言で、みんな眠りについたのだった。

 

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 やがて何日か経って、ティモシーが戻ってくることになった。採掘場の機関車達はそれをとても喜んだ。さすがの双子も謝りたくて仕方なかった。

チャーリーは港ですれ違うように彼と交代した。

「やあ、元気そうで よかったよ。みんな 君に会いたがっていたよ」

ティモシーは彼のにこやかな表情を見て安心して採掘場に戻った。 

「僕の代わりに働いてくれて ありがとう」

 

仲間達はティモシーを大いに歓迎した。

「本当に ごめんね。僕たち お互いが悪かったよ。戻ってくれて よかった」

「もういいんだ。気にしないで、ビル。みんなに会えて嬉しいよ」

「僕もだ。やっぱり君が一番だよ」

 

しかし、チャーリーの居ない機関庫は、少しさびしく感じた。

仕事の時は仲良く楽しそうに貨車を運んでいた彼らだったが、寝る前のおしゃべりは退屈だったのだ。

「なんだか 邪魔しちゃったみたいだね」

かわいそうなティモシー。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

エドワード

●ビルとベン

●チャーリー

●ポーター

●ティモシー

●デリック

ソルティー

●マリオン

●クランキー

●トップハム・ハット卿

●ロージー(not speak)

●ボコ(not speak)

●ハンク(cameo)

●フィリップ(cameo)

●フレディー(cameo)

●ロッキー(cameo)

●オリバー(cameo)

●ビクター(mentioned)

 

 

【あとがき】

 中高生や大人を中心的にチャーリーがファンに不人気なのはよくわかっていますが、単なる好みのほかに、その時代の悪影響で彼の魅力的な部分が直感的に伝わりづらくなっているのも大きいと私は考えています。彼が登場して間もない頃の行動も原因の一つと思いますが、公式のエピソードでは、問題の原因になっても局長に叱られて反省したことが一度もありません。

そこで読者から「チャーリーが叱られるエピソードが欲しい」と、なぜか私に対して言われた事があります。それを受けて2012年にPToSシーズン11で『チャーリーのドッキリ大作戦!!』という物を執筆しました。しかし、その回ではチャーリーの人格の描写として不十分だと思い後に削除しました*1。その後も「叱られるエピソード」を求められた時、チャーリーの人格を十分魅力的に描写した上で、叱られる話ってどういうものが書けるか考えた結果が今回です。

2015年に書いて、2018年には文章は投稿できる状態でしたが、採掘場の情景に拘ろうとして投稿できませんでした。『呪われた森の秘密』も同様の理由です。今は情景を作る余裕がないので、素直に今の状態で投稿することにしました。

 

 

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*1:この時にはチャーリーの魅力を伝えるのに熱心になっていました。