大きな体を持つハンクは、遠くアメリカからやってきた蒸気機関車だ。
ソドー島で働くにはあまりに大きいが、大量の貨物を長い旅路で牽かせられると踏んだトップハム・ハット卿は、彼を本土への連絡列車として任せる事にした。
ところが、その分重量もあり、来島して間もなくソドー整備工場へ運ばれたのだった。
「本土の路線も順調に走れるように、少し軽量化を施したんだが、速度とパワーは問題ないはずだぞ」
「ペンキもピッカピカですよ、ボス! …じゃなくて、ハンク」
「ありがとう、ケビンにビクター! 君たちは 最高のチームメイトだ」
ハンクはいつも大袈裟な言い方をするが、彼にとっては、いつでも本気だった。
ある日の昼のことも。
ハンクは大きな駅で、トップハム・ハット卿に任された長編成の貨物列車を牽くところだった。
彼はあたりを見渡した。自分より小さい機関車達が客車や重たい列車を引っ張って忙しそうに走っている。
そこで、久しぶりに会ったトーマスに言った。
「ここの鉄道の機関車は、みんな 良い働きっぷりをするね。だけど、仕事の量に対して ちびっこすぎるよ。だから日が暮れる頃には クタクタに なっちまうんだ」
それを聞いた他の機関車たちは、馬鹿にされたと思ってぷんぷん怒った。
「ちびっこですって。お高く止まって 失礼ね」
でも、トーマスは怒らなかった。むしろくすくす笑っている。彼が他の小さな機関車たちを見下すつもりではないことを知っていたからだ。
ハンクは巨体を揺らしながらガタゴトと田園地帯を走った。
長い列車をいとも簡単に軽々と引っ張って行く。
「俺みたいな大型機関車を使ってくれれば、みんなの負担も減るだろうに」
彼は難しそうな表情を浮かべて呟いた。
一旦荷物を受け取る為、ハンクはキルデイン駅に停車した。
キルデインの駅は、本線と、電気機関車が走る為の架線が張り巡らされた支線の両方が並ぶ、やや大きな駅だった。
荷物を待っている間、ハンクは辺りを見渡した。彼の視線の先に、もう一つ駅があることに気がついた。
それは貨物駅にしては立派に見えた。
「やあ。なあ、そこの駅は 何のためにあるんだい」
彼は隣で停車していた電気機関車のクエンティンに尋ねた。
「あれは、カートレイン用の駅だよ。カートレインはね、車とお客さんを乗せる特別列車の事さ。ベアが あそこから乗せて、遠くにある本土の街に行くんだって」
ハンクは彼が話すことを感心して聞き、車掌の笛の音とともに出発した。
「話してくれて ありがとうな」
やがて夕日が沈む頃、本土のバローに貨物列車を届け終えたハンクは、操車場に戻るところだった。
その時、彼の目の前に、急行列車を牽くゴードンが現れた。ところが、その彼は、本線のど真ん中で佇んでいた。
彼の列車の車掌が、赤旗を振ってハンクを呼び止めた。
「ゴードンが故障して動けない。よかったら、整備工場まで押してやってくれないか」
ハンクは頷いたが、客車の方に目をやりながらこう言った。
「わかった。だけど その前に 客車を牽くよ。お客さんを待たせちゃいけないからな」
「俺様の客車を引っ張るだと。お前に 出来るのか」
ゴードンは少し不服そうだった。いつも貨車ばかり牽いているハンクがお客さんを運ぶなんて。
ハンクは黙っていたが、気さくに目配せすると、客車を繋いで走り出した。
そして、あっという間に終点のティッドマス駅に到着したのだった。
乗客はとても満足そうだった。彼らは本線で待つことになったのも忘れるほど快適な乗り心地だったと、駅を訪れたトップハム・ハット卿に言った。
トップハム・ハット卿は感心した。
「君は 客車を牽くのも 得意なようだな。明日から 客車を引っ張ってみないかね」
「光栄です。喜んで そうします」
その後で、助けられたゴードンはその評判を聞いてハンクに感謝したのだった。
翌朝、ハンクは操車場で客車と連結された。トーマスとパーシーは彼の新しい仕事を共に喜んだ。
ハンクの後ろでスタンリーが鼻歌を歌いながら給水していると、他の機関車達がが集まってきてヒソヒソ話をし始めた。
「あーあ。このままじゃ、僕の乗客をとられちゃうよ」
と、ジェームスが不満そうに言い、
「またチビって馬鹿にされるのかしら」
と、エミリーも不安げに言い、
「私たちの出番も無くなったら、嫌ですな。どうにかならないものですかね、スタンリー」と、ダグラスも嫌悪感を示した。
話を振られた挙句、あっという間に操車場全体が気まずくなってしまい、スタンリーは困ってしまった。
一方で、そんな井戸端会議はハンクの耳にも届いていた。
でも彼はただ黙って、トーマス達にウィンクを飛ばすと、視線を感じながら列車をプラットホームまで運んだのだった。
ハンクの列車は、各駅に停まる普通列車だった。急行とは違って全ての駅に停車する。
乗客の評判通り、彼は客車の扱いも上手にこなした。でも、彼には少し物足りなさを感じていた。
軽快に蒸気を噴き上げて、終点の駅に近づくと、彼は再び本線のど真ん中で佇む列車を見かけた。それは乗客と車を乗せた列車だった。
先頭にはパクストンとノーマンとシドニーが重連で繋がれていたが、彼らは顔を真っ赤にしてくたびれているようだった。
「一体どうしたんだい」
心配になったハンクがその場で停車した。
「ボコさんが故障したから、僕たちでカートレインを手伝っていたんですが、ノーマンさんがお腹を壊して、お手上げなんです」
「そうだな、君たちには無理だ。俺がその列車を引っ張ってやるよ。パクストンたちは俺の客車を引っ張ってくれ。なあに、あと一駅だよ」
ハンクの声がけに、シドニーとノーマンはムッとしたが、パクストンと彼の乗組員は快く承諾した。
ハンクはカートレインを率き、パクストンとシドニーは、ノーマンを側線に置いて、普通列車を引っ張った。
カートレインは、急行列車と同じように目的地にしか停まらない。ハンクは長旅に満足していた。彼は澄ました顔でヴィカーズタウン橋を渡って本土に入っていく。
列車は遅れを取り戻すようにグラスゴーの駅へ無事に到着した。
客車にはなんとトップハム・ハット卿も乗っていた。彼はハンクを褒めた。
「よくやった。君の思いやりと頑張りのおかげで、君に相応しい仕事が見つかった。これからは普通列車ではなく、カートレインを任せようと思うのだが、どうかね」
「ありがとうございます。是非よろしくお願いします。これなら他の機関車の不安と疲れも、軽くなるでしょうね」
トップハム・ハット卿は誇らしげに頷いたのたった。
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●ゴードン
●ジェームス
●ダグラス
●エミリー
●ハンク
●パクストン
○クエンティン
●ビクター
●ケビン
●トップハム・ハット卿
●車掌
●パーシー(not speak)
●スタンリー(not speak)
●ノーマン(not speak)
●シドニー(not speak)
●ドナルド(cameo)
●オリバー(cameo)
●ヒロ(cameo)
●スクラフィー(cameo)
○フリッツ(cameo)
●ノランビー伯爵(cameo)
●ボコ(mentioned)
●ベア(mentioned)
【あとがき】
ハンク回でした。実はシーズン9までハンクを登場させていたのですが、知り合いの子供*1に譲渡した関係で、その後は物語に出演させられませんでした。そして2017年にバージョンは異なりますが、別物を代行してもらい、ある種の復活を果たしました*2
P&TI S14 E11〜15はブレンダム港周辺の忙しさに焦点を当てていますが、今回は全く関係無いです。まずはハンクを紹介し、次に繋げようという考えのもと、この回を創りました。
ハンクの性格は、寛大な心があり、自分より小さい仲間を心配しており、彼らを目立たせるのを喜びとしている節があります。それを今回だけでは活かしきれなかったので、以降の話でも活用していけたらいいなと思っています。