踏切でトラックの運転手とダックの乗組員たちが揉めている。どうしたのだろう。
「妙な言いがかりは よせ。ぶつかってきたのはそっちだろう」
「冗談じゃない。僕たちは ぶつかってなんかいない。君の車が勝手に転けたんだ」
どうやら、踏切で事故を起こして、どちらが悪いかで言い争いになったようだった。
彼らは救援に来たブッチや、駆けつけたトップハム・ハット卿にも問い詰めたが、すぐに警察がやってきて騒ぎを止められた。
次の朝、ダックは他の機関車たちにからかわれていた。
警察の捜査と目撃者の証言によって彼の疑いは晴れたのだが、大型の機関車、特にゴードンはお構いなしだ。
「トラックに ぶつかるとはなあ。みっともないったら ありゃしない」
「あれは事故だよ。ぶつかってない。トラックが割り込んできたから、急ブレーキをかけて止まっただけだ。それで貨車が脱線したんだ」
「どうだか。まあ、俺様は そんな事故、起こさないね。俺様が汽笛と大声をあげれば 邪魔な奴らは どいていくし、とっさに止まれる。なんたって強くて優秀な機関車だからな。お前にゃできない芸当だ。わかったら俺様の客車を持ってこい」
そう言うと、ゴードンは「ポッポッポー」と、偉そうに汽笛を鳴らして操車場を後にした。
トビーはダックに同情した。
「気にしないで。君が悪くないのは、みんな知ってるよ」
「ありがとう。気にしてないさ。でも、あの調子じゃ、ゴードンも そのうち 事故を起こしちゃうよ」
その頃、キャロラインは警察から証言のお礼を貰うためにティッドマスに来ていた。
彼女が街の中を慎重に走っていると、突然緑色の大きな物体が視界に入り込んできたのだ。
それは野菜バスのバルジーだった。彼は道路をまっすぐ走るキャロラインには目もくれず、彼女の目の前に割り込んで右に曲がった。
「ちょ、ちょっと、直進優先でしょう!」
でもバルジーは「ふん!」と鼻を鳴らして知らんぷりだ。
「なんだい、あの 2階建バス。公共車と思えないぐらい 偉そうだね」
と、キャロラインは文句を言った。
一方、客車にお客が乗り込んだことを確認したゴードンは、偉そうに駅を出て行った。
「お前らも気を付けろよ。じゃないと ダックみたいに 踏切でぶつかるぞ」
彼は他の機関車たちに言った。
けれど、その殆どは彼の発言を気にしていなかった。
運転手は用事を済ませると、キャロラインと一緒にピクニックに赴いた。
「海が綺麗ですね、マスター」
彼女は嬉しそうに海岸沿いの道路を静かに走る。
その時、キャロラインはあるものに気がついて運転手を呼び止めた。
「何あれ。海が火事だわ!」
彼女が慌てると、近くにいたブッチが笑った。
「あれは "のろし"だよ。物を燃やして 誰かに知らせるために 煙を上げるんだ。恐らく、離島で 誰かが遭難したんだろう。ほら、キャプテンが 来たぞ」
彼らは煙に向かって水面を走るモーターボートのキャプテンを見つめた。
水平線の先に向かって行ったかと思うと、すぐにこちらへ引き返してくる。
船体には隊員以外の誰かの姿があり、ブッチとキャロラインはほっと安心したのだった。
海の景色を満喫したキャロラインと運転手は、ピクニックの広場に向かって田園地帯を優雅に進んだ。
すると、彼女はまたしても、遠くの方から立ち上がる黒い煙を目にした。
「あれも のろしかしら」
だが、どうやら違うようだ。道路を進むにつれてあらわになったのは、ディーゼル機関車のデリックの姿だった。ひどく具合が悪そうな表情をしている。
ただ事ではないと判断した運転手はキャロラインを彼の前で停車させた。
「ああ、良かった。助けを呼んでくれませんか。あれこれ考えてたら、オーバーヒートしちゃって」
と、デリックが彼女と運転手に言った。
キャロラインは同情した。そして助けを呼びにいくと約束した。
幸いにも、その道路の先に電話ボックスがあり、運転手はレスキューセンターにデリックのことを報告した。
ところが、そのすぐ近くの踏切で、別の問題が発生していた。
なんと、バルジーが、踏切のど真ん中で立ち往生しているのだ。
「また あんたね。性懲りもなく道を塞いで…」
「そうじゃない。タイヤが穴に はまって、動けないんだよ。ブツブツ言ってないで、俺をひっぱり上げてくれよ」
「まあ、呆れた。偉そうに」
彼女はバルジーの高慢な態度に腹を立てたが、彼をどかさない限り先には進めないし、踏切に置き去りにしておくのも事故につながるリスクがあるだろうと運転手は思った。
そこで、運転手は非常用の牽引ロープを使ってキャロラインとバルジーに繋いだ。
「うんとこしょ…」
キャロラインは唸り声を上げながら力の限り引っ張った。だが、バルジーはびくともしない。
「もっと精一杯 ひっぱれよ」
「それが 他人に物を頼む態度なの。か弱い年寄りを 荒っぽく扱わないでよ」
キャロラインはぷんぷん怒りながら引っ張った。それでもバルジーは動かない。彼の車体が重すぎるのだ。
そしてとうとう、キャロラインの限界が来た。何かが壊れる音がしたと思うと、彼女のフロントから黒っぽい煙が立ち昇った。エンジンがオーバーヒートしたのだ。
その時、「ポッポッポー」という、大きな汽笛の音が聞こえた。
「急行列車のお通りだ!」
折り返し運転のゴードンが、轟音を立てて猛スピードで踏切に向かってくるではないか。
「い、いやだ。助けてくれ。このままじゃ、野菜と屑鉄のミックスジュースになっちまう! 頼む、俺が悪かった。もう二度と偉そうにしないから 俺を助けてくれ」
と、バルジーは情けない声を上げた。
そうは言っても、キャロラインはもうヘトヘトで動く力さえ残っていない。
一方、ゴードンの方も前方で立ち昇る煙に気がついた。
ゴードンの機関士は蒸気を緩めて速度を落とそうとしたが、ゴードンは止まる気が無かった。
「ポッポッポー! 道を開けろ。急行列車の お通りだぞ!」
彼は大きな声で叫んだ。
だが、視界が開けて、一向に動く気配のないキャロラインとバルジーの姿が目に入った時、流石のゴードンもギュッと目を瞑ってブレーキに力を込めた。
「ああああ、いやだ、いやだ!」
バルジーが叫ぶ。キャロラインも気付いてほしいと祈った。
ゴードンの機関士は慌てて炭水車のブレーキをかけ、逆転機のレバーを倒し、踏切のゲートとスレスレのところで彼を緊急停車させた。
客車は反動で大きく揺れたが、幸いにも、けが人は出なかった。
そしてデリックを助けに来たブッチがその一部始終を見ており、すぐに彼によって2台とも救助された。
その日の夕方、ゴードンは機関車たちが集まっている機関庫の方にやってきてこう言った。
「よう、ダック。調子は どうだ。俺様はな、今日、踏切に居座ったバルジーを 目の前にして止まれたんだぜ。やっぱり俺様は 明瞭で優秀な機関車なんだな。お前にゃできない芸当だ」
でも、他の仲間たちは今日の出来事がゴードンの踏ん張りのおかげだけでないことを知っていた。そう。本当はキャロラインがオーバーヒートで、のろしのように上がった黒い煙のおかげで彼がすぐに気付けたということを。
「そうだね。小さくて重要な存在を見落とすなんて、僕にゃできない芸当だよ」
と、ダックがほくそ笑み、こっそりブッチに目配せした。
その翌日、キャロラインが市長から、ある急行列車とバスを救ったお礼に表彰とエンジンの修理費を受け取ったのだが、市長を運んだゴードンは決まり悪そうに頬を赤く染めながら、操車場にそろりそろりと帰っていったのだった。
そして二度と、その事を口に出さなくなった。
おしまい
【物語の出演者】
●ゴードン
●トビー
●ダック
●デリック
●バルジー
●キャロライン
●ブッチ
●ダックの機関士
●トラックの運転手
●ローリー1(not speak)
●キャプテン(not speak)
●トップハム・ハット卿(not speak)
●ゴードンの機関士(not speak)
●キャロラインの運転手(not speak)
●エドワード(cameo)
●ヘンリー(cameo)
●ジェームス(cameo)
●ドナルドとダグラス(cameo)
●ロージー(cameo)
●ボコ(cameo)
●ヘクター(cameo)
●エリザベス(cameo)
●市長(mentioned)
【あとがき】
アレンジ第24回は2011年投稿のPToS S10 E15より『キャロライン大ピンチ!』でした。別プラットホームの前回を例外として、エクストラエピソードに選んだ回で唯一アーカイブが残っていない為、シナリオは一からの作り直しとなりました。削除した当時の私は余程気に入らなかったのでしょう。それ以降、私はこの回の事をほぼ覚えていません*1。どうせひどいプロットなので思い出したくもないですけれど。
キャロラインの口調にはかなり迷いました。原作のおばあちゃん風にするか、TV版の口調にするか。ひとまず年寄りであることは触れておきました。私の単なるこだわりです。また、キャロラインとオーバーヒートをイコールで結びつけるのはかわいそうなので別の機会で活躍させるときはそれ以外の方法で行いたいです。ひとまず今回はその欠点が役に立ったというお話でした。
*1:写真は現存しています。