チャーリーは、紫色の小さなタンク機関車だ。彼は何より楽しいことが大好きで、みんなに競争を持ちかけたり、冗談を言っては笑わせるのが趣味だった。
「おはよう、冗談を聞いてよ。挨拶に答えてくれる石って 知ってるかい」
彼は、眠そうに水を補給しているゴードンに言った。ゴードンが答えを渋っていると、彼はすかさず答えを出した。
「ストーンが返事、ストーンヘンジ」
全ての仲間がそうではないが、チャーリーの動向には思わず笑ってしまうことが多かった。ゴードンでさえ、噴き出している。
一方その頃、トビーは憂鬱な気持ちでナップフォードの操車場にいた。
仲良しの客車、ヘンリエッタが修理に出されることになったからだ。しばらくの間、パーシーの仕事を手伝うことになっていた。
「元気出しなよ、こんなに いい天気じゃないか」
ネビルが陽気に汽笛を鳴らした。
「そんな気分になれないよ」
と、トビー。
そこへ、チャーリーが駆け込んできた。彼はトビーを見つけると、こう言った。
「やあ! ブラフズコーブまで、競争しようよ。今日は天気がいいから、海辺を走ると、気持ちいいよ」
でも、トビーは競争なんてしたくなかった。それに、とてもする気になれない。
「あいにく、これから エルズデール・バターを 港に届けなくちゃいけないんだ」
「それじゃあ、僕も手伝うよ。仕事を早く終わらせられたら、それだけ沢山楽しめるだろう」
そう言って、チャーリーは、トビーの列車を押していくことにした。
「(静かに運べると思ったのになあ)」
トビーは、心の中でそっと呟いた。
チャーリーが後ろから押したおかげで、あっという間に港に到着した。
「手伝ってくれて ありがとう。もう、戻りなよ。君の仕事も 遅れてしまうよ」
彼は、チャーリーに繋がれている、果物の貨車を見て言った。
「大丈夫だよ。ここから全速力で走ればいいから。君も来てくれるよね」
「どうしてだい」
「一緒なら きっと楽しいよ。暗い気分も すっとんでいくさ」
「僕のことは 気にしないで、君は 自分の仕事に 集中するんだ」
「もう、真面目だなぁ。四角い車体は 伊達じゃないね。もっと 面白い機関車だと 思ってたのにな」
その言葉に、トビーはカチンときた。彼は物知りで賢い機関車だ。でも、つまらないと思われるのは癪に障る。
「それなら 僕にだって 考えがある。ついてきて。楽しいことを 始めようか!」
それを聞いたチャーリーは、ワクワクして笑顔になった。
トビーとチャーリーは、支線と貨物線の分岐点まで戻ってきた。
チャーリーはポイントが切り替わるのを待っていたが、トビーはそのまままっすぐ進んで、支線の終点の方へ走っていく。
チャーリーは困惑した。
「どこいくの、トビー」
「君は そのまま本線に出て、ブラフズコーブまで 走るんだ。まあ、今に わかるよ」
チャーリーは彼に言われた通りに、本線からダックの支線に入った。
間も無く、貨物の目的地であるブラフズコーブに到着すると、なんと、反対側からトビーが顔を真っ赤にして走ってきたのだった。
「すごい、どうやって ここまで来たの。真逆の方向を走ってたのに」
「古い支線を通ってきたんだ。昔使われていた、路面鉄道だよ」
チャーリーは、楽しくなった。
「君って 物知りなんだね。ねえ、その古い支線には 何があるの。僕と冒険しようよ」
こうして、チャーリーとトビーの冒険が始まった。
トビーはその支線を知り尽くしていたが、チャーリーは目新しいものを見るたびに、冗談を言ったり、水に浸かった線路から水をはね飛ばすように走り抜けて思いっきり楽しんだ。
まず、彼らは鉱山にやって来た。トビーの友達、バートラムが、彼らに昔話をしてくれた。
チャーリーも、バートラムに冗談を言って彼を笑わせた。
「冗談なんて久々だよ。面白いのが出来たら、また寄っておくれ」
2台は楽しそうだったが、トビーは笑わなかった。
次に、彼らがやってきたのは、グラグラする古い橋だった。
「こりゃスリル満点だ。トビー? どうして止まってるの」
「競争に夢中で、この橋のことを すっかり忘れてたよ」
「でも、さっきも通ってきたんでしょ。なら大丈夫。目を瞑れば怖くないよ」
「目を閉じてる間に壊れなきゃいいけど」
でも、橋は軋むだけで、大丈夫だった。
トビーは怖がっていたが、楽しそうに笑うチャーリーを見て、彼は連れてきて良かったと少し思った。
「キミって、楽しい機関車だったんだね」
「君には負けるよ、チャーリー」
「ねえ、今楽しい?」
トビーは頷いたが、まだ浮かない顔の彼を見て、チャーリーはがっかりした。
「そうだ、とっておきの冗談があるんだけど−」
その時、問題が発生した。
「何か聴こえないか」
トビーは再び立ち止まった。
『ゴゴゴゴ…』という、轟音が辺り一帯に響いている。
「この音は、崖崩れだ! トビー、危ない!」
チャーリーは叫ぶと、思いっきりトビーを押し出した。
一緒に山から離れようとしたその時、チャーリーの車体に岩石がぶつかり、湖の方へと押し流されてしまった。
「チャーリー! 大変だ、今 助けを呼んでくる」
トビーは血相変えて、採石場へ滑り込んだ。
「メイビス、緊急事態なんだ。クレーン車を借りるよ」
「ええ。でも、私も行くわ。あなた一人では運べないでしょうし」
「ありがとう。ああ、チャーリーが無事だといいんだけど…」
トビーはメイビスと一緒に救援クレーン車を押して、すぐに湖のほとりへ戻った。
彼は終始チャーリーの身を案じていた。
だが、クレーン車が岩石をどかすと、そこにはカモの真似をするチャーリーの姿が現れたのだった。
「グワッ、グワッ、グワッ、グワ。水鳥になった気分だ」
それを見たトビーは、緊張が一気に解けて笑い声を上げた。
「あ、やっと笑ったね。キミが笑うのを、ずっと待ってたんだ」
きょとんとしたトビーに、チャーリーは説明した。
「笑ってる方が楽しいでしょう。キミのパートナーも、きっと そう言うよ」
「ヘンリエッタの事を知ってるの」
「もちろんだよ。それに今朝、ソドー整備工場の前で話をしたからね」
「なんだ、そうだったのか」
事故の知らせを聞きつけて、トップハム・ハット卿がやってきた。
「なぜ、君たちが ここにいるのかね」
「お騒がせして、ごめんなさい。チャーリーを楽しませようとして 僕も夢中になっていました」
「僕も、すみませんでした」
「そうか。まあ、不運な事故のようだし、君たちが無事で何よりだよ。もう遊びは やめて、すぐに 採石場に戻りなさい」
トップハム・ハット卿は、そう言い残すと、ウィンストンに乗って本線へと戻っていった。
そのあとで、トビーはチャーリーに、礼を言った。
「僕が 君を楽しませる筈だったのに、いつの間にか 僕も楽しくなっていたよ。色々ありがとう、チャーリー。君は 本当に楽しい機関車だ。でも、無茶は しちゃダメだよ」
「そうだね。それじゃあ、怪我も大したこと無いみたいだし、あとでナップフォードまで競争しようよ」
「やれやれ」
おしまい
【物語の出演者】
●トビー
●ネビル
●チャーリー
●メイビス
●バートラム
●トップハム・ハット卿
●ゴードン(not speak)
●ダック(not speak)
●ヘンリー(cameo)
●オールド・スロー・コーチ(cameo)
●パーシー(mentioned)
●ウィンストン(mentioned)
●ヘンリエッタ(mentioned)
【あとがき】
アレンジ第22回は、2013年12月投稿のPToS S12 E21より『チャーリーとタクヤ』でした。オリジナル版ではサブタイトルの2台が夜中まで遊び続けてお城で迷子になるという内容でした。今回はキャラクターと舞台設定のほか、チャーリーの動機を加えました。
読者の間で地味に人気のある某オリキャラの話が好きだった方には申し訳ありませんが、オリジナル版投稿後、1か月を過ぎた頃には、トビーで同様の動きが可能である事に気が付いたため、やり直したいと思っていました。
不定期連載を行っている1.5次創作『TLRCD』にも、違う名前の同じキャラクターが登場予定ですので、オリジナル版の掛け合いをいつかTLRCDで再現するかもしれません。