スティーブンは、ソドー島で最も古い、小さなテンダー式蒸気機関車だ。
いつもはウルフステッド城で観光客の案内をしているが、そうでない時はアフタヌーンティーの材料を酪農場から運ぶなどの雑用にもいそしんでいる。
ある日、彼はグリンの代わりにお城で出たゴミを、ゴミの集積場へ運ぶ仕事を任された。ゴミの貨車は重いので、グリンは丘を下るときは用心するように言ったが、スティーブンは貨車に押されながら出るスピードを楽しんでいた。
「ロケットの お通りだぞー!」
スティーブンは、自分の軽さなら横転する心配はないだろうと思っていた。
ところが、丘を下って間もなく、別の問題が発生した。ポイントを通過するとき、なにやら「ボキッ」と音を立てたかと思うと、急に背中がスースーしたのだ。
機関助士が石炭を罐に入れようと後ろを振り向いた時、異変に気が付いた。なんと、スティーブンの炭水車とゴミの貨車が別の線路を走っているではないか。ポイントの故障と共に、炭水車が外れたのだ。
炭水車は貨車の重みと勾配で、隣の線路を走るスティーブンを追い抜いて行く。彼は慌てて炭水車を止めようと速度を上げようとしたが、そこで止まってしまった。
罐の火は燃えていたが、走るのに必要な水が送られてこないからだ。
機関士は仕方なく火を弱めた。
「どうしよう。これでは 集積場どころか、城にも 戻れない」
そこへ、貨物列車を牽くトーマスが通りかかった。彼はスティーブンの変わり果てた姿を見て驚いた。
「ひょっとして、タンク機関車の 真似をしているの」
「からかっている場合じゃないんだよ。私の炭水車が、貨車と一緒に 暴走してしまったんだ。頼む、私の炭水車を捕まえて、持ってきてくれないか」
トーマスは事態を深刻に受け止め、勢いよく走りだした。
「僕に 任せて」
トーマスは貨車を牽いたまま、風の鳴く森を進んでいった。
すると、スティーブンの炭水車が、ゴミの貨車たちに押されて走っているのが見えた。
炭水車たちはコロコロと線路を進み続ける。ブレーキ車には車掌が同乗していたが、揺られながら昼寝をしていて、状況に気付いていなかった。
「あれだな。よーし、止めてやるぞ」
と、トーマス。彼は炭水車の前に回って列車を止めようと試みた。だが、線路はじきに単線になっていき、前へ出られない。
ウルフステッドの支線を謎の列車が暴走していると、次から次へ連絡を受け取った、各地の信号手たちは、列車を側線へ引き込もうとしたが、どこも貨車か機関車が止まっていて引き込むことが出来ない。
とうとう炭水車は、本線へと出て行った。信号手の誤った判断によって、列車はスペンサーの前を横切って行く。慌てて急ブレーキをかけたスペンサーは、ぎょっとした。
2つの隣の線路を進む炭水列車を見送ったスペンサーが再出発しようとすると、今度はトーマスが大慌てで線路に割り込んできて、待機を余儀なくされた。
「ごめん、スペンサー。通るよ!」
「まったく、今日は 一体 どうなっているんだ」
彼は文句を言った。
炭水列車はゴードンの丘へと差し掛かった。丘の中腹まで駆け上がると、一旦暴走が止まった。でも、当然傾斜しているのだから、それだけでは済まなかった。
自動ブレーキの無い貨車たちは、今度は後ろ向きで走り出したのだ。丘を駆け下り、どんどん加速していく。それも、さっきより速く。
列車はガタゴトと揺れ動き、小さなゴミを散らかして、トーマスの隣を横切った。それでも車掌はまだ居眠りの真っ最中。
その頃、本土から特急列車のコナーとケイトリンが、ウルフステッド城を目指して支線へ入り込んだところだった。
「今日こそは 僕が勝つぞ」
と、コナー。2台は競争で全速力で走っていた。と、その時、彼は線路に"異物"がある事を素早く察知して、急ブレーキをかけて止まった。隣の線路を走っていたケイトリンはそのまま進んだ。
「お先に失礼~」
と、ケイトリン。
異物とは、炭水車を失くして線路に座り込んでいたスティーブンだった。
「邪魔をして すまない。私を お城まで 運んでくれないか」
「うん、まあ、いいよ」
コナーは我慢強かった。彼はスカートが壊れないように、そっとスティーブンを押して快くお城へと運んであげたのだった。
一方で、炭水列車は尚も暴走を続けていた。トーマスはその後を必死で追いかけていく。列車はマロン駅を通過する際、信号手の判断で側線に引き込まれた。
「やった、この先の車止めで 止められるぞ」
しかし、トーマスは、あることに気付いて目を見開いた。
なんと、操車場には重機で溢れているではないか。ブルドーザーのバイロンが、ゆっくりと線路を横断しようとしている。
重機達も、暴走列車が向かって来ることに気付いた。
「線路から離れろ!」と、クレーン車のケリーが叫ぶと、みんな慌てて退散した。ただ一台、バイロンを除いて。
「何してるんだい!」
イザベラがバイロンに言った。でも、バイロンは既に列車が走ってくることに気付いていた。彼は線路を渡りきろうとも戻ろうともせず、方向転換すると、列車の方を向いてこう言った。
「俺のブレードで止めてやらぁ!」
バイロンはそのままブレーキ車と衝突した。貨車の重みで後退したが、思いっきりキャタピラーを回して抵抗すると、列車の圧はみるみる弱まっていき、建物とギリギリのところで暴走が止んだ。
「ヒュウ。どんなもんだい!」
そこでようやく、車掌が目を覚ました。彼はきょろきょろと辺りを見回して首をかしげた。
「まったく、のんきな車掌さんだぜ」
みんな大笑いして歓声を上げたのだった。
間もなく、スティーブンの炭水車はゴミの貨車から切り離された。ゴミの貨車とトーマスの貨車は、別の機関車が代わりに運ぶことになった。
無茶をしたバイロンだったが、ジェニーさんは誇らしげだ。
「私が貴方のママなら自慢よ」
「本当に ありがとう、バイロン。君の おかげで 炭水車を捕まえられた」
「いいってことよ。もし また貨車が ふざけたら、俺に任せな」
こうして、トーマスは無事にスティーブンの元へ炭水車を届けたのだった。本人だけでなく、ノランビー伯爵も大喜びだ。
「ポイント故障とはいえ、一時は どうなる事かと 思ったよ。追いかけてくれて ありがとう」
「今度 重い貨車を運ぶ時は グリンに任せた方が 安全よ。だって タンク機関車は 炭水車を失くしても 走れるもの」
「それもそうだな、ミリー」
「まあ とにかく、みんな無事で 良かった。勇敢な騎士 バイロンの元へ、勲章を 贈らなくては!」
めでたし、めでたし。
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●スペンサー
●スティーブン
●コナー
●ケイトリン
●ミリー
●ケリー
●バイロン
●イザベラ
●ジェニー・パッカード
●ノランビー伯爵
●車掌(not speak)
●ボコ(cameo)
●オリバー(cameo)
●ネルソン(cameo)
●ゴードン(mentioned)
●グリン(mentioned)
【あとがき】
リメイク第16弾は、2014年頃投稿のP&TI S13 E06より『あのテンダーをつかまえろ!』でした。舞台と脇役、そして言い回しを少し変えた純粋なリメイクです。オリジナル版でもバイロンが脚光を浴びていました。当時思わぬ形で入手したのと同時に、ブレードで貨車を押すブルドーザーの動画を見てお話を創りました。
また、スティーブンの炭水車が外れる様子は、1923年の喜劇映画『Our Hospitality』(邦題: 荒武者キートン/キートンの激流危機一髪!)が元ネタです。この映画は白黒で音声もありませんが、この為に造られたロケット号のレプリカが出演し、場を盛り上げます。