黒いテンダー機関車のドナルドとダグラスはカレドニア地方出身の双子の兄弟だ。
頭は良いがプライドが高く、ちょっぴり、おっちょこちょいな一面もある。
他の双子の機関車と同じように、お互い離れて働くことが嫌いだが、必要に応じて別々の場所で働くこともあるのだった。
ある朝、ゴードンはやきもきしていた。さっさと燃料の補給を済ませて出発したいというのに、石炭箱はからっぽで、石炭ホッパーの下には砂利の貨車が一台置かれてたままだったからだ。
ちょうどそこへ、ドナルドが現れた。
ゴードンはすかさず彼に貨車を移動させるよう頼んだ。
「わかりましたよ。でも、ゴードンとも あろう 機関車が、たった一台の貨車も 移動させられないなんて」と、ドナルドはクスクス笑った。
「ふん。俺様は これから引っ張る 急行列車の為に、清潔で居なければならないのさ」
と、ゴードン。ドナルドは、そんなゴードンの表情が面白くて、彼の顔ばかり目を向けていて、うっかり砂利の貨車に強く体当たりした。砂利が貨車から舞い上がった。
「しっかりしろよな」
ドナルドが貨車を移動させた頃合いを見計らって、ゴードンは、のっそりと石炭ホッパーの下まで行こうとした。しかし、今度はダグラスが後ろ向きに走って割り込んできた。ゴードンの不満げな声も聴かず「お先に失礼しますよ」と、一言。
だが、その時、問題が起きた。ついさっきドナルドが貨車に体当たりした影響で、線路に砂利が落ちていた。ダグラスも彼の機関士も、そのことに全く気が付かないまま、速度を出していた。
「10」番の炭水車が砂利の上に乗っかり、脱線して、石炭ホッパーの柱に勢いよくぶつかった。ダグラスたちが何が起こったのかを理解する前に、ホッパーはぐらぐらと揺れたかと思うと、柱がポキリと折れて、ゴードン目掛けて横倒しになったのだった。
ガッシャーン!!
石炭の煤が舞い散った。ゴードンはホッパーの下敷きになり身動きが取れなくなっていた。けが人は出なかったが、ボイラーや機関室もあちこち損傷している。
「まったく、なんてことだ」
彼はダグラスを睨んだ。
間もなく、トップハム・ハット卿が駆け付けた。彼は呆れていた。
「また 君達かね。これからは もっと 慎重に走りなさい」
「本当に 申し訳ございませんです。線路に砂利が落ちていたことに気付かなかった 私の責任です」と、ダグラスが言うと、ドナルドが口を挟んだ。
「いいえ、元はと云えば 私が悪いのです。ゴードンの列車は 私が担いましょう」
「では、頼むぞ。急行列車は重いから、ダグラスと一緒に運びなさい。すぐに救援列車を手配する」
そう言って、トップハム・ハット卿は去って行った。
だが、ドナルドはダグラスを待つ気など無かった。発端は自分だし、急行列車の乗客が待ちくたびれていると思うと気の毒で仕方なかったからだ。
「ダギーは そこで待っていてください。兄弟の責任も 私が 果たさねばなりません」
だが、ダグラスは心配だった。自分たちがそれほど力持ちではないと、よくわかっていたからだ。ゴードンも同じだ。
「まぬけな機関車に 列車を任せるなんて、どうかしている」
ドナルドは大きな駅の操車場から急行用の客車を5両引っ張り出して、駅でお客を乗せると、ゆっくりと本線を走り出した。車輪は時々空転し、蒸気が勢いよく噴き出す。
「行けます、行けますよ…」
彼は自分に言い聞かせながら力いっぱい走るが、思うように速度が出せない。やがてドナルドは、急行列車は駅に止まる暇が無いということを思い知らされるのだった。
ドナルドの発車と入れ替わるように、エドワードがロッキーを連れて大きな駅の操車場にやってきた。ロッキーが、脱輪した炭水車を線路に戻し、エドワードが石炭ホッパーからダグラスを引っ張りだした。
彼の炭水車は歪み、緩衝器も壊れていたが、連結器は無事だった。ダグラスは、お礼を言った。
「恩に着ます、エドワード。私も手伝いますよ。こうなってしまったのは、私の責任ですから」
「君は ドナルドを 手伝ってあげなよ。さっき すれ違ったけど、苦しそうに 顔を真っ赤にさせていたよ」
「でも、きっと 断られます」
「大丈夫、上手く行くって。兄弟の事は 心配だろう?」
「ここは俺たちだけで充分だぜ」と、ロッキーも言う。
ダグラスは「ありがとう」と、再びお礼を言うと、血相を変えて勢いよく操車場を飛び出していった。
ロッキーがホッパーを一先ずもとの場所に戻したあと、今度はゴードンを石炭の山から引っ張り出した。
「あいつらに 列車を 任せるなんて、無理だ、無理。お客さんが 気の毒で仕方がない」
「そうなの。本当は 双子が 心配なんじゃないのかい」
エドワードがこう言うと、ゴードンは顔をしかめて黙り込んだ。
ダグラスが向かっているとも知らずに、ドナルドは相変わらずの速度で本線を進んでいた。ゼェゼェと息を切らしながらゴードンの丘に差し掛かると、彼は自分の非力さを嫌というほど思い知らされることとなった。
「行けます、行けます…」という声もだんだんと弱まっていき、とうとう車輪も動かなくなった。「プシュー」と、溜まっていた蒸気を噴き出して、途方に暮れていると、隣の線路を誰かが慌てて走ってきた。
「ダギー! どうやら 私の考えは 間違っていたようです」
「そのようですね、ドニー。私が 来なかったら、今度こそ スクラップ行きに なったやもしれません。一緒に 運びましょう」
「ありがたいです。私も そう 思っていたところなのです」
「さあ、私たちがゴードンに負けないって事を、見せてやりましょう!」
こうして双子の兄弟は重連で走り出した。ダグラスが前で、ドナルドが後ろだ。1台では厳しかった重い責任も、2台で引っ張ると、少し楽になった。
途中で隣の線路をゴードンが工場のディーゼルに運ばれ追い越していった。ダグラスによればその時のゴードンは、対面の時こそ、そっぽを向いては居たが、去り際には安心しきった表情をしていたと云う。
おしまい
【物語の出演者】
●エドワード
●ゴードン
●ドナルドとダグラス
●ロッキー
●トップハム・ハット卿
●ダック(cameo)
○ケアリーランス(cameo)
●ワークスディーゼル(mentioned)
【あとがき】
当初は過去作品のリメイクを全部で14話投稿すると宣言していましたが、実は26話用意していました。第15弾はP&TI S13 E02より『責任重大』*1です。2013年に企画を立て、2014年から2016年まで投稿したP&TI S13のエピソードの明確な投稿日時は一切覚えていません。
ダイアリー版のP&TI Studioをこちらへ移行させる際に、自分が忘れていたP&TI用シナリオの原案が下書き一覧から沢山出てきました。恐らく一度公開した情報と思いますが、この回は元々トーマスで行う方針だったようです。*2また、ドナルドとダグラスは『双子の心配』*3というエピソードでの活躍(?)を予定していました。P&TI S13は没シナリオが特に多いのですが、どのような展開を検討したのかも、今や思い出せません。