「明日は 大雪だよ。準備は 出来てるかい」
駅に戻る途中で、信号待ちの合間にエドワードがトーマスに言った。
「準備って、何の」と、トーマスが訊き返す。
「雪かきだよ。君は 確か 雪かきを付けるのが 嫌いだったよね」
エドワードが不安そうにこう言うと、トーマスは笑い出した。
「ふふふ。確かに嫌いだけど、心配いらないよ」
その夜は吹雪になった。ビュー、ビューという風の音と共に凄い勢いで雪が降り、あっという間に島中が真っ白な雪に包まれていった。山も、野も、畑も、何もかもだ。
翌朝、ファークァー機関庫では機関車たちが出発の準備をしていた。
「見て見て、石切り場の 駅の ところ。雪だるまが 居るよ!」
パーシーがウキウキしながら言った。
「きっと 作業員が 暇つぶしに 作ったんだね」
と、トビー。
「それはそうと、トーマス。今日は 僕が アニーとクララベルを牽こうかい。君は 雪かきが嫌いで 走れないんだよね」
「ううん。その必要は ないよ、パーシー。今日は 僕も 雪かきを付けて 走る!」
トーマスは、機関士たちが持ってきた雪かきを見ながら自信満々に言った。
他の機関車達は、とても驚いた。
雪かきを装着してもらったトーマスは、雪をかき分け、自分の支線を走った。
苦手を克服した彼の姿を見て、アニーとクララベルも嬉しそうだ。
ナップフォード駅に着く頃、彼は双子の機関車ドナルドとダグラスとすれ違った。
彼らは本線を順番に除雪していた。おかげで、本線に積もった雪は殆ど無い。大変な作業だったが、働き者の彼らには、へっちゃらだ。
「お疲れ様、ドナルドとダグラス!」
トーマスが接続駅を出る頃、今度は貨物列車を牽くヘンリーに会った。
彼の車体は全身真っ白になっていて、自慢の緑色のボディカラーが霞んで見える。
「凄いボディだな。雪男かと思ったよ」
と、トーマスが彼をからかった。
「吹雪の中を すっ飛ばしてきたんだ。今から ボディを 洗うところだよ」
「給水塔が凍ってないと いいね」
ナップフォードの機関庫では、ちょうどビリーが雪かきを付けるところだった。だが、彼は待たされるのが嫌で、やきもきしていた。
機関車に雪かきを付ける作業は、少し手間がかかる。せっかちなビリーは一刻も早く出発したくて仕方がない。彼は雪かきを持ち上げているハーヴィーに文句を言った。
「早くしてよ。おいらの仕事が 待ってるんだからさ」
「そんなに 焦らないで。仕事は 逃げたりしないよ」
と、機関庫の傍に寄ったトーマスが、ビリーに優しく言った。
けれど、ビリーは待ってなど居られなかった。彼は苛立ちを抑えられず、突然「ピーー!」と汽笛を鳴らして作業員やハーヴィーを驚かせたと思ったら、今度は乱暴にちょっとだけ前進して、雪かきをぐちゃぐちゃに壊してしまった。
「手間を掛けさせやがって。本当に悪い機関車だな」
「ありゃりゃ…」
機関士と作業員はカンカンに怒った。トーマスは内心彼ならやりかねないだろうと思った。でも、本当はビリーの機関助士が誤って運転装置に触れたからなんだけどね。
トーマスが走り去って間もなく、トップハム・ハット卿がやってきた。彼はビリーと、彼の助士に呆れていた。
「君は 本当に厄介な事を してくれたね」
「雪かきの事は ごめんなさい。でも、おいらなら 今からでも 仕事に 間に合います」
「だめだ、だめだ。雪かき無しでは、外へ 出すわけには いかん」
トップハム・ハット卿は「どうしたものか」と、口元に人差し指を付けながら、ふと、操車場の方へ眼をやった。そこには洗車を待っているヘンリーの姿があった。
「ちょうどよかった。ヘンリー、君が ビリーの代わりに この貨物列車を グレート・ウォータートンまで 運んでくれたまえ」
こうして、ヘンリーは真っ白なボディのまま、ビリーの列車を牽いて、再び本線を走り出した。
「どうせ 僕は チビの補欠用機関車ですよ。ふん!」
彼は不機嫌そうに口をとがらせながら、急ぎ足で走っていく。
その途中、谷の分岐点で、彼は標識のある方の線路へ入り込んだ。標識は何か書いてあるようだったが、雪が積もっていて良くわからなかった。
間もなく、壊れた陸橋を過ぎたところにパワーショベルのオリバーが居るのが見えた。
ヘンリーは煩わしそうに「ポッポー、ポッポー!」と、大きく汽笛を鳴らして彼の傍で一時停止した。
「邪 魔 だよ。どいて、どいて」
ヘンリーがここにいるのを見てオリバーは困惑した。
「え、でも…。うん、わかったよ。そんなに怒らないで」
オリバーは向きを変え、なるべく急いで線路から立ちぬこうとした。
と、その時だった。彼らが居る谷間に轟音が響き渡った。
ナップフォード駅の操車場では、ビリーが退屈そうだった。色んな積荷を載せた貨物列車を牽きたかったのに、自分が待っていられなかったせいで機関庫に居るしかない。
「あーあ。この先 一歩も 出られないのかなあ」
その時、隣の信号所で『ジリジリジリジリ…』と、警報が鳴り、信号手が近くで待機していたドナルドとダグラスに緊急要請を伝えた。
「いったい 何事だい」
「これから 緑色の大型機関車を 救助しに行くのです」
「詳しくは判りませんけど、ソドー整備工場付近の谷で、生き埋めに なったそうなのです」
こういうと、ドナルドとダグラスは走り出した。
「緑色の大型機関車って もしかして…。ねえ、着いて行っても いいかい。手伝うよ」
「雪かき無しじゃあ、出かけられないよ」
と、機関士がビリーに言った。
「あいつらの後を追えば 大丈夫ですって。お願いです」
機関士はため息をついて、ドナルドとダグラスに続いて彼を走らせた。
現場では、オリバーが懸命に雪の塊を掘り起こしていた。ドナルドとダグラスが辿り着くと、専用客車から作業員たちが雪をかき分ける作業に着手し始めた。
シャベルで雪を掬っては、途中でビリーが持ってきた貨車に積み込んでいく。
「ヘンリー、やっぱり 君だったんだね。今 助けるぞ」
と、ビリー。
やがて、雪の壁からヘンリーが顔を出した。彼の機関士と機関助士も無事で、客車の中でぽかぽかのストーブの前に座り、熱いココアを飲んで、体を温めた。
「なんて おいしい ココアだ」
その中、ビリーの機関士と助士がヘンリーの車輪にこびり付いた雪を落とした。
「ごめんよ。おいらが 雪かきを壊さなければ、こんな事には ならなかったのに」
ビリーが、彼に寄り添って言った。
「まあ、僕の自業自得でも、あるんだけどね」
と、ヘンリーがくすりと笑った。
「ねえ。手伝っても いいかな。おいら退屈で ここまで来たんだ」
「実を言うと、この貨車、少し 重たかったんだよ。もちろん、構わないよ」
ビリーはヘンリーと貨車の間に入った。
こうして2台の機関車は、町の人達が待つグレート・ウォータートンに向けて重い貨物列車を牽いて再び走り出した。雪をかき分けて走るヘンリーの姿を見て、周りにいた子供たちのほか、ビリーも歓声を上げた。
こんなに楽しい気持ちになれるのなら、今度からは雪かきが着けられるのを待とうと、ビリーは心に決めたのだった。
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●エドワード
●ヘンリー
●パーシー
●トビー
●ドナルドとダグラス
●ビリー
●オリバー
●トップハム・ハット卿
●ビリーの機関士
●ハーヴィー(not speak)
●アニーとクララベル(not speak)
●ビリーの機関助士(not speak)
●エミリー(cameo)
●ネビル(cameo)
○ケアリー・ランス(cameo)
【あとがき】
リメイク第12弾は2014年2月5日投稿のPToS S12 E27より『雪かき』でした。リメイクというより、一部の場面を除いて物語を一新したアレンジというべきでしょうか。ヘンリーの役割だけは同じです。かわいそうに。
オリジナル版の主人公はトーマスでした。雪かき嫌いの性格を題材にしたお話だったのですが、公式S17『トーマスとゆきかき』で得た教訓を境に雪かきへ文句を言わなくなり克服したかのように描写されているので、オリジナル版を投稿して1年後、失敗したなと思いました。原作に置いても、テレンス回の後、文句を言う描写はありません。同じキャラクターが同じ教訓を学ぶのもナンセンスなので、ビリーに変更しました。
ビリーも、聞かん坊でせっかちだけど非常にがんばり屋なだけで、フィリップやライアンのようにどこかトーマスに似た雰囲気があるのでぴったりな選択だったと思います。たぶん。
なお、ビリーに雪かきの装着は物理的に無理でした(笑)