Z-KEN's P&TI Studios

プラレールとトラックマスターを用いた某きかんしゃの二次創作置き場

P&TI Ex-09 せんろのおちば(リメイク)

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 ある朝、スティーブンは、お城のパーティーの為に料理に使う材料を集めに港へ向かっていた。ソドー島は木の葉が散る季節を迎えていて、ちょうどゆうべ、嵐があったばかりで、風に吹き飛ばされた葉っぱが濡れた線路に張り付いている。

 そんな日でも意気揚々と走るスティーブンだったが、ゴードンの丘に差し掛かった途端、彼はいつも以上に息を切らし始めた。どんなに頑張っても前に進めない。それどころか、貨車の重みでどんどん後ろに引っ張られていった。

「助けてくれ!」

彼は思わず叫んだ。機関士はブレーキをかけようとしたが、そのままマロン駅まで戻って行ってしまった。

 

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年寄りで経験豊富なスティーブンには、何故このような事になったのかわかっていた。だが、彼にはどうする事も出来ない。機関士たちが暫く座り込んでいると、ポーターがやってきて陽気に挨拶をした。

「こんにちは。ここで何してるの」

「港へ 行くところなんだが、落ち葉が 車輪に くっついて 走れなくなってね。貨車は空っぽなのに、情けないよ」

「それじゃあ、僕が押していくよ。僕には 自慢のドームが ある!」

ポーターは点検を終えて港へ戻るところだった。そこでスティーブンの列車の最後尾につくと、一緒に丘を登った。スティーブンはまた車輪が空回りするのではないかと心配になったが、今回は何事も無くスムーズに丘を登ったのだった。

 

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こうして無事に港へたどり着いたスティーブンは、ポーターにお礼を言った。

「ありがとう。でも、さっきの”自慢のドーム”とは、一体なんだい」

「僕の 前後のドームにはね、滑り止めの砂が入っているんだよ。これを撒いて 滑りやすい線路を走ったんだ。ほら、彼女にも あるだろう」

彼はロージーの方に目をやった。彼女にも、ポーターと同じようにドームが3つついている。

「僕らは、ボイラーの熱で乾かした砂を、いつでも撒けるように 造られているんだ」

「それは便利だね。私にも、専用のドームを 付けてもらいたいよ」

 

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 その頃、ヴィカーズタウンでは公爵夫妻専用機関車のスペンサーが、作業員に点検を受けてもらっているところだった。

ここではいろんな機関車が出入りするので、退屈はしなかったが、彼は早くその場から走り出したくて堪らなかった。 

そこへ、トップハム・ハット卿がやってきた。彼は仕事を任せられそうな一台の機関車を求めて、操車場に居る機関車全員に向かって声をかけた。

「誰か、手が空いている機関車は 居るかね。パーティーに参加する特別なお客さんたちを ウルフステッド城へ 運んでほしいのだが」

「僕が やります!」

皆が謙遜して黙り込む中、ただ一人声を上げたのは、スペンサーだった。

「だが、君は 点検中ではないかね」

「もう 終わりましたよ。これから すぐに向かいます」

スペンサーがこういうので、点検の事を何も知らない機関士たちは出発の準備をした。

だが、点検は最後まで済んでいなかった。同じく点検で、ずっとそばにいたフローラは彼の嘘を見抜いていたが、恥ずかしがり屋の彼女は主張できなかった。

 

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操車場ではタンク機関車のビリーが一生懸命入換え作業をしていた。

「そこのキミ、大至急 僕の客車を 用意しろ。僕は 重大な仕事を 任されている」

と、スペンサーが見下すように言うと、ビリーは怒った。

「なんだよ 偉そうに。命令するなら、入換えてやらない」

「まあまあ。落ち着いて ビリー。お客さんが 駅で待ってる。役に立つ機関車は 時間通りに働かないと」

ヒロが優しく言うと、ビリーは一度深いため息をついて、スペンサーを睨みつけながら渋々と客車を取りに行った。

「まったく。タンク機関車の分際で この僕に 刃向うなんて」

「きちんと働くタンク機関車は 役に立つぞ、スペンサー。仕事を ほったらかしにして、壊れかけの私を 捜していた 君よりも、ずっとね」

ヒロにこう言われたスペンサーは、顔をジェームスのボディのように真っ赤にして、ぷりぷりしながら客車の連結を待った。

 

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「念のため もう一度確認した方が いいんじゃないか」

機関士は心配だった。彼は点検が早く済んだ違和感にいち早く気付いてその場に留まろうとした。スペンサーのボディは汚れが残っている。ボディが済んでいないように、他の部品もまだ点検が行き届いていなかったらどうしよう、そう思ったのだ。

その一方でビリーは、せっかく客車を用意したのに、まだ出発の準備が行われていないスペンサーを見てイライラした。

「行かないの。モタモタしてるのなら、おいらが 君の仕事を やっちまうぞ」 

「はん。チビのタンク機関車なんかに 何が出来るっていうんだい」

スペンサーは機関士らを急き立てて操車場を後にした。

ビリーは言動に対して腹を立てたが、彼が居なくなったので、少しほっとした。

「ばかなやつ」

 

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 ホームではボックスフォード公爵夫妻に市長、ハット卿夫妻が彼を待っていた。特別なお客さんを客車に乗せたスペンサーは、颯爽と操車場や田園地帯を駆け抜けていった。

「何も問題ありませんよ。ほら。この通り、ピストンだって快調です」

彼は機関士に得意げに言った。

 

 

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間もなくスペンサーは、クロンク駅で一旦停車した。ここではカラン卿とハット卿の息子を乗せることになっていた。

駅はゴードンの丘のちょうど麓に位置している。丘を登るためには水が多く必要だった。前に彼は、ゴードンの忠告を聞かずに突っ走り、水を使い果たして立ち往生した事がある。同じ失敗を繰り返さない為、機関士はスペンサーの炭水車に水を足した。

その間、ロージーが入換え作業をしながら、彼に声をかけた。

「この先の 丘は 落ち葉だらけよ。砂は ちゃんと持ってる?」

「それが どうしたんだい。たかが、葉っぱじゃないか」

スペンサーは「ピッピー」と汽笛を鳴らすと、ロージーを無視して走り出した。

優雅に走るつもりだったが、橋を通り過ぎて間もなく、上り坂の手前で彼は一度止まらなければならなくなった。パーシーの貨物列車との車間距離を空けなくてはならないからだ。

スペンサーは左の線路を走ろうと機関士に提案したが、

「だめだ。もうすぐ、高速列車が通るよ」

と、機関士が言った。

「僕だって 高速列車なのに」

スペンサーは文句を言ったが、彼らは待つしかない。

 

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暫くして、ケイトリンの列車が隣の線路を通りすぎると、信号が青に切り替わって進めるようになった。クロンクからてっぺんまでの道のりは殆ど平らだったが、この線路にもたくさんの濡れた木の葉が線路にこびり付いている。

しかも、さっきケイトリンが通過した際の風圧によって周りの木々からさらに木の葉が舞い散ったが、スペンサーはお構いなしだ。

けれども、案の定スペンサーの車輪は空回りし始めた。ぬるぬるした木の葉が車輪にまとわりつく。彼がどんなに頑張って蒸気を噴き上げても車輪はレールの上で空転するだけだ。

「なんで、だ! 僕は、大きくて速い、機関車、なのに!」

機関士はコックをひねって、彼の車体に内蔵されている砂撒き装置を動かそうとした。だが、パイプから砂が落ちてこない。

とうとうスペンサーは何もできずに、丘をずるずると滑り落ちてしまった。

 

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 「一体、何が あったんですか」

スペンサーは機関士に訊いた。

「きっと 砂撒き装置の点検を していないんだよ。キミが 欲張ろうとするからだ」

間もなく、連絡を聞いて救援車両が来た。駆けつけたのは、ロージーとビリーだった。

「やっぱり 止まっちゃったわね」

見透かしていたかのようにロージーが言い、

「なーんだ。大きい機関車なんて、大したこと ないんだな」

と、ビリーが生意気に言った。

スペンサーは、ただ黙っていた。

 

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 ロージーが先頭に付き、ビリーは客車の後ろに付いた。「せーの」という掛け声に合わせて、3台の機関車は勢いよく蒸気を噴き上げて走り出した。

ロージーはスペンサーに押されながら、彼の砂撒き装置の代わりになって2つのドームから乾いた砂を撒き、ビリーも2つの砂箱から撒きながら力いっぱい後押しした。

こうして、列車は無事、頂上に辿り着いた。

「ピッピー! あとは、頑張れよ!」

と、ビリーはマロン駅で列車から切り離されてロージーに汽笛でエールを送った。

彼女を先頭に付けたまま、列車は丘から外れて支線へと入って行く。

「なあ。ゴードンの丘は 過ぎたんだ。そろそろ 離れてくれないか」

「だめよ。お城の前も 勾配が続くわ。貴方には 砂が 使えないんだから」

スペンサーは恥ずかしくてしょうがない。彼はこんなところを誰にも見られたくないと強く願った。 

 

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でも、そう思惑通りにはならなかった。お城の前の駅ではノランビー伯爵を始め、沢山の人々や機関車たちが揃っていた。ロージーに補助されるスペンサーの姿を見て、トーマスとパーシーとジェームスがクスクス笑った。

「見て、あの ピンクの機関車、凄く 力持ちね!」

ホームで一人の女の子がこういうと、

「本当。ロージーったら とっても 力持ち!」

と、ケイトリンも大声で言った。

スペンサーはとても惨めな気持ちだった。あの時欲張らなければよかったと後悔した。

ボックスフォード公爵はロージーにお礼を言った。

「あとで ビリーにも、何か プレゼントを しなくては。ほら、スペンサーも」

「ありがとう、ロージー。君の忠告を無視して ごめん」

「ふふ、どういたしまして」

それから次の日、スペンサーはソドー整備工場で点検を兼ねて砂撒き装置を改めて修理してもらった。点検は半日かかったが、彼はその日ずっと大人しくしていた。もうあんな恥ずかしい思いはしたくないからね。

 

 

おしまい

 

 

【物語の出演者】

 

●スペンサー

●ロージー

●ビリー

●ヒロ

●スティーブン

●ケイトリン

●ポーター

●トップハム・ハット卿

●女の子

●スペンサーの機関士

●ボックスフォード公爵

●トーマス(not speak)

●ジェームス(not speak)

●パーシー(not speak)

●フローラ(not speak)

●ノランビー伯爵(not speak)

●コナー(cameo)

●石頭のディーゼル(cameo)

●ウィンストン(cameo)

●ゴードン(mentioned)

●スティーブン・ハット(mentioned)

●ボックスフォード公爵夫人(mentioned)

●カラン卿(mentioned)

●ソドー島の市長(mentioned)

 

 

【あとがき】

 リメイク第9回は2014年1月15日投稿のPToS S12 E25『落ち葉には気を付けろ』でした。2013年春ごろから砂箱がメインのお話を書きたがり、オリジナル版を投稿した頃はポーターがTVに登場したばかりで、玩具は持っていませんでした。今では所持しているので、ポーター(とフローラ)の出番とそのくだりを増やしてみました。重点を忠告から落ち着きにし、ルーアとパーシーの場面をビリーに置き換えた程度で物語自体は変わっていません。

P&TIにおけるビリーは今回が初登場になります。貸してくださった方、ありがとうございました。ヘクターもそうですが、借りている間は今後もちょくちょく出てくると思います。

さて、私のスペンサーは日焼けと汚れが多い上、車軸もガタが来てるので、そろっと買い換えどきかなぁ