その日はよく晴れ渡り、花々が咲き乱れ、辺りは甘くて良い香りが漂っていた。サムソンは重要な荷物を届ける為に、本土のバロー駅で貨車を受け取った。
「このワイヤーロープと 機材を、ソドー島のブルーマウンテンに 運んでくれ。巻き上げ機に 使うらしいんだが」
「ブルーマウンテンへの道なら、よく知っています。このサムソンに お任せあれ」
「ところで 君の相棒は、どこだい」
「彼は今日、非番であります。この程度の 仕事、僕 一人でも 完璧に こなせますよ」
サムソンがソドー島に向けて出発したその頃、島のあちこちでは、何か異様な空気を匂わせていた。
アーサーがヴィカーズタウンの操車場で小魚の積まれた貨車を側線へ押していると、突然そばで大きな警笛が鳴り響いた。
『プップー!』『ブッブー!』
アーサーと彼の機関士はその音に驚いて、思わず車止めに突っ込んでしまった。その衝撃で貨車から魚と氷が舞い上がり、彼の車体に降り注いだ。アーサーは何が起こったのかわからず呆気にとられていたが、この様子を隣で面白そうにげらげらと笑う機関車がいた。
「こりゃあ 臭い 蒸気機関車だぜ」
それは、意地悪が大好きな双子のディーゼル機関車、ハリーとバートだ。今の騒ぎは彼らのほんの悪戯だったのだ。
ハリーとバートは製鉄所に帰る途中だった。
「おっと、いいところに」
次に彼らが見つけた標的はウィフだった。彼の仕事はゴミを集めて集積場へ運ぶ事。なので、彼の貨車には生ゴミや屑鉄が積まれていた。彼は双子のタンク機関車ビルとベンが通過するのを待っているところだった。
彼らはウィフに気付かれないようコッソリ近づくと、にやりと薄気味悪い笑みを浮かべた。そして思いっきり息を吸って、大きく、強く警笛を鳴らした。
『プップー!!』『ブッブー!!』
ウィフはびっくりした。でも、その場で一番驚いたのは―
―なんと、後方からやってきたサムソンだった。大きな音が苦手な彼は、パニックになり、猛スピードでウィフのゴミの貨車に突っ込んだ。
ガッシャーン!!
目を開けた時には、辺り一帯にゴミや屑鉄が散乱し、酷い匂いが漂っていた。サムソンとウィフだけでなく、ハリーとバートや、ビルとベンもゴミを被ってしまい、みんな酷い気分だった。
「大丈夫かい、サムソン。怪我は ない?」
「僕は 大丈夫だ、ウィフ。だが、これは…」
そこへ、双子のテンダー機関車ドナルドとダグラスが通りかかった。
「おやまあ。揃いも揃って ゴミを被るなんて。不注意にも ほどがありますねえ、ドナル」
「ええ、全く 呆れた物です、はい。私達なら こんなことになりません」
朝食のパンと一緒にコーヒーを楽しんでいたトップハム・ハット卿だったが、ドナルドの機関士からの連絡を受けると、すぐにウィンストンに乗って現場へ駆けつけた。その面倒な状況に、彼は不機嫌そうだった。
「いったい何事だね、サムソン。君は もっと 用心して貨車を運びなさい」
「そうさ、君は 気が 緩みすぎなんだよ」
「この車体を見てよ。僕たちまで 被害を受けたんだぞ」
ハット卿の説教に同調するように、ビルとベンが言った。
でも賺さずウィフが発端と事情を説明すると、ハット卿は言葉を訂正してハリーとバートに雷を落とした。
「君たちは 洗車をしたら、明日から2週間 ゴミの集積場で働きなさい。製鉄所の管理人に 話を付けておく」
「わかりました。本当に ごめんなさい」
双子のディーゼル機関車は哀しそうに眉を下げてその場を後にした。
暫くして、貨車を届け終えたビルとベンは、ドロドロでギトギトに汚れたボディを洗ってもらう為に洗車場へやってきたが、既にゴミを被った機関車たちであふれていた。
「どうして ドナルドとダグラスが ゴミまみれで ここに いるのさ」
「さっきは『こんなことにならない』って 言ってたじゃないか」
ビルとベンが訊くと、ドナルドとダグラスが眉をひそめてこう答えた。
「ドニーが 双子のダンプカーに 派手に 突っ込んだのです」
「いいえ、彼らが 私の行く手を 遮ったのです。私たちの所為では ありません」
「残念だが、今この洗車場は使えないよ」
と、作業員がビルとベンに言った。腹を立てた双子がブツクサ文句を言い始めようとした時、そこへショベル機関車のマリオンがやってきた。
「ビルにベン。監督の命令で ファークァー採石場で 働きなさいって。メイビスと岩が私たちをが待ってるわ」
「でも、僕たち こんな汚い格好で 仕事なんてしたくないよ」
「きっと 採石場の給水塔で 洗ってもらえるわよ」
ところが、そう上手くは行かなかった。
「悪いけど 洗剤を切らしてるの。他の給水塔も故障しているし、出来れば水分補給に 使ってほしいわ」
と、埃をかぶったメイビスが言った。
ビルとベンは腹の虫が収まらなかった。黄色いボディにかかったゴミは良く目立つし、ベトベトの生ゴミの悪臭と、ギトギトの屑鉄の油臭さが鼻についてうんざりだった。
港へ運ぶ石材の貨車は2台で運ぶことになっていたが、双子も彼らの機関士たちも、ゴミの匂いに参って、いつも以上に不注意になっていた。マリオンが石材を積み込む最中に動き出そうとしたり、出発の時にブレーキ車を付け忘れてしまったり。
しかも急ぐあまり、連結器のネジをきつく締め忘れたせいで、彼らが止まったり動き出すたびに、ドスン、ガチャンと貨車をぶつけては石を溢していった。でも誰もそのことに気付かない。
ビルとベンの列車が通り過ぎたすぐあとの事、トップハム・ハット卿は港の会議へ行くため、ウィンストンに乗って支線に入ろうとしていた。相変わらずのギクシャクした走りで。
ハット卿は運転に夢中で気づかなかったが、吊り橋を渡り始めて間もなく、ウィンストンは吊り橋に異物がある事に気付いて叫んだ。
「ああっ、岩だ! トップハム・ハット卿、ブレーキをかけてください!」
ところが、まだ運転に慣れていないハット卿は、ブレーキを掛けようとして間違えてスピードを出して前進させてしまった。
気付いた時にはもうウィンストンは岩に乗り上げて脱線していた。車体が吊り橋からはみ出て、今にも転落しそうだった。トップハム・ハット卿は大慌てだ。
「うわあ、ウィンストン。私達は一体、どうすれば…」
「とにかく、助けを呼びましょう。下手に揺らすと 危険ですよ」
ウィンストンは声を張り上げて助けを呼び、ハット卿は出来る限り慎重にクラクションを鳴らし続けた。
そんな彼らの元へやってきたのは、サムソンだ。彼は洗車を終えて仕事に戻るところだった。彼は今にも落ちそうなウィンストンと今にも泣きだしそうな表情のトップハム・ハット卿を見てただ事ではないと察知し、吊り橋の手前で止まった。
彼はとっさの判断で機関士に、貨車からワイヤーロープを取り出すよう言った。そしてサムソンの緩衝器に引っ掛けてウィンストンにも繋ぐと、ピストンを力いっぱい動かして彼らを救出してみせた。
ウィンストンは未だかつてないほど安堵し、サムソンは誇らしかった。この鉄道のヒーローになったような気分だった。
「本当にありがとう、サムソン。そしてすまなかった、ウィンストン。私の所為で酷い目に遭わせてしまって」
「いいんです。まだ慣れてないだけですから」
「だが、この事件を引き起こした者にも、叱っておかんと いけないな」
間もなく、トップハム・ハット卿は港で事故を起こした犯人を突き止めた。そしてドナルドとダグラス、ハリーとバートも呼んで今日の出来事について厳しく叱った。
「全く、君たちの不注意さには 呆れたものだ。2台一緒なら、一方でも油断せず、仕事を気に掛ける努力をしなさい。仲間を驚かせてふざけるのも、いい気になり過ぎるのも いかん。君たちはこれから2週間、交代でゴミを運ぶんだ。良い薬になるだろう」
「本当にごめんなさい」
6台の双子の機関車達は、ガックリと肩を落として答えた。
サムソンはその様子を見て高笑いした。
「あっはっは、気が緩みすぎなのは 一体誰の方かな」
「ところで サムソン、その荷物は どうするんだい」
「…しまった!」
どうやら、サムソンにも注意が必要みたいだね。
おしまい
【物語の出演者】
●ドナルドとダグラス
●ビルとベン
●ウィフ
●マリオン
●サムソン
●メイビス
●ハリーとバート
●ウィンストン
●トップハム・ハット卿
●バローの駅長
●アーサー(not speak)
●マックス(not speak)
●ダッシュ(cameo)
●ケイトリン(cameo)
●石頭のディーゼル(cameo)
●スプラッターとドッヂ(cameo)
●デニス(cameo)
●クランキー(cameo)
●ブラッドフォード(mentioned)
●モンティ(mentioned)
●オーエン(mentioned)
●クレイピッツの監督(mentioned)
●製鉄所の管理人(mentioned)
【あとがき】
リメイク第8弾は2013年11月21日投稿のPToS S12 E13より『双子とゴミ』でした。内容はそのままに、配役をどっと増やして賑やかにしてみました。
ベンを1つしか持っていなかった*1考案当初はウィンストン主役回になる予定だったそうです。全く覚えていません。
もしモンティを持っていたら、彼らを準主役にしようかとも考えていましたが、モンティは今やレアすぎてなかなか入手できません。