ソドー島の機関車たちのほとんどは働き者だ。疲れ知らずで積極的に仕事をする。
でも、中にはやりたくもない仕事をほっぽり出す仲間や、そもそも楽をしたいという仲間も多からずいたのだった。
特にディーゼル機関車のデニスだ。怠け者として島で最も有名な彼は、給炭所でモリーと一緒に働いていた。怠け癖を克服するために頑張っているのだ。
「よしよし、よく頑張っているな」
仕事を終えて休憩を取っているところへ、トップハム・ハット卿が様子を見に来た。
「ところで、ソルティーが 修理している間、港の入換えを 手伝ってやってくれないか。彼は お茶の時間までには 戻ってくる。それまでで いいんだ」
「わかりました。頑張ります」
と、デニスは颯爽と港へ走り出した。
デニスは、もう怠け者と呼ばれたくないので、張り切って港へ向かったが、入替えなくてはならない貨車の多さに圧倒され、少し帰りたくなった。
現場では、ソルティーが入れ替えている最中に故障したのか、何台かの貨車が側線からはみ出し、支線を走る機関車の行く手を遮っていた。
「この貨車を 早く 何とかしてくれよ」
貨車の向こうで、ヘンリーがぶつくさ文句を言っている。
貨車たちも、早くこの窮屈な場所から抜け出したくてイライラしていた。
「俺達を 必要とされてる場所まで 運んで行ってくれ」
デニスはまず、ヘンリーを通すために貨車たちを押そうとした。
「止めちまおうぜ」
意地悪な貨車が先頭の大きなホッパー車に耳打ちした。
散らかった貨車を側線へ押していき、何とか線路を開ける事は出来そうだったが、苛立ちが頂点に達した貨車たちの意地悪のせいで、思うように前へ進めない。
そこで問題が起きた。
『ガッシャーン』と音を立て、列の間で圧迫された貨車が2台、弾けて脱線したのだ。
「うわあ、大変なことに なっちゃった」
ヘンリーの通過を待ちながらデニスは何とかしようとしたが、どうする事も出来ない。
そんな中、信号手が、緑色のドラム缶が積まれた貨車を移動させてほしいと頼んできた。デニスはとりあえず脱線した貨車をほったらかしにして、ドラム缶の貨車と連結した。すると貨車は、
「汚い顔を 近づけるんじゃねえよ」と、嫌悪感をむき出しにして言った。
デニスは傷ついたが、まずは彼らを引っ張ろうとした。
「あれ、あれれれ」
しかし、どんなに頑張っても貨車はびくともしない。彼らもブレーキをかけて困らせていたのだ。
とうとうデニスは諦めてしまった。
「(ここに置いておけば、誰かが 代わりに やってくれるだろう)」
そう思いながら、デニスは機関士に誤魔化して給炭所へ戻るように言った。
デニスは港を後にして、エドワードの駅にやってきた。
そこにはドナルドとダグラスが居た。彼らは何かを待っているようだった。
「おや、デニス。入換え作業は もう終わったのですかな」
「うん…、うん。ま、まあ、もう終わってるだろうね」
デニスは口から出まかせを言った。
「君たちは ここで 何をしているの」
「これから、ヘクターと共に 発電機の燃料を運びに 行くところなのです」
「貴方が入換えて 線路を開けてくれたのなら、港へ行けますな。どうも ありがとう」
それを聞いたデニスは少し心配になり、ブレンダム港へ急いで戻ることにした。
案の定、港はさっきと全く変わらない状態で貨車が散らかっていた。デニスの顔が一気に青く染まり、大慌てで、引っ張っていけそうな貨車を移動させ始めた。
だが、そう上手くは行かなかった。外野で観ていたいたずら貨車達は、デニスを間違った方の線路へいざなおうとするのだ。
「俺たちの言うとおりにしたら、仕事が早く終わるぞ。ほら、あっちへ いくんだ」
おかげで貨車の列は広がるばかりで、ちっとも整頓しないどころか、更に線路が塞がれていく。
「ありゃりゃ、通れないや」
「ごめんね、ハーヴィー。そうだ、君のフックで 脱線した貨車を 線路に 戻してくれないかい」
「そうしたいけど、まずは この貨車を退かさないと、辿り着けないよ」
今度はハーヴィーの為に貨車を動かそうとしたが、新たに貨車を運んできた機関車に行く手を遮られてしまうし、次から次へと貨車が増えていくし、彼がどんなに頑張っても貨車は言う事を聞かないし、とうとうデニスの怠け癖が頂点に達した。
「もういいや。逃げてしまえ」
彼が諦めて連結を振りほどき、港を出ようと後退したその時、『ガシャーン』という大きな音が鳴り響いた。
音のした方へ目を向けると、先ほどデニスが居た場所で事故が起きていた。
入換えが完了したと思って安心しきっていたのか、ドナルドとダグラスが貨車にぶつかってしまったのだ。幸い怪我人も故障車も出なかったが、彼らは怒っていた。
「全然 片付いてないでは ありませんか!」
「私たちに 嘘をつくなんて。まったく もう!」
「うわあ、そんなつもりじゃなかったんだ。本当に ごめん」
彼はこの事態に酷く動揺した。
騒ぎを聞きつけてトップハム・ハット卿がやってきた。彼は指を額に当て、下を向きながら首を左右に一振り。
「どうやら まだ君一人に 港の仕事は 荷が重すぎたかもしれないな。これは、私の落ち度だ。だが、仕事を ほったらかしにして、嘘をついたことは 許される事ではない」
「本当に ごめんなさい。深く反省しています」
「うむ。ところで、君には パートナーが必要なようだ。今から彼と一緒に働きなさい」
ちょうどそこへ、ソルティーが修理を終えて戻ってきた。
彼は陽気にデニスに声をかけた。
「相棒、貨車を 上手に扱うコツを 教えよう。彼らは 歌が 大好きなんだよ」
「それでも いうことを聞かない奴には、体当たりすると いいぜ」
と、ソルティーに続いて、ホッパー車のヘクターもアドバイスした。
それからは、デニスも歌を歌ったり、ドスンと体当たりをかまして貨車を大人しくさせて入換え作業を行った。彼らは列車に繋げるための貨車と、他の場所へ置く貨車を上手に分けていく。
ドナルドとダグラスには燃料と機材の貨車を、エドワードにはスクラップの貨車を、ボコには客車を繋がせた。
幸いにもソルティーが手伝ってくれたおかげで仕事も早く済みそうだった。
ところが、再び問題が起こった。
今度は、果物とチョコレートの貨車をティッドマスへ運ぶ予定だったノーマンが、突然故障したのだ。でも、彼らには何をすべきかもうわかっていた。
ソルティーはデニスに目配せして言った。
「ここは おいらに任せて、 お前さんの 兄弟の代わりに 運んでやったらどうだい」
「ようし、もう 怠け者だなんて 呼ばせないぞ」
と、デニスも意気込む。
こうして、デニスは駅まで貨車を運んだ。本線を颯爽と走ると、今までのきつい仕事でかいた汗水が吹き飛んでいくように気分が晴れやかになった。
しかも駅では、彼の古い友達が元気に声をかけてくれた。
「やあ、デニス。立派になったね。随分 役に立っているようじゃないか」
「そうなんだ、トーマス。これからは、”働き者のデニス”だよ」
その晩、くたくたに疲れて港に戻ってきたデニスは、ソルティーの提案で機関庫を貸してもらい、ゆっくり仕事の疲れをとったのだった。
もしも、働き者のデニスという俗称がいつまでも続くようになったら、いいね。
おしまい
【物語の出演者】
●トーマス
●ヘンリー
●ドナルドとダグラス
●ハーヴィー
●ソルティー
●デニス
●いたずら貨車
●ヘクター
●トップハム・ハット卿
●エドワード(not speak)
●モリー(not speak)
●ボコ(not speak)
●ノーマン(not speak)
●スクラフ(cameo)
●デリック(cameo)
●クランキー(cameo)
【あとがき】
リメイク第5弾はPToS S11 E19『うそつきデニス』でした。正確な投稿日時は覚えていませんが2012年8月頃だったような気がします。メイスウェイト駅で入換え作業をする謎行動をブレンダム港に置き換え、最後をちょこっと改変したのみでプロットはオリジナルとさほど変わりません。
この回をリメイクした理由は、公式S9『なまけもののデニス』の後日談として最も無難で自然だと思ったからです。人間(機関車だけど)、そう簡単に更正できるものじゃありません。そして私はそんな怠け者として一癖のあるデニスの人格とその実機が好きで、過去に5~6話ほどデニス絡みの回を書きました。でも、ほとんど同じような物語でしたので、P&TI S15辺りに怠け癖を利用した変化球を投稿したいと考えています。
なお、オマケとして出てきたヘクターは今回が初登場です*1。また、次回への布石となるとあるキャラクターがカメオ出演しているので探してみてください。あえて【物語の出演者】には掲載していません。
*1:借りるまで本来は登場する予定はありませんでした。